音楽ナタリー Power Push - 吉澤嘉代子

日常の絶景 東京の絶景

吉澤嘉代子「東京絶景」インタビュー

初めて魔女修行の成果が出た日

──ではここから、吉澤さんのセルフライナーノーツにも触れつつ、1曲ずつ話を聞かせてください。1曲目の「movie」はデビュー前に歌っていた原型があると先ほどおっしゃっていましたが、どのぐらい変化したんですか?

吉澤嘉代子

タイトルはそのままですけど、歌詞の内容が変わりました。私としてはこれが今回一番聴いてほしい曲で、作るのも一番難しくてつらかったです。夢の中では生きているものと死んでいるものの境界線があいまいで、死んだ人が夢に出てくることもありますよね。夢の中なら死んだ人とも待ち合わせできるかもしれない、というところからこの歌詞を書いたんですけど、生死を扱う曲を書くのは難しくて。誠意を持って書こうとすると、自分のことを気持ち悪く感じて、どうしても抵抗があったんです。

──書きたいイメージは浮かんでいたものの、具体的に言葉にしようとすると抵抗感があったと。

はい。“movie”は死ぬ直前に見る走馬灯というか、誰かが亡くなって、次に自分が亡くなるときにすべてを思い返しているようなイメージで。記憶も映画もあとで編集できるんじゃないかという思いから、イメージをつなげて書いていきました。

──何かそう考えるきっかけがあったんですか?

私は子供の頃に魔女修行をしてたんですけど、何をしてたかと言うと、お年玉で買ったほうきにまたがって、飼っていた犬のウィンディに話しかけたりしていたんです。でもウィンディはウンともスンとも、1回もしゃべってくれなかったんですね。魔女修行の成果がまったく出ない状況で大人になって、ウィンディもおばあちゃんになって、私がデビューする少し前にがんになっちゃったんです。余命1カ月って言われたんですけど、せめて私がデビューするまで生きていてほしいなって……願っちゃったんですよね。そしたらどんどんどんどん延命して、でも体はどんどんボロボロになって。それである休みの日、私とウィンディしか家にいないときに、ウィンディが家に来てからこれまでのことをできる限り思い出しながら話しかけたんですよ。その数時間後にスッと死んじゃったんですけど、そのとき私「初めて魔女修行の成果が出た」と思ったんです。私が死ぬのを引き止めていて、最後に「ウィンディ、もう大丈夫だよ」って言葉が伝わったのかなって。勝手だけど。

──それが「最初で最期の魔法」なんですね。

そういうものをなんでも歌にしてしまう自分が醜いなと感じて……気持ち悪いです。

──それだけ個人的な思いが詰まった曲が、軽やかなポップスとしても受け止められるのも音楽の面白さだなと思います。アレンジは今までにないアプローチで驚きました。シンセやベースはハウスのようなアプローチでひんやりしてるけど、そこに生演奏が加わると不思議と温かい印象で。

吉澤嘉代子

そうですね。素敵です。白根賢一(GREAT3)さんのドラムがものすごくカッコよくて、レコーディングのときはドラムの音だけで泣けてきました。

──サウンドプロデュースとアレンジは「ケケケ」(2014年10月発売のメジャー2ndミニアルバム「幻倶楽部」収録)や「ユキカ」(本作および2015年10月発売のメジャー3rdミニアルバム「秘密公園」収録)などを手がけた横山裕章(agehasprings)さんですね。

具体的な音のイメージを伝える言葉が沸かなくて……横山さんには「ドリーミー感が欲しいです」とだけ伝えました(笑)。

「ひゅー」「胃」「ガリ」

──2曲目の「ひゅー」はセルフライナーによると「自分の心臓に囃したてられる歌」とのことですが。

これまでもいくつかあった擬人化シリーズの1つというか(笑)。これもデビュー前に書いていた曲ですね。

──ここから「ひゅー」「胃」「ガリ」とすごいタイトルの曲が並んでますけど、これはタイトル先行で書いたものだったりしますか?

