由薫レビュー&インタビュー|次世代SSWのバックボーンとドラマ主題歌「星降る夜に」の魅力を掘り下げる (3/3)

誰もが持っている“名前”への視点

──歌詞の中に、ドラマの世界観をどう落とし込んでいったのでしょうか。

ドラマの脚本や企画書を読ませていただいて、さっきも言ったように鈴さんと一星さんだけでなく、登場人物たちすべての関係性……言ってしまえば“愛”ということについて考えました。愛っていろんな形があると思うんですよ。恋人だと“恋愛”だし、家族や友人に対する愛や、ときには見ず知らずの人に対しての愛もある。しかも、1人ひとりが持っている愛の形はそれぞれ違うから、ジャンル分けできるものでもないなと。そういうことに着目して歌詞を書いたら、ドラマの登場人物たちと重なる部分もあるんじゃないかと思ったんです。

──歌詞の中で、“名前”に対する思いがつづられていますよね。これは、どんなところから着想を得たのでしょうか。

名前は誰もが持っているものだということに気付いたときに、「これはいいアイデアだな」って我ながら思いました(笑)。1人ひとり誰もが持っているものだけど、それを名付けた人が込めた思いはそれぞれ違うわけじゃないですか。最近、坂本九さんの曲をよく聴いているんですけど、九さんって9番目に生まれたから「九」という名前が付いたらしくて。もちろんそこには名付けた人の思いがあっただろうし、今となってはたくさんの人が九さんの名前を記憶して、愛着を持って「九ちゃん」と呼んでいる。それを考えると、名前はそもそも誰かからの贈り物みたいなものというか。願いが込められているし、時間が経ってたくさんの人にその名を呼ばれていくうちに、どんどん別の意味を帯びてくるものだなって。それって、考えてみるとすごいことなんじゃないかと思ったんです。

──なるほど。確かにそうですね。

私、いろんなものに名前を付けるのが好きなんですよ。いつも使っているギターを「Sunny」と名付けたり、家に置いている観葉植物にも名前を付けたりしていて(笑)。そうすると、その瞬間から魂が宿るし、愛着も湧いてくるんですよね。大切にしたいと思うものは、名前を付けるとより大切にできるような気がします。

由薫
由薫

──ちなみに、由薫さんって本名ですよね。ご自身の名前は気に入っていますか?

以前は自分の名前、好きじゃなかったんですよ。というのも、私の世代は「ゆうか」という名前がけっこう流行ったためにクラスで被ったりすることも多くて。そうすると苗字で呼ばれたり、あだ名で呼ばれたりしがちなんですよ。なかなか「ゆうか」って呼んでもらえない。でも、音楽を始めてからは名前で呼ばれることがたくさん増えて、どんどん愛着が湧いてきました

──名前の由来はご存知ですか?

昔、小学校の課題で両親から聞いたことがあるけど、そのときはよく意味がわからなかったんです(笑)。画数も多いし、習字の授業も大変でした。でも、最近はようやく「私らしい名前だな」と思えるようになりました。そういえば、数日前に沖縄に帰省したのですが、そのときに祖母の弟が私の名前を命名したときの紙を持ってきてくれて。このタイミングでそれを見せてくれたのがすごく不思議でした。

ドラマの中で精一杯輝ける曲だったらいいな

──今回、Toruさんとは3回目のコラボになるわけですよね。制作の進め方や関係性に変化などはありましたか?

自分で「成長したな」と思えるのは、言葉を選択する力がついてきたことです。「No Stars」のときは、最初に歌詞を提出したときは自分でも納得いかないところがあって、そこをToruさんにすぐ見抜かれてしまったんです。「もっとよくなるんじゃない?」と言われて何度も書き直したのですが、今回は言葉の選び方もコツがつかめてきて。最初の段階で「いい歌詞なんじゃない?」と言ってもらえたんです。例えば、サビの「あなたの名前を祈るようにそっと何度も抱きしめているよ」の部分は、最初からずっと変わっていなくて。「lullaby」のときからToruさんのもとで勉強させてもらったことが、少しずつですが確実に身に付いてきたのかなと思っています。

──「あなたの名前を祈るようにそっと」の部分は、この曲の中で特に素敵なフレーズだなと思いました。誰かの名前を呼ぶ行為って、どこか祈りにも似たところがありますよね。

ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいですし、私もそう思います。今までは自分の気持ちを歌詞の中にそっと隠していたことが多かったんですけど、誰かに聴いてもらうことを以前より意識するようになってからは、気持ちをちゃんと表現する部分と含みを持たせる部分のバランスも考えるようになりました。そこが曲作りの醍醐味というか、楽しみにもなってきています。

由薫

──ボーカルのレコーディングではどんなことを心がけましたか?

この曲は、これまで自分で書いた曲の中で一番ナチュラルに歌えました。不思議ですけど、歌っているときに自分で声が出ているのかどうかわからないくらい自然にメロディが口ずさめたんですよね。なので、レコーディングでは肩の力を抜いて装飾をなるべく省き、見晴らしのよい場所で子供が夜空を見上げているときのような、まっすぐな気持ちで歌うよう心がけました。

──実際にドラマの中で楽曲がかかるのを聞いて、どんなふうに感じました?

ドラマはリアルタイムで観ていて。先の読めないストーリーに夢中になっていたら、不意に自分の声が流れ出して一瞬わけがわからなくなりしました(笑)。「ドラマの中で精一杯輝ける曲だったらいいな」と思いながら作ったのですが、びっくりするくらいそれぞれのシーンと歌詞が響き合っている気がします。もちろん、単体で聴いてもいい曲になるように意識したのですが、ドラマの中でまた別の輝き方をしたのがとてもうれしかったです。これから回数を重ねるごとに展開もいろいろ変わってくると思うのですが、そのたび曲の中に違う響きが加わっていくのが楽しみで仕方ないですね。

──今年はライブをたくさん行う予定だそうですね。

実は3月にアメリカへ行ってライブをすることが決まっているのですが、それを経て自分も新たに成長する部分があるんじゃないかなと期待しています。いろんな刺激を受けていく中で、自分自身の形がどんどん変わっていったらいいなと思っています。それから東名阪でバンド編成のワンマンライブもやります。初のワンマンなので、今までやれなかったことに挑戦したいです。

由薫

公演情報

由薫 1st TOUR 2023

  • 2023年5月28日(日)大阪府 knave
  • 2023年6月3日(土)東京都 Spotify O-WEST
  • 2023年6月11日(日)愛知県 SPADE BOX

プロフィール

由薫(ユウカ)

2000年、沖縄生まれのシンガーソングライター。幼少期をアメリカ、スイスで過ごし、15歳の頃にテイラー・スウィフトをはじめとするシンガーソングライターに興味を持ったことからアコースティックギターを手にする。それをきっかけにカバーユニットやバンドでの活動を始め、17歳頃にオリジナル楽曲の制作を開始。かねてから映画や本が好きで、その頃見つけた、映画の主題歌を作るというオーディションで特別賞を受賞したことが現在の活動を始めるきっかけに。2021年11月には、3カ月連続デジタルシングルリリースの第1弾として「Fish」を、12月に第2弾「Yesterday」、2022年1月に第3弾「風」をリリースした。2022年2月には1st EP「Reveal」、6月には映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌で、ONE OK ROCKのToruがプロデュースを手がけたメジャー第1弾シングル「lullaby」をリリース。翌2023年2月にはドラマ「星降る夜に」の主題歌「星月夜」を発表した。

2023年3月1日更新