今年7月3日でソロデビュー10周年を迎えた安田レイ。デビュー当初はキラキラとした世界観のサウンド、歌詞にポジティブなキャラクター性を乗せて楽曲を表現してきた彼女だが、2018年以降は自ら作詞作曲を手がけた楽曲を次々と世に送り出し、自らの心の中にあるネガティブな感情さえも赤裸々に表現して、アーティストとしての幅の広さを提示してきた。2021年にはドラマ「君と世界が終わる日に」の挿入歌「Not the End」がスマッシュヒットを記録し、ファン層をさらに拡大。また、JQ(Nulbarich)やtofubeats、TENDRE、THE CHARM PARK、Yaffleなど敬愛するアーティストとのコラボを積極的に行うことで、深い音楽的嗜好もリスナーへ届けるようになっている。
安田レイがたどってきた輝かしい軌跡を振り返るべく、音楽ナタリーでは10個のキーワードをもとに本人へのインタビューを実施。10年間で彼女が抱いたさまざまな感情を徹底的にすくい取りながら、未来へのビジョンにも迫っていく。また特集の最後にはアン ミカ、香里奈、JQ、ジョージ・ウィリアムズ、竹内アンナ、玉井健二、中条あやみ、丸井元子、Rihwa、LiLiCo、Leolaといった安田と親交の深い著名人からのコメントも掲載する。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 笹原清明
Keyword:ソロデビュー
──安田さんは元気ロケッツのボーカリスト・Lumiとしての活動を経て、2013年7月3日にシングル「Best of my Love」でソロデビューを果たしました。
あの日から、もう10年経つんですよね。昨日もランニング中に「10年もやってこれたんだなあ」とエモーショナルな気持ちになって、思わず走りながら泣いちゃったんですけど(笑)。振り返ってまず感じるのは、ソロデビューの機会を与えてくれた、私にとっての音楽の父である玉井(健二:agehasprings)さんへの感謝の思いです。小学6年生のときにオーディションで初めて出会い、そこから元気ロケッツの活動をさせていただくようになって。19歳になった頃、いきなり事務所に呼び出されたんですよ。「怒られるのかな⁉」と思ったら(笑)、「レイちゃん、ソロデビューしよう」っていきなり伝えられたんです。「ここからはレイちゃん自身の姿で人前に立つことになる。一緒にがんばろうね」と言われたのをよく覚えていますね。その時点ですでに芸歴は7年くらいあったんですけど、ライブの経験はなかったし、本当にゼロからのスタートでしたね。
──当時のインタビューでは、「もうちょっと早くソロデビューしたい気持ちもあった」とおっしゃってましたよね。
その気持ちはありました。でも玉井さんは、私を息の長い、ずっと歌い続けられるアーティストにするために、時間をかけて育ててくださっていたんですよね。当時は「いつソロデビューできるんだろう」ってモヤモヤする気持ちはあったけど、玉井さんが設けてくれたその充電期間があったからこそ今の安田レイがいる。20歳でのデビューになったことには、大きな理由があったんだと思います。そういう面でも玉井さんには本当に感謝していますね。
──デビューした段階で、10年後の自分を思い描いていましたか?
