大人になりきれていない人間のステップアップ
──「日日爛漫」は現在22歳の皆さんならではの等身大の表現が詰まっている作品だと感じました。今この年齢だからこその感情をそのまま残したいという思いはありましたか?
リコ そうですね。22歳って成人しているから大人ではあるけど、学生だと社会人にはなりきれていないし、子供っぽいところもまだ抜けていなかったりするから、大人になりきれていないような感じがあって。そんな人間が1つステップアップしていく過程を表現したいなと思ったんです。それは自分たちの状況にも当てはまると思います。1曲目の「あばよ、」はまさにそういう感じの曲ですね。失恋がテーマの曲ですが、失恋をきっかけに自分の子供っぽい性格を改めて見つめ直して、状況を整理して、無理やりにも一歩前に進んでいこうという曲なので。
はな 「あばよ、」はこのアルバムに向けて作った新曲なんですけど、ヤユヨには珍しく6/8拍子なんです。
すーちゃん でも、やってみて初めて気付いたんですけど、4拍子の曲よりも自分にとっては叩きやすかったです。新曲はまだライブでやっていないんですが、「あばよ、」だけ何回かやっていて。ベースともグルーヴが合うなあと感じています。
──いろいろなタイプの曲が収録されているとのことでしたが、そうなると、制作中プレイヤーとして新たな扉を開くことができた感覚もあったのでは?
すーちゃん そうですね。ヤユヨはリズムが跳ねている曲がわりと多いんですけど、例えば「テイク・イット・イージー」は「さよなら前夜」のようなシンプルな感じではなく、耳に残る跳ね方にしたいと考えて、アプローチをちょっと変えてみたりして。一番しんどかったのは「futtou!!!!」。最初からけっこう激しめに叩いているんですが、ほかの楽器含めどんどん盛り上がっていく曲なので、どうやって変化をつけていけばいいだろうとめっちゃ考えました。その結果、サビに向けて頭打ちを増やしていったり、クラッシュを使って多めにフィルインを入れたりしています。
はな ベースに関しても、「ピンク」では疾走感のあるプレイを意識したり、「世界のなかみ」は壮大な曲調に合わせて重たくしてみたりと、曲によっていろいろと意識しながら作っていきました。あと、自分が作詞で携わった「おとぎばなし」がアルバムにも入っているのが個人的にはうれしくて。
──しかも「おとぎばなし」の次の曲はベースラインから始まる「ユー!」ですから。はなさんの見せ場が続きますね。
リコ 確かに!
はな ありがとうございます(笑)。
流行りの音楽がすべてじゃない
──「さよなら前夜」の導入にあたる「前夜前夜」という曲を制作したり、「ピンク」のように遊び心のある曲を収録したりしているのは、フルアルバムならではのアプローチという印象を受けましたが、いかがでしょうか。
リコ 実は「前夜前夜」も「ピンク」もバンドを結成してすぐに作った楽曲なんですよ。「ピンク」はマイヘア(My Hair is Bad)で言う「クリサンセマム」のようなイメージで、テンポが速くてパッと終わる曲があったらライブでも盛り上がるかなと思って作ってみたんです。作った当時はちょっとスパイスが足りないように感じたので、未完成のままで終わってしまったんですけど、「今までにない曲ができた」という感触があったし、一生懸命考えた歌詞も気に入っていたので、みんなに「どうにからならへんかな?」と相談して、一緒にアレンジを考えてもらって。そうして今の形ができました。
──そうだったんですね。歌詞で言うと、ぺっぺさんが作詞をした「うるさい!」にある「誰かが得してるポップミュージック」というフレーズも気になりました。
ぺっぺ 大学で周りの子たちがよく「この歌、今流行ってるらしいよ」という話をしているんですよ。だけど「その歌を聴いていいと思うかどうかなんて、人それぞれなのに」と思う自分がいて。
リコ わかる。誰かからそう言われるとちょっと押し付けられているように感じるし、「それよりも私はこっちのほうが好きなんだけどな」「流行りの音楽がこの世のすべてじゃないのに」と思うこともあるよな。音楽を作る側として、「今こういう音楽が流行っているなら、私たちがやっている音楽には光が当たらないのかな」「せっかくいい音楽をやっているのに」という悔しさもあったりして。
ぺっぺ そうそう。そういう思いをわざと悪口っぽく書いてみました。ここまで感情的な曲は今までなかったので、こういう曲を一度リコに歌ってもらいたいなと思ったのもあって。
──「世間の流行を意識せずに音楽をやっていきたい」という気持ちや、「流行とは逆のことをあえてやっていきたい」という気持ちはありますか?
