音楽ナタリー Power Push - 妖精帝國

人間界に降臨した妖精たちの現在進行形

「人間がいつしか忘れてしまった、妖精を信じる純粋な心を思い出してもらう」という願いを胸に人間界へと光臨した妖精帝國第三軍楽隊、通称「妖精帝國」。終身独裁官・ゆい(Vo)と橘尭葉(G)はヘヴィメタルを軸とした音楽で人々を魅了し、人間界にも多くの“臣民”(ファン)を獲得してきた。

妖精帝國はアニメやゲームのテーマソングを数多く手がけているため、これまでのアルバムは既発のタイアップソングを軸にした作品となっていたが、6枚目のオリジナルアルバムとなる新作「SHADOW CORPS[e]」に収録されるのは、明確なテーマをもとに書き下ろされた楽曲ばかり。2013年1月より本格的なバンド編成へと変化した妖精帝國の現在形がよくわかる、メンバー5人それぞれの個性が色濃く反映された1枚となった。音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューではメンバー全員に集まってもらい、「SHADOW CORPS[e]」の制作過程をじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 西原史顕

妖精帝國の曲はラスボス戦にぴったり

──6枚目のアルバム「SHADOW CORPS[e]」はテーマが一貫した内容に仕上がりましたね。

橘尭葉(G) 「妖精帝國第三軍楽隊」という我々本来の名称の中で、ひさしぶりに「軍」というものを前面に押し出してやろうというのが制作のきっかけでした。そうした「軍隊」にプラスして「ゾンビ」などのファンタジックな世界観を融合させたのが今回のコンセプトですね。

ゆい(Vo)

ゆい(Vo) そうだな。闇がメインだったりとか、ゾンビが出てきたりだとか、人ならざるものが出てきたりだとか、そういったものが今回は多いな。

──ではアルバム収録曲について詳しく聞かせてください。まず1曲目の「Attack!!」はインストですね。

 「軍」が登場するシーンをイメージしたサウンドです。平和な街があって、そこに暮らしている人がいて、そこにゾンビの軍団が現れてこれから大変なことが起こるという物語の序章。平和はわずか数分で崩れ去ります。

──途中からどんどん壮大なオーケストレーションになって、叫び声やうめき声のSEもあり。

 その頃にはゾンビが実体となって、もう攻撃を開始しているイメージですね。

──そして「"D" chronicle」につながるわけですが、これはいきなり時間が遡りましたよね? 昔話のようなニュアンスになっています。

ゆい そうだな。ドラゴンと勇者未満の若者が登場する話だな。「闇」があるということは「光」もある。こういうテーマはみんな好きだろう?

紫煉(G) この曲はラスボス感のあるサウンドを作ろうという話で。攻撃的な要素と壮大な世界観を軸に、ギターソロとボーカルの掛け合いはドラゴンと勇者の戦いを表現しています。

 基本的に妖精帝國は、どんな曲もラスボス戦にぴったり合うんですよ。

紫煉 それをより極端にしたのが「"D" chronicle」ですね。

──ちなみにこのドラゴンは、ゾンビと何かつながりがあるのですか?

ゆい ドラゴンはしばしば闇の存在として扱われている。「"D" chronicle」では最後どちらが勝ったかは詳しく書いてはおらんのだ。負けた闇が遠い未来に復活したのか、闇が勝ち勢力を増したのか……そのあたりの想像は聴き手に委ねたいところだな。

──ドラゴンもゾンビも、あくまで闇の象徴なんですね。

 そうなりますね。今作では特に歌詞が1つの物語になっているわけではないんです。ただ何かしら「闇の軍団」というテーマには沿うようになっています。

“光は正義で闇は悪”の定義を破っていきたい

──では「闇色corsage」について。

ゆい これは闇の化身である女の子をテーマにした曲だな。

 アプリゲーム(「ヴァリアントナイツ」)のスペシャルボスステージに使用されています。つくづく我々には「光の曲」の発注が来ないなと(笑)。

──“生むは光忌むは闇 光は病み闇を生む”という歌詞が非常に印象的で。

ゆい そこはかなり悩んだところなのだ。世の中的にはやはり光は正義で闇は悪だと定義されるわけだが、本当は光と闇は表裏一体で光も闇も1つのものに同時に存在するものなのだ。

 ここはレコーディングしてミックスも終わり、次の曲に取りかかっているときに遡ってやり直した部分で。相当なこだわりから生まれたフレーズですね。

──次の「白銀薔薇奇譚」でも少女が題材になっていますね。

ゆい 少女の母親が死んで血が広がっていく様を薔薇に見立てて書いたのだが、明確には記していないものの、この少女もやはり人ならざる者になっている。

Nanami(B) 曲はゾンビというテーマを受けて、ホラー映画というものをけっこう意識していますね。それも直接的というよりかは内面的な怖さを追求していて。

──緩急が激しく切迫感のあるサウンドで。

Gight(Dr) ドラムの立場としてはテンポが緩いとより音数を増やせる利点があって。この曲はキメフレーズが非常に多かったりするのですが、その中でいかに手数を増やして怖さを演出するかチャレンジしました。

 テンポのわりに展開が早くてどんどん雰囲気が移り変わっていく、妖精帝國としては新しい作り方になっています。4小節おきに静かに怖かったり大いに怖かったりと変わる。言わばこのめちゃくちゃな展開が、不穏な空気を演出しているのかなと。

ニューアルバム「SHADOW CORPS[e]」
[CD+DVD] 2015年8月5日発売 / 3780円 / Lantis / LACA-15496
収録曲
  1. Attack!!
  2. "D" chronicle
  3. 闇色corsage
  4. 白銀薔薇奇譚
  5. 残夜の獣
  6. calvariae
  7. Infection
  8. ancient moonlit battleground
  9. Shadow Corps
ボーナストラック
  1. 体内時計都市オルロイ(テレビアニメ「少女革命ウテナ」劇中曲カバー)
DVD収録内容
  • Shadow Corps(Music Video)
妖精帝國(ヨウセイテイコク)
妖精帝國

1997年、妖精帝國終身独裁官・ゆい(Vo)と橘尭葉(G)を中心に結成された音楽ユニットで、正式名称は妖精帝國第三軍楽隊。妖精を信じる人間が少なくなってしまった現代において、音楽活動を通じて荒廃した妖精帝國の復興を目指す。2006年3月にシングル「あしたを許して」でランティスよりメジャーデビュー。ヘヴィメタルを軸に、テクノ、トランス、ゴシック、クラシックなどさまざまな要素を盛り込んだサウンドで唯一無二の世界観を作り上げている。2013年1月のメンバー脱退・加入を経て、ゆい(Vo)、橘尭葉(G)、Nanami(B)、紫煉(G)、Gight(Dr)の5人編成となった。2015年8月に通算6枚目のオリジナルアルバム「SHADOW CORPS[e]」をリリース。