優河が4年ぶりニューアルバムで描く“夜明け”に託した希望|ドラマ「妻、小学生になる。」のプロデューサーと語る家族の愛情 (4/4)

優河のボーカルの魅力

──個人的なアルバムの印象としては、もちろん曲ごとの個性がありつつ、全体的に近年のジャック・アントノフ関連の作品とのリンクを感じました。テイラー・スウィフト、ラナ・デル・レイ、ロード、クレイロとか、フォーキーなんだけど、音像含めあくまで現代的なものに着地をしている。そういう作品とのリンクがあるなって。

自分の歌だけだとフォーキーというか、ちょっといなたい感じになっちゃうから、そこで岡田くんしかり、バンドのメンバーが都会に寄せてくれてるというか(笑)、そういうバランスの取り方をしてくれてるのかなって。

──抑えたトーンの歌い方なんだけど、歌い方に幅がある。ラナ・デル・レイとかもそうだと思うんですけど、優河さんの歌はそこが魅力だと感じました。

うれしいです。ラナ・デル・レイは歌の質感という意味でけっこう参考にしました。「なんでこんなに軽く歌ってるのに、ちゃんと芯があるんだろう?」って。彼女は適当に歌ってるようにも聞こえるじゃないですか? でもめちゃくちゃ芯が通っていて、心地よく聴ける。そのあたりは注意深く聴いて研究しましたね。

──優河さんの歌も張り上げるわけではなく、口ずさんでいるような感じもあるけども芯があるなと。

張り上げて歌うようなタイプの曲を自分が書くかというとそうではないので、とにかく自分の曲に合う歌い方を曲ごとに選ぼうと思って、「この曲ならどういう歌にしたらこの世界観を壊さないか」という感じで考えていきました。

優河

魔法バンドとの制作

──最初にできたという「WATER」は、歌の存在感はもちろん、サウンドメイクも非常に凝っていて素晴らしい仕上がりですね。

「WATER」は初めてコーラスから書きました。私はもともとハモるのがすごく苦手で、主メロに対して音が取れなくて、合唱とかも苦手なんです。でもミュージカルを経験して声が合わさることの美しさを知って、コーラスを自分でもできるようになりたいと思って。でも些細なピッチ感とか、音の捉え方は人によって違うし、人の声にハモりを付けるのはやっぱりちょっと怖いから、まずは自分の声で慣らしていこうと自粛期間に宅録を始めて。声を重ねることをやり始めたら、今さらですけど、すごく楽しくて(笑)。で、少し形になったものを岡田くんに投げて、再構築してもらいました。

──今回のアルバムは岡田さんが全曲のミックスを担当しているそうですね。オープニングの「やわらかな夜」も中盤の音のレイヤーが非常に印象的で、そこから「WATER」へと続くアンビエント的な流れにグッとつかまれました。

カッコいいですよね。でも最初からゴールが見えていたわけではなくて、「WATER」は合宿中にベースやドラムをバラバラに録って少しずつ組み立てた感じだし、「やわらかな夜」の中盤も「これも足そう、これも足そう」と音を重ねていって、最後にバンドメンバーにコーラスを入れてもらって、すごく楽しかったです。

──岡田さんもそうだし、千葉さんにしろ神谷さんにしろ、魔法バンドのメンバーは単なるいちプレイヤーというだけでなく、プロデューサー的な視点を持った人の集まりでもあると思うので、だからこその面白さもあるんでしょうね。

たまに私だけぽつーんみたいな、「おお、やってるねえ」みたいなこともあったりして(笑)。

──でもそうやってリラックスして、楽しんで制作することがこの期間の優河さんにとってはすごく重要だったのかなって。

そうですね。正直今まではいろいろ考えちゃって、制作を楽しめないこともあったので、今回はすごく新鮮でした。バンドメンバーを見て、「この人たちは音楽が楽しいから音楽をやってるんだな」と思う場面が何回もあって、それもすごく大きかったですね。

他者を通じて再発見した自分

──歌詞に関しては、「アルバムができていく過程で、歌詞の中にたくさんの“夜明け”がちりばめられていることに気付きました」とコメントされていました。

「果たしてこれがアルバムになるのかな?」と思って、1回紙に歌詞を全部書いてみたら、たくさん「夜明け」があって、そこで気付きました。私は夜明けを待ってるんだなって。今まで蓄えてきた感覚とか、歌に対する気持ちとか、そういうことの隅々にまで光が入るような景色を見たかったんだと思います。あとは、やっぱり今は時代的にすごく暗くて、みんなが夜明けを探している気がして。なので、それぞれの突破口になるような、そういう希望を歌に託したい気持ちだったのかなと思います。

