オーディションで気付いた自分の気持ち
──その後、親友たちとカバーバンドを結成したそうですね。やっぱりレパートリーはテイラー・スウィフト?
はい。ほかにもYUIさんやAIさん、ONE OK ROCKさんの楽曲をカバーしているうちに、自分でも曲を作ってみたくなりました。別にミュージシャンになりたかったとかそういうわけではなくて、バンドのメンバーを楽しませたいという気持ちだったんですけど。そもそもそのカバーバンドはライブハウスに出ていたとかそんなレベルではなくて、学園祭のときに音楽室で披露するくらいの活動しかしていませんでした。
──そんな由薫さんが、GYAO!とアミューズが共同で主催したオーディション「NEW CINEMA PROJECT」に応募したのはどうしてだったのですか?
そのバンドをもうちょっと真剣に続けたくなったんです。それでメンバーに「コンテストやオーディションを受けてみない?」と提案したら、「え、絶対に出ない」と言われてしまって……(笑)。「続けるなら1人でやるしかないな」とそのときに思ったんですよ。しかもその頃は、家ではほかのことそっちのけで何時間もギターを練習していて。「好き」というよりは依存しているような気もしていたので、自分は音楽を真剣にやりたいのかどうかをそろそろちゃんと決めたいと思ったのが、「NEW CINEMA PROJECT」に応募したきっかけでした。
──自分が本気で音楽をやりたいのかどうか、そこで見極めようと思ったのですね。
そうなんです。オーディションでは審査員特別審査賞をいただきましたが、一番心を動かされたのはオーディションの第1次審査を通過したときでした。というのも、自分の歌やギターのレベルでは最後まで残らないだろうと思っていたんです。なので、もし1次だけでも、通過したら自分はどう思うか、もしくは落ちたときにどう感じるのかを知るために、ある意味オーディションを使わせてもらったというか。そうしたらプロの審査員の方たちが私の歌を聴いて、1次審査を通過させてあげようと思ってくださったことがものすごくうれしくて。自分が今これだけの喜びを感じている、ということはやっぱり音楽がやりたかったんだ、自分の歌を誰かに届けたかったんだ、ということにそこで気付けたんですよね。
──じゃあ、1次審査を通ったときにプロになることを決心した?
いえ、「音楽を続けよう」とは思いましたが、「プロになろう」という決心はそのときにはまだしていなかったです。というのも、今の時代って例えば「何歳までにデビューできないと、これ以上は売れない」「音楽を続けるには、こうしなければいけない」という基準がなくなってきていると思うんです。一度就職してからデビューする方もいらっしゃいますし、歳を重ねてから音楽を発信し始める方もいらっしゃって。自分がどういう選択をするかはまだ決めていなくて、とにかくプロになるという決心をするには、もうちょっと時間が必要だったんですよね。自分が作っていた曲も、当時はまだまだとてもプロでやっていけるレベルとは言えなかったですし。もちろん、ゆくゆくは多くの人に自分の曲を届けられたら……とは思っていましたが。
──本当に自分のことを、努めて客観的に見定めようとされているのですね。
そうかもしれないです。そういう自分の煮え切らない感じに悩んだこともあったんですけど(笑)、基本的には今も変わってないですね。ただ、事務所に入って養成でお世話になっていたときに、自分で作った楽曲をライブで披露してみたいと思うようになったあたりから、私自身の音楽に対する熱意もどんどん高まっていきました。それにライブを重ねるようになり、自分でできる曲も増えてきて、「やっぱり私は絶対に音楽をやろう」と腹をくくりましたね。
冷めているのではなくフラット
──客観的でありながら、そこにはすごく熱い思いも内包されている。それって世代的な特徴でもあると思いますか?
