“赤い炎”と“青い炎”
──「盗作」は「オリジナリティとは何か?」というテーマを中心に構成されています。このテーマに関して、尾崎さんはどう感じましたか?
尾崎 あまり意識したことがなかったんですよね。10代後半、20代前半くらいまでは、自分で作った曲に対して「ほかの曲に似てるかな?」ということを思っていたけど、そのうち気にしなくなりました。
n-buna 僕はずっと前からオリジナリティについて考えていて。音楽家としての力量が付いて、小説での表現の幅を広げられたタイミングで作品にしたいと思っていたんです。オリジナリティって、クリエイターにとっては根源的なテーマだと思うので。
尾崎 キリがないですよね。「盗作」というテーマで作品が作れるということは、「自分はそうじゃない」という自信があるんだろうなと思います。
n-buna クリープハイプの曲はオリジナリティにあふれていますよね。
尾崎 自分ではそのことについてあまり考えないのですが、最近、「ずっと聴いていました」と言ってくれるミュージシャンに会える機会が増えて。この対談もそうですけど、下の世代のミュージシャンに「学生時代から聴いていました」と言われるとうれしいし、そういう人の存在自体が、自分たちのオリジナリティの証明なのかもしれませんね。
n-buna 「もっと普通の声で歌えばいいのに」(2013年3月発売のメジャー2ndシングル「社会の窓」より)と歌えるのはクリープハイプしかいないので。
尾崎 そういうところはヨルシカと真逆ですね(笑)。たぶん根本の部分は一緒なんだけど、表現方法がまったく違う。
──根本の部分というと?
尾崎 何でしょう? コンプレックスなのかな?
n-buna そこは共通していると思います。コンプレックスもそうだし、何かしらの怒りがあるところも。尾崎さんの表現の根底にも怒りがあるって、勝手に思っているんですよ。
尾崎 ありますよ。「社会の窓」のような曲を作っておいて、怒りがなかったらおかしいよ(笑)。
n-buna ですよね(笑)。僕も今でもいろいろな物に怒りを抱えているし、それは尾崎さんが表現されていることにも近いのかなと。
尾崎 でも、怒りの出し方はまったく違いますね。こっちが赤い炎だとしたら、ヨルシカは青い炎。実はもっと熱いんだけど、見た目は少し醒めている。こっちは我慢できずにすぐにぶつけてしまう。
n-buna 「この怒りを食らえ!」という(笑)。
尾崎 そう、怒りをすぐに出しちゃう(笑)。ちなみに最近一番イライラしたことはなんですか?
n-buna 何だろうな……僕、創作という行為自体が好きなんですけど、いろいろ世間を見ていると、自分で作った作品を愛していない人間がいる。作ったあとで「ここが失敗だった」だの「もう少しうまく作れた」だの「自分でもあまりいいと思ってない」だの、保身のための言い訳を探している。自分じゃなく、他人の目線を気にしているからそうなるんですよ。それがムカつきますね。「お前が愛してあげない作品を、誰が愛してくれるんだ」って。
尾崎 なるほど。
n-buna 逆に「この人は作品を愛しているな」と思えたら、どんな音楽でも許せるんですよ。例えばフォロワーバンドと呼ばれるバンドもそう。僕が高校生の頃、クリープハイプ、9mm Parabellum Bullet、凛として時雨などに似たバンドがたくさん出てきましたけど、しっかり音楽と向き合っているバンドたちは全て許容できた。音楽に真摯な人達はすべからく好きです。面白い話、ヨルシカに似たプロジェクトもどんどん出てきていて。
──ボカロPとシンガーが組んだユニット、増えていますよね。
尾崎 そういうユニットの曲も聴くんですか?
n-buna 聴きます。しかも、いい表現だなと思うことが多くて。ただヨルシカが売れてるからそれを真似てメジャーで立ち上がった企画、と言ってしまえるような、そんな単純な物じゃない。クリエイターが妥協せずいいものを作ろうとしているのがちゃんと音から見える。真摯に向き合っているというのかな。
尾崎 誠実かどうか、なんですね。
n-buna そうです!
