ナタリー PowerPush - 安田奈央
新世代の歌姫が明かした歌うことへの覚悟
歌の中にいるような感覚
──2010年には2度目のオーディションとなる「GIRLS AWARD DAM☆ともオーディション」に参加。ここでの優勝をきっかけに、メジャーデビューを果たすことになったんですよね?
はい。初めてのオーディションを辞退して約1年後だったんですけど、それも友達が「こういうのあるよ」って教えてくれて。その頃はもう迷いもなくなっていたので、受けてみようって思いました。
──1年前のデジャブじゃないけど、最終選考前はまたモヤモヤしたりしませんでしたか?
いろんなことは考えましたけど、そのときはもう逃げる気なんて全然なくて。優勝するんだろうなっていう自信もあったというか、信じてましたね。
──最終審査は東京・代々木第一体育館のステージで1万5000人を前にした公開オーディション。これは緊張したでしょう?
1週間前からお腹が痛くなりました(笑)。イケるって思いながらも怖くて、「どうしたら優勝できるんだろう?」とか結果ばかりを考えて。でもそこで気付いたんですよね。受かろうと思って自分を作り込んでもしょうがないって。そこからは「今は自分ができる最高を見せよう」「それでダメならダメだし……」と思えるようになりました。よく覚えてないんですけど、公開オーディションは歌の中にいるような感覚でした。
──優勝したときはどんな気持ちでした?
純粋に「やったー!」っていう気持ちと、ここからだなって身が引き締まる思いもありました。優勝者にはメジャーデビューが約束されていたんですが、ちゃんと自分の気持ちを表現して、人に何か感じてもらえるように歌えないと歌う資格がないなって思っていたので。小さい頃からずっとそうなんですが、自分が救われてきた音楽は思いがちゃんと伝わってくるものばかりなんです。だから、そういうものを届けるためにこれから成長しないとなって。
──安田さんが救われてきた歌とは?
いろいろあるんですが、ひとつ挙げるなら「ここにしか咲かない花」。高校2年生のとき、修学旅行中の機内ラジオで聴いてたらいきなり涙がぽろぽろ出てきて。当時この曲を歌っていたコブクロのことはよく知らなくて、たまたまチャンネルを合わせたら流れてきただけなんですが、体の中に入ってきた音楽に対して心が反応して涙が出るってすごいなって思いました。音楽の力を感じたというか。なので私は、どんなアーティストになりたいかと訊かれたら「歌で人の心を動かすようなことがしたい」って答えるんです。あのときの感動は今でも本当に忘れられないし、この人みたいにとか、こういうジャンルをやっていきたいっていうこだわりは正直ないんです。
暗闇の中で生歌だけが響くライブ
──昨年7月にシングル「つぼみ」でメジャーデビューした後は、8月に暗闇の教会で歌うライブ「Voice in the dark」を開催されましたね。音響設備を一切使わない完全アンプラグドのライブは衝撃でした。
あれは本当に何も見えなくて、ただ歌だけがあるっていう状態で皆さんに聴いていただいて。企画から参加させてもらったんですが、やっぱり私は歌声を信じているし、上手下手じゃなく、声ってその人の気持ちや全てを表してしまうものだなと思うんです。だから、自分が一番信じている部分だけを感じてもらおうっていう意図で、ああいう形でのライブになりました。
──歌う側も聴く側も緊張感もあるライブですよね。
そうなんです。静寂の中、皆さん息を殺して聴いてくださっていたので、1曲終わるたびに皆さんいっせいに咳き込んでいました(笑)。来てくださった方には新しい感覚だったって言ってもらえたし、私自身も、五感の中で聴覚だけを働かせるライブって新鮮なのかなって思いました。
本気の歌を歌い続けていく
──ニューシングル「真夜中のひだまり」は、現在放送中のドラマ「ハングリー!」の挿入歌としてオンエアされています。私、毎週観てるんですよ。
私も必ず録画をして、生でも観ています! この曲はドラマの制作サイドからオファーをいただいて書き下ろしたんですが、そのときは「自分の歌声がたくさんの人に聴いてもらえる曲になるんだな」ってうれしかったです。
──ドラマの中で聴く自分の歌はどうですか?
うれしくもあるんですけど、初めは不思議な感覚でした。あと、曲が流れてるときはそっちばっかり聴いちゃってセリフが聞こえなくなっちゃうんです(笑)。
──あはははは(笑)。ちなみに、曲に対してドラマ側から何かリクエストはあったんですか?
まずは台本を2話くらいまでいただいて、こういうシーンで流したいっていうのを説明されました。ただ、登場人物の心境を踏まえて……っていうのも違うし、ひとつの私のメッセージとしても届けなきゃいけないし。そんなことを考えながら、伝えたい言葉を選んでいきましたね。今回は作曲が大橋好規(※大橋トリオの別名義)さんなんですが、曲をいただいてからはひたすら聴いて。どういう場所で、いつ、誰といるんだろう……ってことをイメージしていきました。
──普段の作詞作業もそういう感じですか?
そうですね。これは夜だな、風が吹いてるな、あの人がいるな……って感じで、伝えたい1人を見つけることが多いです。で、その人へ向けた思いを書く。
──それはラブソングにかかわらず、どんな曲でも?
はい。対象は自分だったりもするんですけど。ストーリーを作るような歌詞の書き方もありますが、私は自分が経験したことや感じたことを言葉にしていきたい。
──じゃあ、歌詞はほぼ実体験?
そうですね。今のところ歌詞はすべて自分の経験から生まれています。
──恋が始まるとき、進行中のときの相手に秘めた気持ちがすごく共感できました。
ありがとうございます。これを書いて改めて思ったんですけど、やっぱりうまく言葉にできないところが自分らしいなって(笑)。この曲ではすごく切ない気持ちを歌っていると同時に、言葉にできないくらい人を好きになれた喜びも表現できたのかなって思います。
──タイトルの「真夜中のひだまり」は、「真夜中」と「ひだまり」が相反する言葉ですよね? これはどういう意味なんですか?
そうですよね。「真夜中にひだまりはないじゃん!」ってよく言われます(笑)。でも、光と影って違うようで一緒っていうか。常に隣り合わせでくっついているものだし、そこが恋愛ともリンクするのかなって。
──なるほど。ドラマに感情移入しながら聴くも良し、恋をしてる人は自分の思いと重ねながら聴くも良しですよね。この曲もいつか暗闇ライブで聴いてみたいです。
私もあのライブはまたやりたいと思っています。あの環境だけでも、「こんなところ初めて」っていう感じで楽しんでもらえると思うし。常にそのときの自分ができる最高のものを、本気の歌を歌い続けていきたいと思います。
安田奈央(やすたなお)
1988年6月20日、石川県生まれの女性シンガー。2010年に北海道から沖縄まで日本全国から応募があったオーディション「GIRLS AWARD DAM☆ともオーディション」で1位を獲得する。2011年7月にシングル「つぼみ」でメジャーデビュー。8月には、KGとデュエットした「君じゃなきゃ」を発表し、大きな話題となる。そして2012年2月29日には、大橋トリオプロデュースによる2ndシングル「真夜中のひだまり」を発売。この曲は、向井理主演のフジテレビ系ドラマ「ハングリー!」の挿入歌として起用されている。