YOUR SONG IS GOOD「Extended」発売記念特集|サイトウ“JxJx”ジュン×髙城晶平(cero)対談 カクバリズムに集う個性の連鎖

「蛍光灯みたいなヤツ」が奏でる「自分が聴きたい音楽」

──YSIGとceroもかなりリスナー体質のバンドですよね。すごくマニアックな音楽知識の蓄積がある一方で、出す音は決してマニアックにならず、ポップであることにこだわっているようにも感じるんです。2人はコアなものとポップなもののバランスについてはどう考えてますか?

JxJx 確かに何でも聴くし、ドープなものもすごく好きなんだけど、いざ自分の音として出すと……ドープなものってどうしてもできなくて(笑)。実験段階で取り組んだりするんだけど、どうやってもハマらなくて、世に出す前の段階で削ぎ落とされちゃう。憧れはあるんだけども。

髙城 逆の人もいますよね。ポップなものをやりたいのに、何をやってもドープになってしまうという(笑)。

左からサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)、髙城晶平(cero)。

JxJx そして、その逆で、何をやってもポップになってしまうという「蛍光灯みたいなヤツ」って言われたことがある(笑)。

──髙城さんはいかがですか?

髙城 僕もいろんなインプットがあるんですけど、アウトプットはあくまでも「日本語の音楽」。どんな音楽でもそこに日本語を乗せて、地ならししてからceroの音楽として出す。音のフォーマット自体はガラガラ変わるんだけど、そこだけは決まってるんですよ。

──YSIGにはそういうふうに何をやろうとも変わらない原則ってあるんですか。

JxJx 「自分が聴きたい音楽」ってことかな。そういう意味でもYSIGは思いっきりリスナー体質のバンドですね。

──なるほど。ちなみに、コアなものとポップなもののバランスという点で2人が理想形だと思うのは誰ですか?

髙城 パッと浮かぶのは細野さんですよね。音楽のフォーマットはどんどん変わっていくのに、どの作品にも通底するものがある。ceroの目標とするところでもありますよね。

JxJx 確かに細野さんは究極だよね。あと、ドープなものとポップなものの両立という意味では、ジャンルになっちゃうけど、ヒップホップ自体がそういうものという気もする。

──ジュンさんにとってヒップホップは、音楽というよりもカルチャーそのものとして重要なルーツになってるんですよね。

JxJx そうですね。パンク / ハードコアと同時に、中学のときに出会ったヒップホップはやっぱり自分の中では大きい体験ですね。例えばJB(ジェームス・ブラウン)のような昔の音楽を使っているのに、若者の心を揺さぶる現代のものとして鳴らされていたことに驚いたんだよね。そうやって昔のものを引用する概念、それをカッコいいものとする哲学からの影響は今も大きいと思う。20年前に録音されたものでも現在の自分のサウンドトラックになりうるという考え方。きっと髙城くんにも根底にそういう考え方があるから、すっとわかり合えるところがあるんじゃないかな。

髙城 過去のレコードが突然現行の音楽と変わらないものとして響きだす瞬間ってありますよね。そういうふうにすべてが等価に聞こえる瞬間って、どんなものであってもレコードを掘ってる人にはあると思います。

JxJx そこが面白いところだよね。

「ジュンさん、間違ってないですよ! いきましょう!」

──ところで、YSIGが前作「OUT」でダンスミュージックの持つビートの機能性に着目して新しい方向性を打ち出したとき、髙城さんはどう思ったんですか。

髙城 YSIGとカクバリズムの10周年ツアーで一緒になったとき、立て続けにライブを観たんですね。「OUT」に入る曲もその頃からライブでやってたんですけど、まだ作りかけの段階で。でも、そのときに「何かが起きてるな」という感じがしたんですよ。しばらくあとにライブを観たらそこからさらに進化していて、「バンドが変わる瞬間に立ち会っちゃったなあ」という感覚があったし、そういうモードの切り替え方がceroに近い感じがしたんですよ。自分が興味のあるものに対して素直というか、すごく健康的だなあと思いました。

