2021年8月に活動をスタートさせた、21世紀生まれのシンガーソングライターYoung Kee(ヤンキー)。パンク、ヒップホップ、洋楽ポップスをルーツに、ポップで美しいメロディと情緒的な歌詞世界で独自の音楽表現を行っている。
注目度の高まる中リリースされるYoung Keeのニューシングル「無敵」は、テレビアニメ「WIND BREAKER」のエンディングテーマ。不良校として名高い風鈴高校にやってきた主人公・桜遥のつらい過去と成長に共鳴して作られた楽曲だ。Young Keeはこれまでどのような道を歩んできたのだろうか? 「無敵」の話を取っ掛かかりに、彼のこれまでの歩みと思考を紐解く。
なお特集の最後には、「WIND BREAKER」の原作者である、にいさとるのコメントを掲載する。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 斎藤大嗣
最初からずっと、ポップミュージックをやっている
──新曲「無敵」がリリースされました。アニメ「WIND BREAKER」のエンディングテーマということもあり、きっと今までYoung Keeさんがリリースされてきた作品とはまた違う形でリスナーの方々に楽曲が届いているかと思いますが、そこに対して感じていることは何かありますか?
「WIND BREAKER」のエンディングを担当させていただくことによって、たくさんの人に曲を知ってもらうための間口が広がった感覚はあります。濃い音楽ファンの方以外の人にも、アニメを通して楽曲を好きになってもらえたりしていて。曲を作っていたときに想定していなかったところで聴いてくださった方が、その人自身と楽曲がリンクする部分を見つけてくださることも増えているように思います。それによって、僕も自分の深層部分というか、自分でも気付けていなかったことに気付く。そういう体験が、今までよりもいっぱいできています。
──曲作りを始めた頃と、「無敵」がリリースされた今を比べて、Young Keeさんの音楽作りに対する姿勢に変化はありましたか?
実は、そこはあまり変化していないです。最初から「自分を許すため」に音楽をやっているというか。僕は昔から、いわゆるポップミュージックが好きで。ずっと、“ポップミュージックをやっている”という感覚があります。
──なぜYoung Keeさんにとって、ポップミュージックであることが重要なのだと思いますか?
それは完全に“癖(へき)”の話になってきますね。ポップミュージックには「楽しんでもらおう」という作り手の意思を感じます。そのエンタテインメント性が、ポップミュージックの好きなところです。あとは単純に、昔からキャッチーなメロディやフレーズが好きなんですよね。
──先ほどちらっと「自分を許すため」とおっしゃいましたが、「自分を許す」ということと、ポップミュージックであることが、Young Keeさんの中では重なっているということなのでしょうか?
そうですね。僕がずっとポップミュージックに求めているものは、いい意味での現実逃避で。僕は学生時代からずっとポップミュージックを通して、今自分がいる現状をより素晴らしいものとして見ることができたり、まったく経験したことのない異世界に行ったりするような感覚を味わってきました。今いる世界から自分を違う世界に飛ばしてくれるのがポップミュージックの魅力だと思っています。そのうえで、僕とは違う境遇にいる人が作った音楽でも、自分に重なる部分を感じて、新しい自分に気付くこともある。僕は昔から、音や歌詞から自分自身についての新しい気付きを得ることが多いんです。そういう部分が「自分を許す」ということにつながっているのかなと思います。
ずっとスリルを求めて生きてきた
──「WIND BREAKER」という作品からどんなことを感じて、「無敵」を制作されたのでしょうか?
