当たり前なのに、大人ができないこと
──「こと葉」という曲は、アルバム「愛された記憶」(2021年12月発売)に収録された「てと手」と共通する“閉じ開き”に意味を持たせたタイトルワークですね。なぜこのような表記に?
吉田 最初ワンコーラスだけ山田がデモを作ってくれて、そのデモをもとにかねまっちゃん(兼松衆)が少しずつアレンジを進めてくれたんだけど、その作業の中で思い浮かんだ景色が、葉っぱが風に乗って降り積もっていくようなイメージで。何気なく発した言葉が心の中で葉っぱのように降り積もって、それが肥料となり自分の心を温めてくれたらいいな、と妄想していたら、「言葉」に「葉」の漢字が使われているのは実際に木の葉を語源にしている、という説を見つけて。だったら自然と思い浮かんだ「葉」というイメージをそのままタイトルでも表現したいなと思い、タイトルは「こと葉」という少し見慣れない表記にしてみました。
山田 最初は平仮名で「ことば」というタイトルにしようと思ってたよね。この曲は熊本放送の情報番組「夕方LIVE ゲツキン!」のテーマ曲として作っていたから、平日の夕方にどんな音楽がお茶の間に流れたらいいかなと思いを巡らしながら書いた曲で。表記も子供に馴染みやすいものにしたかったし、僕らアーティストが偉そうなことを言うような曲にしたくなかった。
──目を見て「ありがとう」と言おう、ちゃんと謝ろう、という人として真っ当なことを歌った楽曲ですね。
山田 はい。当たり前だけど大人が自然とできなくなってしまったことって、たくさんありますから。それが実は一番大事なのにな、と思って。
吉田 それと情報番組を作るテレビ局で働く方々へのリスペクトも込めています。正しい言葉遣いで物事を伝えることに対して、本当に努力を重ねている方々ばかりなのを知っていますから。「いつもご苦労様です」という気持ちもこの曲には込めています。
──3曲目には「恋」という楽曲が収録されています。先ほどから「家族」というキーワードが出てきていたし、どちらかと言えば今の吉田山田は「愛」を歌うフェーズにあるのかと思っていたので、ここにきて「恋」を歌うのか、と少し意外に感じました。
吉田 この曲も山田がデモを作った曲で、音源をもらったとき僕も今指摘いただいたようなことを感じていました。おそらく山田がこの曲を最初に生み出したとき、そんなに深い意味はなかったと思うし、そもそも曲作りってそれでいいんですよ。シンプルに鼻歌で作り始めて、そこにしっくりくるのが「恋」の曲だった。
山田 そうだね。これぐらいストレートで振り切った恋の曲は、ここ数年書いてなかったような気がしたから、新鮮だった。僕がこの曲を書いた原動力の1つには、アレンジャーのレフティさんの存在もあって。
──今作で宮田‘レフティ’リョウさんは「銀河ラジオ」「恋」「線香花火」「午前0時」の4曲のアレンジを担当しています。
山田 ちょっと前から一緒に曲作りをさせてもらうようになって、ここ最近なかった曲作りの仕方やアレンジに刺激を受けました。レフティさんの仕事を間近で見ていて「最近、恋愛の曲にちょっと手が出せていなかったけど、レフティさんと作ったら面白そうだな」と思って作ってみたのが「恋」のデモでした。こういう一番恋が沸き立っている瞬間をレフティさんはどういう音で表現するんだろうと気になったのもあります。
吉田 「今、恋を歌うんだ」と僕も驚いたけど、山田が今作る恋の歌、すごくいい。山田だけじゃなくて僕も同じだけど、本当に恋をしているときは入り込みすぎちゃって、いい距離感で曲にできないんですよ。でも年齢を重ねて家族を持つようになって、今になってしっくりくる恋の歌が作れるようになって、年齢も近いレフティさんが僕らの意図を汲み取って甘くしすぎないアレンジに仕上げてくれた。恋愛はこれまでもずっと歌ってきたテーマだったけど、ちょうどいいサウンド感にするのが難しかったんですよ。でも、この曲でようやくぴったりのサウンドが作れたと感じてます。
