米津玄師|人間の死を見つめて

レモンというアイコン

──今回の曲は「Lemon」と言うタイトルで、歌詞の中でも「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」「切り分けた果実の片方の様に」と、喪失と悲しみを象徴するキーワードとしてレモンがありますね。これは最初から決まっていたんでしょうか。

いや、最初は全然違うタイトルでした。そもそもは人間の死を思う、死を歌う曲を作るということで、「メメント」という仮タイトルにしていたんです。それで、いわゆる鎮魂歌のようなニュアンスの曲を作っていたんですけれど、人間の死を歌う曲で、なおかつタイトルが「メメント」というのが鼻に付くと言うか、過剰な感じがしていたんですよね。で、「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」と言うのは、仮歌のような段階で歌詞を書いているときに、特に考えることなくパッとできた1行だったんです。なんでこのフレーズが自分の中から出てきたのかも正直わからなくて。けれど、明確にこれじゃなければいけないという感じがあった。ほかに当てはまる言葉を考えたりもしたんですけど、最終的にこれしかなかった。だったらタイトルは「Lemon」だろうと思ったんです。

──「切り分けた果実の片方」というフレーズもその段階からあったんですか?

そこの部分の歌詞は歌をレコーディングする前日の深夜くらいに書いたんですよ。最後まで全然出てこなくて、自分でもよくわからないまま書いたんですけど、書いた瞬間に「ああ、なるほど」と思えるものがあった。そこでようやく自分で合点がいったと言うか。自分が書いたこと、自分が作った曲に教えてもらうような感覚があった。そういう曲になったなと思います。

──この曲は、歌詞だけ見ると実は死を明確に表す言葉はないんですよね。でも、聴けば死と喪失の曲であるっていうのはちゃんと伝わってくる。そういう普遍性のある曲だと思います。

「Lemon」と言う言葉が、ちゃんとそういう部分を表現してくれたのかなって思っています。死の象徴的なアイコンになっている。直接的な表現は鼻についたんです。「メメント」っていうタイトルをやめたのも、そういう理由で。そういうものをそのまま表現したって面白くないと言うか、下品だなと思うし。

踊るようなリズムで人間の死をなぞる

──もう1つ、この曲を聴いてすごく印象的だったのは、死をテーマにしていると言っても、とても朗らかな曲になっていることなんですね。

そうですね。ただ辛気臭いだけの曲にはしたくなかったんですよ。それはそもそもドラマの脚本や第1話の映像を観たときに感じた、最初のインスピレーションにも通じるものがあって。ただ死を扱うだけじゃなく、すごくテンポがよくて、コメディっぽい側面もあるし、ドラマの登場人物たちが人間の死を身近に捉えている。なじみのない人からするとグロテスクな瞬間なんですけど、解剖をしながら笑いあったり、その次のシーンで普通に肉を食べていたりする。だから、ひたすら辛気臭い、ただのバラードには絶対したくなくて。ひたすら死だけを見つめていったところで、死の美しさは絶対に表現できないと思うんですよ。そうではなく、死というものがそこにあるとしたら、それはあえてあやふやなままにしておいて、歌詞にもあるんですけど、「輪郭をなぞる」ことによって現れるものがある。そうでなければ表現できないことが絶対にあると思うんですよね。ただひたすら悲しく、暗く、もっともらしい感じで人間の死を歌う曲では絶対に表現できない死というものがあると思って。だから、ステップを踏むようなリズムで、跳ねてる曲、踊るようなリズムで人間の死をなぞるような曲というイメージがありました。

──ドラマの中でも、毎回すごく絶妙なタイミングでこの曲が流れますよね。

そうですね。観ていて本当に思うんですけど「ここしかない」というところで曲を流してもらえる。ドラマとあんまり距離を詰めすぎても、よくないような気がして。自分は米津玄師として曲を作らなければならないわけで、ただドラマに従うだけのものになってしまうのもよくないので。だから「ここでこう流れるから、こういう曲にすればいいんじゃないか」みたいな視点はなかったんですね。

──と言うことは、完成したドラマを観て、あのタイミングのよさは強く印象に残ったんじゃないでしょうか。

はい。本当にドンピシャのタイミングで流れるし、自分の個人的な体験から生まれてきたものが、物語となんら矛盾なく流れてくることに対して、不思議な感覚もありますね。確かにドラマのために書いた曲ですけど、同じくらい、もしかしたらそれ以上に自分のための曲でもあるので。でもそれが歌い出しの瞬間から、これだけリンクして流れるという。それは不思議な感覚ですし、どこか普遍的なところにたどり着くことができたんだなっていう証左でもあるなと思いました。

米津玄師

自分の根っこをいかに美しく見せるか

──シングルのカップリングには「クランベリーとパンケーキ」と「Paper Flower」の2曲が収録されていますが、これは「Lemon」という曲ができあがってから作った曲なんでしょうか?

