2023年はヤユヨにとって変革の年だった。結成時からバンドに在籍していたすーちゃん(Dr)が脱退し、リコ(Vo, G)、ぺっぺ(G, Cho)、はな(B, Cho)の3人体制に。拠点を大阪から東京へと移し、新体制でライブや制作活動に邁進した。そんな変化の季節を経て、彼女たちの4thミニアルバム「BREAK」が2024年2月14日にリリースされた。
本作で特徴的なのは、メンバー全員が作詞作曲した楽曲が収録されていること。昨年配信された「Stand By Me」「YOUTH OF EDGE」、ライブ会場で限定販売されたCD「SALTY」の収録曲「チョコミンツ」といった既発曲に加え、はなが初めて作詞作曲した「Cosmic beatle」、新たな環境を生きる自分への応援歌「Anthem」、メロウなラブソング「リプレイ」という6曲を通してヤユヨの新境地を感じることができる。
音楽ナタリーでは「BREAK」のリリースに際してメンバーにインタビュー。昨年の上京時の思いや「BREAK」の制作エピソードを聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実
変わりたいと思って上京
──前回のインタビューは1stフルアルバム「日日爛漫」リリース時で、皆さんが大学を卒業したタイミングでした(参照:ヤユヨ「日日爛漫」インタビュー|カラフルな“卒業”アルバムを携えて前へ進む)。あれから2年が経ちましたが、皆さんの生活はどのように変化しましたか?
はな(B, Cho) 学生のときは「卒業するために学業をがんばらないと」「でも音楽もやりたい」「だったら両立しないとな」という感じで、考えなきゃいけないことが渋滞していた中でがんばっていたんです。でも卒業してバンド1本になったことで、音楽に充てられる時間が増えて。それが一番大きな変化でした。
ぺっぺ(G, Cho) 学生時代はけっこう手一杯だったので、「卒業したらもっといろいろなことができるんやろうな」「あー、早く学業終われ!」と思っていたんですけど(笑)、実際音楽一本の生活になって、想像していたようにできることが増えたのかというと、そうじゃなくて。音楽に向き合う時間は増えたけど、いろいろなことがすぐにできるようになったわけではなかったし、うまくいかなかったこともいっぱいありました。
リコ(Vo, G) 自由に使える時間が増えた分、「1日のスケジュールを立てるのが難しいな」と感じたり、「私たちが学校に行ってる間、周りのバンドはこんなにライブやってたんや」と実感したり、一人暮らしの生活の中で「洗濯してる暇があったら、ギター弾きたいのにな」と思ったり……。
はな それに、音楽に向き合えば向き合うほど、自分の足りない部分がすごく見えてくるんですよね。ライブに楽曲制作にSNS、自分たちが発信しているものすべてに対して、課題とか「もっと成長できそうだよね」という部分が見つかって。
──課題が見つかったら、みんなで話し合いをしながら解決していく流れでしょうか。
ぺっぺ そうですね。話し合いはどこのバンドよりもしてるんじゃないかな。大阪にいた頃はみんな実家に住んでいたので、夜集まって朝まで話し合いをするというのを3、4日連続でやることもありました。
リコ 1人じゃなかなか解決できないことでも、みんなで時間を使って考えればいろいろなアイデアが出てくるし、お互いの考えを組み合わせて新しいアイデアが出てくることもあるので。
はな 1回で解決できることなんてないから、本当に試行錯誤というか、「とりあえずみんなで集まろう」という感じでした。
──上京したのは昨年の春でしたよね。
ぺっぺ はい。上京するかしないかを決めるときも、たくさん話し合いをしました。卒業してから1年間は大阪にいたんですけど、「時間ができたはずなのに、私たち、あんまり変われなかったよね」と全員がそれぞれ自覚していたんです。なので、みんなで今までの自分たちのよくなかったところや、今後の音楽の取り組み方について、本音をさらけ出し合いながら話し合って。
リコ 厳しい意見にシュンとすることもあったけど、「これは、みんなで足並みをそろえるための前向きな話し合いだから」と時間をかけてたくさん話し合いました。
ぺっぺ その中で「上京したほうがいいかも」という話が出てきたんです。去年の8月に脱退したドラムのすーちゃんは、そのタイミングでバンドを辞めることと上京しないことを決めたんですけど。
──そうだったんですね。3人が上京を決めた理由はなんだったんですか?
リコ 私はずっと上京したいと思っていたんですけど……「変わりたい」という気持ちが強かったのかも。東京に出てきたからといって、いきなり爆発的に売れることはないけど、事務所とコンタクトが取りやすくなるというのもあるし、親元を離れて自分の力で生活すること、1対1で音楽と向き合うためには環境を変えることが大切なんじゃないかと思いました。
はな 私は「まず環境を変えてみることが、自分たちの成長につながるんじゃないか」という希望を込めて、という感じですかね。リコも言っていたように、事務所が東京にあるということも考えましたし、今までの環境を捨てて新天地に飛び込むことで、バンドへの向き合い方や考え方をがっつり変えられるんじゃないかと思いました。大阪は大好きですけど、勇気を出して。
ぺっぺ 今の時代、東京じゃなくても音楽はできるから、私は最初「別に大阪にいてもいいかな」と思ってました。だけど、このまま変われなかったらよくないんじゃないかと思い始めて。時間は限られてるし、ガールズバンドは特に寿命が短いと言うし、自分の人生だけじゃなくてメンバーの人生もあると考えたら、追い込みをかけるような感じで環境を変えるしかないなと思いました。
──実際、上京してよかったと思いますか?
