Yap!!!が2ndミニアルバム「Monochrome」とコラボレーションCD「Bichrome」を9月5日に同時リリースした。昨年始動したYap!!!がこの1年で培ってきたライブバンドとしての姿勢とブラッシュアップしたサウンドプロダクションを全開にした「Monochrome」と、Koji Nakamura、9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎とBase Ball Bearの小出祐介、CHAIのマナとカナ、KANDYTOWNのRyohuとDATSおよびyahyelのMONJOEを迎え、Yap!!!の音楽的な可能性を多面的に広げた「Bichrome」。この2枚の作品がYap!!!の現在地を指し示す。
音楽ナタリーでは両作のリリースを記念して、石毛と菅原の対談を実施。同世代のバンドマンとして長年深い親交がある2人の絆を垣間見れるエピソードから「Bichrome」の2曲目に収録されている「Everyone let's go with 菅原卓郎×小出祐介」の制作秘話までたっぷり語り合ってもらった。
取材・文 / 三宅正一 撮影 / 池田博美
9mmはデビュー後に初めてちゃんと仲良くなったバンド(石毛)
──改めてですが、2人の出会いから教えてもらえればと。
石毛輝(Yap!!!) 最初に対バンしたのが2008年の1月15日。「GO OUT!」というイベントで、凛として時雨とthe telephones(以下、テレフォンズ)と9mm(Parabellum Bullet)という3組で対バンして。あの日のことは強烈に覚えてるんですよ。そのイベントがターニングポイントになってテレフォンズの存在が世間に認知されていったから。当時のテレフォンズはまだインディーズでミニアルバム(「we are the handclaps E.P.」)を1枚しかリリースしてなくて、出演順はどう考えても俺たちが一番手だと思っていたんだけど、なぜか時雨がトップバッターで、9mmがトリを務めて。その間に挟まれて完全に死んだと思った(笑)。その頃の自分たちのお客さんは20人くらいしかいなかったから、とにかくインパクトだけは残そうと意気込んでライブに臨みました。でもライブが始まってみたら意外とテレフォンズを知ってくれている人たちが多くて盛り上がったんだよね。あのときのお客さんのリアクションがあって「もしかしたら俺たちもイケるかもしれない」って思って。テレフォンズのメンバー4人にプロ意識が芽生えた瞬間ですね。あのライブ後からみんなライブ前にテキーラを飲むのをやめて(笑)。
──それまではライブ前にテキーラをひっかけてたんだ(笑)。
石毛 そう(笑)。一方で9mmはそのときから完全に完成されたバンドだったから、同世代でこんなバンドがいるんだってすごく刺激になったし、負けたくないという気持ちが生まれて。当時の9mmは極端に言えば、暴れまくっていてほぼ演奏していなかったよね(笑)。
菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet) そうなんだよね。俺もこないだ10年前くらいのライブ映像を観たら「こいつらとは対バンしたくねえ」って思ったもん(笑)。
──当時の9mmはライブ中に流血とかしてましたよね?
菅原 メンバーとぶつかって派手に転倒して流血したライブというのは数えるほどしかないんですけど、印象に残りやすいんでしょうね。よく言われます(笑)。でも激しく弾きすぎて爪が割れるとか、そういうことは多かったです。
石毛 当時、テレフォンズもエモーション重視でそんなにしっかり演奏する感じじゃなかったから勝手にシンパシーを覚えて。お互い共通して好きなバンドがAt the Drive-Inだったりするしね(笑)。衝動の塊みたいなライブをするバンドが好きで、そういう共通項で仲よくなったところがあったと思う。9mmのライブを観て「これは時代が変わってきたぞ!」って思った。
──卓郎くんはそのイベントのことを覚えてますか?
