音楽ナタリー PowerPush - 米澤円

“鳥と旅するアルバム”ができるまで

「米澤さんといえば?」が詰まったアルバム

──で、そのソロ作がどうなったかといえば、まあ凝りに凝ったものにしましたね。アルバム全体を通して、逃げ出した愛鳥を追うヒロインが、ミクスチャーロックからさわやかなギターロック、さらには電波曲まで、彩り豊かな楽曲群に出会うことで、広い“セカイ”を知るストーリー仕立ての作品になっています。

「デビュー作は声優だからこそできるCDにしたいな」っていう思いがあったんです。自分の持っているいろんな声を使える、いろんな曲を歌ってみたかった。それにぶっちゃけ次のCDが出せるかどうかなんてわからないから、今やりたいことを全部やっておかないともったいないじゃないですか(笑)。

──なんでそんなに卑屈なんですか!(笑)

それはもちろん冗談なんですけど(笑)、でも大切な1枚目だから、今できることを全部詰め込みたかったですし、「声優だからできるCDなんだ」っていうことを特に意識していました。1曲目、5曲目、9曲目、13曲目をナレーションというかセリフだけのトラックにしているのも、声の仕事をしているからこそできることだと思ってますし。

──ストーリー仕立てにしたのはなぜ?

米澤円

アルバムの制作を始めたばっかりの頃に、今回サウンドとストーリーのプロデュースをしてくれた(音楽制作集団)クランジィの鈴木(大記)さんと「いろんな曲を歌うとはいっても、意味や理由もなく、やりたいことをただただ詰め込むことはしたくないよね」っていう話になって。アルバム全体を通して、なんらかの意味のあるものにしたかったので、一本筋の通ったストーリーやコンセプトが欲しかったんです。でもキャラソンとは違う。そのストーリーは米澤円自身を表現するものにしよう、って。それでその鈴木さんとの打ち合わせのときに「『米澤さんといえば?』って聞かれたらなんて答えます?」「その姿に沿った作品にしましょう」って言われたんですけど……。

──結果、米澤円といえば何になりました?(笑)

「鳥」はすぐに出てきたんですが、それ以外はわからなくて(笑)。なのでひとまずこれまでの自分自身の歴史だったり、性格的なものだったりを全部書き出してみたら、そこから何か「私とは」っていうものが見えてくるかもしれないと思って。次の打ち合わせのときにその書き出したものを持っていったら、鈴木さんが「このいろんな米澤さんをストーリー仕立てにしましょう」って言ってくださったんです。

振り返ってみたらいいことばかりじゃなかった

──であれば、アルバム各曲の詞は、米澤さんが書いてこそいないものの、米澤さんの過去や今の姿に寄り添ったものになっている?

そうですね。

──じゃあ米澤さん、過去と現状に対していろいろ考えることがおありのようですね(笑)。

やっぱりわかります?(笑)

──歌詞カードを読めば、たぶん誰もがわかると思います(笑)。ヘビーなミクスチャーロックテイストの「キミと世界エレジー」はタイトルからして“エレジー”=哀歌、挽歌で、歌い出しが「ないものねだり 目を逸らして 憧れてた」。明るいギターロックの「あしたのしおり」ですら「今日も歌うよ あの頃のまま止まった部屋で」と“あした”に希望を見出そうとしているし。

改めて自分自身を振り返ってみたら、いいことも悪いこともいっぱいあったのでこうなっちゃいました(笑)。もともとナレーションのトラック以外、9曲の歌モノのうち最初の曲(2曲目)は物語のオープニングテーマ、最後の曲(12曲目)はエンディングテーマにしよう。そのあいだの7曲で私のいろんな思いや姿を表現しようって話になったんです。

