音楽ナタリー Power Push - 妖精帝國
人間界に降臨した妖精たちの現在進行形
なぜ「人狼」?
──次に「残夜の獣」ですが、これもまたミステリアスな楽曲ですね。そして歌詞には人狼が登場します。
ゆい 実は「なぜ人狼か?」と問われると、非常に困るのだが……。
橘 みんなで「人狼」ってゲームをやってまして、「これは面白いぞ」となり勝手にテーマソングを作ったのが「残夜の獣」なんです。我々がやっていたのは本来の人狼ゲームを少し簡単にした「ワンナイト人狼」ですが。
──「残夜の獣」はそのテーマソング?
橘 最初に役割を決めますよね。人狼になるか、村人になるか、占い師か怪盗か……。参加者それぞれの役割を決めてプレイを進めていくわけですけど、この曲を聴くと、この一連の流れにピタリとはまります。
ゆい 説明が下手だな(笑)。
橘 要するにこの曲はゲームの流れの順番通りの構成になっているんです。
──意外な制作背景でとにかく驚きました。
ゆい 強いのはNanami准尉だな。
橘 表情が読めないんですよ。しれっと嘘ついたりして。
ゆい 「なぜ自分を疑うのだ?」と寂しい目を向けてきて、なかなかうまい精神攻撃をしてくる。
橘 逆にGight軍曹はすぐ顔に出る。
Gight 嘘つこうとするとニヤッとしてしまうんです。
紫煉 ゆい様もわかりやすいですよね。人狼になるとウキウキするので。
ゆい 人狼になるとやることがたくさんできて楽しいのだ。村人だと人を疑うことしかできんからな。
──皆さんがゲームをしている光景を見てみたいです。
橘 妖精帝國にはこういう遊びから曲が生まれるケースもままあるのですが、制作はもちろん本気でやっていて(笑)。サウンドはちゃんとズッシリした感じにし、ディミニッシュを多用したコードで重厚な怖さを表現しています。
紫煉 ディミニッシュということで不協和音っぽくまとまっている曲に対し、ギターソロもかなりクレイジーな内容を弾かせてもらいました。
Gight コンテンポラリーですよね。
紫煉 そう、「ここまでやっても大丈夫かな?」と思うくらい前衛的なことをやっています。
「いろいろなバンドサウンドに取り組む」がアルバムの裏テーマ
──6曲目の「calvariae」ですが、この曲はウィスパーなボーカルに加えサウンドもここまで続いたメタルとは一線を画していますね。
紫煉 この曲では深い絶望や悲しみを表現しようと思って。今まで哀愁を表現する曲はたくさん作ってきましたが、今回はもっと苦しい部分を音楽で表現しようと考えました。「残夜の獣」でのギターソロといい、このアルバムでは新しいことにたくさんチャレンジしています。
橘 今回のアルバムでは裏テーマとして、いろいろなバンドサウンドに取り組むというのがあったんですね。
紫煉 妖精帝國が今のメンバー構成になって2年半くらい経つのですが、「PAX VESANIA」(2013年3月発売の4thアルバム)の頃はまだ、それぞれ自分たちの得意なことを出すことに集中したサウンド作りをしていた感覚があって。でも今回はこの2年の積み重ねでお互いの理解が進んだことで、お互い引き出し合えるものが増えたというか、この人のこの部分を生かそうとか、これにチャレンジしてもらったら面白そうだとか、そういうバンドらしい作り方ができたのかなと思っています。
──ウィスパーなボーカルもその効果の1つなんですね?
橘 歌の録り方でより感情が出るよう工夫したのがこの曲でしたね。
ゆい 激しい曲だと怒りといった感情はぶつけやすいのだが、悲しみや苦しみを強調するならばやはりこういう曲が適しているのだろうな。
──アルバムを通じてとてもアクセントになっていて、印象深い曲でした。
ゆい こういうゆったりとしたテンポの曲をたまに歌うと評判がいいのはなぜなのだろうな?
橘 メタルばかりでは飽きるのでは?
ゆい 肉ばっかり食ってられないということか。
Gight 変拍子になっているのも引っかかるポイントなのかなと。
──歌詞の世界観は?
ゆい そのまま詞を読むと地下牢を想像すると思うが、これは実際の牢屋ではなく、心の牢屋というか、感情を閉じ込めてしまったイメージで書いたものだな。死んでしまえば苦しみから解放されるはずなのに、頭蓋骨には人の苦しみや悲しみが、記憶としてまだ残っているのではないかという話だ。
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- ニューアルバム「SHADOW CORPS[e]」
- [CD+DVD] 2015年8月5日発売 / 3780円 / Lantis / LACA-15496
収録曲
- Attack!!
- "D" chronicle
- 闇色corsage
- 白銀薔薇奇譚
- 残夜の獣
- calvariae
- Infection
- 檄
- ancient moonlit battleground
- Shadow Corps
ボーナストラック
- 体内時計都市オルロイ(テレビアニメ「少女革命ウテナ」劇中曲カバー)
DVD収録内容
- Shadow Corps(Music Video)
妖精帝國(ヨウセイテイコク)
1997年、妖精帝國終身独裁官・ゆい(Vo)と橘尭葉(G)を中心に結成された音楽ユニットで、正式名称は妖精帝國第三軍楽隊。妖精を信じる人間が少なくなってしまった現代において、音楽活動を通じて荒廃した妖精帝國の復興を目指す。2006年3月にシングル「あしたを許して」でランティスよりメジャーデビュー。ヘヴィメタルを軸に、テクノ、トランス、ゴシック、クラシックなどさまざまな要素を盛り込んだサウンドで唯一無二の世界観を作り上げている。2013年1月のメンバー脱退・加入を経て、ゆい(Vo)、橘尭葉(G)、Nanami(B)、紫煉(G)、Gight(Dr)の5人編成となった。2015年8月に通算6枚目のオリジナルアルバム「SHADOW CORPS[e]」をリリース。