ようやくオリジナル曲メインのアルバムが完成しました
──これまでのアルバムはカバー曲をメインにしていましたが、新作「Colorful Drops」はユッコさんが手がけたオリジナル曲がほとんどを占め、カバーは「Fly Me To The Moon」のみという構成です。
これまでのアルバムでも自分で作った曲は数曲入れていたのですが、オリジナル曲メインのアルバムもずっと作ってみたかったんですよね。ようやく実現しました。
──初期のオリジナル曲はインプロ色の強い作風でしたよね。そこから徐々にポップなスタイルに変化していって……。
徐々に聴きやすい感じになっていきました。でもその時々でやってみたいことをやってきただけで、変えようと意識したわけではないんです。
──「Colorful Drops」はジャズをベースに、フュージョン、プログレ、ラテンなどかなりジャンルの幅が広がったように感じました。このあたりはさまざまなバンドの楽曲に客演で参加した経験が生かされたのではないでしょうか?
そうかもしれませんね。特に2018年に共演したTRIX(アルバム「FESTA」に参加)のキャッチーなサウンドは今回のアルバム制作の際、参考にさせていただきました。あとは自分自身の音楽の好みも徐々に変化していったので、その影響もあるかも。
──新作の中にフュージョン寄りの楽曲が多いのは、TRIXからの影響だけでなく、T-SQUAREのメンバーだった須藤満(B)さんや則竹裕之(Dr)さん、PRISMの岡田治郎(B)さんがレコーディングに参加したことも大きいかもしれませんね。
それもあるし、前作「Kind of Pink」がかなりジャズに振り切ったアルバムだったので、今回はガラッと作風を変えたかったんです。
──各演奏メンバーとのやりとりは初回限定盤付属DVDのメイキング映像にも収められていましたが、その中でも「New Experience」のレコーディングについて、則竹さんが「ものすごく難しかった」とお話していたり、メンバー全員で拍の変わり方を念入りに確認していたのが印象的でした。
「New Experience」は意識的に難しい曲を作りたいと思って、たくさん変拍子や複雑なメロディを取り入れています。でも煮詰まったりせず、どんどん作れちゃいました。「今すぐ1曲作って!」と言われたらすぐに取りかかれるぐらい、作曲は好きですね。
初挑戦盛りだくさんの「Colorful Drops」
──アルバム全体にスラップベースが多く盛り込まれていますが、これはユッコさんから積極的にお願いしたんですか?
はい。須藤さんとはTRIXのライブやレコーディングでご一緒させてもらったんですが、とにかくスラップの演奏がカッコよかったんですよね。そのスラップを私のアルバムにもぜひ入れてほしいと思ったんです。「この曲でスラップお願いします!」「こっちの曲も入れてください!」みたいな感じで、とにかくたくさんオーダーしました。
──ベースだけでなく、ほかの演奏メンバーのソロパートもふんだんに収められているのは特徴的ですよね。
言われてみると、確かにそうかも。今回参加してくれたミュージシャンはみんな大好きなので、とにかくソロをやってもらいたくて。基本的にどのソロパートも、私のほうからどんなふうにやってほしいかはお願いせず、皆さんに自由に演奏してもらいました。
──「Stream」「For You」では、ユッコさんと半田彬倫(key, Violin, Programming)さんのお二人だけで演奏していたり。半田さんのソロパートも多く盛り込まれていますよね。
半田さんとはもう4、5年ぐらいの交流になるのかな? 過去作にも参加してもらいましたし、譜面を渡せばどんなアレンジや演奏をやってほしいか、すぐに伝わるぐらいの仲ですね。「Stream」と「For You」は演奏者の人数が少ない分自由度が高まるから、そこでどんな表現ができるか挑戦したかった、という意図もあります。
──ユッコさんの演奏もサックスだけでなく、「IKUSA」ではAKAIのウインドシンセサイザー・EWIを使用しています。レコーディングで使うのはこれが初めて?
