ナタリー PowerPush - YUKI
やっと歌えた自分の本当の気持ち アルバム「うれしくって抱きあうよ」完成
YUKIが、5thアルバム「うれしくって抱きあうよ」をリリースした。2007年に発表した初のシングルコレクションアルバム「five-star」を挟み、オリジナルアルバムとしては前作「Wave」以来、約3年半ぶりとなる新作。じっくり時間をかけて作り上げた今作には、自分自身と素直に向き合い、フラットな気持ちでのびのびと歌うYUKIがいる。
取材・文/松浦靖恵
タイトルが今回のアルバムのすべてを表している
──アルバム「うれしくって抱きあうよ」の制作をスタートさせたのはいつ頃ですか?
「New Rhythm Tour」(2008年)を終えてから、そんなに時間が経っていない頃だったと思います。そのツアーは、(新しいアルバムを携えて行ったツアーではなかったこともあって)今までにリリースされていた楽曲で構成されたライブだったんですけど、新曲を歌いたい、ライブでもっと自由に跳び回れる曲を作りたい、という思いが自分の中に生まれたツアーでもあったんです。音楽は人が作る手作りのものだから、必ずその人の思いが音楽の中に出るものだし、それが聴いてくれる人にも伝わっていく。打ち込みでもそれはできるのかもしれないけれど、打ち込みでは作れない波動が手作りの音楽にはあるんだなという“音楽の原点”のようなところに、「New Rhythm Tour」をやって気付いたんです。なので、今思うと、あのツアーをやったことが、このアルバムのスタートにもなっていたような気がします。ただ、制作をスタートさせた時期に子供を授かったので、必然的に表立った活動はお休みすることになってしまったんですけど。でも、曲集めや歌詞を書くこと、そして歌入れはずっと続けていました。
──今回のアルバムを聴いたときに、まず感じたのは、のびやかさだったんです。とにかく、YUKIさんが自由に歌っているなぁって。
ありがとうございます。私自身、「うれしくって抱きあうよ」というタイトルが今回のアルバムのすべてを表しているのではないかと思っていて。もともと、シングルになった「うれしくって抱きあうよ」を作曲してくれたmugenくんの仮歌の中に「うれしくって抱きあうよ」というフレーズがあったんです。その仮歌を聴いた瞬間から「これを今度の新しいアルバムのタイトルにしたい!」と思っていたんですね。しかも、この曲に出会って、アルバム全体のカラーが決まったようなところもあって。私は、このフレーズに導かれて、どんどん歌詞を書くことができたような気がします。
歌ってもっと簡単じゃない? 歌って理屈じゃないよね?
──衝動をそのまま言葉にしたようなタイトルですね。
はい。歌ってもっと簡単じゃない? 歌って理屈じゃないよね? 極端に言ってしまえば、歌詞がなくたっていいじゃない? とか……。そういうところに、やっと私は行けたんです。もう、その思いがそのまま「うれしくって抱きあうよ」につながりましたね。
──ただ、これまでもYUKIさんは自分の言葉で自由に歌詞を書いてたと思うんですが……。
書いてはいたけど、本当の気持ちや自分のことを歌うことに対して、どこか拒否をしている自分がいたんです。例えば、誰かの気持ちになって歌詞を書こうとか、ストーリーの中に自分自身がなるべくいないようにしようとか、自分ではない人が歌っても成立するような歌を作りたいと思っていたし、そこを突き詰めたいと思っていました。でも、やっていくうちに、だんだん自分のルーツや自分の感情があふれ出てきてしまったんです。その感情に気付いてしまった以上、私はその感情と向き合わないといけないのかなと思うようになって……。とにかく、私がやらなければいけないことは、今、自分が思ったことを、音楽にすることなんだな、と。
──“私”をありのまま届けるというよりも、作品や歌を届ける伝い手の意識のほうが前に出ていた?
そうですね。ポップスを歌っている歌い手として、私はツールになるというか……橋渡し的な存在でいたいと思っていました。でも、そういうふうに強く思っていた2~3年を経て、やっと自分の歌を歌えるかなという気持ちになれたし、そのおかげで気持ちがとてもフラットな状態でいられました。理屈みたいなもの、頭で考えて作っていたようなところを、全部やめてみたんです。本当に、何もなくしてみたんです。歌詞を書くとき、私は何度も何度も曲を聴くんですけど、今回はそのときに口をついて出てきたものを、そのまんま書きました。それがどんなに笑えるような歌詞でも、ちょっと意味不明な歌詞でも、「ここから広げられるかな」と思ったら、着地点を決めずにどんどん書いていったんです。
──前作「Wave」から3年半の間に、YUKIさんが経験したことや感じていたことが、このアルバムへとつながっていたんですね。
そうですね。いろいろな出来事や出会いがあったし、これでいいのかなと考えた時期もあったんですけど、こんなふうに、すべてに対して自分がフラットな状態でいられるようになったのも、何を歌うべきなんだろうと真剣に考えていた時期や迷いがあったからこそなんだろうな、って。そういうときが大事だったんだなぁと、改めて思います。
──歌に対する向き合い方を考えられる時間があったからこそ今がある。
はい。以前の私は、自分だけの力でどうにかなると思っていたんです。自分だけの力でここまで来たんだと思っていた。でも、今はそんなふうには全く思わないんです。自分の力だけではどうにもならないことがたくさんあるんだということに気付けたし、自分で選んでいるんだと思っているようなことも、実はそうなるように決まっているんだなと思える。今は理屈ではなく体で感じているし、さまざまなことを必然だと思えるんです。私が日々感じていることが、今回の歌詞には自然と出てきているんだろうなと思いますね。
CD収録曲
- 朝が来る
- プレゼント
- COSMIC BOX
- ランデヴー
- just life! all right!
- チャイニーズガール
- 恋愛模様
- さようなら、おかえり
- うれしくって抱きあうよ
- ミス・イエスタデイ
- 汽車に乗って
- 同じ手
- 夜が来る
初回限定盤DVD収録内容
- 「汽車に乗って」「ランデヴー」「COSMIC BOX」「うれしくって抱きあうよ」ビデオクリップ
- 撮り下ろしダンス映像「Dance! Dance! Dance!」
YUKI(ゆき)
1972年生、北海道出身の女性シンガー。1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年の解散までに、数々のヒット曲・名アルバムを発表する。また、1999年のバンド活動休止中にはTHE B-52'Sのケイト・ピアソンらとスペシャルバンド「NiNa」にシンガーとして参加。さらに2001年にはCHARAやちわきまゆみらとガールズバンド「Mean Machine」を結成し、ドラマーを務めた。2002年にシングル「the end of shite」で本格的なソロ活動をスタート。バンド時代と異なり、先鋭的なサウンドと前衛的なビジュアルで唯一無二の世界観を確立した。2007年10月には、ソロ活動5周年を記念したベストアルバム「five-star」がオリコンウィークリーチャート1位を獲得している。