「この人たちは音楽マニアなんだ」って思い知らされた
小西 「赤と青のブルース」と言えば、選曲のリストを持って八代さんの事務所でレパートリーを決めるときが、僕は一番面白かったですね。「赤と青のブルース」は僕自身、昔ピチカート・ファイヴでやりたかったくらいの曲なんですけど、今回それを八代さんと社長さんが聴いて気に入ってくれて。
八代 「この曲、面白い!」って思いました。
小西 さらに、いろいろと候補曲を聴いてるうちに八代さんと社長さんが「こういうのをやるなら、あれもいいんじゃない?」って言い出したのが、ザ・キング・トーンズの「暗い港のブルース」って曲だったんですよ。2人でその曲を歌い出して、「この人たちは音楽マニアなんだ」って思い知らされました(笑)。
八代 私は、小西さんのチョイスに対して「いいですね」って言ってただけでしたけどね。リストにあった曲も、ちょっとしたフレーズとかは覚えていても、今まで歌ったことないような曲も多かったんです。この年齢になると覚えるのが大変だから、歌うにあたってはけっこう決意がいるんですよ(笑)。でも、今回は「よし! 勉強してみよう」と思いました。
小西 「赤と青のブルース」もそうですけど、The Searchersのバージョンで「恋の特効薬」を聴いてもらって「これいいね!」って言われたときは逆に僕が「どうしよう?」って慌てましたけどね(笑)。あと、リストにはなかったのに八代さんと社長さんからの提案で選ばれたのが、ナンシー・シナトラの「にくい貴方」だったんです。これにも仰天しました。
八代 そうでしたか(笑)。
小西 それどころか、かつて八代さんは「にくい貴方」を歌ったことがあるって言うんですよ。
八代 45年くらい前ね(笑)。NHKの番組でも歌いましたね。そのときに今の社長が私のマネージャーで、「へえ! こんな曲歌うんだ」って彼も衝撃を受けたらしいですよ。私は十代の頃に銀座のナイトクラブで歌っていて。あの頃はジャンルが関係なかったから、向こうでヒットしてる曲ならみんな知ってましたよ。ケティ・レスターの「Love Letters」とかスキーター・デイヴィスの「The End Of The World」とか。
小西 「Love Letters」は大好きな曲です。
八代 次回は入れましょうね(笑)。
“ポカホンタス”を“太郎と花子”に訳詞
──日吉ミミさんの「男と女のお話」、浅川マキさんの「夜が明けたら」など、日本の女性シンガーの曲がセレクトされているのも驚きました。
八代 どちらも知ってる歌で、「小西さんはこういうのが好みなんだな」と思いましたね。ちょっと世の中に「ううん、私はいいのよ」って言ってる感じの曲が好きなのよね。
小西 はすっぱな感じのね(笑)。
──浅川マキさんの「夜が明けたら」なんかは、当時八代さんはどういうふうに聴かれていたのかなと思いました。
八代 そうですねえ、この曲が流れてた頃はもうデビューはしていましたね。非常に個性的な歌だなと思ってました。私もすごく好きな歌ですけど、歌うのは難しいなと思いました。でも、雰囲気がとってもある歌なのでね。そういう歌、小西さん好きでしょ? 女がストーリー背負って生きてる、みたいなの。
小西 好きですね。
──今回「帰ってくれたら嬉しいわ」などで、小西さんが英語の楽曲に新たに訳詞を付けています。八代さん、歌われてみていかがでした?
