ユアネス|初のアニメ主題歌や坂本真綾への楽曲提供、大きな経験を経てスケールアップしたバンドの1年を振り返る

ユアネスが11月18日に新作音源「BE ALL LIE」をリリースした。

今年は4月クールのアニメ「イエスタデイをうたって」で初のアニメ主題歌を担当し、さらに坂本真綾の「躍動」(スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」第2部後期主題歌)で初の楽曲提供を手がけるなど、大きな飛躍を遂げたユアネス。その経験を経てスケールアップした彼らの新作「BE ALL LIE」には、古閑翔平(G)がディレクションを手がけた全編アニメーションのミュージックビデオが公開中の表題曲など、さまざまな意味や仕掛けをちりばめた全5曲が収録されている。

今回のインタビューでは、「BE ALL LIE」の制作エピソードはもちろん、今年1年の活動について振り返ってもらった。

取材・文 / 田山雄士 撮影 / 林直幸

初のアニメ主題歌で得た海外からの反応

──毎年秋冬の季節になると、ユアネスの新譜が届きますね。

黒川侑司(Vo, G) あー、確かに!

古閑翔平(G)

古閑翔平(G) よくよく考えてみたら、そうなってきてますね。前作「ES」のときはまさに季節を意識していたし、僕らの曲はやっぱり寒い時期のほうが合う気がします。

──ユアネスが「凩」(こがらし)という楽曲を発表したあと、実は2018年、2019年と東京で木枯らし1号が吹いていないのは気付いてましたか?

古閑 そうそう、発生してないんですよね。「なんで!?」って思っていました(笑)。

田中雄大(B) そうだったんだ!

小野貴寛(Dr) あははは(笑)。

黒川 木枯らし1号が吹いたらライブのMCでしゃべれると思っていたのに、全然吹かないっていう。

──(笑)。音楽ナタリーでのインタビューは約1年ぶりなので、まずは「ES」リリース以降のバンドの動きについて聞かせてください。

黒川 「ES」のリリースツアーが終わった直後に新型コロナの緊急事態宣言が出たんですよ。ツアーファイナルもLIQUIDROOMでやらせてもらって、観客と対面して音楽を届けることで生まれるパワーを改めて感じていたんですけど、皮肉にもそこで事態が急変しまして。でも、今の時代ならではというか。閉鎖的な状況になってしまった中、SNSの拡散力の強さに助けられたところもありました。

──具体的にはどういう点で?

黒川 ツアーのあとにアニメ「イエスタデイをうたって」の主題歌を担当させてもらって。「籠の中に鳥」という曲なんですけど、外国の方からの反応をSNSでダイレクトにいただいたんですよ。日本語の曲なのに、YouTubeでたくさんカバーしてもらえたのもうれしかったですね。もともとユアネスはSNSに力を入れていたけど、コロナ禍の中でなおさら「手を抜いてこなくてよかったな」と思いましたね(参照:ユアネス「イエスタデイをうたって」で初のアニメ主題歌担当)。

田中 「ES」のツアー後はライブがほとんどできていないし、新作のリリースタイミングでのインストアイベントとかもできないけど、それでもファンの方々は僕らに対して、事あるごとにSNSで何かしらリアクションをしてくれていたんです。その声がないと手応えがないし、「次はどうしよう」みたいな話にもなっていかないだろうから。海外の反応がわかったりするのも含めて、窓口がいっぱいある時代でよかったなと思います。

──ユアネスにとって初のアニメ主題歌となった「籠の中に鳥」は反響が大きかったんですね。「イエスタデイをうたって」自体も素晴らしい作品だったし、楽曲がアニメにマッチしていた印象があります。

古閑 ありがとうございます。特に海外からのリアクションは予期せぬ出来事で。黒ちゃん(黒川)も言っていたけど、言葉の壁を越えてYouTubeでがんばってカバーしてくれるのってうれしいんですよ。バックトラックも全部作ってくるくらい熱意がすごくて! いろんな国の方が歌う「籠の中に鳥」が聴けたのは興味深かったですね。カバー動画は「yesterday wo utatte」「kago no naka ni tori」みたいにローマ字で検索すると、たくさんヒットするんですよ。なので、最近はSNSに英語でポストするようにもしていて。

小野 コロナでライブがなくなってしまったタイミングで、「イエスタデイをうたって」の主題歌を担当できたのは本当に大きかったですね。あんなに世の中が閉鎖的だったにもかかわらず、アニメをきっかけに多くの人たちがユアネスと出会ってくれたわけですから。僕たちもすごく救われました。