尾崎 そうじゃないとバレるだろうし。聴いている人はちゃんと見抜きますからね。
n-buna そう思います。彼ら彼女らが信念を持って、誠実に作っている音楽があって、それがちゃんと評価されたならそれはうれしいし、僕としても、世の中にいい音楽作品が増えることが本望です。
「呼んでくれてありがとう」とか、無理で
──ちなみに尾崎さんは、クリープハイプに影響を受けたバンドに対して、どんなふうに思っているんですか?
尾崎 「また似たようなバンドが出てきましたよ」と報告されることがあるんですけど、聴いてみるとそんなに似てなかったりするんですよ。それに怒りがわくこともなくて、うれしいことだと思っています。
n-buna 我々は音楽の文脈の流れの中にいますからね。何かしらの影響を受けないと音楽は作れないし、それはバッハの時代から続いていることだなと思っていて。聴いてきた音楽、好みのメロディがその人の中に定着して、蓄積されたものが曲を作るときに出てくる。「自分たちは音楽という大きな川の流れの一部でしかない」と思えば、「何かに似ている」ということをそこまで責める必要はないですよね。
尾崎 確かにそうですね。逆に自分たちは、「このバンドを意識して作ったんだけど、全然似てない」ということもあったんです。そういうときは「似せることもできないのか」と悲しくなりますけど(笑)。
n-buna それは間違いなく、尾崎さんのボーカルの個性だと思います(笑)。
尾崎 この声だから生きた曲もあるし、逆に死んだ曲もある。でも、それもわかったうえで自分で歌おうと決めてやっています。そういった思いの強さはヨルシカも同じように持っていると思います。
n-buna そうですね。「盗作」もそうですけど、自分たちが作った作品に対する思いはすごく強くて。届いたときの喜び、届かなかったときの悲しみを含めて、いろいろと感じながら活動しています。ただ、もともとヨルシカの作品は一定数の人には絶対に刺さると思っていました。ヨルシカというバンドを始める前、チャートをチェックしながら考えたんですよ。もちろん素晴らしい曲もたくさんあるんですけど、クリエイターの信念も見えないまがいものも多く混じっている。妥協の見える作品にこの作品が劣るはずがない。僕は日夜美しいメロディや音楽の進行、定石について学び、徹底的に詰めながら作っている。この音楽たちならそこに投げ込んでも十分戦えると。
尾崎 その感覚はわかります。ただ、まがいものが全部なくなってしまうと、それはそれで寂しいと思うんです。
n-buna そうですね。
──今後クリープハイプとヨルシカの対バンライブも観てみたいですね。
n-buna いつかクリープハイプと対バンしたいという気持ちはずっとあって。でも、迷惑をかけてしまわないかなという心配もあるんですよね。ヨルシカのライブは特殊なので。
尾崎 どんなライブなんですか?
n-buna ステージに立つ我々と、映像とを組み合わせながら、MCの代わりにポエトリーがあって、アンコールはなしで終わりです。作品としてのライブを見せたいので。対バンって、バンド同士のコミュニケーションが大事じゃないですか。我々はそこができない。
尾崎 それは自分たちも同じで、もともと対バンが苦手なんです。「今日は呼んでくれてありがとう」とか、無理で。
n-buna ははは(笑)。
尾崎 対バンに呼んでもらったときは「盛り上げるのは無理ですけど、それでもいいですか?」と聞きます。
n-buna いいですね。僕も今日こうして尾崎さんと話しているように、自分の好きな人にはちゃんと優しくできるんですけど、興味がないバンドや人には愛想よくできないので。
尾崎 尖ってるなあ(笑)。自分もそうでしたけどね。
n-buna (笑)。いつかぜひ、一緒に作品を作れる機会があったらうれしいです。