安田レイ「Ray of Light」インタビュー|「君と世界が終わる日に」との再タッグで届ける希望の歌 (2/2)

聴いている人の頭の中にダイブ

──EPの2曲目に収録されている「声のカケラ」は、中国で製作されたアニメ「烈火澆愁」の日本語版エンディングテーマです。

「烈火澆愁」は戦うシーンが多く、最初はそこにフォーカスした楽曲を目指したのですが、実はこの物語に登場する2人の主人公は、過去に何か因縁があったのではないか?と思わせる描写があるんです。そこから「過去」や「記憶」をテーマにしてみようと歌詞を書き始めました。考えてみると、記憶ってすごく曖昧ですよね。鮮明に思い出せる遠い過去もあれば、急にフラッシュバックする記憶もあるし、ある日突然、思い出せなくなるものもあるじゃないですか。人間の記憶っていったいなんなのだろうと。

──確かにそうですね。

それに、たとえどんな記憶であろうと、それをどう受け止めて、その先どう行動するかは自分次第。もし自分に悪い影響を与えた記憶でも、それがあったからこそ今、自分はここに立っているとも言えるし、自分の人格や価値観ができあがっているとも言える。そう思うと、「すべての出会いに意味があった」とポジティブに捉えることも可能ではないかと思ったんですよね。

安田レイ

──自分にとって悲しい記憶も、それがあるから今の自分がある。そう思えるのは、今の自分を肯定できるからなのかもしれないですね。

そう思います。歳を重ね、自己肯定感も上がってきたところがあって。うれしい記憶も悲しい記憶も「自分の一部だな」と思えるゾーンに入ってきたのかもしれないですね。おかげで昔より気持ちが楽になったし、過去にあった悲しい出来事を少しは受け入れられるようになってきた気がします。

──ちなみに、安田さんが大切にしているのはどんな記憶ですか?

中学校の先生に言われた言葉をふと思い出すことはよくありますね。その頃の私はすでに音楽活動を始めていて、このまま自分の夢に向かって進むのか、それともがんばって勉強して進学すべきなのかで揺れ動いていたときに「レイちゃんは、自分がやりたいことをやるのが一番輝ける。勉強はいつだってできるんだから」と先生に言われたことが、すごく救いにもなったし勇気付けられもしたんですよね。「私は夢をあきらめなくてもいいんだ!」って。今も仕事で悩んだり自信を失ったりしたときに、その加藤シンイチ先生……シンちゃんと呼んでいたのですが(笑)、そのシンちゃんの言葉が浮かびます。歌詞を書いているときも、ひさしぶりにシンちゃんの声が聞こえてきました。

──この曲はピアノやアコギを導入した壮大なバラードですが、歌うときに意識したことや、こだわったことは?

EPでは「Ray of Light」の次に収録されることが決まっていたし、これまでの自分とは違う一面を見せたいと思いました。「Ray of Light」は広大な場所で力強く歌っているイメージですが、「声のカケラ」はもう少しパーソナルなイメージです。聴いている人の頭の中に私がダイブして(笑)、「どう? 何を思い出す?」と直接問いかけている姿を想像しながら歌いました。「Ray of Light」とのコントラストを強く出せたかなと思っています。

安田レイ

やっと自分に戻れた

──3曲目の「Turn the Page」は作詞作曲ともに安田さんです。ゴスペル風の曲に仕上がりましたね。

昨年、私のデビュー10周年ライブをBillboard Live TOKYOで開催するにあたって、そこで書き下ろしの新曲を披露したいと思って作りました(参照:安田レイが新たなページをめくり、SACRA MUSIC移籍を発表した万感の10周年ライブ)。「アンコールで歌う曲」という、ざっくりとしたテーマで作り始めたときは、特にゴスペルを意識していたわけではないのですが、ハモリやコーラス、フェイクなどを入れていくうちに「これ、ゴスペルじゃん。楽しい!」ってなりましたね(笑)。

──歌詞は、シンガーとしての安田さんの決意表明とも受け取れますね。

「自分にとってライブとは? ステージとは?」ということを、改めてじっくりと考えながら書きました。結局のところ、私は自分がハッピーになりたいから曲を作り歌っているのだなと。家でピアノに向かって作曲しているときは、ただただ楽しいときもあれば、自分の中からいろんな感情があふれ出してしまってボロボロ泣いてしまうときもあって。そんなふうに、泣きながら、もがきながら作った音楽があるから、お客さんと一緒にライブという空間を共有し、一緒に歌うこともできる。だからこそ、「やっぱりライブっていいよなあ」と心から思えるんですよね。

──なるほど。

人間なので、満たされない部分はもちろんある。それを埋められるのは音楽じゃないのかなって。私自身、欠乏感というか、「心のガソリンが切れた……!」と思ったときは、すぐに誰かのライブを観に行くんです。そうすることで心のエネルギーを満タンにできるんですよね。だからみんなにも、何かしら欠乏感を覚えたときには私のライブにおいでよ?って。「私だって欠けているし、お互いに埋めていこうよ」というメッセージを、この曲には込めたかったんです。

──「そんな似たもの同士が出会うのがまた面白いね」というフレーズには、そういう意味があるんですね。

去年、すごく感じていたことを書きました。ライブにとても救われたんですよ!(笑) ツアーを回り、コロナ禍でずっと会えなかったファンのみんなの顔をようやく見ることができたし、“声出しOK”のライブをひさしぶりにやることができた。欠けていたものがすべて埋まり、「ああ、やっと自分に戻れた」と思えたんですね。もちろんファンのみんなにとっても、ライブはそういう場所であってほしい。普段からみんながんばりすぎているからさ、しんどくなったらいつでもライブに来てよ!って。

──実際にこの曲を10周年ライブで披露したときの手応えはいかがでしたか?

