Keyword:作詞・作曲
──初めて世に出た自作曲は「bring back the colors」(2018年8月リリースのシングル「Sunny」のカップリング曲)でしたよね。
そうですね。そこから徐々に自分で作った曲が世に出ていくんですけど、デビュー当時のイメージとはまるっきり違う方向性の曲ばかりだったので、ファンの方はきっと戸惑ったんじゃないかなと思うんですよね(笑)。
──安田さんのポジティブでキラキラしたパブリックイメージを、ある意味、自らの曲でどんどん崩していったというか。
そうそう。「本性はこっちだったんかーい!」って、みんな思ったはず(笑)。
──ただ、人間であればポジもネガも両方の側面があって然るべきですし、それが楽曲に落とし込まれるのは至極自然なことですよね。
うん。そういうちょっとダークな側面の曲を自分の言葉とメロディで出すことができたことで気持ちが楽になったところもあったんですよ。本当の自分を曲としてみんなに知ってもらえること。それこそが昔からずっとやりたかったことだったんだなと、改めて気付きました。歌詞や曲を作ることはすごく難しいし、しんどいことだったりもするんです。自分の中でフタをしていた嫌だった出来事、つらい感情を掘り起こさなきゃいけない作業だったりするので。でも自分のそういった感情が聴いてくれる誰かの経験と重なって、寄り添ったり、聴いた人のためにもなっていったりするんじゃないかなと思うんですよね。そうであるならば、たとえつらく痛い思いをするとしても曲を作り続けていきたいなって。自分の思いが曲として形になっていくことは、すごく楽しいことでもありますしね。
──これまでご自身で書いてきた曲の中で、特に思い出深いものはありますか?
「blank sky」(「It's you」収録)かな。最近はライブでもサポートしてもらっているクレハリュウイチさんに鍵盤でコードを弾いてもらい、そこにメロディと歌詞を乗せていくという曲の作り方をしているんです。でも、この「blank sky」はコードのループを作るところから自分だけでやったんですよね。最初から最後まで自分の部屋の中で、1人だけの世界で作ったという意味ですごく印象に残ってます。できあがった曲を音源にする前にライブで披露したのも思い出深いですね。弾き語りでやったんですけど、「どの鍵盤を弾くんだっけ?」と思いながら歌ってたので、「変な間が怖い」ってのちのちファンの方に言われることになったんですけど(笑)。でも、ライブを通して曲を初めて聴いてもらえたことは、自分としてすごくうれしかったです。
──で、音源はTENDREさんがサウンドプロデュースされて。
そうなんですよ! 本当に素晴らしいアレンジをしてくださって、この曲に対する思いがより強くなりましたね。ここから先、自分の中からどんな曲が出てくるのかがすごく楽しみです。実際、曲作りはたくさんしているので、期待して待っていてほしいですね。
Keyword:コロナ禍と「Not the End」
──2021年2月リリースのシングル曲「Not the End」は、挿入歌となっていたドラマ「君と世界が終わる日に」の世界観とともに、現実世界の状況にもリンクする歌詞が注目されました。以前のインタビューで「コロナ禍はすごくしんどかった」とおっしゃっていましたが、それによってもたらされたものもあったのかもしれませんね。
この曲を作っていた時期は、コロナの状況が本当にひどくて、みんな困り果てていたんですよね。私自身もライブはできないし、曲を出したとしても思うように動けないっていう。だからこそ、ゾンビに日常が奪われる内容のドラマと、コロナで日常が奪われている自分たちの状況が完全に合致したんだと思います。歌詞を書くにあたっても、そのときの自分の思いが強く反映していて。コロナ禍じゃなかったら、また違った歌詞の書き方をしていたと思うので、それも運命だったのかなって気もしますね。
──YouTubeにアップされているミュージックビデオは740万再生を突破しています。安田さんにとって大事な曲になったことは間違いないですよね。
はい、本当に大事ですね! 「THE FIRST TAKE」でもピアノ1本で歌わせていただきましたし、リリースタイミングにはたくさんの方がカバー動画をネット上に上げてくださって。そんな経験は初めてだったので本当にうれしかったですね。今でもたまに自信がなくなってしまったときには、YouTubeのコメント欄を見に行くんですよ。「この曲最高!」「安田レイの歌、大好き!」という言葉を見ると「よっしゃ!」って気持ちになるから(笑)。
──「Not the End」のヒットを受け、安田レイとして活動しやすくなったところもありましたか?