宮田‘レフティ’リョウが壊した吉田山田の固定観念
──「線香花火」も言ってみれば恋の曲ですよね。
山田 はい。この曲もレフティさんとだったらどんな曲になるか、ワクワクしながら作った楽曲です。きっかけはなんだったっけなあ。スマホの写真フォルダを見返したときに、線香花火の写真ばっかり残っていたのかな。線香花火に火をつけると、不思議とみんなしゃべらなくなるんですよね。その無言の時間がすごく好きで。昔はこの間にいろんなことを考えてたなって。
──「線香花火」は第一印象こそストレートな恋の歌ですが、よく聴くとサビの前にテンポが下がったり、ピアノで一風変わったフレーズが混ぜられたり、展開に少し不思議な仕掛けがある曲ですよね。
山田 サビに入る前に「何か1つフックがほしい」とオーダーしてみたら、レフティさんのほうからも「今ちょうどやってみたかったことがある」と言ってくれて。それがこのテンポダウンの箇所ですね。僕の中には曲中でテンポを変えていいというセオリーがなかったので驚きました。
──むしろ山田さんはライブ中にテンポを自由自在に変える印象がありますが。
吉田 確かに。
山田 よっちゃんと2人のライブだったら自由に、2人の呼吸で溜めるところはしっかり溜めて歌うけど、音源のテンポを変える発想はなくて。その固定観念を1つ壊してもらいました。
吉田 テンポが落ちるところのピアノのフレーズで1つエピソードがあって。この曲はミュージックビデオも作って、落ちた線香花火の火がもとに戻る場面をこのフレーズに当ててたんですが、そのシーンを作るのが少し大変でしたね。
山田 レフティさんが作ってくれたアレンジが、なんとなく“法則が変わる”ようなイメージがあるなと思って。ヨナモユという僕らを含めた学生時代の友人たちで組んだMV制作チームにこの話をしたら「それってストーリーの中でどんな意味を持つことになる?」と返ってきたんですよ。
吉田 僕と山田はMVのアイデアを出すときにフィーリングで「いいね」「ちょっと違う」となんとなく決めてきたところがあって、意味付けまでは求めてこなかった。でもヨナモユのスタッフは旧友でありながらも映像制作のプロだから「ストーリー上でその映像はどういう意味を持つか」を詰めなきゃいけない。おそらく、僕らが普通の依頼人だったらそこまで言ってこないと思うけど、ヨナモユは僕も山田もチームの一員だから、お互い納得するまで意見を出し合うような空気がある。「そもそもこの曲は主人公が誰に向かってメッセージを伝えている歌なのか。過去の自分に向けて歌っている歌なのか。そこから教えてほしい」みたいな。でもこういう会話が煩わしくはないんですよ。僕からしたら目から鱗というか、こういうやりとりが発生することで僕ら自身も楽曲の解像度が上がる感覚があって。これだけでも僕はヨナモユをやってよかったなと思いました。
避けていた「がんばれ」を高らかに歌う理由
──過去のアルバム「変身」のインタビューで吉田さんが「応援歌を歌うユニットと言われることが多くて、いかに『がんばれ』という言葉を使わずに人を応援するかを考えてきた」と話していたのをよく覚えていて(参照:吉田山田「変身」特集|ソロインタビュー2本立て)。なので、「午前0時」がストレートに「がんばれ」と歌う楽曲だったことに少し驚きました。
吉田 よく覚えてますね(笑)。でも「午前0時」は山田が作った楽曲だから、まずは山田の言葉を聞きたいな。
山田 そもそもこの曲は、夜中にいろんな人間模様を見ながら歩いていたら自然とできあがった曲で、散歩中に頭から最後まで完成してました。だから頭で考えずに自然と「がんばれ」という言葉を繰り返してた。実際に散歩しながら「がんばれ」って歌ってましたから。
──MVのロケ地でもある新宿を歩いているときに、この曲が浮かんできたんですか?