菅原 はい、覚えてます。時雨ともテレフォンズとも初めて対バンした日だったので。2バンドとも曲は知っていたんですけど、実際にライブを観たら時雨もテレフォンズもとてもライブバンドだったんですよ。俺らも含め、自分たちの世代はライブバンドが多いと思うんですよね。時雨もテレフォンズも「リハの段階からなんでこの人たちこんなにエネルギッシュなの!?」って思った(笑)。俺たちも時雨もテレフォンズもつんけんした態度をとってるわけじゃないんだけど、リハで負けないぞという意気込みをそれぞれ出していて。それがいいなと思いました。
石毛 みんなちゃんと対バンのリハを観に来るしね。それが気になってしょうがなかった(笑)。
菅原 やりづらいよね(笑)。
石毛 うん(笑)。思い返せば9mmはテレフォンズがデビュー後に初めてちゃんと仲良くなったバンドかもしれない。時雨とちゃんと仲よくなるのはけっこうあとだった気がします。彼らは僕らと同じ埼玉出身なんですけど、時雨は埼玉のライブハウスで言うと大宮Hearts出身で俺たちは北浦和KYARA出身だったから。さらに俺個人はKYARAの店員でもあったから、ちょっとした“埼玉戦争”として意識していて(笑)。
ユーモアの表現をテレフォンズも時雨もそれぞれしていたと思う(菅原)
──卓郎くんはテレフォンズしかり石毛くんの作る曲を昔からどのように捉えていましたか?
菅原 この間も滝(善充 / 9mm Parabellum Bullet)と話していたんですけど、極端に言うと、9mmはずっとユーモアを表現してきたと思うんですよ。ライブでバカバカしいくらい暴れるとか、楽曲の中でも「このリフのあとにこんなパートを出してきちゃう!?」みたいな構成があったりとか。
石毛 いきなり静かになるとかね(笑)。
──過剰な表現性ゆえのユーモアですよね。
菅原 そうそう。かと思ったら歌詞がちょっとシリアスだったり。そうやってユーモアの表現をテレフォンズも時雨もそれぞれしていたと思う。時雨だってあんなにピリピリして研ぎ澄まされた音楽だけど、「nakano kill you」とか言うわけですよ。歌詞のタイトルがただのダジャレだったりもするし。
石毛 ユーモアを表現してるって、それマジで名言だね。この対談の見出しが決まったね(笑)。
菅原 そのユーモアの表現の仕方や濃度がバンドごとに違っていて。9mmと時雨は反対側に振り切れてると思うし、テレフォンズはその中でも一番キャッチーな方向性だと思う。「これはユーモアなんですよ」ということを「DISCO」というフレーズでキャッチーに伝えていて。楽曲の作り方も最新のテイストだったり、どこかで聴いたことある要素を組み合わせているんだけど、それをオリジナルな表現として提示するという。今回Yap!!!で「Everyone let's go」という曲を歌ってもそれを感じることができた。
石毛 何かをオマージュしたりするのもユーモアとガチのバランスが重要だと思うんだよね。そういう意味でも昔から「本気でふざける」ということをよく言っていた。
──真摯な音楽愛があるからこそ表出するユーモアがあると思うし。
菅原 そうですね。ユーモアでしか表わせられないんだけど、その向こう側に真摯な思いがあって。それが滲み出たときに「何か違う気がするな」って感じると思うんですよ。
石毛 うん、「軽くない」みたいな。今、話しながら思い出したんだけど、俺は昔からハードコアに憧れているんだよね。でもテストでがんばれば楽器を買ってもらえるくらいの普通の家庭環境だったから貧困層ではない。いわゆるそういうゲットーなものから生まれたハードコアに憧れたミュージシャンが生み出したのがユーモアだと思うんですよ。社会に対して不満や不安、痛みを感じてるんだけど、本物のハードコアな表現はできないから、何かで変換する必要があって。そういうことを思い出した。
菅原 その話はすごくわかる。「俺がこんなやり場のない怒りを持っていていいのかな?」という感じがあった。つらい人生を送ってるわけじゃないけど、湧き上がってくるものはあって。でもそのことについて、ハードなロックンローラーたちに比べて引け目を感じるところがあって。
石毛 あるよね。ガチの精神性みたいなものを先輩のバンドたちからガツンと食らった世代だから。
菅原 今にして思えばそれは全然気にすることじゃなくて。その人にしか測れない人生の痛みや悲しみの尺度があるわけだから。それは同じものさしでは測れないということを今になって思うんだけど。
石毛 比べられないし、比べちゃいけないんだよね。
──確かに以前の卓郎くんは9mm作品インタビューでもメッセージ性に関する言及にすごく慎重な人だったという印象があって。
菅原 ありましたね。「そんな大げさなものじゃないんですけどね」という注釈をつけないと重いものを語れない感覚があったのかな。
