由薫レビュー&インタビュー|次世代SSWのバックボーンとドラマ主題歌「星降る夜に」の魅力を掘り下げる (2/3)

「星月夜」インタビュー

シンガーソングライター由薫の活動と楽曲「No Stars」「星月夜」の制作背景に迫る、前後編の特集。後編では、最新曲「星月夜」についてのインタビューを掲載する。誰もが必ず1つ持っていて、付けた人の願いや祈りが込められた“名前”を夜空に瞬く無数の星々にたとえた楽曲は、いったいどのようにして生まれたのだろうか。その制作エピソードを本人に聞いた。

多層的な作品に抱く憧れ

──デビューシングル「lullaby」がリリースされるタイミングでインタビューをさせていただいたあと(参照:由薫メジャー1stシングル「lullaby」特集)、昨年末に「No Stars」「gold」と2カ月連続でシングルのリリースがありました。この2作の反響や手応えから、まずはお聞かせいただけますか?

「No Stars」も「gold」も、これまでの自分に比べたらけっこう前向きというか。エールソングとまではいかないけれど、聴いた人に前進する気持ちを持ってもらえたらいいなと思いながら作りました。「lullaby」同様、ONE OK ROCKのToruさんにプロデュースをしてもらった「No Stars」には、「世界は暗いけど、それでも自分たちで明かりを灯していこう」というメッセージを込めたのですが、ラジオでもたくさん紹介してもらって、反響がすごくありました。この曲をきっかけに私の存在を知ってくださった人も多かったですし、私自身にとっても“前進する”1曲になったと思います。

由薫

──おっしゃるように「No Stars」の歌詞は、「What are we waiting for? The lights are out, can't see us anymore(何を待っているのだろう / 光は消え、私たちにはもう何も見えない)」と歌われるサビが象徴するように、ただ闇雲にポジティブであるとは言えない内容でした。

自分の中にこういう視点が育まれた要因の1つは、幼少期の頃からずっと住んでいたスイスから日本に戻ってきことにあると思っていて。そこでけっこう、俯瞰で物事を考えるようになったところがあるんです。人との関わり方も、「自分がどういうふうに振る舞えばもっと話しやすくなるのかな」みたいなことを考えるようになったし、そのことが大きく影響している気がします。それとは別に、自分が好きなアート作品を考えてみると、例えば1枚の絵でも「実はそういう意味もあったのか」とさまざまな捉え方ができるものが多いんです。悲しいことがあって描いた絵なのに、モチーフや色合いは明るかったりするような、多層的な作品に憧れというか面白みを感じるし、自分が作る曲もそうなっていたらいいなという気持ちがあります。

──Amazon Prime VideoのCMソングに選ばれた「gold」は、作詞作曲ともに由薫さんが手がけていますね。

この曲は「No Stars」に比べたらずっとまっすぐな内容です。自分自身にもそういう側面があったのだなという新しい発見にもなりました。人は誰しも時と場合によって、いろんな気持ちになるものだと思うんです。私自身も、例えば朝起きてすぐにK-POPを流しながらルンルンでメイクをしたいときもあれば(笑)、フォークソングを聴きながらゆったり過ごしたいときもあって。しかも、そういう気分が昼にはガラリと変わっているかもしれない。「No Stars」でいろいろなことをたくさん考え抜いたあとで、何も考えずにただひたすらまっすぐに走りたくなったのが「gold」。そういう曲が、自分のレパートリーの中に1つ欲しかったというのもあります。

──この曲はバンドっぽいアレンジも印象的です。

バンドには“メンバー”という仲間がいて、みんなで1つの目標に向かってがむしゃらに進んでいく。そういう熱量に憧れる自分もいるんですよ。「そういう曲にしよう」と前もって決めていたわけではないのだけど、結果的に自分の中の熱い側面がフィーチャーされました。ライブを観に来てくれるファンの方たちから「好き」と言ってもらえることが多い曲でもあって、リリースしてよかったと思っています。

1人ひとりが持っている“自分だけの風景”

──由薫さんの熱い側面が出たという「No Stars」「gold」という2曲を経て今回、ドラマ「星降る夜に」主題歌の「星月夜」がリリースされます。まずはドラマの印象から聞かせてください。

ドラマの主人公は、「マロニエ産婦人科医院」で働く産婦人科医の雪宮鈴(吉高由里子)さんと、「遺品整理のポラリス」に勤める遺品整理士の柊一星(北村匠海)さん。一星さんは生まれつき耳が聞こえないハンデキャップを背負っているのですが、企画書には「そういう部分をことさらピックアップしてドラマチックに展開していくのではなくて、人それぞれ違うという当たり前のことを、当たり前に描き出したい」といったことが書いてあり、私はそこにすごく共感したんです。基本的にはラブストーリーで、キュンキュンするところやハラハラするところもたくさんあって。「まったく世界観の違う2人が惹かれ合っていく」というモチーフも、違いがあるからこそお互い救われる部分があるのかなと思いながら観ています。鈴と一星2人のエピソードだけじゃなくて、ほかの登場人物もそれぞれに深みがあるんですよ。毎回見終わったあと、現実世界の1人ひとりが持っている人生にも思いを馳せたくなるというか、そういう意味でも魅力的なドラマだなと思います。

由薫
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──おっしゃるように、ドラマではまったく違う世界で生きてきた2人が出会うわけですが、由薫さん自身は異なる世界、価値観で生きてきた人とも積極的に関わり合うほうですか?

はい。そういう人から話を聞くのがすごく好きです。なんていうか、1人ひとりが“自分だけの風景”を持っていると思うので、それを私も覗いてみたくなっちゃうんです。「なんでこの人は、こういう考え方をするようになったのかな」とか「どういう景色を見てきたのかな」って。特にデビューしてからは、出会う人の数が人生の中でも最大と思うくらい増えていって、毎日いろんな人に出会っているので、そういう人たちの話を聞けるのがうれしいんです。1人ひとりがこんなにもたくさんの物語を持っているのだなって。スイスから日本に戻ってきてすぐは、あまりのカルチャーショックに人と関わることが怖くなってしまった時期もあって。ちょっと前まで「私、本当は人のこと好きじゃないのかな」とすら思っていたのですが(笑)、今はとても好きなのだなと思えます。

──そういう経験があったからこそ曲が書けたり、あるいは曲を書くことで自分の気持ちの変化に気付けたりすることがあるのかもしれないですね。

本当にそうなんです。曲を書くことで成長することもあれば、曲を通して出てきた自分の言葉に気付かされることもあって。曲作りってすごく面白いなあと思いますね。

2023年3月1日更新