音楽ナタリー PowerPush - YUKI
“今の自分”を追求したダンスアルバム
YUKIが9月17日にニューアルバム「FLY」をリリースする。2011年発表の「megaphonic」以来およそ3年ぶりのオリジナルアルバムとなる今作には全16曲が収録される。各曲に込めた思いを聞きながら、今現在のYUKIのモードや彼女が生きる上で大切にしていることに迫った。
取材・文 / 松浦靖恵
変化し続ける自分と対峙
──前作「megaphonic」以来、約3年ぶりにオリジナルアルバム「FLY」がリリースされます。「FLY」は最高にイカした踊れるアルバムになりましたね。
結果的にそういう作品になりましたけど、制作中は試行錯誤しましたし、たくさん寄り道をしました。約半年間でアルバムが3枚作れるくらいの曲数をプリプロして、その中にはスローなダンスナンバーやソウルフルな匂いがする曲、泥臭い感じの濃い曲もあったので、もし、それらが今回のアルバムに収録されていたら、きっと雰囲気が異なるアルバムになっていたでしょうし、もっと湿度の高いアルバムになっていたと思います。
──大人っぽいアルバムになっていた可能性があった?
いわゆる“大人っぽい=落ち着いている”ではなくて、円熟しているということですね。R&Bやソウルフルなダンスナンバーも好きなので、以前から聴いてはいたんですけど、そういう楽曲は高音が生きる自分の声にはあわないと思い込んでいたので、これまで歌ったことがなかったんです。でも、今の自分なら低いところでも表現力豊かに歌えると思ったし、年齢を重ねた今の私がどこまでできるのか追求してみた部分はありますね。
──前作「megaphonic」はアリーナの会場でやるライブを見据えた上で制作していたこともあって、外に向けてエネルギーを発信していたアルバムでした。
今作の制作がスタートした頃は、ぼんやりとですけど、自分で自分の顔を描くような、自分と向き合っているポートレートのようなアルバムになっていくんじゃないかと思っていて。「私は今、何をしたいんだろう」と常に“めいそう”していたので、自分の内側へと矢印が向いていましたね。
──迷走?
いえ、迷走ではなく、メディテーションの瞑想です(笑)。自分と向き合って、「今、私は何をしたいの?」と、自分に問いかけていました。この身体で、この声で、この顔で、私は人生と向き合っているので、今の私の声で歌うということに対して忠実でいたかったんだと思います。「YUKIの新しいアルバムは間違いなくこれなんだ!」と、確信が持てるまでには、思っていた以上に時間がかかってしまいましたけど、素晴らしい曲にたくさん出会えたことは、何よりも私の気持ちを高揚させてくれました。試行錯誤しながらも、制作が始まってから最後の曲を歌い終えるまで、自分の中で決して変わらなかったのは、私のテーマでもある“Don't think, just dance”という感覚でした。そこを見失うことはなかったですね。
──“頭で考える前に、動け!”ですね。
はい。自分の内側に抱えた激しい感情を外に向けるとき、10代と20代とは表現の方法が異なるでしょう? 人は年齢を重ねていくと変化していく。私の声や歌い方、身体や心も常に変化し続けているんです。だから、今の自分を使って、どんな歌を歌えるのか、どんなステージができるのかと、私はずっと自分自身に問いかけ続けていますね。今回のレコーディングでも、私は今の自分と今のYUKIの可能性を探っていたんだと思います。
一瞬でリスナーの心をつかむシングル曲
──「FLY」には16曲が収録され、トータルタイムが1時間を超える作品になりました。曲をピックアップしながら、その制作過程や曲に込めた思いを伺いたいと思います。まずアルバムの幕を開ける1曲目は、リードシングルにもなった「誰でもロンリー」です。
「FLY」の頭に並んでいる3曲(「誰でもロンリー」「Jodi Wideman」「はみだせ ラインダンスから」)のデモが私のもとにきたのは、約半年間続いたレコーディングの最後の頃だったんです。実は、この3曲がなかったら、新しいアルバムは「FLY」というタイトルにはなっていなかったし、収録曲がまったく異なるアルバムになっていたと思います。それまでも素晴らしい楽曲ができあがっていましたし、きっと、あのまま進んでいても、いいアルバムにはなったと思うんですけど、レコーディングがそろそろ終わりに近づく時期になっても、まだ何かが足りないという感覚が自分の中にあって。その足りない何かを考えていたときに、それまでにレコーディングした楽曲の中にはシングルになるような曲がないということに気付いたんです。
──なるほど。
