米津玄師|オリジナルってなんだ? “海賊盤”に詰め込んだ美と本質

“奇跡的な瞬間”を表現したい

──今おっしゃったようなことがより明確に表れているのは、菅田さんが参加した「灰色と青」なんじゃないかと思います。まさに2人の声が重なることで成立するような曲になっている。これはどういうモチーフから作った曲なんですか?

まず僕は「キッズ・リターン」っていう映画がすごく好きで、ああいうものが作りたかったんです。高校生が自転車に2人乗りしてる場面から始まって、2人はかたやボクサー、かたやヤクザという別々の道に進む。そしてお互いダメになって、また元に戻って……という、その構図がすごく美しい映画で。「この映画のような音楽をいつか作れないかな」っていう思いがずっと頭の中にあったんです。

──なるほど。だから青春の記憶がモチーフになっている。

それともう1つ、これはまた全然違う話なんですけど、“奇跡的な瞬間”というものを表現したいとずっと思っていたんです。例えば友達と話しているときに同じタイミングで同じ発言が出てきたときとか、他人が自分の前を歩いていて、自分はイヤフォンで音楽を聴いていて、その全然関係ない人の歩くテンポが自分のイヤフォンの中から流れてくる音楽のBPMとまったく一緒だったりとか。そういう瞬間が自分の人生の中で何回かあった。それはものすごく……得も言われないような瞬間だなとずっと思っていて。「この人だったら120%わかり合えるんじゃないか」と感じる瞬間、「この日のために生まれてきたんじゃないかな」とすら思える瞬間というのがある。本当に一瞬のことなんだけれど、その刹那的な、奇跡的な瞬間というものを音楽で表現できないかと思っていた。この思いも自分の頭にずっとあったんです。

──それを菅田さんと一緒に表現しようと思ったのは?

彼は自分にとってすごく気になる存在だったんです。初めて観たのは「そこのみにて光輝く」で、「デストラクション・ベイビーズ」「溺れるナイフ」そして「何者」と、知り合いの監督だったり自分の関わっている作品に出演していて、人生のタイムラインにたびたび顔を出す、無視できない存在で。どこかで「同じような何かを持ってるんじゃないか」って、勝手に思っていて。菅田くんとであれば、奇跡的な瞬間と「キッズ・リターン」のような表現、両方が生まれるんじゃないかと思った。それで声をかけました。

──この「灰色と青」は、いろんな音楽の文脈が1点で交わっている曲ですよね。Bon IverやFrancis and the Lightsなど海外の最先端の音楽に使われているハーモニーのエフェクトがある。曲自体にはBUMP OF CHICKENやRADWIMPSのような、米津さん自身のルーツも生きている。そして、同世代でおそらく同じような音楽を聴いて育ってきたであろう菅田さんの熱い声がある。比べると、米津さんの声にはひんやりとした感触がある。その温度感の違いも、曲の世界観につながっている。まさにこの2人じゃないと成し得ない曲になったと感じます。

本当にそう思います。確実に菅田くんとじゃないと成立しなかった。彼とは似てる部分があると勝手に思ってるんですけど、育ってきた環境は全然違うし、そもそも俺は音楽家で、向こうは俳優だから表現方法も全然違う。それでも、やっぱりどこかに共通した何かを感じる。そのバランス感が本当にちょうどよかった。9月にレコーディングしたんですけど、2017年の夏から秋にかけての曖昧な時期、本当にその一瞬にしか成立しなかった曲だと思います。

“過剰なオリジナリティへの信仰”に対する答え

──「灰色と青」はアルバムを象徴する曲だと思うんですが、一方で、中盤に置かれた「Moonlight」も非常に重要な曲だと感じました。

これは最後にできた曲ですね。

──Twitterに「新しいアルバム、13曲のつもりだったけど14曲に増えた」と書かれていましたね。それがこの曲?

そうです。この曲ができたことによって、アルバムがより具体的なものになった。この曲が「BOOTLEG」という作品を端的に表現していると思います。最後にだるまの目玉を書くような感覚でした。この曲があるのとないのとでは全然違った。

──この曲はなぜ必要だったんでしょう?

