「それでも」は善人のラブソングではない

──「それでも」では演奏をwacciが担当していますね。吉田山田が1つのバンドに演奏をお願いすることも珍しいですよね？

吉田　はい。普段はスタジオミュージシャンの方々にお願いしているから、正直なことを言うと楽しみ半分、不安半分だったんです。決してwacciのメンバーの技量が劣っているとかそういうわけではなくて、スタジオミュージシャンの理解度の速さというか、オーダーに対する打ち返しの的確さとかスキルってすごいんですよ。だから1つのバンドと一緒にやるとどうなるんだろうと思って現場に臨んだら、最初にちょっと演奏しただけで不安はすぐに吹き飛びました。ボーカルを立たせる演奏をしつつ、自分の個性も出すその匙加減が全員絶妙で、本当にすごいなと思って。「それでも」という曲はwacciの5人と一緒にやる意味のある楽曲だなということを思い知らされたんです。5人が各々すごく努力してバンドを形成していることもわかったし、このメンバーのうち1人がサポートメンバーに変わったらもう成立しなくなってしまうような一体感があって。言語化するのが難しいけど、この5人だからこそグッとくる演奏をしてもらいました。

山田　僕が印象に残ってるのはボーカルのディレクション。いつもはアレンジャーさんかよっちゃんがディレクションをしてくれるんだけど、今回は橋口くんに見てもらったんです。「それでも」のような雰囲気のある曲を僕はブレッシーに歌いがちなんだけど、ブレッシーに歌ったテイクは橋口くんに刺さらなかったみたいで。今まで選んでこなかったようなテイクを橋口くんがチョイスしてるのが印象的でした。

橋口　「それでも」には「自分が相手にとって2番目でもいいから好き」みたいな話が前提としてあって。その気持ちに甘えて関係を続けるこの相手の人は、ちょっと悪い人とも捉えられるじゃないですか。だからこの曲は善人のラブソングではないんですよね。それを吉田山田が歌うというところが一番のミソだったので。僕、女性目線だといくらでもひどいことが書けちゃうんですよね（笑）。

吉田　何があったんだよ！

橋口　ははは（笑）。だから山ちゃんにはいつもの包容力を出してもらうんじゃなくて、もう少しかわいそうというか、必死な感じで歌ってもらうのがいいと思って。それがブレッシーなテイクを選ばなかった理由かな。

吉田　この間、橋口くんのラジオに出たときにもこの話になって、橋口くんは「山ちゃんはかわいそうな人」って言ってたもんね（笑）。

橋口　「それでも」で描いている女性の相手になる男子像を考えたときに、それがよっちゃんだと、結局よっちゃんのほうが大人というか、うまくやれてしまうような気がするんですよ。でも山ちゃんは立ち位置を守ったまま苦しみながらもそばに寄り添っていそうなイメージがある。だから山ちゃんがサビのメインを最後に歌うようにした歌割りはすごくよかった。

──歌割りに関しては誰が決めたんですか？

吉田　僕と山田の2人で決めました。

橋口　何か要望があったら伝えようとしてたんですが、見せてもらった歌割りでもう言うことがなかったので、曲に対する思いが一致してたんだなと思って。

吉田　最初は橋口くんが描いていることが深くまで理解できてなくて、どう歌割りを考えるか悩んで。いろいろ考えながら、話を重ねながら、どっちの声で聴いたら気持ちいいかを考えて決めた部分が大きいと思います。吉田山田史上初じゃないかな。1番と2番で僕と山田の歌割りの構成が全然違うんです。いつもなら1番は2番と同じか対照的な歌割りにするし、僕の性格上きっちりしてないと気が済まないタイプなので、ちゃんと逆にしようかどうか悩んだんですが、今回はちょっと特殊な構成にしたほうがいいと思って。これはもう計算でも思惑でもなく、単純に歌を聴いてよかったから、感覚的なものでした。

橋口　曲が呼んでる歌割りみたいなものはあったと思う。

山田　歌詞を書く段階で、歌割りは考えてたの？

橋口　そこまで考えて歌詞を書いてなかったけど、今思い返せば山ちゃんの声のほうが多く鳴り響いていたかも。

吉田　当たり前のようなことを言いますが、橋口くんが僕らの歌を思い浮かべながら曲を書いてくれたのがまさしく今回のアルバムで僕らがやりたかったことなんです。明言はしませんでしたが「吉田山田を使ってあなたが思う最高の曲を作ってください」というのが、僕らの願いだったので。中でもお互いにライブを観てるし、共演もしたことがある橋口くんが「吉田山田にこういう曲があったらいいのに」と思って手を動かしてくれたことが何より幸せなことですよね。10周年を経て僕らがやりたかったことの1つを、彼に叶えてもらいました。