ぺっぺ 流行りを意識しようと思ったことはあまりないかもしれないですね。
リコ うまく利用したいよね。
ぺっぺ うん、そうですね。流行りの音楽を逆手にとりつつ、自分たちでメロディや歌詞を考えて練り直した作品を作れたら面白いだろうなと思いながら今は制作しています。
「ガールズバンドといえばヤユヨ」と言われたい
──リコさんの歌詞は、終わってしまった2人の関係に焦点を当てつつ、割り切れない感情を描いたものが多いですよね。例えば、「キャンディ」にある「もうきっと 君の名前が浮かぶことはない携帯を 意味もなく握りしめて眠ろう」というフレーズは絶妙だなと思いました。
リコ 私自身、優柔不断で感情表現が苦手なタイプで。自分の考えていることを1つのワードにまとめられなくて、本当に伝えたいことを言うまでになんかごちゃごちゃと言ってしまいがちなんですよ。たぶん、それだと思います。
──リコさん自身の性質が歌詞にも表れていると。
リコ はい。ズバッと言える人からしたら「君は何を言いたいの?」と思うような歌詞が多いと思うんですけど、私からすると「いや、何かが言いたいとか、そういうことじゃなくて……!」という感じで。「悲しい」という1つの感情を表現するにしても「悲しい」とだけ言ったら終わりなのかというと、それは違う気がするんですよね。
──人間の感情はそういうものですしね。リコさんとしては「自分の内にあるものを出したらこういう歌詞になった」という感覚かもしれませんが、そのリアルな歌詞表現がリスナーの共感を呼んでいるように思います。着実にリスナーが増えつつある現状に対して今思うことはありますか?
リコ 「だよね、わかるよね!」みたいな気持ちです。私は具体的なものや状況を歌詞に入れ込むことが多いんですけど、それってたぶん、誰もが経験するものや、誰もが見たことのあるようなものだからだと思うんですよ。歌詞のどれか1つはその人の日常や感情にフィットするんじゃないかと思うので、1つでも共感してもらえたらうれしいですし、気に入ってもらえたときには「こういう歌詞を書いてよかったな」と思いますね。
──このアルバムもどのように受け取ってもらえるか楽しみですね。
リコ そうですね。出会いと別れの季節にぴったりな作品になったので、たくさんの人に届いてほしいなと思っています。
──今後の活動についても聞かせてください。まず、現状メインで作詞作曲を行っているのはリコさんとぺっぺさんですが、いずれは4人とも曲を書けるバンドになりたいという気持ちはありますか?
はな 自分が関わった曲が形になるうれしさを知ったので、やっぱりこれからも挑戦はしたいなと思っています。
すーちゃん 挑戦するとしたら、まずは歌詞からになるのかなと。作曲もやってみたい気持ちはめっちゃあるんですけど、そのためにもまずは知識をつけたいなと思います。
──また、将来やってみたいことや「こんなバンドになりたい」というイメージはありますか?
リコ でっかくなりたいなとは常々思っているんですけど……「ここでライブがやりたい」とか、そういう目標はあえて決めないようにしているんですよ。決めちゃうと、目標を達成したらそこで終わっちゃう気がするので。
──なるほど。
リコ でも「ガールズバンドといえばヤユヨ」と言われるくらいになりたいという気持ちはあるので、そういう心意気で今年も一生懸命がんばっていきたいなと思ってます。そのためには、いろいろな場所に行って自分たちから音楽を届けられたらうれしいですよね。
はな ライブではまだ行ったことのない街のほうが多いくらいなんですけど、全国の皆さんに曲を届けるため、いろいろなところに行きたいなあと。たくさんの人に私たちの音楽を知ってもらいたい、そして好きになってもらいたいという気持ちがやっぱり一番大きいです。
ツアー情報
ヤユヨの爛漫ワンマンツアー2022
- 2022年6月4日(土)香川県 高松TOONICE
- 2022年6月11日(土)石川県 vanvanV4
- 2022年6月12日(日)愛知県 CLUB UPSET
- 2022年6月18日(土)北海道 BESSIE HALL
- 2022年7月2日(土)広島県 SIX ONE Live STAR
- 2022年7月3日(日)福岡県 Queblick
- 2022年7月8日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2022年7月16日(土)宮城県 enn 2nd
- 2022年7月17日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
プロフィール
ヤユヨ
2019年1月に高校の軽音楽部の友達同士で結成された大阪のガールズバンド。リコ(Vo, G)、ぺっぺ(G, Cho)、はな(B, Cho)、すーちゃん(Dr, Cho)の4人からなる。2019年10月にタワレコ限定シングル「さよなら前夜-Single-」を発売した。2021年6月に2ndミニアルバム「THE ORDINARY LIFE」をリリース。2022年3月に1stフルアルバム「日日爛漫」を発表した。6月から7月にかけてワンマンツアー「ヤユヨの爛漫ワンマンツアー2022」の開催が控えている。