にいさとる先生の原作を読ませていただいて、制作を進めていったんですけど……実際は「進めていった」というより、原作を読んだあとに「バッとできちゃった」という感じでした。「WIND BREAKER」に対する僕の解釈としては、ひと言で言うと“光と影”。傷付いてきた過去があるからこそ、人に優しくできる。そういう“強い優しさ”みたいなものを感じました。ただ都合のいい言葉や甘い言葉を与えるのではなくて、闇の道を歩いてきたからこそ、光の魅力を生み出すことのできる人間になっていく。そういう、人間として生きていくうえで大事なことを教えてくれる作品だなと。特に僕は、主人公の桜遥が最初は自分を許せず、セルフラブできていない状態から物語が始まるところがすごく好きで。そしてストーリーが進むにつれて、人間が成長する姿が鮮やかに見えてくる。そこがドラマチックでいいなと思ったんです。
──最初からきれいなもの、完璧なものではない。あくまでも、そこから変化していく物語である。そこがYoung Keeさんとして大事なポイントだったんですね。
はい。主人公が成長していった先にどうなっていくのかが見えるようなキャラクターもいるんです。その人は闇を抱えていたけど、今はみんなから光のような存在だと思われている。そういう過去を持った人物に主人公が出会うことによって、気付きが生まれるんですよね。そこで自分に向き合い、本当の強さ、優しさに向き合う。人を愛することを知っていく。その展開が魅力的だなと思います。
──「無敵」は「バッとできちゃった」ということですが、普段から曲はすぐにできることが多いんですか?
最近はバッとできますね。前は違ったんですけど。
──なぜ変わったのだと思いますか?
うーん……より自分と向き合うようになったからかな。自分の弱さって、あんまり向き合いたくないじゃないですか。臭いものに蓋をするというか。でも、自分はスリルを求める性格なんですよね。「ヤバい! もう無理! めっちゃムカつく!」みたいな、そういうヤバい状況がすごく好きなんです(笑)。ずっとスリルを求めて生きてきた。自分の嫌いなところに向き合うことも、ある意味スリルがあるじゃないですか。現実を認めたときに、絶対に自分が傷付くことはわかっているわけだから。今の自分にとって曲を作るという行為は、そういうことなんですよね。自分と自分が鏡合わせになっているような感覚がある。だから曲を作るのが速くなったのかなと思います。感情に向き合って、アウトプットする、その過程が速くなった。
──何かきっかけがあったんですか?
きっかけは「無敵」だと思います。「WIND BREAKER」が僕の人生と重なるような作品だったので。自分と向き合う大きなきっかけを作っていただけたなと思います。音楽との対話がスムーズになって、自分の中の引き出しを、より滑らかに開けるようになった。
──「ヤバい状況が好き」というのはどういうことなのか、具体的に伺いたいです。
身体的にヤバい状況とか、命の危機にある状況が好きというわけではないです(笑)。僕は精神が繊細なほうだと思っていて。いろんなことを受け取ってしまうし、考え込んでしまうし、人から言われた適当な言葉もずっと引きずってしまう。こっちは求めていないんですけど、傷付けにやってくる人たちもいるんですよね。でも、ヤバい人にヤバいことを言われるスリルがある、というか(笑)。
──(笑)。
ただ生きているだけでもいろんなものが弾丸のように迫りくるので、それを「はいはい」と言いながら打ち返したり、めちゃくちゃ傷付きながら自分の中で紐解いて消化する。そうやってスリルを経験していくうちに、「こういうことに対して、こう思うことが自分にとっては誠実だな」ということが見えてくるんです。
──そこに音楽作りも紐付いているんですね。
そうですね。消化して、昇華する、みたいな感じ。消化して気付いたことを、いいメロディとともに、聴いてくれる人に「僕はこれに気付いたよ」と報告する。そんなことをしたいと思って音楽をやっているんです。「こんなことを思っているよ」「これが自分の美学だよ」と、曲にして伝えたいという気持ちがあります。
──自分が生み出した音楽を届けることを「報告」と表現されるのが素敵だなと、お話を聞いていて思いました。
ありがとうございます。人生の中でどんどんと出てきた気付きを音楽にしていくことで、「リアルタイムで音楽をやれているな」と感じます。日々時間を重ねて、年齢を重ねながら、音楽制作に従事しているという感覚。生きることと、進んでいく時間と、音楽がともにある感覚です。
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マジで“アンビバレンス人生”って感じ