この曲で安田レイのことを知ってくれた方は確実に増えたので、そういう面で活動のしやすさはあるのかな。でも、「Not the End」は知っているけど、それを歌っているのが安田レイだということを知らない方もまだいらっしゃるんですよね。楽曲とアーティストの認知度が同じレベルになったときに、きっとまた違った景色が見えるような気がするので、そこを目指してもっともっとがんばろうと思います。
Keyword:コラボレーション
──ここ数年は、JQ(Nulbarich)さんやTENDREさん、THE CHARM PARKさん、Yaffleさんなど、敬愛するアーティストの方々と積極的にコラボをされています。
このメンバーが勢ぞろいするフェスがあったらもう、最高に豪華ですよね(笑)。コラボレーションはね、憧れの人がスタジオの中にいて、一緒に曲を作っているという夢のような時間なんですよ。自分だけでは絶対に思いつかないアイデアを持っている方たちばかりなので、その作業は本当に刺激的で。皆さんのアイデアと自分なりのアイデアをぶつけ合いながら形にしていくのがめちゃくちゃ楽しいです。サウンドに引っ張られて、今まで使ったことのない言葉が作詞をしているときに出てくることも多いですからね。すべてにおいて新しい体験になっています。
──コラボする方によって制作の仕方が違ったりするんですか?
そうですね。そもそも空気感が違うし、作業のスピード感も全然違いますから。例えばJQさんはとてもゆっくりなんですよ。スタジオに入った1日目は一度もマイクの前に立たなかったですからね(笑)。「ここはカフェなのかな?」っていうくらい、ずっとお喋りしてて。それで、2日目から徐々に動き出すんですけど、1日目の世間話がしっかり生きてくるんですよね。それがすごく面白い。かと思えば、Yaffleさんはめちゃくちゃスピーディで。お互い人見知りだからっていうのもあったと思うんですが、はじめましてで挨拶した数分後にはトラック作りが始まってました。実はYaffleさんはすごく面白い方で、慣れてくると延々しゃべってくれるんです(笑)。
──そのやり方の違いに対応するにはフレキシブルな思考が必要になってきそうですよね。
そこは大丈夫なんですよね。何かに適応するのはけっこう得意なタイプなので。それはきっと自分の中に決まったルーティンみたいなものがないからだと思います。だから、どの方との作業もすごく居心地がよくって、やりづらさを感じることは一度もなかったです。皆さん穏やかで、優しい方ばかりだったので、自分の意見も伝えやすかったですし。本当に感謝、感謝ですね。
──まだまだコラボしたい方はたくさんいますか?
そこは尽きないですよね。普段の自分とは違った世界に飛び込むという意味で、ラッパーの方とコラボしてみたい気持ちもあるし、今までやったことのない女性アーティストとのコラボに挑戦したい気持ちもある。でもどうかなー。同性の方だと、その歌声にヤキモチを焼いちゃいがちなんですよ。「負けたくない!」っていう雑念が出てきたりもするし。そういう理由で今までやってこなかったんですけど、新しい景色を見るためにそろそろ挑戦してみてもいいかもしれない。女性アーティストとのコラボが実現したら、「安田レイ、大人になったな」と思ってください(笑)。
──今年の7月3日でソロデビューから丸10年が経ちました。この先についてはどんなビジョンを持っていますか?
30代になったことで、ここからは書きたい、歌いたいと思うテーマもどんどん変化していくと思うんですよね。ライブなどの経験がどんどん増えていけば、それもまた自分の音楽にしっかり結び付いていくと思うし。10周年ライブをするにあたって、懐かしい曲を改めて聴き返すことが多かったんですが、この10年で自分の声もどんどん変化していってますからね。そういった変化を恐れる人もいるとは思うけど、私はむしろ楽しみ。変化を受け入れて、その時々の歌を歌っていければいいですよね。いろんな方とのコラボも含め、今は自分のやりたいことを思いきりできるゾーンに入ったようにも思うので、安田レイの未来は楽しみしかないです。
──「Brand New Day」の歌詞にあるフレーズのまんまですね。「いつも輝いていたいから いつも変わりつづけてゆくよ」っていう。
確かにそうですね(笑)。その時々の変化を乗せて、自分のやりたい音楽だけをこれからもたくさん届けていきます!