いやいや、先のことなんて全然考えられてなかったです(笑)。とにかく余裕がなさすぎて、その日、その瞬間を一生懸命生きてきたというか。目の前のことにまっすぐ取り組むことに必死だから、不安も逆になかったです。初めてのことばかりで大変な場面もたくさんあったけど、1人の人間として、安田レイとして歌を届けられる喜びを感じながら過ごす日々でしたね。
Keyword:初ライブ
──デビュー直後の2013年8月には、さいたまスーパーアリーナで開催された「TOKYO GIRLS COLLECTION '13 A/W」において初ライブを経験されました。
ライブ経験がほとんどなかった私からすると、ステージがとにかく大きいし、人がいっぱいだし、「いったい何が起きているんだ⁉」と思いながら立った初ステージで(笑)。そのときは楽しいというよりも怖いという感情のまま、あっという間に終わってしまった感じでしたね。とんでもなく恐ろしい経験をしたなっていう(笑)。
──その翌月には国立代々木競技場第一体育館で開催された「GirlsAward 2013 AUTUMN/WINTER」でもライブされています。いきなり大きな会場でのライブを立て続けに経験したことで度胸がつきそうですけどね。
当時の記憶がないくらい緊張していましたけど、今振り返ればメンタル面で鍛えられたところはあったと思いますね。あと、ライブをするにあたっては、たとえ1曲だけの歌唱だとしても、すごく準備が必要だということを知れたのも大きかったかな。技術面はもちろん、心の面でもしっかりと整えた状態でないと、いいパフォーマンスができないことを知りました。それ以降、どうすれば余裕を持ってステージに臨めるかをものすごく考えるようになりましたね。今も私はめちゃくちゃ緊張しいなので、完璧な答えはいまだに見つけられてないんですが(笑)。
──いいライブをするためのルーティンみたいなものはあるんですか?
昔は男性マネージャーさんに両手を出してもらって、そこに私がパンチするというのをライブ直前にやっていたんですよ。自分の不安や緊張をパンチに込めて全部出し切るっていう。ただ、それをイベントとかのバックステージでやると周囲の人がめっちゃ引くんですよ。「あの子、ワイルドだな」みたいな感じで(笑)。なので、だんだんやらなくなりました。今はなんだろうな。楽屋で変な声を出したり、ランニングマンっぽい変な踊りをしたり、かな(笑)。それも他人には見せられない感じですけど、なぜかリラックスできると気付いたので、ワンマンライブのときにもやったりしていますね。
Keyword:「Brand New Day」
──2014年2月5日にリリースされた2ndシングル「Brand New Day」は、安田さんの名前を広める最初の大きなきっかけでしたよね。
そうですね。nissenさんのCMソングとして使っていただいたんですけど、そのCMがたくさん放送されて。テレビをつけたら必ず「Brand New Day」が流れるみたいな状態だったので、うちの家族もびっくりしてました(笑)。しかもCMには私も出演させてもらったので、このタイミングで安田レイを知ってくれた方はきっと多かったと思いますね。リリース後はイベントに出るときにも必ずセットリストに入れるようにしていました。
──桑田佳祐さんがラジオでフェイバリットとして挙げてくれたりもしましたよね。
そうなんですよ! 2014年の桑田さん的ベスト10の2位に選んでくださって。しかも1位は松山千春さんで3位は竹内まりやさん。ものすごい方々にサンドされる状況だったので、あのときは周囲がかなりザワつきました(笑)。あとは3年前くらい前にNiziUのNINAちゃんがオーディションで歌ってくれたことで、若い世代の方々にまた知ってもらえる機会があったり、いろんなうれしい思い出があります。この曲のような明るくて前向きなアッパーチューンは、いまだに安田レイのイメージとして強いかもしれないですね。
──リリースから7年後の2021年には「THE FIRST TAKE」でも歌唱されて。
今後もずっとライブでは歌い続けていくであろう、私にとって大切な曲なので、改めて歌わせていただきました。しかもH ZETTRIOの皆さんと一緒にパフォーマンスさせていただいたことで、当時の自分には出せなかった、今の安田レイの雰囲気でセルフカバーできたことがすごくうれしかったです。
──時間が経ったことで楽曲の解釈が変化している部分もありそうですよね。
確かに、昔の音源を聴き返すと、解釈がちょっとずつ変化している感覚はあるかもしれません。同時に昔の自分の技術的な未熟さを感じるところもあって。そういう思いになるということは、この10年でちょっとずつステップアップしながら、ちゃんと大人になれているのかなと思いますね。「Brand New Day」を出した頃は、いろいろな面で力んでたところがあったと思うんですよ。ガムシャラに、そのときの自分以上のものを見せてカッコつけようとしていたというか。それが最近は、無理せず、等身大の自分として表現できるようになっている。そこはいい変化なんじゃないかなと思いますね。
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Keyword:「レコード大賞新人賞」