吉田山田×橋口洋平(wacci)「愛された記憶」インタビュー|特別な仲間とだからこそ完成した共作曲「それでも」

吉田山田がニューアルバム「愛された記憶」を12月1日にリリースした。

「愛された記憶」は、wacci、チャラン・ポ・ランタン、→Pia-no-jaC←、ワタナベタカシ、木田健太郎(リアクション ザ ブッタ)といったアーティストたちが制作に参加した吉田山田の8枚目のオリジナルアルバム。今作の発売を記念して、音楽ナタリーでは吉田山田と新曲「それでも」の制作に携わった橋口洋平(wacci)の3人へのインタビューを実施した。アーティスト同士の交流のみならず、プライベートでも深い交流がある吉田山田と橋口は、どのような思いを持って新曲「それでも」を完成させたのか。「別の人の彼女になったよ」といった失恋ソングを得意とする“橋口節”がいかんなく発揮された新曲の制作秘話を3人に語り合ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 堀内彩香

心から喜べる同世代はwacciしかいない

──本題に入る前に、先日行われたwacciの日本武道館公演(参照:wacci、念願の有観客で武道館ライブ完遂「このバンドは世界一のバンド」)を吉田山田のお二人が観に行ったと伺いまして。大舞台でのwacciを観た感想はいかがでしたか?

吉田結威(吉田山田 / Vo, G) こういう仕事をしていると武道館にライブを観に行かせてもらう機会が多いんですが、これまではいわゆる諸先輩方のライブが中心だったんです。今回、普段から仲よくさせてもらっている友達が武道館に立っているのを観て、これまで観ていた武道館の風景と少し違くて。この人たちと同じ世代で音楽ができてすごく幸せに思えたし、観てて誇らしかった。もちろん、同世代が武道館に立つということに悔しい気持ちもゼロではないんですよ。でもwacciは僕にとって特別なグループだから、その悔しさは本当にちょっとしかなかった。悔しいと言うより、うらやましさかな。こんなふうに心から喜べる同世代のアーティストは、wacciしかいないだろうな。

橋口洋平(wacci) ありがとう。wacciにとっても吉田山田は特別な存在で、ここまで仲がよくて、切磋琢磨しながら同じ土俵で戦ってるアーティストってほかにいないんだよね。そんな2人が武道館に応援に来てくれて、すごく心強さを感じました。しかもね、2人が目立つところに座ってたんですよ(笑)。山ちゃんなんて、ちょっと派手な格好してるからすぐわかって。

吉田結威(吉田山田 / Vo, G)

吉田結威(吉田山田 / Vo, G)

山田義孝(吉田山田 / Vo)

山田義孝(吉田山田 / Vo)

山田義孝(吉田山田 / Vo) 僕もよっちゃんと一緒で、これまでいろんな人のライブを武道館で観てきたけど、やっぱりwacciのライブは特別だったな。もしかしたら自分の思い入れが強いからかもしれないんだけど、wacciの武道館ライブはPA席のスタッフ、マネージャーさん、ファンのみんな、全員がステージ上にいるような感覚でライブが観れたんですよ。武道館という広い会場でのライブなのに全員の距離が近くて、みんなにスポットライトが当たって見えた。その光景にはグッときました。

橋口 wacciは1人のカリスマが引っ張っていくバンドではなくて、メンバー5人の空気とか、僕らを取り巻くスタッフの空気、さらにそれを取り巻くファンのみんなの空気をすごく大事にしてきたバンドだと思っているから、山ちゃんにそう届いたのはすごくうれしいな。バンドのカラーとして大事にしたいところが伝わっているわけだから。

橋口洋平(wacci)

橋口洋平(wacci)

笑わせたいと思う人が特別

──吉田さんはよく「アーティストの友人が少ない」と話していますが、橋口さんとはかねてからプライベートも含めて親交を深めている印象があって。吉田さんにとって橋口さんはなぜ特別な存在なんでしょうか?

