ユアネス|隅々まで楽しめる仕掛けを凝らした1枚

「Ctrl+Z」と「Shift」は2つで1つ

──「Ctrl+Z」に続く新作「Shift」なんですが、タイトルの付け方も独特ですね。

古閑 自分は基本的にパソコンで曲を作るんで、元に戻すときのショートカットキー「Ctrl+Z」をすごく使うんですよ。その作業の中で「日常の生活は簡単には元に戻せないけどできたらいいよね」とか「逆に戻せないからこそいいんだろうな」と想像が膨らんで、前作はそこからタイトルを付けました。

──「Ctrl+Z」とつながる「Shift」、このアイデアはけっこう前からあったんですか?

古閑 「Ctrl+Z」を作り終える頃にはありました。「Ctrl+Z」と「Shift」は2つで1つのショートカットキーみたいなものなので。

黒川 古閑のちょっと変わった美意識がいいですよね。今作の収録曲「T0YUE9」(読み:かわんないよ)もそう。パソコンのキーボードのかな入力を踏まえたタイトルになってて。

小野 最初、マジで意味わかんなかったもん。

古閑 謎解きみたいな感じで、リスナーもワクワクしながら聴いてくれたらうれしいなと思います。今の時代ってアルバム単位で聴かずに、ストリーミングなんかで1曲だけ聴いて満足しちゃう人もいるけど、ユアネスのアルバムは全曲を通して1つの作品として理解できるようにしたくて。1曲目を聴いた時点で、アルバムの世界に惹き込みたいんです。

──だから、モノローグやダイアローグ的なトラックも必要になると。

古閑 そうですね。例えば1本の映画を観るような感覚で、隅々まで楽しめるように気を配って作れたらいいなと思ってます。「Ctrl+Z」は本やアニメからインスピレーションを受けて作った曲が多いですけど、「Shift」は「Ctrl+Z」という自分たちの作品を客観視して作った1枚になりました。

──自分たちが影響を受けた音楽とかって、曲にもわかりやすく出てますか?

黒川 そんなに出てないと思います。各々の好みをただ混ぜただけだと、ユアネスの音楽性にはならないよね?

古閑 ならないね。個々の色が強すぎるもん。

田中 だから、古閑に旗を振ってもらったほうがまとまるし、やりやすいんです。ただ、ライブを観たらメンバーごとに「こういうのが好きなんだろうな」ってのはわかるかもしれない。

小野 そうかもね。

古閑 曲に直接出てはいないけど、好みを生かしてはいる感じ。

黒川 ライブを観た人から最近よく言われるのは「案外パワフルなんですね」とか。

古閑 あははは!(笑)

黒川 曲の感じから「元気がない」と思われてることも多くて。

小野 意外と元気!

黒川 元気な人だって、誰しも陰があったりもするわけじゃないですか。根は元気だからこそ、ノスタルジーを感じさせる表現を際立たせられるのかなとも思いますね。

左から田中雄大(B)、黒川侑司(Vo, G)、小野貴寛(Dr)、古閑翔平(G)。

過去を見つめ直して、また前に進んでいくイメージを表現したかった

──「変化に気づかない」という示唆的なタイトルの曲から始まって「凩」に続く中で、すごく現代っぽい人間関係が描かれてますね。

古閑 少しずつ月日が流れて、僕らも大人になっていってるんですよね。「少年少女をやめてから」と歌っているように、いつまでも子供ではいられない。けれど、昔の思い出はしっかりと大切にしておきたいっていう気持ちもあって。なおかつ、前を向けるような楽曲を作りたいと思ったんです。「Ctrl+Z」は簡単に言うと、過去に浸って自分を見つめ直してる作品なんですが、そこに「Shift」を加えることで、いったん後ろを向いたあとにまた前に進んでいくイメージ。

田中 「少年少女をやめてから」は、個人のポテンシャルもわかりやすく出てるんじゃない? リフが最初からめっちゃ動いてて、そういうギターロックなのかと思わせながらも、ドラムとベースも攻めてるし、詞も歌も大事にしてる点でさ。

黒川 そうだね。でも、「少年少女をやめてから」はだいぶ苦労したなあ。作曲は古閑がメインでやってくれてるけど、ベースの弾ける範囲、ドラムの叩ける範囲が自分ではわからないので。

古閑 あえてドSに行くところもあるけどね(笑)。特にドラムはなんでもやってくれると思っちゃってる。

黒川 できなくてもやろうとする性格だもんね、みんな。

小野 俺は作り込んだデモを持ってきたりできないから、「なんでこんなに完成度が高いのをいきなり持ってこられるんだろう」「すごいなあ」っていつも思ってるよ。

田中 テクニカルなことは好きで、単純にワクワクしちゃうんです。逆に「夜中に」「日々、月を見る」なんかはわりと空白があって、ゆったりしたテンポの中で歌に任せるような曲になってます。後半の2曲は「実は持ってたけど出してなかった」僕らの味が伝わるんじゃないかなと。

小野 前作のほうが小難しい曲調が多かったかもね。「cinema」とか。今回はより歌が中心になった気がする。だから、引き算のアレンジが大事になってきてると言うか、歌詞の持つ意味を聴かせられる演奏にしなくちゃいけないと思います。

──リード曲の「凩」はどんな曲ですか?

古閑 結成当初からある曲で、「Ctrl+Z」「Shift」ができたきっかけと言っていい、自分たちの根端になってる曲だと思いますね。ノスタルジックな言葉や風景がユアネスの音楽にとって必要不可欠な要素なんだろうなと。それが最も顕著に表現されてるのが「凩」です。

──歌詞では「変化に気づかないといけないよ」とか「状況が変わらないのは誰かのせいじゃないんだよ」ということを伝えたかった?