JxJx ceroも「Obscure Ride」(2015年5月発売のアルバム)でバンドの形が変わりつつあった時期を目撃した覚えがありますね。

髙城晶平(cero)

髙城 そうなんですよ。だから、YSIGの変化もすごく共感できたんです。だからこそ「ジュンさん、間違ってないですよ! いきましょう!」という気持ちでした。

──自分に向かって言ってるような感覚というか(笑)。

髙城 そうそう(笑)。半分ぐらい自分に問い聞かせてるような感じ。僕、「OUT」が出たときにコメントも書いたんですよ。「フリークアウトとチルアウトの間にあるダンスミュージック」って。

──当時、そういう言葉を受けてジュンさんはどう思いました?

JxJx この捉え方はめちゃくちゃうれしいと思いました(笑)。我々の変化を実に絶妙な感じで理解してくれているな、と。カクバリズムって、もともと友達同士で遊んでる感覚から始まってるし、その感覚こそ大切にしたいと思っていて。そこはレーベル初期から変わってないんだけど、その感じで背中を押してもらえた感覚があったんですよね。友達から「ヤバイね」といってもらえるのが一番うれしいんですよ。

髙城 逆に友達から「ダサイね」と言われるのが一番キツイ(笑)。

JxJx そう(笑)。友達同士だからこそ、ダサいことはできない。ユルいんだけど、緊張感のある関係なんだよね。

──ジュンさん自身は「OUT」における音楽性の変化に対して不安はなかった?

JxJx それほどなかったですね。むしろ、まずはこの面白さを友人たちと分かり合いたいなという気持ちはすごくあった。リスナーのことはね……正直全然考えてなかった(笑)。だから、常に友達と遊んでるような感覚なんだと思う。といっても閉じてるわけではなくって、皆さん一緒に遊びましょうって感じなんですけどね。

──そういう制作方法を取れるというのもカクバリズムならではですよね。

髙城 そうですよね。レーベル側からストップやブレーキをかけられることはそうそうないので。

バレアリック的ユルさとダンスグルーヴを接続したレゲエ

──ではここからYSIGの新作「Extended」についてお聞きしますが、まずは髙城さん、聴いてみていかがでした?

髙城 めちゃくちゃいいアルバムですよね。「OUT」以降の流れにある作品だとは思うんですけど、また違ったモードも入ってきてる。あと、パーカッションの松井(泉)さんの存在がぐっと押し出されてますよね。松井さんが参加したことはYSIGにとっても大きなことだったんだなあと感じました。

──気になった曲はありました?

髙城 ファーストインプレッションとして「おっ!」と思ったのは、先行シングルの「Waves」ですね。「こうきたか!」と思いました。レゲエとディスコの間にありながら、静かな興奮がずっと続くようなチルアウト的感覚があって、永遠に聴いていたくなる。この感覚を抽出するためにはあの尺(9分11秒)が必要だと思いました。「OUT」の曲もライブではどんどん尺が長くなっていたので、次のアルバムは長尺中心のアルバムになっていくだろうなと思っていたんですけど、やっぱりそういうアルバムになりましたね。

──「Waves」が12inchアナログでリリースされたのが昨年の9月ですよね。この段階でアルバムの全体像は見えてたんですか?

JxJx  まったく見えてませんでした(笑)。「Waves」にたどり着くまでにはかなりいろんな試行錯誤があったんだよね。

──どういう試行錯誤があったんですか。

左からサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)、髙城晶平(cero)。

JxJx 「OUT」以降、自分の気持ちはどんどんダンスグルーヴへと向かっていってたし、DJもさらにダンスミュージック中心になっていて、毎週のようにレコードを買うような生活になってたんですよ。「OUT」って1曲の中の情報量が多くて。で、次回作はどこにフォーカスを当てて作るべきか悩むところがあって。

