音楽ナタリー PowerPush - 矢沢洋子
紆余曲折経て見つけた“大切な場所”
父・矢沢永吉プロデュースがもたらしたもの
──先ほど自分のやりたいことは“パンクやロック”とおっしゃってましたが、その意味では前々作「ROUTE 405」は理想的な作品だったんじゃないですか?
はい。私にとって「ROUTE 405」はすごく大切な作品ですね。大好きなニューロティカのKATARUさんが曲を書いてくれて、作品の全体的な内容についても「これからはこの方向で」と思えるもので。
──でも前作「Bad Cat」では四つ打ちなど方向性が一転しましたよね。
それは父がガッツリすべて牛耳ったからです。
──どういうことでしょう?
ある日突然父が「Bad Cat」をプロデュースすると言い出して、そこからいろんなサウンドが取り入れられるようになったんです。本当に最悪でした……。「ROUTE 405」を出して完全にロックモードだった当時の私にとって、四つ打ちとかホントにあり得なかった。父とも大ゲンカ。あのときは「こんなアルバム、絶対嫌だ!」って大泣きして、大暴れして家出寸前でした(笑)。でも泣こうが暴れようが作品はリリースとなり。
──「Lady No.5」はサウンド的に「Bad Cat」の続編とも言える内容ですよね? 実は今回もいろいろとあった作品なんですか?
それがいろいろありまして(笑)。「Bad Cat」リリース後のマーケティングデータを見てみたら、これまでの作品の中で一番10~20代の人に支持された作品だったのがわかったんですよ。
──あんなにいろいろあった作品が。
最初は私も「なんでっ!?」ってなったんですけど、要は自分のやりたいこと、つまり「ROUTE 405」的なサウンドは一般的じゃないんだなって気付いたんですよ。一部の人たちにしかウケないものだったというか。そう思えたら急に世界が開けて。今回の「NAKED LOVE」のような四つ打ちの曲も自然と受け入れられるようになりました。
──「Bad Cat」が大きな経験になった、と。
はい。あれを経て、いい意味ですごく開き直った今の自分がいる、みたいな。たまには大人の言うことも聞くもんだな、と(笑)。だから「Lady No.5」は胸を張って友達に配れる作品です。
憧れの母
──今作の表題曲「Lady No.5」はどのように制作されたんですか?
この曲は大変だった「Bad Cat」の制作期間中から作ってて、当時は私の心の支えになってました(笑)。
──なぜですか?
THE NEATBEATSの真鍋崇さん(Mr.PAN)に曲を書いてもらったからです。私自身、THE NEATBEATSの大ファンだったので、真鍋さんと一緒にやれることはすごく光栄でした。この曲は私が先に歌詞を書いて、そこから真鍋さんに弾き語りみたいな感じでメロディを付けてもらって。アレンジで曲のイメージや長さがだいぶ変わったんですが、最終形を聴いた真鍋さんは「あの曲がこういうふうに変わるんだ。面白いね」と喜んでくれました。
──歌詞はどんなイメージで書いたんですか?
これは母への憧れを歌っています。母は私が小さい頃からシャネルNo.5という香水をつけていて。シャネルのようなハイブランドって、洗練された女性じゃないと似合わないじゃないですか? でも母はそういう洋服やバッグもカッコよく着こなしていて。そんな思いをそのまま書きました。
──お母さまはどんな人なんですか?
芯があって気が強いけど、優しくて愛情深い。父は母がいなければ、今のポジションにいなかったと思います。これは間違いない。それぐらいすごい人ですよ。で、派手(笑)。
──(笑)。
派手というか、オシャレが大好きなんです。母は昔モデルをやってて。そういえば、父と母が出会うきっかけは、母の友達でバーで働いてる子がいて、その子が風邪をひいちゃったからピンチヒッターとして母に声がかかったんです。母はせっかくピンチヒッターで入ったんだから、「いつもよりも売り上げちゃおう」と気張って、友達に「今日、私がバーでピンチヒッターしてるからいっぱい友達連れてきて」って電話したそうなんです。そこで父にも声がかかって2人は出会ったそうですよ。
──その話、かなりすごいですね!
そこからずっと一緒にいるんで、人生って面白いですよね。私もあっこびんたちと出会えたのがそういう偶然だったし。
──お母さまは洋子さんにはどのような影響を与えてると思います?
うーん、どうだろう。全部かもしれない。人との付き合い方がちゃんとしてる部分とか、女性としての所作に厳しいところとか。母からは今もいろんなことを教えてもらっています。
──「Lady No.5」ではPVも撮られたそうですね。
はい。PVにはTHE NEATBEATSのメンバーに参加してもらってるんです。撮影前はTHE NEATBEATSは「みんなスーツで来るんだろうな」って思ってたら、全員革ジャンで。「なんで?」って聞いたら、真鍋さんが「『Lady No.5』は革ジャンや」って(笑)。演奏シーンもかなり締まった映像になっているんで楽しみにしててください。
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収録曲
- NAKED LOVE
- BLACK SUNSHINE
- 東京騒音 スクランブル
- Walk Like An Egyptian
- Lady No.5
- ガラクタ
矢沢洋子(ヤザワヨウコ)
東京出身の女性ボーカリスト。12歳のときに家族とともに米ロサンゼルスに移り住み、高校卒業後帰国。2008年10月にthe generousとしてメジャーデビュー。その後アーティスト名を本名・矢沢洋子にし、2010年8月に1stアルバム「YOKO YAZAWA」をGARURU RECORDSからリリースする。精力的なライブ活動を行いつつ、2011年8月に2ndアルバム「Give Me!!!」を発表。さらに2012年10月には矢沢洋子&THE PLASMARS名義のミニアルバム「ROUTE 405」をリリースした。2013年に矢沢永吉プロデュースのミニアルバム「Bad Cat」、そして2014年7月にミニアルバム「Lady No.5」を届ける。同作の表題曲はTHE NEATBEATSのMr.PANこと、真鍋崇が作曲している。