吉田 つい先日、僕にとって特別になる人の共通項を発見したんですよ。それは橋口くんだけじゃなくて、相方の山田、あと関わってくださるスタッフさんにも共通することなんですけど、僕は自分が「この人のことを笑わせたい」と思う人と、すごく仲よくなれる傾向があって。例えば先日、橋口くんのラジオに呼んでもらってゲストで出演したんですが、打ち合わせのときは「リスナーさんに向けていろんなことを話さなきゃいけないな」と考えていたのに、いざ橋口くんと向かい合って話していると、目の前の橋口くんに笑ってほしい気持ちが強くなっちゃって。これは山田に対しても一緒なんです。例えばライブのMCの打ち合わせを一切しないのは、やっぱり山田を笑わせたいから。これは活動初期の頃から変わっていない感覚ですね。

──特に山田さんは初見のリアクションが一番面白いタイプの人ですからね。

橋口 わかるなあ(笑)。

山田 僕も自分でそう思います。

左から橋口洋平(wacci)、吉田山田。

左から橋口洋平(wacci)、吉田山田。

──橋口さんにとって、吉田さんはどんな存在ですか?

橋口 僕も決して友達が多いタイプじゃないので、よっちゃんは公私ともに仲よくしてくれる数少ない音楽仲間なんです。僕、普段は自分の話をするのが苦手なんですよ。だからコミュニケーションを取るうえで聞き役に回ることが多いというか、相手の話を聞いて、僕なりに解釈してリアクションをして、またその反応を聞く、みたいな形が多いんです。でもよっちゃんと接しているときは逆で、僕の話をいろいろ引き出してくれるんですよね。だからほかの人よりも自分の話を知ってもらえてる安心感がある。ラジオに出てもらったとき、よっちゃんと一緒に帰ったんですよ。帰り道で武道館ライブのことをめっちゃ話して、そのおかげで武道館ライブのことがやっと自分の中で整理できたんです。もちろんバンドメンバーとだってなんでも話すけど、客観的に見ていてくれたり、僕のことをわかってくれているからこその言葉をもらえるから、よっちゃんはすごく特別な存在ですね。

──2人の交友関係を山田さんはどう感じていますか?

山田 橋口くんがいるとよっちゃんが生き生きするんですよ(笑)。だから僕も横にいてうれしいですね。それと橋口くんといるときは、僕とよっちゃんのやり取りの中では見たことがないよっちゃんの新しい引き出しが開くことがあって。それはトークの面白さだけじゃなくて、人生において大事な言葉だったり、思いだったりする。それって音楽にも結び付くことだから、よっちゃんの成長にも絶対に必要な人なんだろうなと思っています。

左から吉田山田、橋口洋平(wacci)。

左から吉田山田、橋口洋平(wacci)。

恋愛観で通じ合う橋口と山田

──プライベートで交流があるからこそ、楽曲制作を一緒にするのは難しかったんじゃないですか?

橋口 おっしゃる通り、難しかったです。そもそも僕は人と曲を作るのが苦手なんだと思います(笑)。

山田 そうかな?

橋口 最近よく楽曲提供のお話をいただくので、誰かに向けて1から10まですべて完成させることはできるんですよ。でも誰かと一緒に曲を作るのはすごく難しかった。

吉田 橋口くんと曲を作るにあたって、まずはデモを5曲送って聴いてもらったんですよ。スローテンポ、ミドルテンポ、アップテンポとけっこうバリエーションのあるラインナップで送ってみたんですが、その中にピンと来るものがなかったみたいで「もっとちょうだい」と言われて(笑)。結局もう5曲、計10曲のデモを送りました。

橋口 最初にもらった5曲もよかったんだけど、自分を生かせる曲がないかなと思っちゃって。僕が力になれる部分、自分を生かせるワンフレーズがないかなと多めにデモをもらったら、10曲の中に1曲あって。言葉にするのは難しいけど、自分でも作りそうなメロだったんですよね。「自分だったらこういうメロにするな」みたいな取捨選択がピッタリ合いそうな曲だった。

橋口洋平(wacci)

橋口洋平(wacci)

