音楽ナタリー PowerPush - 吉田凜音

西寺郷太のアイドル論

吉田凜音が2ndシングル「忘れないPlace / テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」をリリースした。これを受けてナタリーでは彼女のプロデュースを担当する西寺郷太(NONA REEVES)の単独インタビューを実施。多くのアーティストの楽曲提供やプロデュースを手がけてきた彼は吉田凜音の才能をどう見ているのか。彼自身のアイドル論を交えて話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 塚原孝顕、古川朋久

渋谷系アーティストが作るアイドルポップス

吉田凜音

──吉田凜音さんの2ndシングル発売を記念して、今回はプロデューサーの郷太さんにお話を伺えればと思います。郷太さんはここ最近アイドルへの楽曲提供やプロデュースの仕事が目立ちますが、以前から興味を持っていたんですか?

やっぱりベストテン世代ですからね。小学生低学年の頃に買ってもらったシングルを思い出しても、イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」は作曲が細野晴臣さんで作詞が松本隆さんだったし、マッチの「ギンギラギンにさりげなく」は筒美京平さんと伊集院静(伊達歩)さんで。だからなんていうのかな、大人って言ったら変だけど、プロの音楽家がアイドルの楽曲を作って両方のいいところが出てくるっていうのは、子供の頃から1つの理想だったとは思います。それこそクインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンのように。

──今でこそ自作自演のアーティストは多いですが、ひと昔前は作家とシンガーが異なる形が主流でしたね。

言ってみればモータウンレコードもそうですよね。スティーヴィー・ワンダーとかマーヴィン・ゲイみたいに両方やる人もいるけど、基本は作家チームとシンガーがいて。さらにバンドのメンバーはいわゆるジャズマンだったりするんですよね。ジャズが流行らなくなって食えなくなったから、ポップスとかソウル、R&Bをやり始めたみたいな話もある。彼らは本当はジャズがやりたいんだけど、毎日飲んだり遊んだりするお金を稼ぐためにモータウンに参加してたっていう。でも例えばマーヴィンの「What's Going On」とかもジャズの人がやってるからああいう演奏になるわけで。

西寺郷太

──なるほど。

で、今は90年代にいわゆる渋谷系って言われてたようなアーティストがアイドルの曲を手がけてたりもしますよね。ROUND TABLEの北川勝利くんとか、クラムボンのミトくんとか、元Cymbalsの矢野博康さんとか沖井礼二さんとか、まあ俺や奥田(健介 / NONA REEVES)もやってるけど。そういうメンバーが自分の音楽性っていうのを1つフィルターにしてアイドルの楽曲を作ってる。だから全部とは言わないけど、今アイドルとか声優の人たちが歌ってる音楽の中にも、音楽が本当に好きでマニアと言われているような人が納得するようなクオリティの曲が多い。それは人材の移動の影響があるんだろうなという気はしますね。

吉田凜音とはイチから幕府を作れた

──アイドルの楽曲制作はアーティストにとって自分の音楽性をアピールする場でもあり、プロの仕事としてやっている部分もあるわけですね。

そういう意味では、やっぱりレコード会社だったり事務所だったり、いろんな芸能界的なしがらみもあって、全部思い通りにできるわけじゃないから難しいですけどね。俺の場合はほとんどないほうだと思うけど。

──芸能界的なしがらみは少ない?

西寺郷太

もし何か言われてもだいたい文句言うしね(笑)。でも凜音ちゃんとの仕事に関しては実はそういう面倒なことは1つもなくて。この作品には、本当に俺以外の人の音楽的なアイデアっていうのは何ひとつ入ってないんですよ。

──逆に今まではそうじゃなかったんですか?

というか、今までもいろんな人と仕事をしてきて、去年のbump.yもそうだし、NegiccoやV6もいい仕事ができたと思うけど、彼らはやっぱりもう何年もやっててそれぞれの色がありましたからね。V6なんかスーパースターですし。

──でも例えばV6の「kEEP oN.」(2012年8月リリース)なんかはかなり郷太さんの色が出た作品だったと思いますけど(参照:V6「kEEP oN.」西寺郷太&corin.インタビュー)。

うん、あの曲を作れたのはすごく楽しかった。でもアイデアってことで言えばそもそも「いろんな曲が合体した曲にしてほしい」って言ったのはV6だから。そのアイデアの中でベストは尽くせたと思うけど、あのアルバムに「プロデュース:V6」って書いてあったのは嘘じゃなくて、メンバーのアイデアを俺らが形にしただけとも言える。そこに新しい色を入れることはできたとは思うけど、まあ幕府で言ったら俺は吉宗だったわけですよ。途中で改革した感じというか。

吉田凜音

──開府はできなかったと。

その点、凜音ちゃんの場合はやっぱりイチから幕府を作ったわけだから。江戸に遷都しようかっていうところから決めさせてもらえたのはすごくありがたかった。しかも凜音ちゃんにとっても、いわゆるオリジナル曲は今回が初めてだったし。だから凜音ちゃんもプロデューサーとしての自分自身も、これがスタートっていう感じはすごくあります。

吉田凜音 2ndシングル「忘れないPlace / テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」2015年2月25日発売 / ビクターエンタテインメント
初回限定記憶盤 [CD] 1200円 / VICL-37024
初回限定転生盤 [CD] 1200円 / VICL-37025
通常盤 [CD] 1000円 / VICL-37023
初回限定記憶盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. フェイバリットランド
  4. 忘れないPlace(Instrumental)
  5. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
  6. フェイバリットランド(Instrumental)
初回限定転生盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. ふぁんたすきー
  4. 忘れないPlace(Instrumental)
  5. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
  6. ふぁんたすきー(Instrumental)
通常盤収録曲
  1. 忘れないPlace
  2. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~
  3. 忘れないPlace(Instrumental)
  4. テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~(Instrumental)
吉田凜音(ヨシダリンネ)
吉田凜音

北海道札幌市出身、14歳のソロアイドル。2013年から本格的なソロ活動をスタートし、数々のライブでその高い歌唱力を披露して話題を集める。2014年11月に西寺郷太プロデュースによる1stシングル「恋のサンクチュアリ!」でVERSIONMUSICよりメジャーデビュー。2015年2月には2ndシングル「忘れないPlace / テンセイリンネ~GONG!GONG!GONG!~」をリリースし、同年3月には1stフルアルバム「Fantaskie」を発表する。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)
西寺郷太

1973年東京生まれ。1996年からNONA REEVESのボーカリスト兼メインコンポーザーとして活躍するほか、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースも行う。日本屈指のマイケル・ジャクソン研究家としても知られ、2009年に著書「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」(新潮文庫)、2010年に「マイケル・ジャクソン」(講談社現代新書)を上梓。2014年3月にティト・ジャクソンが参加した初めてのソロアルバム「Temple St.」、同年6月にNONA REEVESのオリジナルアルバム「FOREVER FOREVER」をリリースした。近著にノンフィクション風音楽小説「噂のメロディ・メイカー」(扶桑社)がある。