石毛 わかるな。本気でやっていることを「カッコ悪い」って言うやつがけっこう周りにいたから。そういうやつらに対して注釈を入れたかったんだろうね。でも、ロックを初めて聴いたときの衝動はずっと残ってるから。それがよくも悪くも消えないと言うか。それはYap!!!をやっていても変わらない。音楽をやっているかぎりは、ソロで静かな音楽をやっていても根っこは変わらない。アウトプットする音楽性が違うだけ。
- Yap!!!「Bichrome」
- 2018年9月5日発売 / Romantic 1984/UK.PROJECT
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[CD]
1620円 / R1984-004
- 収録曲
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- Summer time chill out with マナ&カナ
- Everyone let's go with 菅原卓郎×小出祐介
- Story of a boring man
- Happysad with Koji Nakamura
- The light with MONJOE×Ryohu
- Yap!!!「Monochrome」
- 2018年9月5日発売 / Romantic 1984/UK.PROJECT
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[CD]
1620円 / R1984-005
- 収録曲
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- Ahhh!!!
- Well, whatever
- Queen of the night
- Now or never
- Game of romance
- Wake me up!!!
- ツアー情報
Yap!!! Bichrome & Monochrome Release Tour ~Everyone Let's Dance~ -
- 2018年11月9日(金) 埼玉県 Livehouse KYARA
- 2018年11月16日(金) 北海道 SOUND CRUE
- 2018年11月18日(日) 宮城県 enn 3rd
- 2018年11月22日(木) 大阪府 LIVE HOUSE Pangea
- 2018年12月2日(日) 愛知県 CLUB UPSET
- 2018年12月6日(木) 福岡県 THE Voodoo Lounge
- 2018年12月7日(金) 岡山県 PEPPERLAND
- 2018年12月14日(金) 東京都 SPACE ODD
- Yap!!!(ヤップ)
- the telephonesの石毛輝が2017年に始動させた新プロジェクト。初期のライブは石毛が機材を駆使し、1人でステージに立っていたが、同年8月に汐碇真也(B)と柿内宏介(Dr)をサポートメンバーに迎え3人編成のバンドとして始動した。バンド結成を発表すると同時に配信シングル「Dancing in Midnight / Street」を、新たに立ち上げた自主レーベルRomantic 1984よりリリース。10月に同レーベルより1stミニアルバム「I Wanna Be Your Hero」を発表し、それを携えて対バンツアー「!!! We Dance, We Rock !!!」を開催した。2018年9月にオリジナルミニアルバム「Monochrome」とコラボレーションミニアルバム「Bichrome」を同時リリース。また同月に汐碇と柿内が正式メンバーとなった。11月からは全国ツアー「Everyone Let's Dance」を開催する。
- 9mm Parabellum Bullet(キューミリパラベラムバレット)
- 2004年3月横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2016年には自主レーベル・Sazanga Recordsでのリリースプロジェクトを始動し、4月に6thアルバム「Waltz on Life Line」、7月にテレビアニメ「ベルセルク」のオープニングテーマを収録した8thシングル「インフェルノ」をリリースした。同年11月に、左腕の不調により滝善充(G)は期限を決めずにライブ活動を休止することを発表、以降バンドはサポートメンバーを迎えてライブ活動を継続している。2017年5月にニューアルバム「BABEL」をリリース。6月7日に「ベルセルク」第2期のオープニングテーマ「サクリファイス」をシングルで発表した。映画「ニート・ニート・ニート」の主題歌「キャリーオン」を5月27日に配信限定でリリース。9月には3年ぶりのワンマンツアー「カオスの百年TOUR 2018」を開催する。