山田 それを見つけられただけでもよかったのかも。もしかしたら10曲の中に1曲もなかったかもしれないわけだし。

橋口 これは僕の問題だと思うんですけど、僕は人のことをなかなか好きにならないんですよ。それと同じで曲のこともなかなか好きにならない。わかりやすく言うと、ストライクゾーンがすごく狭い。吉田山田の10曲だから1曲見つかったんだと思います。

吉田 僕は「もっとデモちょうだい」と言われてちょっとうれしかったんです。だってそれは、橋口くんがそこまでこだわって、本気になってくれたことの証だから。橋口くんほどの技術があれば、最初に渡した5曲のどれでも形にできてしまうことは知ってるんですよ。でもコラボするならちゃんと好きになる曲でやりたいと思ってくれて、ちょうどツアーで全国を飛び回ってくれている時期なのにちゃんと僕らのデモに向き合って、いい曲を書こうとしてくれたことが本当にうれしかった。それと、橋口くんの琴線に触れるデモが見つかってからの制作がものすごく早くて驚きました。

橋口 見つけるまでが大変なので、1曲見つかってからはすぐに頭から最後まで作れました。

山田 その速度とクオリティがすごくて。だから「人と曲を作るのが苦手」というのがちょっと信じられないくらい。めちゃくちゃすごいスピードでいい曲を書いてる感じ。しかも僕らの生み出したものに対する答えとして1曲が作られているから、コラボである意味もちゃんとあるし。

吉田山田

吉田山田

橋口 僕にとっても吉田山田の2人と一緒にできたのが大きかったかもしれない。例えばこれがどっちか片方とか、自分のバンドのメンバーとだったらもう少し我を通していたかも。尊敬する2人の吉田山田というユニットと一緒にやるからこそできたところはあると思う。

吉田 印象的だったのは「それでも」の歌詞を作っているときに、歌詞の恋愛観みたいなところで橋口くんと山田が通じ合っていたこと。正直に言うと僕は「それでも」で描かれているような行き止まりの恋、「君にとって 僕は二番目」と歌う歌詞にそこまで共感しきれない部分があって。でも橋口くんが書いてくれたこの歌詞のアプローチに、山田がすごく共感していたんですよ。もしこれが僕と山田の2人、もしくは僕と橋口くんの2人で制作をしていたら、「僕もイーブンに意見を言わせてくれ」と言ってたと思うんだけど、橋口くんと山田が共感しているなら僕の意見は一旦置いといて、2人のことを信じてみてもいいんじゃないかなと思えたんです。何度か歌ってみてようやく咀嚼できるタイプの曲かもしれないと思っていて、先日ライブで披露してみたらやっぱりそのタイプの曲だったことがわかって。基本的な方向性は山田と橋口くんに任せていたけど、やり取りしてるときに橋口くんがいろいろ言いたそうな場面は何度かあったね(笑)。

吉田結威(吉田山田 / Vo, G)

吉田結威(吉田山田 / Vo, G)

橋口 そんなことあったかな?

吉田 「これだとキャラクターが変わっちゃうよ」みたいな話はけっこうしたよね。

橋口 ああ、うん。一応、曲作りにおいて自分の頑固な部分が2人の前に出ていくのが嫌で抑えていたんだけど……。

吉田 出ちゃってたよ(笑)。でもそれは抑えるようなことでもなくて、ぶつかってきてもらったほうが僕もうれしいんですよ。プライベートで接しているときに譲れないことってほぼないじゃないですか。でも仕事となるとぶつかってしまうのは、そこに熱量があるから。その熱量から発する感情は、奇跡が起こる前には絶対に必要なスパイスなんです。今回そういう経験を橋口くんとできたのは本当によかったな。普段仲よくしているだけだと出てこない表情があったし、改めて橋口くんはバンドのフロントマンで、メンバーを背負って最前線で戦ってきた男なんだというのを改めて感じました。僕らはフロントマンがいるタイプのユニットじゃないから最後はお互いに頼ってしまうところがあるけど、橋口くんにはフロントマンの責任感、覚悟のようなものがあって。改めて尊敬し直しました。