黒川 メンバーはみんなアニメ好きだから、そういう意味でもグッときましたね。それに最近のアニメって展開の早い作品が多いけど、「イエスタデイをうたって」はどちらかと言うと、ストーリーがじんわり進んでいくというか。より人間の温かみみたいなものが伝わってくる内容だったのが新鮮で、それが海外の人たちに響いたのも驚きました。「日本だけで共感を呼ぶテイストじゃないんだな」って。

──コミックナタリーのインタビュー記事に、「会話していないところの間」を大切にしたいから、オープニング主題歌を設けなかったという話がありましたね(参照:TVアニメ「イエスタデイをうたって」特集 藤原佳幸監督×古屋遙(宣伝プロデュース)×ユアネス・古閑翔平(主題歌)インタビュー)。

古閑 だからか、どこか連続ドラマを観ている感覚に近くて。それもすごくよかったですね。もどかしくてじれったい恋模様が丁寧に描かれていたので。

田中 コロナ禍で僕らが必要としていたスマホが、劇中では存在しない時代設定だったのも心地よかったです。待ち合わせがうまくいかなかったり、実際に会うことで何かが起こるシーンがたくさんあったりしたので、ふと誰かに会いたくなるみたいな。そんな気持ちにさせられました。

坂本真綾とのタッグ

──坂本真綾さんの「躍動」で、自身初の楽曲提供を担当したことについてはどうですか?(参照:坂本真綾「FGO」第2部後半の主題歌「躍動」歌唱、作曲はユアネス古閑

古閑 「イエスタデイをうたって」の件と同じくらい貴重な体験でしたね。坂本真綾さんのディレクターさんが僕らの「少年少女をやめてから」をラジオで聴いて、「Fate/Grand Order」にぴったりだと思ってくださったらしいんです。最初にその話をマネージャーに聞いたときは、ライブ終わりの車の中だったのもあってか、内容がよく理解できてなくて(笑)。少し時間が経ってから、真綾さんの楽曲を書くのも「FGO」に関わるのもめちゃくちゃすごいことじゃん!とハッとして。「自分で大丈夫ですか!?」みたいな。

──初めての楽曲提供が坂本真綾さんで「FGO」という。

古閑 そう! 初めてがこんなにビッグな案件でいいのかって。ひたすらビビッてましたね。ユアネスだと基本的に自分が制作の進行管理を担当するんですけど、「躍動」は真綾さんのディレクターさんに舵を取っていただく流れだったんです。いつもと逆なのが、僕にとっては新鮮でした。すでに決まっているイメージに沿って仕上げていくやり方も面白いなって。受け手側に回ったことで、「こう言われたらわかりやすい」とか「こう言われたら曲が書きやすい」みたいな部分を実感したので、そこはバンドに反映できそうな気がしてます。

──「躍動」では、作詞を坂本さん、作曲を古閑さん、編曲と演奏をユアネスが担当しています。自分の書いた曲に別の方の歌詞が付くのも刺激的ですよね。

古閑 「こんなふうに仕上がるものなのか!」と驚きました。歌声が素晴らしいのはもちろん、作詞家としても圧倒的で。「FGO」の世界観を表現するのって、いろんなことをオブラートに包む必要もあるので、かなり難しいアプローチだと思うんです。「躍動」の歌詞は真綾さんならではの書き方、これまで「FGO」に関わってきたからこその言葉になっているんですよね。

黒川 うんうん。「絶対的な正義」とか、ワードが別の世界線みたいな印象だった。演奏には僕以外の3人が参加しているんですけど、個々の楽器のポテンシャルの高さがユアネスの音源以上に感じられたりもして。バンド結成当初の積極性もあったし、「躍動」を初めて聴いたときはうれしかったですね。「こんなにアグレッシブに弾けるんだな」と改めて思いました。

田中 それだと、普段はポンコツみたいじゃん(笑)。

小野 初めての経験だし、レコーディングはめちゃくちゃ緊張しましたけどね。

古閑 でも、真綾さんの雰囲気がイメージ通りで。おしとやかで可憐で、ガチガチの僕らを包み込んでくれるような方でした。スタジオに入ってこられた瞬間から、もうね……。

田中 フワッとムードが変わるよね。本当に上品な方でした。ライブができない中、こういう機会をいただけたのもありがたかったです。