ナタリー PowerPush - 安田奈央
新世代の歌姫が明かした歌うことへの覚悟
こんな時代だからこそ人々が求めたくなる歌声──。昨年7月にシングル「つぼみ」でメジャーデビューした安田奈央の「歌」には、日々せわしく生きる現代人の心をそっと包み込むやわらかさと安心感がある。一昨年の「GIRLS AWARD DAM☆ともオーディション」で日本全国からただ1人選ばれたのも納得の、本当に稀有な歌の力を持ったアーティストだ。
今回の特集では、彼女の音楽人生を紐解きつつ、最新シングル「真夜中のひだまり」についてじっくりと話を訊いた。決して一筋縄ではいかなかった歩みがあったからこそ、安田奈央の歌には温かさと深み、そしてなぜか胸を捉えて離さない不思議な力が宿っているのかもしれない。
取材・文 / 川倉由起子 インタビュー撮影 / 中西求
心を閉ざしてしまった思春期
──幼少期はどんな子供だったんですか?
幼稚園に入ったくらいから、とにかくずーっと歌ってました。それこそ小学校の登下校時や休み時間も(笑)。耳に入ってくるいろんな音楽を聴いて、それを歌うのが楽しかったんでしょうね。
──当時から歌うことの楽しさを感じていた?
そうだと思います。小学4年生からは母の勧めで地元のアクターズスクールに通っていたので、北陸のイベントなどでも歌うようになって。中学生の頃はカラオケボックスで、友達が自分の歌で泣いてくれるっていう経験もしました。
──そのときはどんな気分でしたか?
すごく不思議だったんですけど、うれしくて。正直、私は「この瞬間に歌で生きていこうと思った」っていうのがないんですが、そういう日常の出来事を通して「自分は歌で何かできるのかもしれない」と思っていたのかな。
──話が前後しますが、アクターズスクールではどんなことを?
歌とダンスを習っていました。当時は小さかったので「お歌と踊り」って感じでしたけど、自分を表現することの楽しさはそのときもう気付いていたと思います。
──じゃあ、そこから歌手に向けて一直線?
いや、そんな順調ではなかったです。中学、高校のときは学校でいろいろなことがあって。思春期ならではの学校のトラブルとか、恋愛でもうまくいかず後悔することが多くて。「誰も私をわかってくれない!」って悲劇のヒロイン的な感じになったり、一時期は心を閉ざしてしまったこともあって。けど、そんな自分の気持ちもうまく表現できなくて、当時は人前で泣いたことも怒ったこともなかったです。
──それはつらいですよね。
今でも自分は気持ちを言葉で表現するのが下手だなって思うんですけど、でも、だからこそ歌うようになったのかなって。家で一人で音楽を聴いて泣いたり、声を出すことで感情も解き放たれていたんです。だから、歌は唯一の心のよりどころでした。そんなときに友達が私の歌で泣いてくれて……。自分が必要とされてるというか、なんともいえない喜びもありました。
自分には歌う資格がないんじゃないか?って
──現実的に歌を仕事にしたいと思ったのはいつ頃ですか?
かなり昔から歌手になりたかったんですけど、人の目を気にして「歌手が夢です」なんてとても言えなかったんです。心を閉ざしていて自信もなかったし。で、高校を卒業したあとは一度ダンスの専門学校に入りました。
──ダンス?
自信がなくて、歌を本気の夢として捉えるのが怖かったんです。今思うとダンサーの方にすごく失礼なんですけど……。でも、とあるダンスイベントに出たあと「あれ? ダンスじゃないかも……」って。ダンスでは自分を表現できない、「やっぱり歌なのかな」と思いました。
──その後、20歳のときに初めて歌のオーディションを受けるんですよね。
友達の勧めで初めて受けたオーディションだったんですけど、いきなり最終選考まで進むことができたんです。でも、決勝戦の直前で少しモヤモヤしてきちゃって。
──というのは?
「自分にはまだ歌う資格がないんじゃないか?」って考えてしまったんです。自分にとって歌は感情が表現できる唯一特別な場所だからこそ、逆に「これでいいのかな?」って。それで最終選考を辞退しました。もう歌っちゃいけないような気にもなってきて、そのときに初めて歌と本気で向き合うことになるんです。「今まで当たり前のように近くにあった歌がなかったら……」って考えたら、「私ってこんなにも歌が必要で歌いたいんだ」って思って。今までいろいろ言い訳をして歌と向き合うのを避けてきたけど、そのときに覚悟が決まったというか。
──大きなターニングポイントでしたね。
ほかのアーティストさんと比べたら、夢を明確に捉えた時期は少し遅いと思うんです。でも、私はそれで良かったと思っていて。あのときしっかり考えていなければ、今の自分はなかったと思います。あと、歌と向き合ったってことはイコール自分とも初めて向き合ったってことで。そこからの変化は、自分自身でもすごくわかりました。
──具体的には?
いろいろとプラス思考になっていきました。もちろん生きていれば試練もあるし大変なこともあるんですけど、それも含めて人生には「生きがい」があるなっていうか。それを超えたら絶対に成長できるし、喜びもあるし、前に進んでると思える。成長する自分を感じられるのって、なんか気持ちいいなって。
安田奈央(やすたなお)
1988年6月20日、石川県生まれの女性シンガー。2010年に北海道から沖縄まで日本全国から応募があったオーディション「GIRLS AWARD DAM☆ともオーディション」で1位を獲得する。2011年7月にシングル「つぼみ」でメジャーデビュー。8月には、KGとデュエットした「君じゃなきゃduet with 安田奈央」に参加し、大きな話題となる。そして2012年2月29日には、大橋トリオプロデュースによる2ndシングル「真夜中のひだまり」を発売。この曲は、向井理主演の関西テレビ・フジテレビ系全国ネットドラマ「ハングリー!」の挿入歌として起用されている。