ナタリー PowerPush - 米津玄師
「殴り合ってでも人と関わりたい」メジャー2作目に込めた思い
ボーカロイドシーンの土壌がよかった
──ナタリーに初登場したときのインタビュー(参照:米津玄師1stアルバム「diorama」インタビュー)では、米津さんは思春期の頃、BUMP OF CHICKENをよく聴いていたという話をしていましたよね。でも先ほど例に挙げたような米津さんの音楽の特徴はバンプの音楽には明らかにない要素だと思うんです。
やっぱり曲を作るにあたり、他人と同じことしていてもしょうがないっていうのが第一にありましたからね。あと、ボーカロイド曲から作り始めたのがよかったのかもしれないなあって。打ち込みで作っていると、ドラムもベースもなんでもありになるんですよね。ハチ名義で作った曲って、実際にドラムで再現しようとすると腕が3本ないと叩けないフレーズが入っていたりするんです(笑)。それって“リアルなドラムはこう”みたいなものを知らなかった自分の無知から生まれたもので。ガチャガチャといろんな音を重ねてとっ散らかったような曲ができても、それが普通のレコーディングではやらないことであるっていう認識もなかったし。だから、いい意味で型みたいなものをまったく知らない頃から人の目に触れる土壌で育ってきたんだと思います。おそらく無意識下に、「何をやってもいいんだろう」という感覚もあったんでしょうね。
──ではメロディに関してはどうですか? 米津さんの書くメロディって、独特の節回しがあると思うんです。端的に言うと、ゆったりと大きな弧を描くというより、細かく上下に飛び回るような感じがする。これも特に由来があるわけではない?
そうですね。自分ではいいメロディを作ってるっていう感覚はあって、ボーカロイド曲を作っていた頃もメロディの振り幅の大きさは自覚していました。他人から言わせればすごい一貫性があるみたいで、「お前が作ったものは一発でわかる」って言われたんですよ。でもそこに何か特徴があるかと言われれば、自分ではあんまりよくわからないんですけど。
──では自分の心地よさに忠実に作った結果というか、生理的な気持ちよさがああいうメロディの由来だったりするんでしょうか?
まあ生理的に気持ちいいと思えるものじゃなきゃやっぱり嫌なんで、誰でもそうだと思うんですけど。変な言い方かもしれないですけど、メロディが独特だと言われるのは「自分の快感ポイントのおかげ」って思うことがあって。自分が快感を覚える部分が他人にとっては独特というか……それは自分の恵まれた部分だなあと思いますね。でもやっぱりポップなもの、いわゆる“王道”っぽいコード進行も気持ちいいし、どうしてもグッとくるから、自分の作品でも王道なものをやりたいなとも思いますね。
殴り合うような関係も「愛情」
──今回のシングルでは、曲のテーマはどう生み出していったんですか? そもそも最初から2曲で1つというテーマで作り出していったものなのでしょうか。
そうですね。最初から2曲を表裏一体として作ろうと思っていました。「ポッピンアパシー」が鬱屈としたネガティブな曲で、「MAD HEAD LOVE」がポジティブ……ポジティブって言い方もおかしいかもしれないですけど、ハイテンションな曲。どっちも自分の中に内在するものであって、なんとなく「このタイミングで作っておくべきだ」と思ったんですね。
──「MAD HEAD LOVE」は歌詞に何度も出てくるほど“愛”が曲のテーマになっていますね。
ええ。誰かを愛するって、「お互いを慈しみ支え合う」みたいな一般的に言われる意味合いの愛情ばかりではないなと思ったことがきっかけで。
──というと?
