「VII」が役に入るトリガーになっている
萩原 僕は「VII」を1曲目から順に聴いて、自分の中にあったユアネスさんのイメージとかなり違う印象を受けたんです。なんというか……ダークなファンタジーさを感じました。リアリティやヘビーなテーマというお話がありましたけど、誰かに寄り添うことで生まれる言葉の濃さというヘビーなリアリティが回り回ってファンタジーに感じられたのかな。何よりこのダークさは僕が今やっているドラマ(「めぐる未来」)と重なるんですよね。「VII」は死生観が表現されているし、人生の時間とか、そういうものにすごく触れているからこそ今の役とリンクする。最近は「VII」を聴いて現場に入るのがルーティーンになっているんです。
──それはどうして?
萩原 普段の僕と演じる役がすごく乖離しているんです。僕自身はめちゃくちゃ楽観的な人間なので、素のままで行くと大半の役ができない(笑)。
黒川 ハハハ、なるほど。
萩原 自分じゃない人間に切り替わるオン / オフのスイッチがあるんですけど、最近は「VII」を聴くという行為が自分をオンの状態へ持っていくトリガーになっていて。それぐらい僕にとってはタイムリーすぎて、作品のテーマが耳だけじゃなくて、体中にずしずし入ってくる感覚があります。
黒川 いやあ、ありがたいな。めちゃくちゃうまく読み取ってくれてると思いました。この作品をきっかけに、今後のユアネスは「VII」寄りのリアリティを通過したうえでのダークファンタジーな方向性になっていくと思うんです。年齢を重ねたことで感じられる物事の深さが増していると思いますし、サウンドや作曲の技術的にもできることが増えたので。利久くんはそこをきちんと汲み取ってくれていてすごくうれしい。
古閑 そうだよね。実はダークというテーマはもともとあって、少し暗めなユアネスを提示したいと思っていたんです。ユアネスという音楽をやるにあたって、あまり特定のジャンルに縛られたくないという気持ちがある。せっかくメンバー全員がいろんなことができるし、黒川の歌はすごくいいので、バンドのいちファンとしてもいろんな曲を聴いてみたいなって。
「a couple of times」でチャレンジしたこと
古閑 ちなみに僕は韓国も韓国アイドルも大好きなんですよ。いずれは韓国の文化にも触れつつ、国外のリスナーにもアピールできるような曲を作りたいという目標があって。日本以外の人にユアネスの音楽を伝えるためにはどうしたらいいのかな?と考えた結果、「VII」では「a couple of times」で英語の歌詞を書いてみたんです。今後サウンド面でももっとチャレンジングなことをやっていきたいので、今作から少しずつジャブを打ってる感じです。
萩原 「a couple of times」の英語、めちゃくちゃカッコいいですよね。
黒川 うれしい! 僕は英語がまったくできないから、事務所にいる外国籍の方と、外国語学校に通っていたうちの妹にディレクションしてもらったんです。今まで人の曲をカバーするときに英語の歌詞があると、カタカナで発音を聴き取っていたんですよね。でもオリジナル曲ではそれができない。「a couple of times」ではちゃんと意味を理解したうえで、本場の方と英語を学んだ日本人からの2つの目線でディレクションしてもらったので、いい仕上がりになったんじゃないかと自分でも感じています(笑)。
古閑 確かにね。初めてにしてはすごいと思う!
萩原 本当にカッコよかったです! 「a couple of times」はまさしくダークさがにじみ出ていて、僕の中にあった印象とは違う別の強さみたいなものが新鮮でしたし、もっと英語詞の曲を聴いてみたいと思いました。
過去の失敗も成功になる
萩原 「VII」を一聴したときに「isekai」も素晴らしいなと思いました。
黒川 お目が高すぎる!
萩原 それこそ頭から「なんか違うぞ」というのを感じて。ミニアルバムを聴き終わって、まずこの曲をもう1回聴きたくなりました。
黒川 1曲目のインスト「Gemini」を経て、2曲目の「isekai」で歌が始まるんですけど、「このミニアルバムはひと味違うぞ」と思わせる開幕のインパクトが大切なのでこの曲順になっているんです。古閑が「VII」を最後まで聴いたときに「もう1回『isekai』を聴きたい、と思わせるようにしたい」と話していて。それで壮大なバラード曲である「命の容量」を終盤に配置して、最後は浄化するようにインスト曲の「Farewell」が流れるようにしたんです。その意図通りに感じてくれたのは、利久くんが素直に聴いてくれたからだと思うのですごくうれしいです。
古閑 「isekai」のテーマを話すと、大人になることでできなくなってしまったことって誰しもあると思うんです。例えば小学生の集団下校なんて今の僕にはできないことじゃないですか。その様子を見てると「いつの間にか別世界に迷い込んでんじゃないのか?」と感じることがある。心は変わらずに、体だけが大きくなった。その感覚を楽曲に落とし込みました。
萩原 そのお話に近いことで言うと、昔やった役を今できるかと言われると絶対にできないと思うんです。それは見た目の問題もありますし、たった3、4年でも自分の何かはちゃんと変わっていて。数年前の自分の映像を観るだけで別人に見える。若いなと思うし、声ひとつ取っても違うように聞こえる。だからこそ、そのときの作品を一生懸命やらないといけない。時間を巻き戻すことはできないから、その瞬間の最上の演技を映像に収めておきたいんです。今のお話に関しては、唯一僕が日常的に感じていた部分かもしれないです。僕も電車の中で学生を見ると、自分にもそんな時代があったはずなのに「みんな年下なんだ」って怖くなるんです。別人類に見えてくるあの感覚は普段生きてる中で感じていたことでもあるから、ユアネスさんの楽曲テーマとして扱われていてうれしいです。
黒川 年を取ると、歌もめっちゃ変わっちゃいますしね。さっき言ってくださった「色の見えない少女」とか昔の音源で聴くと、声が若すぎて。まるで赤ちゃんみたいな声をしとるな、と思うんです。それと同時に「その青さが魅力になっていたんだな」とも感じられるので、その瞬間の自分が形に残るのってめちゃくちゃ大切ですよね。
萩原 僕は過去の失敗をすべてそれで片付けてますから。
黒川・古閑 ハハハハ!
