「眠れない夜、あなたの心を奪う」をコンセプトに掲げる、岐阜県出身の3ピースバンドYobahi。その素顔や年齢は明かされていないが、物語性のある音楽で着実にバンドの名を広めている。そんな謎めいた彼らが、11月27日にメジャーデビューEP「ツララ」をSACRA MUSICからリリースした。EPの表題曲はテレビアニメ「青の祓魔師 雪ノ果(ゆきのはて)篇」のエンディングテーマ。自分の気持ちに素直になれず、つい心を閉ざしてしまうキャラクター・奥村雪男に寄り添ったミディアムバラードだ。
音楽ナタリーではYobahiの背景を知るべくメンバー3人にインタビュー。結成の経緯やルーツから、メジャーデビューEPの制作過程、今後のビジョンまでじっくりと話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 梁瀬玉実
また一緒に、今度は本気でやってみない?
──Yobahiというバンドはどういう流れを経てここまでたどり着いたのか、その流れを教えていただけますか?
Nagare(G) 僕たちは全員岐阜出身で、今も岐阜在住なんですけど、もともとは僕とNakatsuが高校の同級生で、出席番号が前後ろだったんです。しかもクラス替えもない学校で、3年間ずっと一緒。最初はあまり仲がよくなくて、むしろ苦手だった(笑)。
Nakatsu(Vo) 僕が前の席だったので、Nagareによくちょっかいをかけていたからですね(笑)。
Nagare そういう関係が3年生まで続いたんですけど、ちょうど高3の夏にNakatsuが映画「BECK」を観て「バンドをやりたい!」と言い出して。僕も同じ頃にGReeeeNとかの曲の弾き語りをやりたくなったんですね。それをNakatsuに相談したら「おお、いいね! アコースティックギターを買うの、付き合ってあげるよ」と。
King(Dr) そういう感じだったんだ(笑)。
Nagare そうそう。全然知識がないから知ってる人に教えてもらおうと思って、ハードオフに買いに行って、そこで黒のストラトキャスターを渡されたんですよ。
──アコギじゃなくてエレキじゃないですか(笑)。
Nagare 「これを買えば大丈夫! あとはシールドとか買って」と嘘をつかれて(笑)。当初のイメージとは違ったんですけど、その日を境にNakatsuからいろんなロックの曲を嫌というほど聴かされて、その流れでバンドを組んだのが原点ですね。ただ、そのバンドは高校卒業と同時に終了してしまって。
Nakatsu 僕は大学に進学したのと同時に関東でバンド活動を始めて、Nagareは地元で社会人になり。彼はずっと僕のことを応援してくれていたんですけど、そのバンドが解散してしまったんです。そこでNagareのことを思い出して、「また一緒に、今度は本気でやってみない?」と声をかけたら、次の日にはもう会社を辞めていて。
Nagare 翌日に辞めました(笑)。
Nakatsu Nagareは営業マンで、仕事がすごくできるんです。これはバンドに一番必要な人材だと思って、真っ先に声をかけました。
Nagare 本気で音楽で成功したいのにもかかわらず、高校時代に2カ月しか楽器を触ったことがない僕を誘うのがすごいなと思って。その心意気がうれしくて、すぐにOKしました。
Nakatsu ここまではまだYobahiではなくて、前身バンドの話なんですけどね(笑)。そのときはYobahiとは違ったタイプのバンドをやっていたんですけど、自分たちの中ではわりと無理している感があったんです。そのタイミングで「顔出しをしてない男性だけのバンドって意外といないよな」と思って。それを実現させようとしていきなりバンド名を変えて、何か得体の知れないものを作ろうというところから始まったのがYobahiです。
──なぜ顔出しをやめようと思ったんですか?
Nakatsu 最初は話題性を狙っていました。それを思いついたのが秋山黄色さんの「猿上がりシティーポップ」という曲のYouTube広告を目にしたときで。ミュージックビデオにイラストを使っていて、顔がまったく出ていなかったんです。謎な部分が多くて、なおかつカッコいい音楽をやっているアーティストを見ると、まず「なんなんだこの人たちは?」って気になるじゃないですか。それがそのまま音楽に直結していくと信じて、とにかく挑戦してみようと思いました。
ずっと脳裏に焼き付いている、あの日の記憶
──で、そのあとにKingさんがバンドに参加することになると。
King そうですね。結成から声をかけてもらうまではけっこう間が空いている?
Nagare 1年も経ってないんじゃないかな? そもそもKingにはサポートという形で約3年間関わってもらっていて、Yobahiを始めて1年以内には一緒にスタジオに入って音を出していたので、僕らの中ではほぼ初期メンバーです。今年の8月にやっと正式に加入してもらったんですよ。
Nakatsu Yobahiの最初のドラマーが辞めたタイミングで「今日か明日、募集をSNSに出そう」とNagareと話していたんですけど、たまたま僕の職場に来た取引先の社長さんにその話をしていたら「うちの息子、ドラム叩けるけど、どうかな?」と言われて(笑)。
──ええっ?(笑)
Nakatsu で、社長さんに僕らのMVを観てもらって、紹介してもらったのがきっかけです。
King 父親から「サポートメンバーをやらないか?」というLINEがきて(笑)。「いいよ!」って返しました。
Nakatsu お父さんもドラマーなんだよね。そのおかげで小学校のときからドラムの英才教育を受けてきて。
King 小4ぐらいからドラムを半ば習わされていた感じでした。
Nakatsu その話を聞いて「これは間違いない」と思いました。
Nagare お父さんが本当にいい方なので、たぶんその息子もいいやつだろうなと。
──面白い巡り合わせですね。ちなみに皆さん、どんなアーティストから影響を受けているんですか?