そうですね。ツアーも終わったあとです。

──「クランベリーとパンケーキ」はどういうモチーフから生まれた曲でしょうか。

最近お酒を飲むのが好きなんですけど、夜中飲み明かして、朝になって帰ってきて寝て、起きたら昼で日差しがキツくて、二日酔いで頭痛い……みたいな、本当にしょうもない状態のときに作ったらこうなった感じです。そういう最悪の気分を、残しておこうと思いました。

──数年前の米津さんはこういうパーティライフのような曲は書いてなかったですよね。

そうですね。数年前は絶対書かなかった。ここ最近の自分の感じがします。

──「Paper Flower」はどうでしょう?

これもここ最近の自分ですね。カップリングの曲を作ることを考えながら、そこにフォーカスを当てて、例えば「ハイハットを使わない」とか、いろんな制約を自分に課しながらトラックをまず作りました。結局ハイハットは使っちゃったんですけど。

──ほかにどういう制約があったんですか?

ベースで強弱を付けるとか、後半に進むにつれてどんどん盛り上がっていくとか、そういう今までにやってこなかったことを考えてました。あとは夜中散歩しながら月光がきれいだったとか、そういう空気感みたいなものを閉じ込めたらこうなった感じですね。

──曲調に関して言うと米津さんは「BOOTLEG」というアルバムで、同時代的な海外のサウンドと自分自身のルーツと、その両方を見据えつつ新しい突破口を開くような方法論を切り開いたと思うんですね。おそらく「砂の惑星」あたりからその手応えをつかんだと思うんです。

はい。そうですね。

──このシングルもその延長線上の感覚はありましたか?

「Paper Flower」はその延長線上という感じがします。

──ただ「Paper Flower」に関しても、いわゆるオルタナティブR&Bと海外で言われているものをそのまま持ってきても、こうはならないわけで。なかなか言語化が難しい部分だとは思うんですが、どういう突破口、どういう秘訣を見つけたというふうに自己分析していますか?

なんだろうな……でも最終的にはオルタナティブR&Bがやりたいわけではないんです。自分は歌謡曲を作りたいというのが根っこにあるので。その根っこをいかに美しく見せることができるかっていうことを考えながらやっているので、そのバランスでしょうね。

選ばれることを待ちながら

──では、最後に。今年10月には幕張メッセでのワンマンライブが決まっていますが、この先の2018年はどういう年にしようと思っていますか。

去年はいろんなものを詰め込みすぎたと思っていて。じゃあ今年はどうするかというのはタイミングでしかないので、そのタイミングをどれだけ美しくすることができるのかという感じですね。いろんな時代の流れがあって、その流れの中に自分の居場所があるのかないのか、その場所が果たして美しい場所なのか、自分じゃなくていい場所なのか。今までもそうですけれど、それをちゃんと精査して、本当に美しいものを作りたい。人との巡り合わせだったり、時代の流れだったり、そういうものに対して選ばれることを待ちながら、自分は自分で音楽を作って、そのときのために準備しておく。そういうモードなのかなっていう気はしています。

米津玄師「Lemon」
2018年3月14日発売 / Sony Music Records
米津玄師「Lemon」レモン盤

レモン盤
[CD+レターセット]
2160円 / SRCL-9745~6

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米津玄師「Lemon」映像盤

映像盤
[CD+DVD]
2052円 / SRCL-9747~8

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米津玄師「Lemon」通常盤

通常盤
[CD]
1296円 / SRCL-9749

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CD収録曲
  1. Lemon
  2. クランベリーとパンケーキ
  3. Paper Flower
映像盤DVD収録内容

米津玄師 2018 LIVE / Fogbound 2018.01.10 日本武道館

  1. 砂の惑星
  2. 春雷
  3. LOSER
  4. ゴーゴー幽霊船
  5. 爱丽丝
  6. ピースサイン
  7. 打上花火
  8. 灰色と青(+菅田将暉)

MUSIC VIDEO

  1. 春雷
  2. 灰色と青(+菅田将暉)
全形態共通・初回封入
※初回生産分のみ封入、なくなり次第終了となります。

米津玄師 2018 LIVE チケット最速先行抽選応募券

応募期間:3月13日(火)12:00~18日(日)23:59

米津玄師 2018 LIVE(タイトル未定)
  • 2018年10月27日(土)千葉県 幕張メッセ国際展示場1~3ホール
  • 2018年10月28日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場1~3ホール
米津玄師(ヨネヅケンシ)
1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなど、アートワーク面でも才能を発揮。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブにあたるワンマン公演「Premium Live 帰りの会」を東京・UNITで開催した。2015年10月に3rdアルバム「Bremen」をリリース。2017年2月にはテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマ「orion」を、6月にはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」のオープニングテーマ「ピースサイン」をそれぞれシングルとしてリリース。8月にはアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」主題歌「打上花火」の作詞・作曲・プロデュースを担当した。11月に菅田将暉や池田エライザなどが客演として参加した4thアルバム「BOOTLEG」をリリース。オリコンをはじめ、トータル23のランキングで1位を獲得した。アルバム発売日から年をまたいで行われたワンマンツアー「米津玄師 2017 TOUR / Fogbound」の追加公演は東京・日本武道館で2DAYS開催され、いずれの日程のチケットもソールドアウトした。2018年3月にTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」を表題曲とするシングルをリリース。10月27、28日には千葉・ 幕張メッセ国際展示場1~3ホールを使ったキャリア最大規模の単独公演の開催が予定されている。