自分はずっと1人で作曲してきたんで、1人でいるってことがどういうことかはよくわかっているつもりでいるんです。1人でいる時間って、ものすごく寂しいんですよね。寂しくて「誰かと話をしたい」と強く思う。さらにそれだけじゃなくて、あらゆることに無関心になるし、気付けば夏から秋になっていたみたいなこともある。それがものすごくしょうもないことだなあと感じて、誰かと愛し合いたいと思うことがあったんです……この曲を作るだいぶ前の話ですけど。そうなると、どんな形でもいいから誰かと関わりたくて。その関わりっていうのは、共感し合ったり、お互いの傷をなめ合うことばかりではないんですよ。「MAD HEAD LOVE」の歌詞にも書いたように、自分の意志と相反する人間と殴り合ったり、「お前の言ってることなんて絶対に間違いだ」って言い合えるような関係って羨ましいことだなって思って。
──そもそも1人でいたらそんなことできませんからね。
やっぱり人間が希望を持って情熱的に生きるためには、そういうふうに血みどろにならなきゃいけないんだろうなって感じたんですよね。自分は今までいろんなことに対して斜に構えて、直接的な関わりみたいなものに対して消極的になって後回しにしてきた人間なんで、真正面から向き合うことをしなかった。そういう生活をずっと続けていると、やっぱりこれは人間の生き方としてすごくいびつなことをしているって気付くんですよ。だから真正面から人と向かい合って、「お前の言ってることは間違ってる」とか「お前は悪い人間だ」とか、辛辣なまでにそういうことを言い合うのも「愛情」といっていいんじゃないかって思ったんですね。
──なるほど。「ポッピンアパシー」は「無感情」とか「無関心」がテーマだと思うので、そういう意味でもやはり表裏一体の関係ですね。
そうですね。例えば殴り合ったり髪の毛を引っ張り回したりするようなすごい喧嘩をしている人ってたまに見るんですけど、そういうのって「アホだなあ」とも思いながらも、ものすごく美しいなとも思うんですね。その瞬間、喧嘩してる2人の世界にはお互いしかいないんですよ。自意識なんてものはほとんど吹っ飛んじゃってて、相手に対する憎しみしかない。愚直であるっていうのはすごく美しい、というか。「他人からどう見られるんだろう」とか「こう思われるかもしれないからこういうことは言わないようにしよう」みたいな打算って、自意識を持ってる人間なら誰しもあると思うんです。でもそれがほとんどない人間って、すごく美しいと思う。何の屈託もなく笑ったり怒ったり泣いたりできる人間って、素晴らしいんですよね。そういう自分の中の理想が反映されているのが「MAD HEAD LOVE」だという。
──ここまで話を聞いていると、「MAD HEAD LOVE」と「ポッピンアパシー」がポジティブとネガティブという分け方は、ちょっと違うかもしれないですね。言うなれば、同じ水でも思いっきり沸騰しているのが「MAD HEAD LOVE」で、池の底に溜まっている4度くらいの水みたいな曲が「ポッピンアパシー」というか。
なるほど。それは言い得て妙ですね。
──さらに僕は「MAD HEAD LOVE」はラブソングだと思っているんです。でも世の中にあるラブソングって、ほとんどが“いい湯加減”なんですよね。「MAD HEAD LOVE」はめっちゃ沸騰してるラブソング。
確かに。自分の中では確かにラブソング的な意味合いで作ってるんですけど、これをラブソングだと受け取る人はあんまりいないだろうなと思います。それはまあしょうがないです(笑)。
- ニューシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」 2013年10月23日発売 / UNIVERSAL SIGMA
- 「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
- 「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
- 「通常盤」[CD] 1260円 / UMCK-5447
CD収録曲
- MAD HEAD LOVE
- ポッピンアパシー
- 鳥にでもなりたい
初回限定盤DVD収録内容
- MAD HEAD LOVE Music Video
- ポッピンアパシー Music Video
※初回限定盤のみ本人別イラスト描き下ろしのスリーブケース仕様。
収録曲
- Persona Alice
- WORLD'S END UMBRELLA
- Mrs.Pumpkinの滑稽な夢
- バウムクーヘン
- clock lock works
- Ghost Mansion
- Qualia
- 恋人のランジェ
- 花束と水葬
- ハチ名義の2ndアルバム(リイシュー)「OFFICIAL ORANGE」 [CD] 2013年10月23日発売 / 2000円 / REISSUE RECORDS / DDCZ-1916
- 「OFFICIAL ORANGE」
収録曲
- パンダヒーロー
- 演劇テレプシコーラ
- リンネ
- 神様と林檎飴
- 結んで開いて羅刹と骸
- 沙上の夢喰い少女
- 病棟305号室
- 眩暈電話
- マトリョシカ
- 白痴
- ワンダーランドと羊の歌
- 遊園市街
米津玄師(よねづけんし)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVOCALOID楽曲の投稿をスタートし、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は500万回を、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」の再生回数は300万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月23日にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」をリリースするほか、同日にハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」を再発する。