うーん……このアルバムが持っている空気感や「BOOTLEG」っていうタイトルにもっと接近しなければならないと思ったんです。皮肉っぽい言い方のタイトルにはなってるんですけど。

──「Moonlight」には「本物なんて一つもない」という歌詞がありますよね。そこにも「BOOTLEG」というタイトルに通じる意味合いを感じました。

今回のアルバムは、自分の中ではオマージュのアルバムだと思っているんです。それは、「3月のライオン」や「僕のヒーローアカデミア」「ルーヴルNo.9」のようなタイアップ作品へのオマージュというのもあるし、初音ミクとかエライザとか菅田くんへのオマージュでもある。「Moonlight」っていう曲も、フランク・オーシャン以降のR&Bの空気感に対するオマージュである。それは自覚的にやっているんです。それをやることによって過剰なオリジナリティへの信仰みたいなものに対して自分なりに解答を出したかったっていうのがあります。

──米津さんの言う“過剰なオリジナリティへの信仰”とは、どういうことでしょうか。

これは昔からふつふつと思っていたことではあって、ここ最近に始まったことではないんですけど……1つのきっかけになったのは「砂の惑星」ですね。あの曲には、歌詞の中に昔の……金字塔的な、ボカロ界隈の曲のタイトルとか歌詞をオマージュとして入れ込むパートがあるんです。そうすることでしか表現できないことがあるなと思ったからやったんですけど、それによって「勝手に人の曲を使うなよ」みたいなことを言われたんですよ。面と向かって「もし自分の曲があんなふうに誰かの歌詞の中に使われたらイヤだろう?」みたいなことも言われたりして。でも僕は「イヤなわけないじゃん」って思うんですよ。だって、音楽ってそうやって作っていくものじゃないですか。ロックとかジャズとかヒップホップとかR&Bとか音楽にはいろいろな型があって、それをクロスオーバーしつつ、なるべく自由に泳いでみようじゃないかっていう、そういうものだと思ってるんですよ。

──そうですね。これは自分自身の考えとして言っておこうと思うんですが、例えば、何かと何かが似ているということだけを指摘して、作り手でもない第三者がそれを「パクリだ」とこき下ろすような風潮がある。そういう考え方は、僕は端的に文化への冒涜だと思います。

米津玄師(Photo by Jiro konami)

そうですよね。“パクり”っていうのも曖昧なもので、どこからどこまでパクりなのかとか、そういうことは自分が決めるものではないっていうのがまずある。いろいろ言われるじゃないですか、「バレるとヤバいのがパクりだ」とか「リスペクトがあるのがオマージュだ」とか。でもそのラインもあやふやなんです。そこに対して過剰すぎる人がいるのが、やっぱり気に食わないんですよね。例えるなら、木の絵を描いたことに対して「これは木のパクリだ」みたいなことを言っている人がすごく多いような気がする。いろんな文脈があって、その歴史があって、自分はその歴史の最先端の今というところでものを作っているわけで。いろんな場所から何かをピックアップしながら今の自分が生まれていると思うんですよ。そういったことを、アルバムを通してわかりやすく伝えることができないかな、とはずっと思ってました。

──「BOOTLEG」というタイトルがその象徴なわけですね。皮肉めいた言葉だけれど、米津玄師の作品というものは今語ったような“過剰なオリジナリティへの信仰”が定義する“オリジナル”ではない。いろんなものを摂取して吸収して、その土台の上にできたオリジナルであると。そこにこそ美しさが宿ると言うか。

そうですね。誰も見たことのないもの、聴いたことのないもの、という意味でのオリジナルなものをどんどんを突き詰めていけば、最終的に残るのはノイズみたいな異物にしかならないと思うんです。それはそれで美しいと思うけど、自分がやりたいのはそういうものではない。自分が作りたいものは普遍的なものであって、それはいろんな人間の根本に流れている何かだと思うんです。時代を体現できるものにしたい。そう考えると、やっぱりどこかで聴いたことがあるものなんですよね。だから、そういう過剰な意味を込めて“オリジナリティ”という言葉をあえて使うのであれば、俺はオリジナリティなんてどうでもいいと思っている。そういう気持ちがすごく強いです。

自分にはやれることがある

──収録曲の話に戻りますが、アルバム1曲目の「飛燕」という曲も印象的でした。とてもエネルギッシュで疾走感のある曲ですが、これはどういうイメージで作っていたんでしょうか。

これは自分のことを書きました。自分が音楽を作って生きていくうえで「こうありたい」と思うことを詰め込んで抽出したら、ただこういう曲になった感じです。曲のイメージのもとになったのは「風の谷のナウシカ」ですね。「風の谷のナウシカ」のマンガ版を読みながら書いたんです。マンガ版の「ナウシカ」は子供の頃からものすごく好きで、めちゃくちゃ影響を受けて育ってきたし、ナウシカという人間に対しても魅力を感じていて。彼女は慈愛に満ちあふれていて、優しさや母性も持っている反面、怒りに我を忘れて人を傷付けたり殺したりする、そういう混沌とした狂気的な部分も併せ持っている。その両面性に彼女自身が振り回されながら、それでもよりよい未来、美しいと思う未来に向けて邁進していく。そういう姿が本当に美しいなと思っていて。「自分もこういうふうに生きたい」とずっと思ってきたんですよね。だから、この曲は自分のことを歌っているつもりだけど、けれどそれは同時にナウシカのことを歌っている曲でもある。そんな感じです。