山田 はい。「駅前で酔い潰れ眠る男」も「怒鳴り合うカップル」も「誰かに謝っているサラリーマン」も新宿のいつもの風景だけど、いつからかこういう風景が愛おしいなと思うようになって。昔は夜の新宿駅周辺なんて近寄りたくもなかったし、「うるさい街だなあ」くらいにしか思っていなかったけど、コロナ禍で僕の捉え方が変わったのかな。いろんなことが制限されて、飲みに行くこともできなかった時期を経て、ひさしぶりに外で酔い潰れている人を見たとき、人間1人ひとりのバックグラウンドが少し見えたような気がした。「この人たちもがんばってるんだろな」って。この「がんばれ」って、たぶん自分に向けても言ってるんですよ。いろんなものに自分を重ね合わせて、自分自身の尻を叩く意味でも「がんばれ」って言いたかった。
吉田 アーティスト活動をしてきたこの15年、震災も含めて本当にいろんなことがありました。命の危機に直面するような災害も起きて、そのたびに「必要なのは言葉じゃなくて物資だ」と言われることもあった。無力感にさいなまれる瞬間がある中で、安易に「がんばれ」とは言っちゃいけない風潮も出てきたりして。でも僕は、この曲に関してはストレートに「がんばれ」と言える曲、言うべき曲だと感じました。それはあくまで「がんばれ」で「がんばろう」じゃないから。
──「がんばろう」じゃない。
吉田 山田はこの曲の中で、すべての物事を情景として見ている。本気で誰かのために何かしたいけど、自分たちにも家族があって、身の周りのことを優先しなければならない現実もある。きれいごとじゃなく「俺らもがんばるから、そっちもがんばれ」とストレートに歌うのが、昔よりもしっくりくるし、山田が歌う「がんばれ」に冷たさは少しも感じなかった。でもこれは僕があとから思っただけで、基本的にこの曲に関しては山田にほとんど任せたんですよ。制作においてもほぼ何も言ってなくて、最後に山田の息遣いで曲が終わるのも、山田が入れてきたものをそのまま残している。山田の中に流れている夜の情景をそのまま残したかった。
山田 15年、吉田山田としてアーティスト活動をさせてもらってきて、順風満帆ではなく苦労した時期もあって。一生懸命生きていると「今日がんばったな」と自然と思うときがあるんですよ。昔は歌詞を書くために必死で表現を考え抜いていたけど、最近はその逆で一生懸命生きる中で自然に出てきた表現がしっくりくるようになった。この「がんばれ」もその1つ。
吉田 「がんばれ」って繰り返す曲ではあるけど、応援歌と言われると少しだけ違和感がある。この曲は応援歌じゃなくて人生讃歌なのかな。新宿の街で浮かんだありのままのメロディとか、山田が描く街行く人の生き様が人生讃歌に聞こえる名曲だと思います。
15周年を超えて、ベストを更新するライブを
──少し先の話ですが、12月15日に西川口Heartsで同じ事務所の後輩であるリアクション ザ ブッタとの対バンが予定されています。ブッタの対バン相手は基本的にバンドで固められているので、吉田山田がラインナップされているのは驚きました。
吉田 僕らからしたら「やっと」なんですよ。音楽のジャンルは違うとされていますが、実は僕自身はそんなに違うと思ってなくて。(大野)宏二朗くんとはまだ遊んだことがないけど、(佐々木)直人くんと木田(健太郎)くんとは一緒にフットサルをしたり、プライベートでも仲よくさせてもらうようになって。「このメンバーで音楽やったら絶対楽しいよね」と思っていたところで、ブッタ側から呼んでもらえたので「やっと叶ったな」と思いました。本当に楽しみです。
──しかもツアーファイナルのタイミングで、ブッタの地元である埼玉に招かれるというのも、少し特別に感じます。
吉田 この業界に先輩も後輩もあまりないと僕は思っていて。音楽やるうえではそんなものは関係ないから。でも彼らがツアー(「リアクション ザ ブッタ 対バンツアー2024 A/W」)の最終日に僕らを呼んでくれたことはすごくうれしかったな。彼らの気持ちがこもっているような気がして。
山田 同じ事務所で、同じスタッフさんたちと関わっているからすごく近しいバンドだから、本人たちが僕らとやりたいと声をかけてくれたのがすごくうれしかったよね。ブッタも10年以上やってるベテランなので、僕らが教えられることなんてほとんどないんですけどね。忘れられない日になりそうです。
──バンドとの対バンで吉田山田がどんなセットリストで挑むのか、気になるところではありますが。
吉田 でも僕らはアウェイに飛び込むのが得意というか、好きなんですよ。もともと僕らは対バンでライブする機会が多くて、同じジャンル内で戦うよりも、違う土俵に行って僕らのことも好きになってもらえるようにがんばることにやりがいを感じてました。駆け出しのアーティストはみんな同じような気持ちでステージに立ってきたと思うけど、この15周年のタイミングでまた同じ思いに立ち返ることができるのはありがたいですね。
山田 違う畑のほうがお客さんの度肝を抜きやすいからね。
吉田 でもこの日はそんな感じにもならないだろうなあ。仲がよすぎるから。
──その後、吉田山田の弾き語りツアーが控えていますが、これはどんなツアーになりそうですか?