萩原 「あの頃の自分にしかできない演技なんだからいいんだ」と考えるようにしています。本当に紙一重だなと思っていて、あんなに思うようにならず最悪だと思っていたことも、時間が経ってみると、これが正解だったんだなってあとから腑に落ちる。
黒川 そうそう! めちゃくちゃわかります。
萩原 当時は、その作品の自分の演技が嫌いだったけど、今は1周回って好きになることがあって。そこは音楽であってもお芝居であっても通じる共通点なのかなって、今思いました。
黒川 まさに……異世界ですね。
古閑 どんなまとめ方!?
一同 ハハハハ。
「最高を届けよう」という発信力を感じる
──ミニアルバム発売後の3月8日にはZepp Divercity(TOKYO)でワンマンライブ「ONE-MAN LIVE 2024 "Life Is Strange"」が開催されます。ぜひ、お二人の意気込みをお聞きできたらと。
古閑 楽曲だけでなくライブの作り方も新しい形ができるようになっていて、Zeppではその集大成を表現できればと考えてます。演出だったり舞台芸術だったり、各曲の構成やセットリストも楽しめる内容になっているので。
黒川 もちろん新曲もやりますし、過去曲に関しては新しい形で聴けると思うので、ずっと前からユアネスを知ってくれている人も、この作品から知ってくれた人も思う存分楽しめると思います!
萩原 おお、楽しみです! それこそユアネスさんのライブって、毎回印象が違って。初めて観に行ったときは、メディアに出ているユアネスさんしか知らなかったので、すごく面白かったんです。黒川さんは緊張しながらMCをされていて。
黒川 恥ずかしい!
萩原 その姿にほっこりする一方で、ご自身の思っていることを歌でもMCでも真摯に発信されていて、客席から観ていてすごく伝わるというか、心に入ってきたんですよ。そのときはSHIBUYA PLEASURE PLEASUREで、しかも1列目の席が当たりまして。
黒川 ええ! 手を振ってくださいよ!
萩原 ハハハ。それ以降のライブも毎回違うんですよね。同じ楽曲を歌っていても「今日はここがすごく好きだった」みたいな発見がある。その瞬間にしか生まれない生の表現を発信していらっしゃるからこそ、どのライブにも行きたいと思う。自分がこういう仕事してるから、より敏感なのかもしれないですけど、その日の最高を届けようっていう発信力を感じるんです。だから……全部ここに着地しちゃうんですけど、すごく好きです!
黒川 そういう感想を持っていただけるのは、ちゃんと聴いてくれてるからなんですよね。めちゃくちゃうれしい。
萩原 僕は、どのライブもユアネスさんを初見で観る人と行くようにしているんです。やっぱり、みんな引き込まれてます。「うわあ、よかったね」って。自分は全然関係ないのにドヤ顔で「でしょ?」って。
一同 ハハハハ。
古閑 今日は終始褒めてくださって、ずっとドキドキします。
萩原 俳優の方との対談は何回かやったことがあるんですけど、アーティストの方と対談したのは初めてなんです。音楽に関してはめちゃくちゃド素人なので大丈夫かな?って、僕もドキドキしてました。
古閑 利久くんとお話しできて、楽曲制作をもっとがんばろうってなりました。
萩原 ドラマや映画の主題歌がユアネスさんと関われる一番のチャンスだと思うので、その願いが叶うように精進します。
黒川 おお、こちらもがんばります! 絶対に叶えましょう!
プロフィール
ユアネス
黒川侑司(Vo, G)、古閑翔平(G, Programming)、田中雄大(B)、小野貴寛(Dr)からなる、福岡発の4人組ロックバンド。これまでにミニアルバム「Ctrl+Z」と、音源集「Shift」「ES」「BE ALL LIE」をリリースし、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」「RUSH BALL」などの大型フェスにも数多く出演する。2020年4月クールのアニメ「イエスタデイをうたって」では、バンド初のアニメ主題歌として「籠の中に鳥」を制作。本楽曲はのちに配信リリースされ、ミュージックビデオのYouTube再生回数は782万回を突破した。2021年12月には1stフルアルバム「6 case」を発表。2024年2月に2ndミニアルバム「VII」をリリースした。3月には東京・Zepp DiverCity(TOKYO)でワンマンライブ「ONE-MAN LIVE 2024 "Life Is Strange"」を開催する。
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萩原利久(ハギワラリク)
1999年2月28日生まれ、埼玉県出身。主な出演作にドラマ「美しい彼」「月読くんの禁断お夜食」「真夏のシンデレラ」「たとえあなたを忘れても」、映画「劇場版 美しい彼~eternal~」「おとななじみ」「キングダム 運命の炎」「ミステリと言う勿れ」などがある。現在はドラマ「めぐる未来」に出演中。
萩原利久 | アーティスト | TopCoat - 株式会社トップコート -