「音楽以外どうでもいい」と思って書きつづった曲
──そして、ヨルシカの音楽においてもう1つ重要なのがコンセプトですけど、最近のYouTubeのコメント欄を見ても、リスナーの方が楽曲をめちゃくちゃ深読みしているじゃないですか。
n-buna そうなんですよ、面白いですよね。僕の考えから離れた解釈もありますけど、たまに僕のコンセプトを的確に言い当てているコメントがあったり先読みされていたりして。「『藍二乗』の“藍”が虚数単位の“i”であるということまで気付かれるのか!」と思ってビックリしましたね。iの2乗は-1だから「君がいない」ということを表しているっていう……「これ、バレるもんなんだな」と思いました(笑)。「六月は雨上がりの街を書く」で答えが出ていますけど、アルバムまではみんな気付かないだろうなと思っていたのに。
──1曲公開しただけでそこまで考察を呼ぶアーティストもなかなかいない気がします(笑)。それだけ今までの作品にいろいろな裏要素を詰めてきたし、それを紐解くことが面白いと感じるリスナーが多いということじゃないですか。
n-buna ありがたいことですよね。僕らの音楽にみんなそこまで深く向き合ってくれるんだなって、そうやって聴いてくれていることがうれしくなります。
──だからこそ、インタビューが難しい。ここで安易にネタばらしするような記事になったら台無しだなあと(笑)。
n-buna そうなんですよね。僕がずっと思っているのは、ある程度の流れ以外は基本的にリスナーさんの解釈に任せようかなって。僕の音楽の作り方は自分が満足できればある程度いいやっていうものですけど、今はそこにちょうどリスナーさんの聴き方がハマっているんだと思うので、逆にそのみんなで楽しんでくれている雰囲気を僕が壊すわけにもいかないですし。曲を出してMVを出して、あとは想像にお任せしますっていう、いろいろと想像できる余地があることは作品において大事だなとも思います。
──そうですね。なのでフワッと聞きますけど、今作も初めにストーリーのプロットがあったわけですよね?
n-buna はい。最初に「だから僕は音楽を辞めた」という曲がもう数年前からタイトルを含めてあったので、そこからこういうアルバムを作ろうと思い付きました。で、これは僕がすごくとがっていた時代に「音楽以外どうでもいい」と思って書きつづった曲なので、バイトをばっくれたりとか人を馬鹿にしたような歌詞もたくさんあるんですけど……。
──厭世家を気取ったり。
n-buna してましたね。そういう昔の自分を投影しつつ、音楽を辞めた青年を書こうというのは最初から考えていて。対象となる人物がいてそこに音楽を当てるっていう、昔からずっと変わっていない僕の曲の書き方の延長として、もっと設定を深く下げたものをアルバム全体を使って書こうと思いました。それで、青年が旅をしながら写真を撮って、手紙や詩と共にエルマに送るというコンセプトを考えたんです。物語の舞台は、僕が幼少期に暮らしていて影響を受けたスウェーデンがいいなと思って、実際にロケハンじゃないですけど1人で旅行に行って、現地で曲を作ったりもしました。「六月は雨上がりの街を書く」は、ガムラスタンという町のホテルで雨が降って外に出れずに曲を書いていたときに作ったものだったりしますし。
──スウェーデンはn-bunaくんの心の原風景でもありますか。
n-buna そうですね、影響を受けて曲を作っていますし、すごくよいところ、その頃の体験も忘れられないものがあります。だから「もう1回行くか!」と思って、こういうアルバムになりました。
このアルバムと対になる、「エルマ」というもう1枚のアルバムを出します
──初回限定盤では、歌詞になっていない部分のストーリーや青年の心象が、同梱された本物の手紙で補完されていて。そこまで目にすることで全体の質感がより浮かび上がりますよね。
n-buna 僕は、青年が手紙をしまった箱をエルマに送って、それをエルマが手にとって開けるところまでを作品にしたかったんです。リスナーもエルマと同じように箱を開けてCDを聴いて手紙を読んでいくことで、エルマの追体験ができる。そういうものが作りたかったんですよ。
──なるほど。そして、この作品には続きがあるという話も聞いてます(参照:ヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」の続編アルバムをユニバーサルからリリース)。
n-buna 最初の構想段階から、「雲と幽霊」と「言って。」みたいに対になっている作品をアルバム単位でやりたいということを考えていたんです。で、この「だから僕は音楽を辞めた」と対になるもう1枚として、「エルマ」というタイトルのアルバムを出します。
──おお! ちなみに言える範囲でいいですが、どんな作品になりそうですか。
n-buna 「だから僕は音楽を辞めた」と楽曲単位で対になる曲も作っていて、どちらか1つを聴いてもアルバムとして成立するけど、2枚並べてみるとちゃんとつながっていることがわかる作品にしたいと思います。
──n-bunaくん自身、そしてヨルシカは「音楽を辞める」どころか、どんどん創作意欲が湧いていそうですね。
n-buna 音楽、辞めなかったですね(笑)。辞めなかったおかげでいいものを作れて……最近、音楽が楽しくなってます。あとは皆さんが作品を聴いて喜ぶもよし、悲しむもよし、いろんな楽しみ方を自由にしてくれたらなと思っています。
suis 私もそれぞれの解釈で好きに聴いていただきたいです。音質や歌もガラッと変わっていたり、聴きどころは前作より増えていると思いますし、それぞれ楽しんでいただけたらと思います。