彩り豊かな鳥とパラレルワールドで出会う

──あっ、「キミと世界エレジー」がオープニングテーマで、ヌケのいいポップチューン「ハートフル・ドリーマー」がエンディングということは、米澤さんは最終的には救われている? 「ハートフル・ドリーマー」では「明日こそは飛べるはずだから」と歌っているし、最後のナレーショントラック「-最初-」では「あーした天気になあれ」とまで言っているわけですから。

そうですね(笑)。ただそういう気持ちに至るまでにはいろいろあって……。それも徐々にいろんなことが起きるというよりも、並行世界、パラレルワールドになっている感じなんですよね。例えば「忘想花」は自分の思いを伝えきれずなげくストーリーを四季折々の歌詞で表現していたり。一方で「煉獄スカーレット」のように、自信がない自分を一生懸命好きになって羽ばたこうとしたり。今回のアルバムの曲にはそれぞれ、テーマとなる鳥が設定されているんですけど、過去や今の姿に寄り添ったいろんな私を歌うこと=私と同じ思いを持つ鳥たちに出会うことで、それぞれの悩みが解消されて、アルバムのエンディングテーマである「ハートフル・ドリーマー」を歌うというストーリーになってるんです。

──確かに「忘想花」にはウソ、「煉獄スカーレット」にはクルマサカオウム、「擬態スマイル」にはクジャク、「LINKS」にはオカメインコと、それぞれの曲にテーマとなる鳥が設定されてますね。この鳥選びの基準って?

米澤円

基本的には楽曲のストーリーとそれぞれの鳥を見て思い浮かぶイメージを合わせてみました。例えばウソって名前自体がちょっと面白いし、ちゃんと言葉として意味のある単語になっているじゃないですか。だから、つい気持ちにウソをついてしまう「忘想花」のイメージに重ね合わせてみていて、「煉獄スカーレット」のクルマサカオウムは世界一美しい鳥って呼ばれているんですけど……。

──なぜその世界一美しい鳥を、ゴシッキーでちょっとエグいハードロック「煉獄スカーレット」に?(笑)

あはははは(笑)。でも当たり前の話なんですけど、クルマサカオウムのことを美しいって言っているのは鳥自身ではなくて周りの人たちなので、逆に自信を持てない子がいてもいいなって。だから楽曲自体は派手なんだけど、自信を持てない自分を歌う「煉獄スカーレット」に当てはめてみたっていう感じですね。

1stアルバム「さえずりの夢、彩とり鳥のセカイ」 / 2014年8月6日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / VIZL-648 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 2700円 / VICL-64131 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. -再会-(instrumental)
  2. キミと世界エレジー
  3. あしたのしおり
  4. 忘想花
  5. -昨日-(instrumental)
  6. コロコロココロ
  7. 擬態スマイル
  8. コスモダウト
  9. -胸懐-(instrumental)
  10. 煉獄スカーレット
  11. LINKS
  12. ハートフル・ドリーマー
  13. -最初-(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • キミと世界エレジー Music Video
  • スペシャルメイキングムービー
  • お茶会ムービー(with 伊東久美子, 平野妹)
米澤円(ヨネザワマドカ)

米澤円

大阪府生まれの声優、ボーカリスト。2005年に声優デビューをし、2009年にはテレビアニメ「けいおん!」シリーズの平沢憂役で注目を集め、以来アニメ「Another」の赤沢泉美役、「WHITE ALBUM2」の小木曽雪菜役、「RDGレッドデータガール」の宗田真響役、「ステラ女学院高等科C3部」日向八千代役などを務める。またその一方で声優ライブイベント・Venus Voice GIGを主催するなど、音楽活動も活発に展開。「けいおん!」では平沢憂名義でキャラクターソングを発表し、2014年には「WHITE ALBUM2」の小木曽雪菜名義で、TVアニメ内のボーカル曲を集めた「WHITE ALBUM2 VOCAL COLLECTION」を発表している。そして2014年8月、米澤円名義のコンセプトアルバム「さえずりの夢、彩とり鳥のセカイ」でメジャーデビュー。