音楽ナタリー Power Push - 米津玄師
「Bremen」を目指してたどり着いた場所
米津玄師が3rdアルバム「Bremen」を完成させた。このアルバムはネットシーンから登場し、ライブを経てより広い表現をするようになった彼にとって、1つの到達点となるような作品に仕上がっている。
アルバムタイトルはグリム童話の「ブレーメンの音楽隊」に由来するものだという。新作で目指したものについて米津に深く語ってもらった。
取材・文 / 柴那典
今の自分は「ブレーメンの音楽隊」
──「Bremen」を作り上げて、手応えはありましたか?
すごくいいアルバムになったと思うのと同時に、作り終わった瞬間にすごく自己嫌悪に陥りました。
──2ndアルバム「YANKEE」(参照:米津玄師「YANKEE」インタビュー)のときにもそう言ってましたね。
はい。1stアルバムの「diorama」ではまったくそういう気持ちにはならなくて、この気持ちは2ndアルバムが完成したときに初めて経験したんです。今回は「ヘンテコで誰も聴いたことがないようなものを作ろう」とか「できる限り変な音にしよう」という今までの活動の中で培ってきた考えを取っ払ったアルバムにしようと思った。それはとてもうまくできたと思います。ただ、まだみんなに聴かせてない状態なので、果たしてこれで本当によかったんだろうか、好意的に受け取ってもらえるんだろうかということを感じてます。
──アルバムタイトルは「Bremen」。そして今作を引っさげたツアーのタイトルは「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」です。この2つからはグリム童話の「ブレーメンの音楽隊」を想起しますが、それをイメージして付けたものなんでしょうか?
その通りですね。このアルバムのタイトルは6曲目の「ウィルオウィスプ」っていう曲を作っているときに思い付いたんです。「ウィルオウィスプ」の歌詞には「ブレーメンの音楽隊」を想起させるような箇所があって。
──「犬も猫も鶏も引き連れ街を抜け出したんだ」という部分ですね。
それは明確に「ブレーメンの音楽隊」をイメージしながら作ったからそうなったんです。歌詞を書くときにそれがどういう話だったのかをもう一度おさらいしようと思って「ブレーメンの音楽隊」について調べたんですよ。この物語は今いる場所に疲れてしまった動物たちがそこから脱走して、ブレーメンに向かう旅をするっていう話で。それが今の自分とすごくリンクする部分があるなと思って、すごく腑に落ちたんです。その瞬間にアルバムタイトルは「Bremen」にしようと思いました。
「ウィルオウィスプ」でパズルのピースがハマった
──前のアルバムのタイトルは「YANKEE」で、これは「移民」という意味だということを言っていましたよね。「新天地を目指してアメリカにたどり着いた人たちのことを指す」と。そこからのつながりはありますか?
はい。「YANKEE」と地続きになっている部分もあると思います。「Bremen」の制作中に自分が「YANKEE」のときにやったことを思い返して、あれはまだ途中段階だったのかもしれないという感覚があったので。
──途中段階だった?
「YANKEE」はさっき言ったようにそれまでの自分が培ってきた、ヘンテコな音、不思議な音の使い方をした曲が半分くらい、もう半分は全然違う新しく作り上げたものでできた作品で。だから次に作るアルバムはヘンテコな音をという考えを全部取っ払って、「YANKEE」より踏み込んだものにしたいと考えていました。
──思わず惹きつけられるような奇妙なものではなく、誰が聴いても美しいと感じるようなものだけで1枚のアルバムをきちんと作り上げたいという意志があったということ?
そうですね。今回はなるべく自分というものを曲の中から排除して、普遍的でみんなが共感できるアルバムにしようと思って作りました。今まで長いこと自分1人だけでやってきたし、「YANKEE」のときにはまだその影が少し残っていたと思うので。
──僕、もう1つ「Bremen」のタイトルが象徴的だと思うことがあるんです。「ブレーメンの音楽隊」のあらすじって、居場所のない動物たちが集まって一致団結するわけですよね。その童話のモチーフをタイトルに借りたアルバムが「アンビリーバーズ」という曲から始まる。前回のインタビュー(参照:米津玄師「アンビリーバーズ」インタビュー)で語ってもらったように、自分と似たような境遇の人たちの気持ちを「僕ら」という言葉を使って代弁したことがこのアルバムにつながっているんじゃないかと思いました。
「アンビリーバーズ」を作っている段階では、まだ「Bremen」というタイトルはなかったんです。でも明確に「僕ら」という言葉を使って、誰かを引っ張っていく音楽を作っていた。そこには自分がそういう存在になるべきなのかもしれないという意思があったと思います。その後に「ウィルオウィスプ」を作って、パズルのピースがハマったような感覚があった。自分の中から出てきた「ブレーメンの音楽隊」というキーワードによって、「アンビリーバーズ」を作っていたときにはまだあんまりよくわかっていなかった“みんなを引っ張っていきたい”という気持ちに気付かされたというか。すごく不思議な感覚でした。
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- ニューアルバム「Bremen」 / 2015年10月7日発売 / UNIVERSAL SIGMA
- 「Bremen」初回限定 / 画集盤
- 初回限定 / 画集盤 [CD+画集] 4212円 / UMCK-9772
- 「Bremen」初回限定 / 映像盤、通常盤
- 初回限定 / 映像盤 [CD+DVD] 3564円 / UMCK-9773
- 通常盤 [CD] 3240円 / UMCK-1522
CD収録曲
- アンビリーバーズ
- フローライト
- 再上映
- Flowerwall
- あたしはゆうれい
- ウィルオウィスプ
- Undercover
- Neon Sign
- メトロノーム
- 雨の街路に夜光蟲
- シンデレラグレイ
- ミラージュソング
- ホープランド
- Blue Jasmine
初回限定 / 映像盤 DVD収録内容
- 「アンビリーバーズ」Music Video
- 「フローライト」Music Video
- 「メトロノーム」Music Video
米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊
- 2016年1月9日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2016年1月12日(火)徳島県 club GRINDHOUSE
- 2016年1月13日(水)香川県 高松オリーブホール
- 2016年1月15日(金)大阪府 Zepp Namba
- 2016年1月16日(土)大阪府 Zepp Namba
- 2016年1月22日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2016年1月24日(日)新潟県 新潟LOTS
- 2016年1月26日(火)宮城県 Rensa
- 2016年1月30日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2016年1月31日(日) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2016年2月3日(水)北海道 Zepp Sapporo
- 2016年2月6日(土)東京都 Zepp Tokyo
- 2016年2月11日(木・祝)東京都 豊洲PIT
- 2016年2月12日(金)東京都 豊洲PIT
米津玄師(ヨネヅケンシ)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は800万回を、「パンダヒーロー」の再生回数は400万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」、ハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」の再発盤をリリースした。2014年4月、米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表。同年6月には初ライブとなるワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年1月にシングル「Flowerwall」をリリース。4月には全国ツアー「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」を開催し、10公演を行った。同年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。9月にシングル「アンビリーバーズ」を発表。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」を実施する。