真実味があるくらいの大きさ、ダイナミズムで恋愛を書きたかった
──楽曲のサウンドや曲調についても聞かせてください。まずはどういうイメージから作っていきましたか?
この曲は「毎日」と同じくYaffleと一緒にアレンジした曲で。都市的なニュアンスというか、冷ややかなテンションにしたかったんです。ウォームな感じというより、夜の都市のようなイメージ。歌も張り上げたりせず、低いところでいく感じにしたかったんですね。
──冷ややかな感じがふさわしいと思ったのは?
大袈裟な感じにしたくなかったんです。ラブソングって、気を抜くとすごくドラマチックになる。ロマン主義っぽいニュアンスにどんどん寄っていく感覚があって、ある閾値を超えると途端に嘘っぽくなる。それをあまりやりたくない気持ちがあった。もう少しミニマムに、淡々と、後半に向けて上がっていくという。この曲を作っていた当時の自分にとって真実味があるくらいの大きさ、ダイナミズムで恋愛を書きたかったというところがありますね。
──誇張しすぎず、エモーショナルになりすぎないものにする、という思いがあった。
そういったものを抑えることでより増幅していくものがあるだろうし。表面的に持ち上げるんじゃなくて、ミクロに覗くことによって些細なものが大きく増幅していく。そういう効果を狙えないかと思っていたような気がしますね。
──ちなみに、アザレアの花をタイトルにした由来は?
心臓を移植した相手にその面影を感じてしまうという物語からの連想ですね。「これってドッペルゲンガーみたいだな」と思ったところから始まって、そこからクローンを連想して。アザレアは挿し木で増えるんですけれど、挿し木も個体としては別だけれど遺伝子的には同一なので、いわばクローンである。そうやって連想ゲーム的にたどり着いたのが挿し木の花だったので、そこからアザレアをモチーフにして、関係性を表現できないかということを考えました。
彼女らも、自分が気付かないうちに成長していた
──最後に「ドーナツホール」についても聞かせてください。先日新しいミュージックビデオが公開され、GODIVAとのコラボレーションが展開されましたが、これはどういうきっかけからの話だったんでしょうか。
GODIVAの方から話をいただいたところから始まったんです。断る理由もないというか、実際、「ドーナツホール」から約11年経ったと考えると、自分としても感慨深いものがあって。今そこに向き合ってみたらどうなるのかという興味は自分としても強くあった。そこに身を投じてみたという感じです。
──改めて「ドーナツホール」という曲を振り返って、どう思いました?
ひたすらに恥ずかしいですね。10年間で自分もいろいろ変わったし、作る音楽の方向性も変わっているわけで。10年前の自分がいるなあという感じで、本当に古いアルバムを覗くような。「こういうこともあったなあ」という。
──GODIVAのコラボレーションパッケージとMVの原画としてGUMI、初音ミク、巡音ルカ、鏡音リンのキャラクターを新たに描き下ろされましたが、新たに描こうと思った理由は?