はい。電子楽器だと過去にはエアロフォンもレコーディングで使ったことはありますが、EWIは今回が初です。かなり操作が難しくて……サックスだとキーを押せば音が変わるんですが、EWIはタッチセンサーで操作するんですね。ちょっと触れただけで音が変わっちゃうほど繊細なので大変でした。
──シンセならではのきらびやかなアレンジが施され、新たな手法を表現できた1曲になっているかと思います。さらに「Fly Me To The Moon」ではボーカルにも挑戦されています。
「Fly Me To The Moon」は歌詞がロマンチックですよね。もともとジャズスタンダードとして有名な1曲でしたが、「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディングテーマに使用されたことで、一般にもよく知られる曲になって。YouTubeではこの曲に加え、さまざまな歌唱動画を公開していますが、「Fly Me To The Moon」が特に有名なので、この曲をセレクトしました。
──YouTubeの歌唱動画では「エヴァ」のエンディングバージョンを踏襲していましたが、アルバム版はジャズスタンダードのバージョンに近いアレンジになっていますね。過去にもYouTubeで演奏動画を公開したあと、アルバムに再アレンジして収録することがありましたが、動画とレコーディング作品はユッコさんの中でどのように区別しているんでしょうか?
どちらかというと、YouTubeではなるべく原曲に近い形でカバーするようにしています。逆にアルバムでは特別感を出したいので、別のバージョンを参考にしたり、大幅にアレンジを加えたり。アレンジャーの方に相談することもありますね。
──ご自身の作品でボーカルを担当するのは初ですが、いかがでした?
サックスだと自分がイメージした音をパッと出せるんですけど、歌はまだ慣れていないので難しかったです。かなり練習したし、いろんな方が歌っているバージョンを聴いて、いいと思った部分をマネしてみたり。英詞なのでネイティブの方に発音を教えてもらったりもしました。あと、このコロナ禍で歌唱動画を数本公開してみて、歌う楽しさを知ったんです。ボーカルありのオリジナル曲も作っているのですが、作詞が難しくて。サックスと違って、歌は言葉で表現する部分もプラスされるんですよね。その言葉選びも面白いので、いろいろ試してみたいです。
もしもし、私の好きな歌手って誰だっけ?
──「Hapi Hapi」は本作で唯一となるラテン調の曲ですが、これまでのユッコさんのオリジナル曲とは大きく作風が異なり、意外でした。
この曲は高校生の頃からよく聴いていた、渡辺貞夫さんの影響が強く出ているのかも。渡辺さんの楽曲がすごく好きだったので、「私も渡辺さんみたいにキャッチーなラテンナンバーを作ってみたい」という思いがあったんです。
──もう1つ「For You」はR&B色の強いナンバーで、フィンガースナップ風の打ち込みも盛り込まれています。
こっちはケニー・Gさんの影響が強いかもしれないですね。歌うような音色のサックスサウンドと言えばいいのかな。ほかにも参考にした方がいたんですけど……誰だったっけ、ちょっと調べてもいいですか?
──はい。
(スマートフォンを取り出して)えーっと、黒人の方だったんですけど……もしもし、私の好きなR&Bの歌手って誰だっけ? ジェラルド・アルブライトさんはサックス奏者だから違うし……。
──ゆっくりで大丈夫ですよ。
(電話を切って)マネージャーに聞いてわかりました。ブライアン・マックナイトさんでした。
──「私の好きな歌手って誰だっけ?」ってあまりない会話ですよね(笑)。とにかく今回のアルバムは楽曲アレンジや演奏楽器など、さまざまな部分で新たな挑戦を盛り込んだ作品になったかと思いますが、さらに今後試してみたいアイデアもある?
これまでジャズシーンの方とはたくさん共演させてもらったので、まったく違うジャンルのミュージシャンと何かやってみたいですね。クラブ系のミュージシャンやラッパー、DJとのコラボも面白そう。あとはブラックミュージック系の人とやってみたいです。
──それらのシーンで活躍している人で、交流のある方はいますか?