そう思います。世代に関しては、自分の中で確固とした持論があるんですよ。きっと、私たちよりも上の世代の方たちは、私たちのことを「どこか冷めている」と思ったり、だからこそ「Z世代」と名付けたりしていると思うんです。でも、SNSなどを見たらわかると思うんですけど、みんな誰にも頼まれていないのに動画を撮影してそれを編集し、定期的にアップし続けていたりするじゃないですか。それってすごいことだと私は思っていて。
──確かにそうですね。
きっと冷めているのではなくて、物事への考え方がフラットというか。例えば自分がアップした動画に対して、心ないコメントも含めて常に評価にさらされているわけじゃないですか。そうやって、ネットの海に放り出された中で、少しずつ「自分ってこうなんだな」と理解していくというか。それってすごく孤独でもあるけど、自由でもあるんですよね。
──なるほど。とても興味深いです。
ただ、私自身はネットを駆使するのが本当に苦手というか……(笑)。それでも、スマホを持ってSNSを使っている時点で考え方もちょっとずつ変わってきているのかなと思っています。
──TikTokやYouTubeに自分自身を呼吸するようにアップして、そこで評価されることによってどう思われているのか、まるで自分の輪郭を認識していくような行為は、もっと上の世代にはなかったものなのかなと思います。由薫さんが、とりあえず前に一歩踏み出すことによって自分がどう感じるのかを確かめる行為も、それに近いものがありますよね。
確かにそうですね……。それは今言われるまで自分でも気付きませんでした。
──ちなみに、同世代のアーティストで共感するのは誰ですか?
ビリー・アイリッシュさんがとても好きです。歌詞が美しいと思いますし、ヒップホップっぽいファッションなのに、とてもメロディアスで繊細な楽曲を書くのもいいなと。あとはクレイロさんや、コナン・グレイさん。今挙げた方々は、歌詞とかアートワークとか、今っぽくてカッコいいんですけど、これから先もちゃんと残っていくと思えるというか、「あなたに消費されるために音楽を作っているわけじゃないよ」という強気なメッセージを感じるところが好きですね。
変わっていく自分を楽しみたい
──昨年は1st EP「Reveal」をリリースしましたが、その後の反響や手応えをどのように感じていますか。
まず、「曲を作るって最高だな!」と思いました。自分で「出したい」と思ったものしか出していないわけですし、自分の趣味趣向をそこに投影させているわけだから、結果的にできあがったものは自分の“好き”しか詰まっていないんです(笑)。そういう意味で、「Reveal」は私の趣味そのものになっています。とはいえ、自分は今この瞬間にも成長し続けているので、今振り返ってみると「ここはちょっと未熟だったな」と思うところもだんだん目に付いてくるんですけど。それでもそのときに感じたことを形にして出せたのはすごく意味のあることだし、次にまた作品を出すときにはそのときの自分をそのまま出せるようにしたいと思っています。
──今後、どんなアーティストを目指していきたいですか?
さっき、自分自身の変化を感じていると言いましたけど、自分は一貫した人間ではないと思っていて。そのときそのときで考えることも違いますし、もしタイムスリップして、ちょっと前の自分に会ったら熱くディスカッションができると思うんですよ(笑)。「Reveal」を出したときの自分と、「lullaby」を出した今の自分では確実に変化していて、そんなふうに変わることを恐れず、むしろ変わっていく自分を楽しみながら作品を作り続けていけたらいいなと思っています。これから自分がどんな世界に身を置き、どんな曲を書いていくのか、今から楽しみで仕方ないです。
プロフィール
由薫(ユウカ)
2000年生まれ、沖縄出身のシンガーソングライター。幼少期をアメリカ、スイスで過ごし、15歳の頃にテイラー・スウィフトを始めとするシンガーソングライターに興味を持ったことからアコースティックギターを手にする。それをきっかけにカバーユニットやバンドを始め、17歳頃にオリジナル楽曲の制作を開始。2021年11月には、3カ月連続デジタルシングルリリースの第1弾として「Fish」を、12月に第2弾「Yesterday」、2022年1月に第3弾「風」をリリースした。2022年2月には1st EP「Reveal」、6月には映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌となるメジャー第1弾シングル「lullaby」をリリース。「lullaby」のミュージックビデオは公開からわずか4日間で75万回再生を突破した。
由薫(YU-KA) (@yukayu_ka79) | Twitter