吉田 「THE BEST」ツアーという名前にしようかと考えています。人間って「明日やればいいや、来週やればいいや」と面倒なことを先送りにしがちじゃないですか。僕もけっこう根はダメ人間だから、そうしてしまう。でも完全なるダメ人間にならずに今日まで生きてこれたのは、ライブのおかげなんですよ。ライブって「本当に今できることをやり切らなきゃダメ」という空間なので、ステージに立つたびに「あなたが当たり前だと思っているその時間は当たり前じゃないんだよ」と思い起こさせてくれる。だから僕はステージに立ったら、必ずベストを尽くさなければならない。その日が最後のライブになったとしても、心残りはないと思えるくらい。それくらいの志で名付けたツアーなので、何か1つでも、ライブを観た人の心に焼き付けられるように歌います。
山田 音源でもライブでも、自分がベストだなって思えたときにようやく苦労が報われる感情があって。応援してくれたファンへの恩返しや、お世話になった人に返せるものって、僕らが常にベストを尽くすことしかないんですよ。15周年を超えて、「この先の吉田山田、楽しみだな」と思ってもらえるには、ベストを更新していかなきゃいけない。すべての人に「今日のライブが一番よかったな」「この先が楽しみ」と思ってもらうために。
吉田 ちょっとシリアスな感じになっちゃったけど、結局それが楽しむための秘訣ですね。僕なんかはすごく恵まれているとも思っていて、先ほど自分のことを「陰キャ」と表現しましたが、もっと悲観的で暗い人間になっててもおかしくなかったと思っていますから。ここまで音楽を続けてこれたのは自分だけの力じゃなくて、相方の山田はもちろん、周りのスタッフさんや応援してくれた人たち、さらにはそういう出会いを運んできてくれた運も必要だったと思う。だからこそ、どこかで満足して惰性で生きるようなことはしたくなくて、努力して今までの自分を越えて、自分自身も周りも「今が一番いい」と思えるような未来に向かっていく、それが楽しいんですよね。楽しんで15周年を過ごしています。
公演情報
吉田山田Tour2025 -THE BEST-
- 2025年2月1日(土)石川県 Kanazawa AZ
- 2025年2月2日(日)新潟県 ジョイアミーア
- 2025年2月8日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2025年2月9日(日)福岡県 DRUM Be-1
- 2025年2月13日(木)愛媛県 松山キティホール
- 2025年2月15日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2025年2月16日(日)広島県 Live space Reed
- 2025年2月21日(金)宮城県 darwin
- 2025年2月24日(月・振休)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2025年3月1日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2025年3月2日(日)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
- 2025年3月7日(金)兵庫県 チキンジョージ
- 2025年3月8日(土)大阪府 BananaHall
- 2025年3月12日(水)東京都 Spotify O-EAST
- 2025年3月15日(土)岐阜県 岐阜club-G
- 2025年3月16日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2025年3月21日(金)愛知県 DIAMOND HALL
プロフィール
吉田山田(ヨシダヤマダ)
吉田結威(G, Vo)と山田義孝(Vo)からなる男性2人組アーティスト。高校時代に出会った2人が紆余曲折を経て、2003年頃に音楽活動をスタート。地道にライブを重ね、2009年10月にシングル「ガムシャランナー」でメジャーデビューを果たす。2013年12月から2カ月にわたってNHK「みんなのうた」でオンエアされた「日々」が大きな反響を呼び、ロングヒットを記録。2020年4月にデビュー10周年を記念したベストアルバム「吉田山田大百科」を発表した。最新作は2024年10月配信リリースのEP「家族写真」。2025年2月から3月にかけて弾き語りツアーを行う。
吉田山田Official (@yoshidayamada) | X