橋口　僕、楽曲提供は多いけどコラボで曲を作ったことはほとんどないんですよ。だから「誰かと曲を作るのが苦手」だと思っているし、そんな僕がちゃんと一緒に曲を作れたのはこの2人とだからだったと心から思います。僕としてもバンドとしても、すごくいい経験ができました。

山田　今後、誰かとコラボをする機会とかないの？

橋口　うーん……人によりますね（笑）。

吉田　難しい質問だよね（笑）。でももし機会があったら挑戦してみてほしいな。

橋口　人とかタイミングとか、いろんなものが合わさらないと難しいと思うんです。一緒に曲を作るというのは、魂を分け合うようなことですから。しかもそれが作品として世に出る。だからバランスがとても難しくて、まずは「それでも」が世に出たことがシンプルにうれしいです。この先、またこういう思いができたらいいけど、それはまたそのとき考えます。

僕らでしか作れない応援ソングがある

──過去には「wacciと吉田山田のワンマンライブ」のようなライブが開催されたこともありますが、今後wacciと吉田山田でやってみたいことはありますか？

吉田　「wacciと吉田山田のワンマンライブ」は、僕ら2人とwacciの5人が1つになってライブをするというもので、めちゃくちゃいい出来だったのに1カ所で終わってしまったのがすごくもったいなかったんですよね。いつか何カ所か回るような形でもう一度できればとは思っていますが、これはいつかご褒美みたいな感じで叶えばいい願いだと思っているんです。それとは別に、今回は恋愛ソングだったけど、wacciの応援ソングを吉田山田とコラボで作ってみたい思いはありますね。僕はwacciの応援ソングが大好きだし、吉田山田とwacciでしか作れない応援ソングがあるはずだから。

橋口　それは僕も作りたいですね。応援ソングを作るときは、今回のようなこだわりがあまりないので（笑）。

山田　なんでこだわりがないの？

橋口　僕がこだわっちゃうのはキャラクターを描く楽曲のときだから、応援ソングには当てはまらないんですよね。僕も吉田山田の応援歌が大好きだから、今度は僕がデモを送ってそれに打ち返してくれる形で作ってみたいな。

吉田　いいね。すごく楽しそう。

橋口　wacciのことを応援歌で知ってくれた人も多いと思いますが、実は僕、応援歌を作るのがけっこう苦手で。僕自身がそこまでポジティブな人間じゃないのもあるけど、自信を持って応援歌を作れているわけじゃないんです。いつも聴いてもらったときのリアクションとか、ライブの反応を見てようやく手応えを感じるくらい。だからぜひ2人の力を借りて応援歌は作ってみたいな。

山田　橋口くんのようなポジティブじゃない人が作り上げるポジティブな曲が一番響くと思うよ。曲を作るときにマイナス思考に陥るといろいろ嫌なことを思い付いちゃうんだけど、何十個のネガティブな言葉を経てたどり着いたポジティブな言葉って、すごくパワーがある。僕らもデビュー前は悲しい歌ばっかり歌っていて、前向きな曲がほとんどなかったんですよ。そういう人たちが作る前向きな曲が人を動かすことがあるから。

橋口　ありがとう。

山田　それと僕はwacciのメンバーとアカペラをやりたいな。実は僕とよっちゃんはアカペラ出身で、人数がもっといたらアカペラをやりたいとずっと思っていて。いろんなライブをやってきたけど、コーラスまで贅沢に入れたライブをしたことはないんですよ。wacciのメンバーと7人で歌えたら絶対気持ちいいよ。

橋口　実は前に、wacciでアカペラの5声でライブを始めていた頃があったんですよ。吉田山田の2人で芯を作ってくれたらもっとうまくいくだろうね。いつか7人のワンマンができるときがきたらアカペラもやろう。

吉田　楽しみだから早く一緒にライブしたいけど、まずはそれぞれ10周年を越えてちゃんとやるべき活動をしなきゃいけない時期だとも捉えていて。だから7人でワンマンをやるのはいつになってもいいんです。例えばお互いが50歳になってからとかでも全然遅くないと思う。それくらい、いつ叶ってもいい夢として思い続けていたいですね。