ナタリー PowerPush - yucat

痛みや悲しみを吐き出したデビュー作で示した「終わりと始まり」

声という楽器を最大限に使いたい

──歌詞の内容にリンクするように、yucatのサウンドはダークな世界観を描き出すものになっていますね。

はい。私の曲作りは、まず映像が頭の中に浮かんできて、そこから歌詞とメロディを探していく感じなんです。で、yucatの場合は、そこで出てくる歌詞が自分の闇や陰を描いているものなので、必然的にメロディも叫びや痛みを感じさせるものになるんですよね。アレンジに関しては、自分の中のイメージをアレンジャーさんに伝えて、その世界観にリンクさせてもらっている感じです。

──アレンジを含めたサウンドプロデュースはTHE野党の篤志さんが担当していますが、なぜ彼にお願いしたんですか?

ソロとしてyucatをやることになったときに、私はぜひとも篤志さんにやってもらいたいと思っていたんですよ。彼のギタープレイをいろんなライブで観ていたんですけど、私からするとそれは叫びでしかなかったというか。絶対、yucatの世界観に合うだろうっていう絶大な信頼感があったので、お願いすることにしたんです。

──歌声にも今までの有加利さんとは違った表情が見えていると思いました。それはyucatとして表現しているからなんでしょうね。

そうですね。意識するわけではなく、曲を作っている最中から声が変わってるんですよ。今までの声はキレイとか優しいとか丸いとかっていう評価をいただくことがあったんですけど、yucatはちょっとヒステリックな感じが出ていたりしますね。「Stop Me!」という曲では泣き声とかしゃべり声とかも入れたんですけど、自分が持っている声という楽器を最大限に使いたいなっていう気持ちもyucatとしては大きくなってると思います。これからまた変化していくところもあるとは思うけど、私がやりたいことは今の時点でちゃんと表現できている気はしますね。

──ちなみにレコーディングはどんな感じで行っているんですか?

スタジオにある一番狭い部屋にボーカルブースを作ってもらって、誰にも見えないようにしてもらいながら真っ暗にして歌ってます(笑)。曲作りの段階から、1人ぼっちで死神か廃人のようなオーラを出しながらやっているので、レコーディングもその雰囲気のままやりたいんですよね。

──そういった状態じゃないとまだyucatを表に出すことができないんですかね。

そうですね。人が見てたりする状況だと、まだちょっと無理ですね(笑)。

「死と生」「終わりと始まり」

──完成した1stミニアルバム「PARALLEL WORLD~終ワリノ始マリ~」は、ご自身にとってどんな作品になりましたか?

yucatオフィシャルサイト トップページイラスト

初めてのアルバムということで自己紹介的な作品になったとは思いますね。yucatがどうして生まれたのか、yucatがいつもどういう思いを抱えてるのかっていうことが、楽曲を聴けばわかってもらえると思うので。あとは「死と生」「終わりと始まり」っていうものが全曲通して描かれているのも特徴で。その上で、5曲を通して1つのストーリーを感じてもらえたらうれしいなと思います。

──衝撃的な内容満載ですよね。

はい(笑)。私としては「Hangman’s Tree」がけっこう印象的な1曲なんですよ。ここでは親をはじめとする大人に皮肉と辱めを与えるような、ほかの曲とはちょっと違ったタイプの歌詞が書けたので。

──ああ、なるほど。気持ちが外の対象に向かっていますよね、この曲だけ。

そうなんですよ。yucatは陰なタイプなので、憎しみや怒りがあったとしても自分を痛めつけることのほうが多いんです。でも、この曲ではその憎悪が初めて外に向かったというか。それは1つの挑戦でもありましたね。

──そういう意味では、有加利さんにとって長い付き合いであるyucatという存在が音楽として吐き出されることで少し変化してきている部分もあるのかもしれないですよね。最後の曲「暴走マシーン」では、闇の先に光を見ようとしていたりもしますし。

この作品を第1章とするならば、yucatとして次のステージに進むために私自身、光を欲している部分がありますからね。その光がどこにあるかはまだわからないけど、それを聴いてくれる皆さんと一緒に探していきたいなっていう気持ちも込めて、その曲を最後に入れて1stミニアルバムを締めたかったんです。

yucat(ゆきゃっと)

元RYTHEMの加藤有加利が2011年からスタートさせたソロプロジェクト。「yucat」とは加藤の心の中に存在するもう1つの現実世界、すなわちパラレルワールドに住んでいるもう1人の自分のこと。加藤が喜び、幸せ、愛、楽しさ、安心、笑顔、光の部分を担っているのに対し、yucatは悲しみ、苦しみ、悩み、痛み、寂しさ、傷、涙、闇の部分を持っているという。楽曲のデジタル配信やYouTubeでの動画公開を経て、2013年1月に1stミニアルバム「PARALLEL WORLD~終ワリノ始マリ~」をリリースした。