──今、米津玄師の音楽に惹かれている人は、かつて米津さんがナウシカに憧れたような気持ちを持って、米津さんの音楽を聴いていると思うんです。「こんなふうに自分もなりたい」と思っている人も多いと思う。そういう意味で、ある種のヒーローであることを引き受けるような曲だと思いました。

自分のことを好きで聴いてくれている人に対して、自分がヒーローになりたいのかどうかって言われると自分でも難しいんですけど。こっ恥ずかしくなるような瞬間も、そんなタマでもねえなと思う瞬間もあるし。でもやっぱり、自分にはやれることがあると思うので。自分は音楽を作ること、メロディと言葉を織り交ぜて構築していくことに適性があると自信を持ちながらやってきているつもりではあるんですね。そういう人間にやれることはなんだろうと考えるんです。それは後ろから吹いてきた風に煽られるようなことなのか、では、その風を受けて自分はどこに向かっていくのかという。向かう先は自分にもわからないけれど、少しでも美しいほうに向かっていたい。少しでもよい世界になってほしい。そういう気持ちが強くありますね。

米津玄師「BOOTLEG」
2017年11月1日発売 / Sony Music Records
米津玄師「BOOTLEG」初回限定ブート盤

初回限定ブート盤
[CD+12inchアナログ盤ジャケット+アートイラスト+ポスター+ダミーレコード]
4860円 / SRCL-9567~8

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米津玄師「BOOTLEG」初回限定映像盤

初回限定映像盤 [CD+DVD]
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米津玄師「BOOTLEG」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / SRCL-9571

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CD収録曲
  1. 飛燕
  2. LOSER
  3. ピースサイン
  4. 砂の惑星( +初音ミク )
  5. orion
  6. かいじゅうのマーチ
  7. Moonlight
  8. 春雷
  9. fogbound( +池田エライザ )
  10. ナンバーナイン
  11. 爱丽丝
  12. Nighthawks
  13. 打上花火
  14. 灰色と青( +菅田将暉 )
初回限定映像盤DVD収録内容
  • LOSER Music Video
  • orion Music Video
  • ピースサイン Music Video
  • ゆめくいしょうじょ Music Video

ツアー情報

米津玄師 2017 TOUR / Fogbound
  • 2017年11月1日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2017年11月2日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2017年11月4日(土)兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
  • 2017年11月5日(日)兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
  • 2017年11月8日(水)埼玉県 大宮ソニックシティ
  • 2017年11月9日(木)埼玉県 大宮ソニックシティ
  • 2017年11月18日(土)徳島県 鳴門市文化会館
  • 2017年11月19日(日)愛媛県 松山市民会館
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 福岡サンパレス
  • 2017年11月24日(金)福岡県 福岡サンパレス
  • 2017年11月26日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
  • 2017年11月29日(水)新潟県 新潟県民会館
  • 2017年12月1日(金)北海道 ニトリ文化ホール
  • 2017年12月7日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2017年12月9日(土)福島県 郡山市民文化センター 大ホール
  • 2017年12月14日(木)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
  • 2017年12月16日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2017年12月17日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2017年12月23日(土・祝)岡山県 岡山市民会館
  • 2017年12月24日(日)広島県 上野学園ホール
米津玄師 2018 LIVE / Fogbound
  • 2018年1月9日(火)東京都 日本武道館
  • 2018年1月10日(水)東京都 日本武道館
米津玄師(ヨネヅケンシ)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、総合2位の「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブのワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。2016年にはルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして、新曲「ナンバーナイン」を書き下ろし、同年9月に両A面シングルとして「LOSER / ナンバーナイン」をリリース。10月には中田ヤスタカとタッグを組み、映画「何者」の主題歌「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を発表、12月には初の単行本「かいじゅうずかん」を発売した。2017年2月にテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマを表題曲とする「orion」をリリース。6月にはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」のオープニングテーマ「ピースサイン」をリリース。8月には、初音ミク「マジカルミライ2017」のテーマソング「砂の惑星」をハチ名義として、映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の主題歌をDAOKO×米津玄師名義としてプロデュースした。11月に4枚目のオリジナルアルバム「BOOTLEG」を発表する。