優河

──ここまでの話を聞いて腑に落ちたというか、まずは何より優河さん自身が自分の表現に対する夜明けを模索していたんだと思うし、さらにそこに今の世の中の空気感が紐付いて、より「夜明け」という言葉に向かっていったんだろうなと思いました。「夜明け」という言葉がそのままタイトルになっているのは、8曲目の「夜明けを呼ぶように」ですね。

「夜明けを呼ぶように」は、去年合宿をしたあとに少しブランクがあって、ライブもできなかったから、自分の居場所についてもう一度考える時期があって。そのときに、ROTH BART BARONの三船(雅也)くんと配信ライブをして、ちょっと気持ちがほぐれたというか。自分1人じゃなくて、別のアーティストと一緒に歌うことで、やんわりほぐれるような感覚があったんです。三船くんという大きな船に乗って歌わせてもらったのはすごく大きくて、そのときの音の感覚をもっと掘っていったら、外に出られるかもしれないと思って、それを言葉にしていきました。

──魔法バンドにしろ、三船さんにしろ、やはり他者を通じて自分を再発見していったのかもしれないですね。この2年は会いたい人になかなか会えなくて、だからこそ他者と触れ合うことの大切さを噛み締めた期間でもあったから、このアルバムにはそういう感覚も含まれてるなって。

ありがとうございます。1人で考えてもいいことないなって思いました(笑)。結局1人で生きることはできないですし、自分の中だけで悶々と考えるのはよくないなと。誰かに「私のいいところ褒めて」と頼んで、言ってもらったほうが早いというか。自分では見えない部分も見てくれるし、自分では当たり前だと思ってた部分が魅力なんだと気付かせてくれることもある。それは相手に対してもそうで、自分もそうでありたいというか、常に誰かのいいところを見れるようになりたいと思いました。

夜が明けたあとに何をするか

──10曲目の「28」は、28歳のときに書いた曲ですか?

そうです。28歳の最後の夜に書いた曲で、ちょうどその次の日から合宿だったので、それまでに何か作らなきゃと思って書きました。

──アルバムのラストに置いたのは何か理由があるんですか?

この曲は家族に向けて書いた曲なんです。誰もが夜明けを待ってるけど、その中で何を思って、何を蓄えて、何を大事にするかが、夜が明けたあとでとても大事なことだと思ったんですね。だから、まだ夜が明けてないとき、一見暗く見えていても、腐らずに自分というものを大事にしたいし、大事にしてほしいなっていうことを近しい人に向けて書いた曲ですね。

──ただ夜明けを待つのではなく、その先のために今を大事に生きることが重要だと。

そうですね。いつお日様が出てくるかわからないときは、「自分なんか」と思いがちですけど、絶対に夜は明けると信じることが大事だなって。それぞれの夜明けはそれぞれのタイミングで来るから、何かを一概に言うことは難しいけど、でもやっぱり夜明けを待っている間、そこで何を思うかが、夜が明けたあとに何をするかにつながっていくと思うんです。

優河

ライブ情報

優河with魔法バンド「言葉のない夜に」リリースツアー

  • 2022年3月25日(金)愛知県 ちくさ座(千種文化小劇場)
  • 2022年3月26日(土)兵庫県 海辺のポルカ
  • 2022年4月13日(水)京都府 ロームシアター京都
  • 2022年4月14日(木)石川県 金沢21世紀美術館
  • 2022年4月22日(金)東京都 WALL&WALL

プロフィール

優河(ユウガ)

2011年にシンガーソングライターとして活動を開始。2015年11月に1stフルアルバム「Tabiji」、2018年3月に2ndアルバム「魔法」をリリースする。2019年には映画「長いお別れ」の主題歌として「めぐる」を書き下ろし。同年5月に「めぐる」を収録した5曲入りの音源集を発表した。2020年にはミュージカル「VIOLET」で主役・ヴァイオレットに選ばれ舞台に初挑戦。2022年3月にドラマ「妻、小学生になる。」の主題歌「灯火」を収録したニューアルバム「言葉のない夜に」をリリースする。