古閑 うーん、「凩」に関しては、この人がまだ過去にすがってるのか、あるいは清々しい気持ちで言葉を綴ってるのかは、聴くときの感情次第で考えてもらえたらという感じですね。「変化に気づかない」についても同じで、相手が私の変化に気づいてないのか、それとも私自身が変わってないことに気づいてないのか……聴き手にいろんな捉え方をしてほしいんです。ちなみに「T0YUE9」は「変化に気づかない」で「変わんないね」と言われた側のアンサー、とだけ言っておきます(笑)。

──淡いピンクと水色の空のような、ジャケットのアートワークも印象的です。

古閑 「Ctrl+Z」は去年の7月に自主制作盤として出していて、そのときは女の子が後ろを向いてるジャケットだったんですよ。全国流通盤の「Ctrl+Z」ではその女の子に前を向かせて、後ろにちょっとだけ景色が見えるようなものをイラストレーターのしらこさんにお願いしました。で、今回の「Shift」をそこに重ねることによって、少女の世界が後ろからぶわあっと広がるような仕上がりにしたくて。「2枚の絵を重ねたら1枚のイラストになる」というのも2作品に通じる一貫性があって、すごくいいんじゃないかなと思います。

黒川 ディレクションは古閑が担当したんです。素敵な仕上がりになったし、やっぱり彼がこうやって全体を見てくれるのはありがたいですね。

ゆっくりと仕掛けを見つけて楽しんでほしい

──歌に関してはどうですか? さっき話に出た「夜中に」「日々、月を見る」のような音数が少ない曲は、特にボーカルの魅力が伝わりやすい楽曲ですよね。黒川さんは歌謡曲が好きだと聞いたので「日々、月を見る」は中島みゆきさんの「糸」を思い浮かべながら歌ってたりしたんじゃないかと思ったんですが。

黒川 ああー! めっちゃ考えましたよ!! やっぱり“糸”って言葉が何度も出てくるので。あと、クリープハイプの「イト」で頭がいっぱいになったり。この曲は台詞みたいな歌詞が多いので、歌のメロディをガチッと歌うとか、ピッチを合わせるよりも、ちょっと声が擦れても心に響くような、そういう味わいを意識して歌ってます。

小野 黒ちゃんの本領が発揮できるようになってきたよね。僕らも聴きやすいし、リスナーのみんなにもなじみやすいはずです。

黒川 うん。前作よりも歌は際立たせてもらってる。歌い手として、ライブで気持ちを支えてくれる曲が多い気もしますね。

──聴きごたえがありますよね。

古閑 はい。「Ctrl+Z」と「Shift」で1枚のフルアルバムっぽく聴いてほしくて、今回で新たなユアネスを感じてもらえる曲をうまく入れられたかなと。つまり、ピアノやストリングスを使った「夜中に」「日々、月を見る」のようなアプローチですね。「T0YUE9」のようなシンセだったり、あまり音の輪郭がないパッド系のサウンドだったりも、今後取り入れたい気持ちはあります。

黒川 すごく全体のバランスを考えてるよね。ギターを弾かないところは本当に弾かないし。

古閑 ギターよりも曲を聴いてほしいんで。

──でも、「夜中に」のギターソロはとてもよかったです。

古閑 ありがとうございます! 急に出てくるんで「そこで弾くんかーい!」「お前そこまで何もしてなかったやろー」みたいなところもあるんですけど(笑)。

田中 まあ、そういうのもいいよね。「Shift」はいろんな意味で僕らのことをよくわかってもらえる1枚になったと思います。先にこっちを聴いて、「前作があるの?」ってワクワクしながら「Ctrl+Z」に戻ってくれる人がいたら、それはそれでうれしいし。聴くたびに楽しめる仕掛けがたくさんあるはずなので、ゆっくりゆっくりそれを見つけていってほしいです。

小野 それで意外とパワフルなライブに来てもらえれば!

黒川 意外といいヤツで、意外と親しみやすいです(笑)。1月のツアーはタイトルに「Shift」を冠してますけど、「Ctrl+Z」も踏まえた内容になると思うので、音源以上に響く見せ方をしたいですね。

ユアネス
ユアネス「Shift」
2018年11月21日発売 / HIPLAND MUSIC
ユアネス「Shift」

[CD] 1620円
YRNS-0002

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 変化に気づかない
  2. 少年少女をやめてから
  3. T0YUE9
  4. 夜中に
  5. 日々、月を見る
ツアー情報
「Shift Tour 2019 – ONE MAN TOUR –」
  • 2019年1月5日(土) 福岡県 INSA
  • 2019年1月13日(日) 東京都 WWW
  • 2019年1月19日(土) 愛知県 APOLLO BASE
  • 2019年1月20日(日) 大阪府 OSAKA RUIDO
ユアネス
黒川侑司(Vo, G)、古閑翔平(G)、田中雄大(B)、小野貴寛(Dr)からなる、福岡で結成された4人組ロックバンド。2018年3月に初の全国流通盤「Ctrl+Z」をリリースし、4月に東京・渋谷TSUTAYA O-nestで東京初ワンマン、大阪・梅田Zeelaで大阪初の自主企画、5月に福岡INSAでワンマンを開催し、全てSOLD OUT。その後も各地のライブイベントや「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」「RUSH BALL」などの大型フェスに出演。2018年11月に6曲入りCD「Shift」をリリースし、2019年1月より本作を携えた全国ツアーを開催する。