そうですね、はい。よく「ひゅーひゅー」って冷やかしの言葉で使われますけど、あれってなんだろうなって思って。ひゅーなんて本当に言う人いるのかなあ。華原朋美がいた! マンガに出てくるイメージの言葉かなと思ってたんですけど。今回は体の一部分とか、食べる物とか、死んでしまうこととか……日々のルーティンって言うんですかね。そういうものを日常として切り取りたいなと思って、昔作った「ひゅー」も選んでみました。

──「ひゅー」で心臓を擬人化したあとは、胃についての歌ですが(笑)。

これもタイトルからですね。胃。聴けばどういう歌かわかる、そのまんまの曲です(笑)。

──セルフライナーには「歌は少しずつ変わってゆくものですが、胃の歌唱はいまいちばんあたらしい、いちばんしっくりくるわたしの声です」とありますけど、ご自身の歌声の変化は感じますか?

吉澤嘉代子

どんどん変わってきてますね。発表して1年経った歌を聴くと「ああ、変わったな」って。「胃」はアルバムの中でも一番新しく録った歌ということもあって、すごく納得できる、しっくりくる歌が録れたなと思います。

──そして「ガリ」。

箸休めにはちょっと早すぎるかなと思うんですけど(笑)。

──ものすごく軽やかなカントリーですね。セルフライナーにある「ショートパンツに赤チェックのシャツをインして歌う自分が見える……」ってどういうことですか?

子供向けなんだけど大人向けみたいな、なんて言うんですかね……。

──歌のお姉さん的な?

それです。歌のお姉さんなんですけど、ちょっと怖い、ホラーな感じがする歌のお姉さんが見えました(笑)。

2ndフルアルバム「東京絶景」 / 2016年2月17日発売 / e-stretch RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / CRCP-40446
通常盤 [CD] / 3000円 / CRCP-40447
CD収録曲
  1. movie
  2. ひゅー
  3. ガリ
  4. ひょうひょう
  5. ジャイアンみたい
  6. 手品
  7. 化粧落とし
  8. 綺麗
  9. 野暮
  10. ユキカ
  11. 東京絶景
初回限定盤DVD収録内容
  • 綺麗 MUSIC VIDEO
  • ユキカ MUSIC VIDEO
  • 東京絶景 MUSIC VIDEO
  • ジャケット撮影メイキング映像
吉澤嘉代子 絶景ツアー “夢をみているのよ”
2016年4月9日(土)北海道 cube garden
2016年4月16日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2016年4月17日(日)福岡県 スカラエスパシオ
2016年4月23日(土)宮城県 Rensa
2016年4月27日(水)愛知県 芸術創造センター
2016年4月29日(金・祝)大阪府 大阪ビジネスパーク円形ホール
2016年4月30日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールC
2ndフルアルバム「東京絶景」発売記念イベント ミニライブ&サイン会情報
2016年2月20日(土)愛知県 HMV栄 店内イベントスペース
START 16:00
2016年2月21日(日)東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店 店内イベントスペース
START 21:00(イベントスペース開場時間 20:30)
2016年2月27日(土)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
START 18:00(17:30整列後、整理券番号順にて入場)

※イベント参加券配布対象店舗:タワーレコード渋谷店 / 新宿店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 町田店 / 横浜ビブレ店 / 浦和店 / アリオ川口店

2016年2月28日(日)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
START 15:00(14:30集合)

※イベント参加券配布対象店舗:梅田NU茶屋町店 / 梅田大阪マルビル店 / 神戸店 / 京都店 / あべのHoop店

2016年2月28日(日)大阪府 タワ-レコ-ド難波店 5Fイベントスペ-ス
START 19:00(18:30集合)
2016年3月6日(日)愛知県 タワ-レコ-ド名古屋パルコ店 パルコ 西館1F
START 15:30(15:00集合)

※イベント参加券配布対象店舗:タワ-レコ-ド名古屋パルコ店 / タワーレコード名古屋近鉄パッセ店

2016年3月13日(日)福岡県 キャナルシティ博多B1サンプラザステージ(新星堂キャナルシティ博多店イベント)
START 15:00
吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)
吉澤嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビューを果たした。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」、2016年2月には2ndフルアルバム「東京絶景」をリリース。4月には初のホール公演を含むワンマンツアー「吉澤嘉代子 絶景ツアー “夢をみているのよ”」を行う。