昔から私はラジオがとても好きで、ラジオから曲が流れてきた瞬間に「私はこの曲が好き!」って、一気に気持ちをつかまれてしまうようなシングル曲にたくさん出会ってきました。それで、リスナーが詞やメロディに一瞬で心をつかまれてしまうような曲で、今のヒットチャートの中で流れても違和感なく受け入れてもらえて、しかも今までのYUKIがやったことのないようなダンスナンバーが欲しいと(作曲家に)リクエストをしたら、この3曲がやってきてくれました。デモを聴いた瞬間に、ステージに立って歌っている自分の姿が見えましたね。「そうか! 私はここにきたかったんだ!」と、パーッと視界が開けました。そこでようやく、それまでレコーディングしていた曲たちが、1つの場所に集まる感じが見えて、新しいアルバムがたどり着く場所がはっきり見えたんです。この3曲はたった1日で作ってしまったんですよ。
──そうだったんですね。ところで、「誰でもロンリー」の歌詞にある「奈落から這い上がれ 誰かのアイドル」の部分は、もしかして……。
朝ドラの「あまちゃん」です(笑)。去年「あまちゃん」にハマっていたということもあるんですけど、“アイドル”は歌詞に使ってみたいワードの1つでした。今、活躍されているアイドルの皆さんを見ていると、彼女たちや彼らは、もはや自分自身のためだけにアイドルをやっているわけではないと思ったんですね。アイドルはみんなを元気にしてくれる存在で、そして、誰でも誰かのアイドルなんだ、と。ただ、人間は結局は独りなんだというところからは逃れられないんです。独りだからこそ人を求め、理解しようとするし、2人になったときにもっと強くなれるということも知っている。「誰でもロンリー」の中で人は独りなんだよっていうことを軽いトーンで歌えたときに、この曲をアルバムの1曲目にしよう、リードシングルはこの曲にしようと思いました。
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- ニューアルバム「FLY」 / 2014年9月17日発売 / EPICレコードジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4104円 / ESCL-4277~8
- 通常盤 [CD] / 3240円 / ESCL-4279
- アナログ盤 / 3780円 / ESLJ-3083~4
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iTunes Storeにて配信中!
CD収録曲
- 誰でもロンリー
- Jodi Wideman
- はみだせ ラインダンスから
- 波乗り500マイル (feat. KAKATO)
- 君はスーパーラジカル
- It's like heaven
- 真夜中の恋人
- ポートレイト
- スリーエンジェルス
- 眼鏡を外して
- 口笛
- わたしの願い事(映画「ひみつのアッコちゃん」主題歌)
- STARMANN(フジテレビ系ドラマ「スターマン・この星の恋」主題歌)
- 坂道のメロディ -version FLY-(アニメ「坂道のアポロン」オープニングテーマ)
- カ・リ・ス・マ in the dark
- fly
初回限定盤DVD収録内容
- STARMANN -Music Video-
- 誰でもロンリー -Music Video-
アナログ盤収録曲
SIDE A
- 誰でもロンリー
- Jodi Wideman
- はみだせ ラインダンスから
- 波乗り500マイル (feat. KAKATO)
- 君はスーパーラジカル
- It's like heaven
- 真夜中の恋人
- ポートレイト
SIDE B
- スリーエンジェルス
- 眼鏡を外して
- 口笛
- わたしの願い事(映画「ひみつのアッコちゃん」主題歌)
- STARMANN(フジテレビ系ドラマ「スターマン・この星の恋」主題歌)
- 坂道のメロディ -version FLY-(アニメ「坂道のアポロン」オープニングテーマ)
- カ・リ・ス・マ in the dark
- fly
YUKI(ユキ)
1972年生まれ、北海道出身の女性シンガー。1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年の解散までに、数々のヒット曲・名アルバムを発表する。2002年にシングル「the end of shite」で本格的なソロ活動をスタート。2012年2月には10周年を記念したシングルコレクションアルバム「POWERS OF TEN」を、11月にはカップリング曲を集めた「BETWEEN THE TEN」を発表した。また同年には日本武道館2DAYSを含む全国ツアー「YUKI TOUR“BEATS OF TEN”」を行ったほか、東京ドームでワンマンライブも開催した。2014年9月17日に約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「FLY」をリリース。10月12日より全国ツアー「YUKI concert tour“Flyin' High”'14~'15」をスタートさせる。