Nakatsu もともとGReeeeNやFUNKY MONKEY BΛBY'S、YUIさんといったJ-POPばかり聴いていたんですけど、ロックに目覚めたきっかけはRADWIMPS。学生の僕は野球少年だったんですが、ある日友達の机にRADWIMPSの「me me she」って曲の、「この恋に僕が名前をつけるならそれは『ありがとう』」という最後のフレーズが書いてあったんです。友達みんなその歌詞の意味をわかっていた中、僕だけずっと外で野球をやっていたからわからなかったんですよね。あとからひっそりとその曲について調べたら、自分が思っていることを代弁してくれているような感覚が芽生えてきて。そこから、僕も同じように誰かの耳に自分の思いを届けたいと思うようになりました。なので、僕の一番の根幹はRADWIMPSにあると思います。
King 僕はYobahiをやる前にcinema staffとかオルタナ系に影響を受けたバンドをやっていたんですけど、個人的に一番ルーツになっているのはヨルシカかもしれないです。
Nagare 僕はさっき話したようにGReeeeNとか、あとは嵐やKAT-TUNもめちゃくちゃ好きだったんですけど、高3の夏にNakatsuからRADWIMPSを教えてもらったのがロックの入り口でした。そのほかにもいろいろ聴かせてもらう中で、[Champagne]の「city」という曲のライブ映像を観て「これめちゃくちゃカッコいいかも」と思って、そこから急速にロックが好きになりました。クリープハイプとかASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、TSUTAYAで一気に何枚もCDを借りて、ロックに対して前のめりになっていきました。
──ここまでお話を聞いて、普遍的なJ-POPが皆さんに与えた影響が大きいことを感じましたし、その影響はYobahiの楽曲にしっかりと表れていると思います。ただ、そういうサウンドを必ずしもロックバンドという形で奏でる必要もないのかなという考えも一方ではありまして。なぜ皆さんはロックバンドというフォーマットにこだわっているのでしょう?
Nakatsu これもRADWIMPSからの影響が大きくて。以前、僕とNagareはRADWIMPSのとあるライブを観に行ったんですけど、今までの人生においてあれを超える感動に出会えたことがないんです。会場に数万人のお客さんが集まっていることに驚いたのと同時に、自分が音楽を少しかじり始めたタイミングだったので「自分もこうなりたい」という気持ちも固まった。自分1人でも音楽はやれるかもしれないけど、どうしてもバンドというスタイルで、自分もああいうステージを作りたいと思ったんです。なので、メンバーが加入するときには必ず「僕たちの目標は自分たちのお客さんだけで3万人集めるライブをすること」と言っています。あの日の記憶がずっと脳裏に焼き付いているから、バンドにこだわっているんだと思います。
誰かの夜を奪いたい
──Yobahiというバンド名や「眠れない夜、あなたの心を奪う」というコンセプトは、どういったところから生まれたんですか?
Nagare バンド名は「夜這い」という言葉を旧日本語風に「よばひ」と表記させたものなんです。コンセプトもそこに関連させたもので、自分たちは不安で眠れない夜をRADWIMPSやヨルシカといったアーティストに支えられて過ごしてきたけど、次は僕らがそういう存在になるんだという思いを込めて考えました。
Nakatsu あと、僕らが夜型だったというのも大きいですね。みんな仕事をしながら寝る時間を削って音楽活動をしたり好きな音楽を聴いたりという生活リズムだったので、「俺たち全然寝られないな!」という会話をする瞬間がけっこうあって。「音楽に夜を奪われているな」ってことで、「僕たちも誰かの夜を、充実したものとして奪いたい」という気持ちでバンド名やコンセプトを考えたところもあります。
──Yobahiが始動したのが2020年ということで、タイミング的にはちょうどコロナ禍と被ります。
Nagare 僕らはその年の4月に活動を開始したんですけど、Yobahiというプロジェクト自体はそれ以前から準備していて。今までみたいにライブを月に何本やるとかじゃなくて、音源やMV中心で活動していく形態に移行していたので、自分たちにとってはあの期間がマイナスだったという印象がないんです。
Nakatsu 前身バンドを終了させるコロナ前のタイミングで、僕からメンバーに「しばらくライブをやめます。メンバーが持ち寄った資金で、まずはクオリティの高い音源とMVを一旦3本連投してみよう」と伝えました。で、結果としてたまたまみんなが家にこもって生活する期間に入り、僕らの計画がプラスに働いたというか。そのアクションがあったから今のスタッフとも出会えたので、すごく大事な期間だったと思っています。
次のページ »
「青エク」愛を入れ込みたかった