曲の中にシンガロングのパートがあるのですが、みんな初めて聴く曲なのにちゃんと声を出して歌ってくれたんですよ。本当に感動しましたね。思わず泣きそうになったんですけど、「ダメだ、私が泣いたらみんなが泣けなくなってしまう」と思って必死に我慢しました(笑)。

──「Turn the Page(ページをめくる)」というタイトルには、どんな思いを込めたんですか?

文字通り、デビューしてからの10年分のページをここでめくり、真っ白になったところに「さあ、何を書いていこう」「また新たな気持ちに立ち返り、音楽を続けていきたい」という気持ちを込めました。安田レイとしては10年、その前も元気ロケッツのメンバーとして7年くらい活動してきたわけですが、こんなに長く歌い続けてこられたのは、本当に支えてくれた周りの人たちのおかげです。自分の作品が増えるたびに感謝も増える一方。これからもどんどん作品を作っていきたいですし、ライブももっと心地のいい場所にしていきたいですね。

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常に掲げるテーマは「柔軟性」

──この10年で、世の中における音楽の届け方や受け取り方は大きく変わりました。そんな中、安田さんはどんなことを心がけていましたか?

なるべく柔軟に、いろんな意見に耳を傾けること。もちろん、絶対に譲れない頑固な部分も必要なのですが、「もう何も聞きません!」と周りの意見をすべてシャットアウトしたらチームとして成り立たない。「聞きたくない!」と思ってしまいそうなときは、「ダメだよ、ちゃんと耳を傾けよう!」と自分に言い聞かせています。おっしゃるように、時代の変化とともに音楽の聴かれ方も大きく変わってきていますし、戸惑うこともたくさんあるのですが、みんなの意見を取り入れながら、自分なりに何ができるのかを考えています。頑固なところが自分の中にあるからこそ、「柔軟性」は常にテーマですね。

──余談ですが、安田さんが最近よく聴く音楽は?

家では常に音楽が流れていて、基本的に無音になることがほとんどないのですが、最近一番聴いているのはPJモートンの「Beautiful Day」かな。歌詞にはポジティブなメッセージが詰まっていて、聴いていると光が自分に降り注いでくるようで……。朝イチで聴くと、「今日もすごくいい1日になりそう」と思えるんですよね。

──「Ray of Light」は2024年第1弾作品となりますが、今年はどんなことに挑戦したいですか?

去年、ソロデビューしてからの10年を振り返ってみたときに、まだやっていないことってたくさんあるなと思ったんです。例えば女性ボーカル同士でコラボをするとか、ラッパーさんと一緒にやるとか。

──なるほど。面白い試みになりそうですね。

それに、海外でもたくさんライブをやりたいです。去年は香港でライブをしたんですが、そのときの経験が自分の中ですごく大きくて。数年前に台湾でライブをしたときは、自分の曲が海外で聴かれていることにすごく驚いたし、日本のカルチャーを愛してくれている人たちが世界中にたくさんいることをこの目で見ることができて本当によかった。音楽だけじゃなくアニメや映画、食文化など日本のカルチャーに対し、愛を持って関心を寄せてくれていることに心から感動したので、今年はもっといろんな国に行ってみたくなりました。モチベーションをさらに高めるためにも、ますは大きいスーツケースを買いに行くところから始めようと思います(笑)。

安田レイ

プロフィール

安田レイ(ヤスダレイ)

1993年、アメリカ・ノースカロライナ州生まれ。10歳の頃に母親が聴いていた宇多田ヒカルの楽曲に衝撃を受けてシンガーを志す。13歳で音楽ユニット・元気ロケッツに参加。2013年7月に「Best of my Love」でソロデビューを果たし、2014年10月に1stアルバム「Will」をリリースした。2015年には初のワンマンツアーを成功に収める。その後、数多くのドラマやテレビアニメのテーマソングを担当。2017年よりTOKYO FM「JA全農COUNTDOWN JAPAN」にてパーソナリティを担当している。2021年2月にドラマ「君と世界が終わる日に」の挿入歌「Not the End」をシングルとしてリリースし、スマッシュヒットを記録。2023年2月にJQ(Nulbarich)、Yaffle、THE CHARM PARK、TENDRE、VivaOlaらとのコラボ曲を収録したアルバム「Circle」を発表し、同年7月にソロデビュー10周年を迎えた。2024年2月に「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」の挿入歌「Ray of Light」を収録したEPをリリースした。