ナタリー PowerPush - 米津玄師
「殴り合ってでも人と関わりたい」メジャー2作目に込めた思い
アレンジをちょっとでも変えられると許せない
──「MAD HEAD LOVE」はバンド形式でミュージシャンと一緒にスタジオで録音しているそうですね。一方「ポッピンアパシー」は全部1人で作っている。この違いは曲のテーマとも結びついているんでしょうか。
最初はそんなに考えなかった気がするんですけど。自分の頭の中に生音っぽいドラムとベースが鳴る躍動的なイメージがあったんで、打ち込みじゃやれないなと思ってて。「ポッピンアパシー」は逆に、全部打ち込みで、デジタル感を強く出したかったんですよね。
──「MAD HEAD LOVE」のレコーディングに参加しているのは中島宏さん、堀正輝さん、須藤優さんという面々ですが、一緒にやってみてどんな感じでした?
すごくいい感じでした。特にギターの中島くんは僕の幼なじみで、小学生から一緒なんです。彼は今大阪に住んでるんですけど、呼び寄せてレコーディングに参加してもらって。彼とは、高校生の頃から僕が曲を作って、それに彼がギターのフレーズを乗せるみたいなことをやってたんで、その頃の延長みたいな感じでやり取りしながらアレンジを詰めていけて楽しかったです。ドラムの堀さんとベースの須藤さんは最近レコーディングに参加してもらっていて。「MAD HEAD LOVE」を録る以前に3~4曲別の曲を録って発覚したんですけど……僕はプレイヤーにデモのアレンジをちょっとでも変えられると許せない人間であることが判明したんです(笑)。
──完全に自分の頭の中で楽曲が完結しているんですね。
でも「MAD HEAD LOVE」では、プレイヤーの意図でアレンジが少し原曲と変わっても、それでも「いいな」って思うことができたんですよ。それがプレイヤーとの相性がよかったからなのか、自分の心持ちが変わったからなのかはまだよくわかってないですけど。そういう意味では「MAD HEAD LOVE」はいい感じにレコーディングできたなあって思ってます。
──「MAD HEAD LOVE」と「ポッピンアパシー」は、ジャケットの赤と青というテーマカラーも表裏一体を表現したものになっていますね。こういうアートワークは、サウンドが完成してからできたものだったんでしょうか。
赤と青という対比が最初にあったかどうかって言われるとちょっと危ういんですけど、ジャケットのイラストは曲を作り終えてから描きました。そもそもこのシングルって、表題曲が「MAD HEAD LOVE」のみだったんですよ。でもその後試行錯誤しながらジャケットのイラストを描いていくうちに、「MAD HEAD LOVE」のジャケのキャラクターが後ろを向いてるっていうデザインの「ポッピンアパシー」のジャケのイラストもできたんですね。描いているうちにこういう形になった。で、こうできてしまった以上両方一緒の扱いを受けなければおかしいと思って。だから結局両A面になったのは、ジャケットのイラストがきっかけという部分もあるんです。
──両A面っていうよりは、本当に「表裏一体」だったという。
そうですね。どっちかを表題曲にしちゃうと、どうしてもA面、B面みたいな見え方になっちゃうじゃないですか。どっちか1つに重点が置かれて、偏っちゃうっていう。それは自分としてはあまり納得のいくことじゃなかったんです。
やらねばならぬことがある
──今回の2曲はさっき言った「いい湯加減のもの」というより、どちらも極端なものに仕上がったという気がします。
そうですね。大前提としてすごくいい曲を作ったって自負しているんですけど、「極端なことしたなあ」とも確かに思います。でもさっき言ったように、ポップで王道なこともやりたいんです。とはいえ、それは難しいなとも思うんですよね……王道進行ってダサいじゃないですか? そうなってくると自分の自意識との戦いなんですよ。これダセえよなあとも思いつつも、でも気持ちいいという葛藤が自分の中にあって。それをどう律していくのか、それが今後の自分の課題でもありますね。
──課題ですか。ちなみに、今は曲を作っているのでしょうか?
はい。今は本当に大変な時期で。
──それは「サンタマリア」後の自分がどこに向かっていくかというのを1歩1歩確かめてるような感じ?
そうですね。曲作りにおいて密接に1曲と関わりすぎて、「お前はいったいどういう曲で、俺のどういう部分から出てきたんだ」みたいなことになってる。蜜月になりすぎてお互いのことがよくわかんなくなってる恋人同士みたいな。
──なるほど。では、それを乗り越えた先に完成するものを楽しみにしています。
ありがとうございます。次のリリースはしばらく先になってしまいそうですが、今はやらねばならぬことが自分の中にあるので、それと向き合わなきゃなと思っています。
- ニューシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」 2013年10月23日発売 / UNIVERSAL SIGMA
- 「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
- 「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
- 「通常盤」[CD] 1260円 / UMCK-5447
CD収録曲
- MAD HEAD LOVE
- ポッピンアパシー
- 鳥にでもなりたい
初回限定盤DVD収録内容
- MAD HEAD LOVE Music Video
- ポッピンアパシー Music Video
※初回限定盤のみ本人別イラスト描き下ろしのスリーブケース仕様。
収録曲
- Persona Alice
- WORLD'S END UMBRELLA
- Mrs.Pumpkinの滑稽な夢
- バウムクーヘン
- clock lock works
- Ghost Mansion
- Qualia
- 恋人のランジェ
- 花束と水葬
- ハチ名義の2ndアルバム(リイシュー)「OFFICIAL ORANGE」 [CD] 2013年10月23日発売 / 2000円 / REISSUE RECORDS / DDCZ-1916
- 「OFFICIAL ORANGE」
収録曲
- パンダヒーロー
- 演劇テレプシコーラ
- リンネ
- 神様と林檎飴
- 結んで開いて羅刹と骸
- 沙上の夢喰い少女
- 病棟305号室
- 眩暈電話
- マトリョシカ
- 白痴
- ワンダーランドと羊の歌
- 遊園市街
米津玄師(よねづけんし)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVOCALOID楽曲の投稿をスタートし、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は500万回を、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」の再生回数は300万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションのMVも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月23日にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」をリリースするほか、同日にハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」を再発する。