八代 面白いですよね。いきなり「指をからませ」ですからね。
小西 「フィーヴァー」の歌詞の中に“ポカホンタス”というのが出てくるんですけど、「これは日本語にならないよな」と思ってて“太郎と花子”にしたらバッチリ合いました。
八代 「恋の特効薬」なんて、「マダム八代」ですからね。マダム八代が薬屋さんやってて、どんな特効薬売ってるかっていったら、マムシのやつ(笑)。
──「恋の特効薬」の訳詞は最高です。
小西 こういう訳詞は漣健児さんの手がけられた洋楽カバーの歌詞を意識しましたね。もっと言うと「恋の特効薬」の原曲の作家であるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの曲って基本的にノベルティソングだから「面白いこと歌っていいんだ」って思いました。
マイナーキーの曲にはすっごく女の心が出てる
──5年ぶりのレコーディングにあたって、お互いに新たな発見もあったと思うんですが。
小西 「夜のアルバム」を作ったとき、八代さんはすごくマイナーキーにこだわっていらして。そこが僕は当時はよくわからないと言うか、消化しきれない部分もあった。でもこの5年間で、八代さんにとってマイナーキーの曲というのは決して暗い部分ばかりじゃないんだとわかって、そういう選曲をしました。今回そこはうまくいったところかなと思ってます。
八代 私はマイナーキーの曲が大好きなんです。すっごく女の心が出てるんですよ。ヒット曲でも好きな歌でもどの歌でも、歌の中のことは私は経験がないの。でも、マイナーキーに乗せて歌うことで経験したような気がするのね。つらい恋とか、そういう生き方をしてる人ってたくさんいると思うし、歌を歌ってるときの私と同じ気持ちをしてる女性がたくさんいると思うんですよ。そういう人たちが、私の歌で「つらいけど、私のつらさなんて大したことないや。がんばろう」って思ってくれる。それが私はすごくうれしい。メジャーキーの歌もいいんですよ。でも、メジャーキーの曲って歌い手が自分で楽しんでる気がしません? メジャーキーで楽しそうに歌ってるのを見ると「あの人たち楽しそうだな」って疎外感を感じるようなときもあります。
──マイナーキーだからこそ聴き手の気持ちに同化できるというのは興味深いお話です。小西さんも、その発見を今回の選曲に落とし込めたということなんですね。
小西 そうですね。前回はそこを自分でまだ割り切れないまま作ったようなところがある。今回はマイナーキーの曲を歌って楽しそうにしてる八代さんが素晴らしいなと思いました。
八代 性格が明るいからマイナーが好きなの(笑)。マイナーな曲の中には「大丈夫だよ、がんばれる」ってメッセージが入ってるんです。歌は深いんですよ。
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八代さんはマイクロフォンでの歌い方が完璧
- 八代亜紀「夜のつづき」
- 2017年10月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
-
[CD]
3240円 / UCCJ-2146 -
- 収録曲(タイトル / オリジナルもしくは代表歌唱アーティスト)
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- 帰ってくれたら嬉しいわ / ヘレン・メリル
- フィーヴァー / ペギー・リー
- 黒い花びら / 水原弘
- 涙の太陽 / エミー・ジャクソン
- 旅立てジャック / レイ・チャールズ
- ワーク・ソング / オスカー・ブラウン・ジュニア
- カモナ・マイ・ハウス / ローズ・マリー・クルーニー
- にくい貴方 / ナンシー・シナトラ
- 恋の特効薬 / The Searchers
- 夜のつづき(※インストゥルメンタル)
- 赤と青のブルース / マリー・ラフォレ
- 男と女のお話 / 日吉ミミ
- 夜が明けたら / 浅川マキ
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[アナログ]
3888円 / UCJJ-9010
2017年11月1日発売 -
- SIDE A
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- 夜のつづき #1
- フィーヴァー
- 黒い花びら
- 涙の太陽
- 夜のつづき #2(赤と青のブルース)
- 赤と青のブルース
- 男と女のお話
- SIDE B
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- 帰ってくれたら嬉しいわ
- 旅立てジャック
- ワーク・ソング
- カモナ・マイ・ハウス
- にくい貴方
- 恋の特効薬
- 夜が明けたら
ライブ情報
- An Evening with AKI YASHIRO
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- 2017年11月13日(月)東京都 ブルーノート東京
- 2018年1月17日(水)愛知県 名古屋ブルーノート
- A Christmas Evening with AKI YASHIRO
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- 2017年12月25日(月)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 八代亜紀(ヤシロアキ)
- 熊本県八代市出身。15歳で歌手を目指して上京し、銀座でクラブ歌手として活動を始める。1971年にシングル「愛は死んでも」でデビューを果たし、1973年には出世作となった「なみだ恋」を発表。1979年発売の「舟唄」が大ヒットを記録し、1980年には「雨の慕情」で「第22回日本レコード大賞」大賞を受賞した。演歌歌手として確固たる地位を築きながら、一方で画家としても才能を発揮。フランス「ル・サロン展」に5年連続で入選し、永久会員となった。2012年10月には小西康陽プロデュースによる初の本格的なジャズアルバム「夜のアルバム」をリリースし、翌2013年3月にはニューヨークの老舗ジャズクラブ「Birdland」でライブを行う。2015年10月、寺岡呼人プロデュースによる初のブルースアルバム「哀歌-aiuta-」を発売。2016年5月にはモンゴル文化大使に任命され、10月にモンゴルの国民的な歌謡曲のカバー「JAMAAS 真実はふたつ」をシングルリリースした。2017年10月には小西と制作したジャズアルバム第2弾「夜のつづき」が発売された。
- 小西康陽(コニシヤスハル)
- 1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。豊富な知識と独特の美学から作り出される作品群は世界各国で高い評価を集め、1990年代のムーブメント“渋谷系”を代表する1人となった。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして多方面で活躍。2009年にはアメリカ・ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」の作曲および音楽監督を務めた。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2015年6月には2ndアルバム「わたくしの二十世紀」をリリースした。2016年8月にはピチカート・ファイヴの初期作品「couples」と「Bellissima!」のリマスター盤を、CD、アナログ、配信の3パターンで復刻リリース。2017年10月発売された八代亜紀のジャズアルバム第2弾「夜のつづき」では、前作に続きプロデュースを担当した。