ぺっぺ うーん……「たった1年じゃ変わらないだろう」と最初から思っていたし、正直まだわからないです。だけど上京後に「自分を壊していく」「変えていく」というテーマで曲作りに取り組んで、今回の「BREAK」や去年出した「SALTY」ができる中で自分たちの変化を少しずつ感じられています。
新しいヤユヨの魅力
──改めて振り返ると、すーちゃんさんも含めた4人体制でのラストライブ(自主企画「やゆヨ!vol.3~こっち向いて!プカプカサマー~」)が去年の“ヤユヨの日”8月4日に大阪・Music Club JANUSで行われ、その翌日の8月5日に新体制初の新曲「Stand By Me」が配信リリースされました。そして新体制初のツアー「赤い愛でスタンドバイユー!ツアー」が9月にスタート。「SALTY」はツアー会場で販売していたシングルでしたね。
リコ すーちゃんの脱退は、自分たちにとって悲しい出来事でした。できればこれからも一緒にやっていきたかった。だけどへこたれてる場合じゃないし、足を止めてダラダラするために東京に来たわけじゃない。新体制になったその日に新曲をリリースをすることで、自分たちが前を向いていることをちゃんと見せられたらと思いました。「Stand By Me」含め、今回のアルバムに入っている曲は全部「新しいヤユヨの魅力もしっかり出していけたら」と思いながら作った曲です。そういう曲がちゃんと作れたんじゃないかと、私たち自身は感じています。
──ヤユヨには、時間の経過や心の変化を一人称目線で歌った曲が多く、口をついて出た言葉も心の中の本音も歌詞に書かれているように思います。特に「BREAK」の6曲は心の中にある思いを最初から歌っているように感じたのですが、それは皆さん自身が「自分を壊していくんだ」「変わっていくんだ」と気持ちを固めているからではないかと、お話を聞きながら思いました。
リコ そうだと思います。私は恋愛詞をずっと書いてきましたけど、今までは「自分のこういう気持ちを表現したいから、まずはストーリーを作って……」という感じで、抽象的なところから少しずつ書き上げていくパターンが多かったんです。だけど今回は、殻を破ろうということで、恋愛詞から脱却しつつ、自分の決意や、同じ思いを抱いている人に対する「一緒にがんばろう」という気持ちを曲にしたいと思ったので、「こういう歌を書こう」というイメージが最初から強くあったんですよね。それは今作ならではかもしれないです。
「チョコミンツ」はリコにとって東京の歌
──リコさんが歌詞を書いた曲は「Anthem」と「チョコミンツ」の2曲です。「Anthem」は、殻を破ることを服を着替えることに例えながら歌った曲ですが、「まず外見を変えてみることで、自分の心も変わっていくかもしれない」といったマインドはリコさんの中にあるものなのでしょうか?
リコ そうですね。私は形から入るタイプかもしれないです。急にピアスの穴を増やしたり、前髪を切ってみたり、自分を変えるために見た目から変えていくということはずっとやってきました。「自分は変わった」という気持ちになるということが大事な気がしていて。それで悩みの種が解決するかというとそうではないかもしれないけど、「見た目は変われた」という確かな事実が1つあるということが、次の一歩を踏み出す勇気や自信につながるように思います。
──今のヤユヨの状態にも通じるものがありますね。自分たちが本当に変われたのかは正直まだわからないけど、「まずは上京した」「馴染みの土地の大阪から一歩踏み出した」という事実は確かにある。
リコ うん。そういうことだと思います。
──「チョコミンツ」についてはいかがでしょう。チョコミントをモチーフに、大人にも子供にもなりきれない人の心情を描いているのがユニークだと思いました。
リコ 私、チョコミント味のアイスクリームが好きで、チョコミントに対して「大人やけど子供」というイメージをなんとなく持っていたんです。チョコは甘くて、子供っぽくて、かわいらしい。ミントはスカッとしていて、わかる人にしかわからない大人の味って感じがする。「チョコミンツ」は私にとって東京の歌で、この曲の主人公も「あどけなさはまだ残っている」「だけど大人としてちゃんと生きていこうとしている」という感じだったので、チョコミントというモチーフがマッチするんじゃないかと思ったんです。アレンジに関しては「バラードにはしたくない」という思いがありました。自分の子供っぽい部分やブルーな気持ちを捨てて……というよりかは、それすらも楽しみながら、ノリノリで、強く生きている感じを表現したかったので。レコーディングでは「テクテクと歩いているような、跳ねたリズムの曲にしたい」とみんなに伝えました。
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ぺっぺが初めて書いた“自分の歌”