それがまったくないんですよ。ポップスだったらゴールデンボンバーさんとコラボしたことはあるんですけど……。
──まったく別ジャンルですね(笑)。例えばJ-POPシーンとの交流も多いSOIL&"PIMP"SESSIONSや、先ほどお名前を挙げていただいた渡辺貞夫さんと一緒に演奏したことは?
SOILのメンバーの方とは交流はあるんですが、あんまり一緒にやる機会がなくて。渡辺さんはコンサートを何度か観に行ったことはあるんですけど、直接お会いしたことがなく……。大御所だとベーシストの鈴木勲さんと演奏させてもらったことはあって、めちゃくちゃ学ぶことがありましたね。
──今後もレジェンドとの交流はあるかもしれませんね。
ええ。今はコロナ禍で難しいけど、落ち着いてきたらアメリカに行って、現地のミュージシャンとも共演したいです。国内外どちらもフェスが中止になって、かなり厳しい状況が続いていますが、最近ようやくコンサートが増えてきたので。
──これからアルバムのレコ発ツアーも始まりますしね(※取材は10月中旬に実施)。
でも、「ひさしぶりだから気合いを入れていくぞ!」みたいな感じはなくて。あくまで自然体でいたいです。
──ライブを観るお客さんにとって、アルバム収録曲がどのように演奏されるか楽しみでしょうし、中には「コロナ禍以降、初めてコンサートに来た」という人もいるかもしれません。そういう意味ではプレッシャーを感じたりは?
全然感じないですね。ただ自分らしく、ステージで息をしている……ぐらいの気持ちでライブをしたいんです。常にそういう状態でありたい。
──では最後に。「J-POPが好きだけどジャズには疎い」という人に対して、サックスの魅力を端的に伝えるとしたら、どんな言葉になりますか?
そうだなあ……ひと言で表現するのは難しいけど、心に響く心地いい音色、それに尽きると思います。リズムやメロディはどの楽器でも表現できますが、サックスの音色はこの楽器でしか表現できないので。私自身も、とにかくそれを楽しんでいるのかもしれないです。
ライブ情報
ユッコ・ミラー New Album "Colorful Drops" リリースツアー
- 2021年10月17日(日)三重県 北勢市民会館 さくらホール
- 2021年10月27日(水)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
- 2021年10月29日(金)愛知県 STAR★EYES
- 2021年10月30日(土)愛知県 STAR★EYES
- 2021年10月31日(日)京都府 かめきたサンガ広場 / サンガスタジアム広場 / 南郷公園(※「亀岡ジャズ・ストリート」に出演)
- 2021年11月5日(金)北海道 じゃず そば放哉
- 2021年11月6日(土)北海道 札幌"D-Bop"Jazz Club
- 2021年11月19日(金)岡山県 MO:GLA
- 2021年11月20日(土)広島県 Live Juke
- 2021年11月22日(月)福岡県 border -live music & drinks-
- 2021年11月23日(火・祝)熊本県 CIB
- 2021年11月24日(水)大分県 BRICK BLOCK
- 2021年11月25日(木)大阪府 Mister Kelly's
プロフィール
ユッコ・ミラー
三重県伊勢市出身のサックスプレイヤー。高校生時代に吹奏楽部へと入部し、アルトサックスの演奏者として活動を開始。在学中からパリやウィーンなどへ演奏旅行を行い、河田健、川嶋哲郎、エリック・マリエンサルらに師事してきた。2016年に1stアルバム「YUCCO MILLER」でキングレコードからデビューし、2018年発表の2ndアルバム「SAXONIC」は「JAZZ JAPAN AWARD 2018」のアルバム・オブ・ザ・イヤー枠でニュー・スター部門賞を受賞。2021年10月にはオリジナル曲を中心とした4thアルバム「Colorful Drops」をリリースした。テレビ番組にも数多く出演し、2018年からはYouTuberとしての活動も行っている。
YUCCO MILLER OFFICIAL WEBSITE|ユッコ・ミラー公式ウェブサイト
ユッコ・ミラー Yucco Miller (@yuccomiller) | Twitter