──どうやって情報を整理し、取捨選択するか。

JxJx そうですね。1つ手がかりとしてあったのは、「OUT」ではバレアリック的なユルさはほとんど出せてなかったなと。となると、そこは新鮮な気持ちでできるんじゃないかなと思って、新たに曲を作り始めたんですよね。やっていく中でどんどんテンポも下がっていって。じゃあ、そのテンポでどうやって曲を成立させよう? というときに「あっ、レゲエだ」と。試しに裏打ちを入れたらしっくりきて、ダンスミュージック的なグルーヴとも違和感なく接続できたんだよね。「Waves」で言えば、ceroの「大停電の夜に」(2011年1月発売のアルバム「WORLD RECORD」収録曲)とも少し近い感覚があると思うんだよね。ユルいんだけど、力強さがある。

YOUR SONG IS GOOD「Extended」
2017年5月10日発売 / カクバリズム
YOUR SONG IS GOOD「Extended」初回限定盤

初回限定盤 [CD2枚組]
3348円 / DDCK-9006

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YOUR SONG IS GOOD「Extended」通常盤

通常盤 [CD]
2808円 / DDCK-1050

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収録曲
DISC 1
  1. Cruise
  2. New Dub
  3. Mood Mood
  4. Double Sider
  5. Palm Tree
  6. On
  7. Waves
DISC 2(初回限定盤のみ)

Remixes

  1. The Cosmos(Being Borings Remix)
  2. Changa Changa(Lord Echo's Disco-Remix)
  3. Re-Search(FORCE OF NATURE Remix)
  4. Waves(Gonno Remix)
  5. Double Sider(XTAL Remix)
cero「街の報せ」
2016年12月7日発売 / カクバリズム
cero「街の報せ」CD

[CD]
1080円 / DDCK-1049

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YOUR SONG IS GOOD 6th ALBUM Release ONEMAN TOUR
  • 2017年5月20日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2017年5月28日(日)宮城県 enn 2nd
  • 2017年6月3日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2017年6月11日(日)福岡県 Early Believers
  • 2017年7月1日(土)東京都 WWW X
何かにつけて打ち上がる会 ~YOUR SONG IS GOOD「Extended」レコ発ツアー金沢場所~

2017年6月17日(土)石川県 金沢マニール
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / ホテルニュートーキョー

YOUR SONG IS GOOD「Extended」レコ発&カクバリズム15周年キックオフイベント「NEW MEMORIAL HITS」

2017年7月8日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / cero

YOUR SONG IS GOOD(ユアソングイズグッド)
YOUR SONG IS GOOD
1998年1月に結成されたインストバンド。初期はエモやメロディックハードコアパンクなどからの影響が強く感じられたが、次第にブラックミュージックのテイストを強く感じさせるダンスサウンドへと移行していく。2002年にミニアルバム「COME ON」を、2004年にはフルアルバム「YOUR SONG IS GOOD」をカクバリズムより発表した。現在はサイトウ“JxJx”ジュン(Organ, Vo)、ヨシザワ“MAURICE”マサトモ(G)、シライシ“JICHO”コウジ(G)、ハットリ“SHORTY”ヤスヒコ(Tb)、タカダ“DAATAKA”ヒロユキ(B)、タナカ“ZEERAY”レイジ(Dr)にサポートメンバーの松井泉(Perc)を加えた7人体制に。個々の活動にも精力的で、フロントマンのJxJxはDJやMCとしても活躍している。2017年5月に通算6枚目となるオリジナルアルバム「Extended」をリリース。アルバムリリースツアーに加え、7月にはceroと共に岡山・YEBISU YA PROでカクバリズムの設立15周年キックオフイベント「NEW MEMORIAL HITS」を行う。
cero(セロ)
cero
2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月には3rdアルバム「Obscure Ride」、2016年12月には最新シングル「街の報せ」をリリース。2017年4月には2度目の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマン「Outdoors」を成功に収め、8月には東京・新木場STUDIO COASTで自主企画イベント「Traffic」を開催する。