吉田山田がニューアルバム「欲望」を10月31日にリリースした。
2019年10月のデビュー10周年に向けて精力的な活動を続けている吉田山田。今作「欲望」には10周年を迎える2人の覚悟がつづられたタイトルトラック「欲望」、栗コーダーカルテットが編曲や演奏を担当した「もやし」、吉田結威(G, Vo)が実体験をもとに愛犬を思い浮かべながら作り上げた「赤い首輪」など計11曲が収録される。音楽ナタリーでは吉田山田の2人にインタビューを実施。昨年10月にリリースされたアルバム「変身」を経て生じたユニット内の変化、今作「欲望」に込めた思いなどを語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 草場雄介
「楽しい」だけじゃなくて、心に何が残せるか
──前作「変身」の特集では2人それぞれにソロインタビューでお話を伺いました(参照:吉田山田「変身」特集|ソロインタビュー2本立て)。お互いのインタビューは読まれましたか?
吉田結威(G, Vo) もちろん。
山田義孝(Vo) 僕も読みました。
吉田 いい意味で、山田は想像通りのことを語っていて安心したんです(笑)。「変身」というアルバムを作る前から、僕らは吉田山田としてどうすべきか、どういう姿を目指すべきか、膝を突き合わせて語り合ってきましたから。ちゃんと意思の疎通が取れてることがわかってよかったです。
山田 僕もよっちゃんのインタビューを読んで「え?」って思うようなことはなかったので、安心しました。でもきっと2人一緒のインタビューだったら出てこない言葉があったと思うから、読んでてちょっと新鮮だった気がします。
──前回のソロインタビューではお二人共、「変身」の収録曲である「しっこ」についての話をしていたのが印象的でした。インタビューの中で吉田さんは「ライブで披露することで山田の学びになる曲だ」とおっしゃってましたが、数々のライブで披露されてきた「しっこ」はお二人にとってどういう曲になりましたか?
山田 今年の夏のイベントでは「しっこ」を1曲目に披露することが多かったんです。僕らの曲ってどちらかと言うと真面目な曲が多いですし、知名度の高い「日々」を楽しみにしている方がすごく多い中、あえて「しっこ」を1曲目にやってたんです。この曲を歌うと会場の空気感がすごく柔らかくなるんですよ。
吉田 そりゃあね。山田が無理やり「夢の中でおしっこしちゃったよ」ってみんなに歌わせるわけだから(笑)。
山田 アホらしいけど、みんなで歌うと楽しくてちょっと感動しそうになる感じ。僕らも観てくれてる人も、いい意味で肩の力が抜けるからすごくいい空気感になる。
吉田 「しっこ」はレコーディングのときからバランスが難しい曲だと思ってて。インパクトが強くて記憶に残りやすい曲なんだけど、そればっかりが目立っちゃって「おしっこの人たち」みたいに言われても僕らは全然うれしくないんですよ。だからインパクトが強くてふざけた雰囲気だけど音がしっかりしてるとか、リズムをちょっと凝ってみるとか、工夫を凝らした曲でもあるんです。セットリストに入れるにしても1曲目に「しっこ」を持ってくるからには、それ以外の曲でお客さんの心をどう動かしていくかを考えるのはすごく難しかった。
山田 自然と生まれたのが「しっこ」で始まって「日々」でしっかり締める、というセットリストだったね。
吉田 うん。僕らアーティストは楽しさを提供するだけじゃなくて、お客さんの心に何を残せるかを考えなきゃいけないと思ってるんです。そう考えたら「しっこ」で楽しげな空気感を作るのもいいんだけど、最後の最後にしっかり「日々」を聴かせて、皆さんに何か感じ取ってほしいなと。この夏はそういうことをちゃんと考えながら、いろんなイベントでライブができたと思います。
吉田山田にとって嘘偽りない言葉になっているか
──前作「変身」はタイトル通り挑戦的な内容のアルバムでしたが、「欲望」はどちらかと言うと吉田山田の本来得意とするサウンドに寄せた作品という印象を受けました。
吉田 そうですね。今年の頭くらいに山田と仕事帰りにお茶をする機会があって、「次どうする?」って話をしたんです。そのときに「『変身』で力を入れていたバンドサウンド、エレキギターがギャンギャン鳴るような曲はもうやり切ったよね」という感覚が2人の中で共通してあることがわかったんです。去年の「変身」を作るときに、10周年に向けて1年に1枚ずつアルバムをリリースして“三部作”を作ろうって決めたんですけど、「変身」の次に作る作品に関しては、アコースティックを基調とした本来の吉田山田っぽさが出るといいなって話をしたのが出発点でした。
山田 これまでの活動では、お互いがそれぞれ作詞作曲をしてきて、それぞれの色を出していこうって時期もあったんですけど、「変身」と「欲望」というアルバムでは2人が1つになって曲作りができた感覚があるんです。10周年っていう目標を作ったからこそ、「変身」以降は特別な進み方をしていると思います。以前は自分の歌詞に対するプライドがあってそんなに頻繁に相談することはなかったんですけど、今はフランクに「この歌詞どう思う?」ってことをお互いに聞けるようになったし、2人で相談したうえで吉田山田にとって嘘偽りない言葉になっているか、ちゃんと考えられるようになっています。
吉田 2人で1つのものを作るのって、すごく難しいんですよ。山田が言ったようにそれぞれのプライドがあって、プライドが強すぎると意見がぶつかってしまうし、かと言ってプライドを捨ててしまうと作品が形にならない。このバランスを取りつつ作品を作っていくために、相手が作ってきた曲に対して言いたいことがある場合に誰よりもその曲を聴くってことを実践してみたんです。本人と同じか、それ以上に曲に対して時間を費やし、愛情を持ったうえで意見を言うようにしてました。
山田 「なんとなくフィーリングでこっちの方がいい」みたいなやり取りをしないように、アルバム制作のかなり早い段階で2人の曲をどう作っていくかを話し合ったんです。だから今作の楽曲制作は時間がかかったけど、その分相手のことも曲のこともより理解できるようになった。
吉田 2人の感性で曲に対していろいろ考えられるようになったし、ただ相手の曲に手を入れるだけじゃなくて「山田の感性が色濃く出てるから、伝わりやすい言葉はほかにあるけどこのままにしておこう」みたいな判断もしやすくなりました。それも曲に対しての愛情がなければできないことだと思いますから。
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吉田がリーダー、山田がエース