音楽ナタリー PowerPush - 吉田凜音

西寺郷太のアイドル論

アニソンみたいな曲はボツにした

──凜音さんの楽曲はどういうイメージで制作したんですか?

吉田凜音

最初の頃は作ってボツにした曲もあるんですよ。彼女が「残酷な天使のテーゼ」を歌ってる動画を観てたから、アニソンみたいな曲とかダークな曲とかも持っていったんだけど、実際の彼女に会ってみて「合わないな」と思って外したんです。そのあと「テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」とか「ポジティビティ」(アルバム「Fantaskie」に収録)とかそういう曲を作り始めた。その2曲はけっこうNONA REEVESっぽいと思うんですけど。

──ほかの曲では比較的ストレートな印象の曲もありますよね。

「恋のサンクチュアリ!」は8ビートのJ-ROCKですからね。確かにこういう曲はノーナではやらないかも。COMPLEX「恋をとめないで」とかを意識して作ったんですけど、こういうスッキリしたロック感を持った、風通しのいい歌は彼女に似合うと思います。

──bump.yやNegiccoと比較してみてどうですか?

bump.yは作曲はほとんど谷口(尚久)くんだから、俺の色はあんまりないですよね。どちらかと言うとプロ作詞家として全体をプロデュースしたという感じのアルバムだから。

──Negiccoは?

西寺郷太

Negiccoは相当俺っぽいと思います。「愛のタワー・オブ・ラヴ」(2013年2月リリース)も「ときめきのヘッドライナー」も、曲に関してはノーナのメソッドをあえて入れてるし。ただ、そういう意味では、今度出る吉田凜音のアルバムはほとんど俺のソロアルバムって言ってもいいくらい、俺の色が出てると思います。

──2ndシングルが出たばかりですが、アルバムが楽しみになりますね。

もちろんアルバムで全部やりきったっていう感じでもないんだけど、凜音ちゃんがこれからもっとデカくなっていく、その大きな一歩なんじゃないかなという気はしてますね。

次世代のアイコンになれる存在

──今後の凜音さんに期待することは?

今の彼女は過渡期だと思うんですよね。だからいわゆるアイドル的なルックスはしてるけど、かわいくてカッコいいアーティストというか、そういうふうになれる素養もあると思う。よくも悪くも媚びない強さがあるから。

──存在感がありますよね。

吉田凜音

うん、もしかしたら拙さとか幼さを愛でるアイドル文化の中ではちょっと浮いちゃうのかなっていうくらいの。凜音ちゃんの「凜」っていう字もまさにそうだけど、「凛」としてるんですよ。だから好き嫌いはスパンって分かれるかもしれない。

──じゃあ郷太さん的には、アイドルをプロデュースしているという意識はあまりない?

うん、アイコンですね。もうアーティストとかアイドルじゃなくて、彼女はアイコンだと思う。木村カエラちゃんとかYUKIちゃんとかきゃりーぱみゅぱみゅみたいな1つの象徴というか。世界観を見せつけて、次の世代のアイコンになってほしいです。

──だから楽曲も、普通のいわゆるアイドルポップスとは感触が違うのかもしれないですね。

というか、アイドルポップスを作ったら彼女に合わなかったんですよ。

──ああ(笑)。

最初は完璧なアイドルポップスみたいなのを意識して、「男の子に声かけるのどうしようかな」みたいな曲を作ったんだけど、これが本当に合わないことが判明して。それがわかったから「行くぞー! 輪廻転生だ!」みたいな曲になりました(笑)。

──確かによく似合ってます。

あとは夢の世界ですよね。自分の中では竜宮城とかアミューズメントパークとか、そういう夢の世界みたいなものを意識して作ったところがあって。

西寺郷太

──どういうことですか?

ディズニーランドでもサンリオピューロランドでもいいんだけど、そこに行くときの気持ちって、アイドルにハマって「現場行くぞ!」っていうのと一緒だと思うんです。その瞬間がアミューズメントなんですよね。ステージにすごくかわいい子が出てきて踊ったり歌ったり握手できたりするのって、ミッキーマウスと写真撮るのと変わらないですよ。そういう竜宮城みたいな世界にスポンと入ったときの気持ちよさみたいなのはすごく意識しました。

──なるほど。

そしてそこには闇もあるんです。時間が1回止まって、浦島太郎は帰ってきたらおじいさんになってる。でもその世界で過ごした時間はものすごく楽しかったわけで、人生とか人が生きる意味ってもしかしたらそれでいいんじゃないのって思うんですよ。死ぬギリギリまでめっちゃ楽しくって、気がついたらジジイになってた。でもめっちゃ楽しかった!って思えればいい。

──楽しい時間は早く過ぎるものですし。

だから彼女のプロデュースをする上で、“竜宮城感”を出そうっていうのは自分の中で決めてました。「時を忘れる」とか「そこで遊ぶ」とかっていうワードも散りばめて。そういう意味ではアイドル的なのかもしれないけど、でもたぶん今あるアイドルの形とはちょっと違うものになるだろうと思いますね。

吉田凜音
吉田凜音 2ndシングル「忘れないPlace / テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」2015年2月25日発売 / ビクターエンタテインメント
初回限定記憶盤 [CD] 1200円 / VICL-37024
初回限定転生盤 [CD] 1200円 / VICL-37025
通常盤 [CD] 1000円 / VICL-37023
初回限定記憶盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. フェイバリットランド
  4. 忘れないPlace(Instrumental)
  5. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
  6. フェイバリットランド(Instrumental)
初回限定転生盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. ふぁんたすきー
  4. 忘れないPlace(Instrumental)
  5. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
  6. ふぁんたすきー(Instrumental)
通常盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. 忘れないPlace(Instrumental)
  4. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
吉田凜音(ヨシダリンネ)
吉田凜音

北海道札幌市出身、14歳のソロアイドル。2013年から本格的なソロ活動をスタートし、数々のライブでその高い歌唱力を披露して話題を集める。2014年11月に西寺郷太プロデュースによる1stシングル「恋のサンクチュアリ!」でVERSIONMUSICよりメジャーデビュー。2015年2月には2ndシングル「忘れないPlace / テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」をリリースし、同年3月には1stフルアルバム「Fantaskie」を発表する。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)
西寺郷太

1973年東京生まれ。1996年からNONA REEVESのボーカリスト兼メインコンポーザーとして活躍するほか、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースも行う。日本屈指のマイケル・ジャクソン研究家としても知られ、2009年に著書「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」(新潮文庫)、2010年に「マイケル・ジャクソン」(講談社現代新書)を上梓。2014年3月にティト・ジャクソンが参加した初めてのソロアルバム「Temple St.」、同年6月にNONA REEVESのオリジナルアルバム「FOREVER FOREVER」をリリースした。近著にノンフィクション風音楽小説「噂のメロディ・メイカー」(扶桑社)がある。