もともとの絵を商品に据えるのは嫌すぎて「さすがにちょっと描き直させてください」というところから始まりました。新たに描いてみて気付いたんですけれど、今の自分が描くと当時のファッションとか服が全然似合わなくなっているんですよ。等身が上がったというか、成長したんだなっていう。彼女らも、自分が成長していくとともに、気付かないうちに成長していたんだなという不思議な実感があった。興味深かったですね。
──MVは神谷雄貴監督とProduction I.Gの制作で、廃品回収業を営むGUMI、初音ミク、巡音ルカ、鏡音リンが登場するストーリーになっています。米津さんが原案を考えたそうですね。
廃品回収車というのは最近の自分のモードですけれど、この曲を作った当時、少年マンガみたいなものをやりたかったんですよ。でも、やりたくてもできなかった。それを今になって叶えようという気持ちがありました。ちゃんとした人たちにお願いして、自分があの頃に考えていたようなことを高精度にやってもらえた。オタクの夢みたいな感じで、そういう意味でも「長くやってきてよかったな」と思いました。でもあまりに素晴らしすぎて、映像を観ているうちに冷や汗が止まらなくなった。というのも、あまりに自分の曲が昔すぎて、映像に負けている感じがしたんです。「どうしよう、今から打ち込み直せるかな」と思って、そこから急いで最新のMegpoidを買ってきて作ってみたんですけれど、やっぱり全然しっくりこなかった。別モノになってしまったというか。変えようとしたんですけれど、変えようがなかったという感じでした。
公演情報
米津玄師 2025 TOUR / JUNK
- 2025年1月9日(木)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2025年1月10日(金)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2025年1月17日(金)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2025年1月18日(土)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
- 2025年1月22日(水)神奈川県 横浜アリーナ
- 2025年1月23日(木)神奈川県 横浜アリーナ
- 2025年1月28日(火)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
- 2025年1月29日(水)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
- 2025年1月30日(木)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
- 2025年2月8日(土)福岡県 みずほPayPayドーム福岡
- 2025年2月9日(日)福岡県 みずほPayPayドーム福岡
- 2025年2月15日(土)大阪府 京セラドーム大阪
- 2025年2月16日(日)大阪府 京セラドーム大阪
- 2025年2月21日(金)北海道 札幌ドーム
- 2025年2月26日(水)東京都 東京ドーム
- 2025年2月27日(木)東京都 東京ドーム
KENSHI YONEZU 2025 WORLD TOUR / JUNK
- 2025年3月8日(土)上海 Mercedes-Benz Arena
- 2025年3月9日(日)上海 Mercedes-Benz Arena
- 2025年3月15日(土)台北 Taipei Arena
- 2025年3月16日(日)台北 Taipei Arena
- 2025年3月22日(土)ソウル INSPIRE Arena
- 2025年3月23日(日)ソウル INSPIRE Arena
- 2025年3月30日(日)ロンドン Eventim Apollo
- 2025年4月1日(火)パリ Zenith Paris
- 2025年4月4日(金)ニューヨーク Radio City Music Hall
- 2025年4月6日(日)ロサンゼルス YouTube Theater
プロフィール
米津玄師(ヨネヅケンシ)
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年よりハチ名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を浴びる。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。2020年8月発売の5thアルバム「STRAY SHEEP」は、200万セールスを突破する大ヒット作品となった。同年の年間ランキングでは46冠を達成し、翌年も2年連続で年間首位を記録。Forbesが選ぶ「アジアのデジタルスター100」に選ばれ、芸術選奨「文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」を受賞する。デビュー10周年を迎える2022年5月に映画「シン・ウルトラマン」の主題歌「M八七」やPlayStationのCMソング「POP SONG」を収録したシングル「M八七」をリリース。11月にはテレビアニメ「チェンソーマン」のオープニングテーマを表題曲とするシングル「KICK BACK」を発表し、日本語楽曲としては史上初となるアメリカ「RIAA Gold Disk」を記録。2023年6月に「FINAL FANTASY XVI」のテーマソング「月を見ていた」、7月にスタジオジブリ宮﨑駿監督作「君たちはどう生きるか」の主題歌「地球儀」をリリースした。2024年4月、NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主題歌として書き下ろした「さよーならまたいつか!」を配信リリース。8月公開の映画「ラストマイル」主題歌として「がらくた」を書き下ろす。同月、6枚目のアルバムとなる「LOST CORNER」をリリースした。9月にはジャケットイラストのユニクロUTを全世界発売し、ハチ名義で「ドーナツホール2024」のMVを公開、描き下ろしイラストを使用したGODIVAの商品を発売した。
11月にNetflixシリーズ「さよならのつづき」主題歌である「Azalea」を配信リリース。2025年1月からは初のドーム公演を含む全国ツアー「米津玄師 2025 TOUR / JUNK」、3月からは世界6都市8公演を行うワールドツアーを開催する。
米津玄師 official site「REISSUE RECORDS」
米津玄師 kenshi yonezu (@hachi_08) | Instagram