2人に出会えたことがうれしかったからバンド色の強い作品に
──今作を聴いて思ったのは、歌詞の世界観がthe telephonesやlovefilmとは絶対的に違うということでした。
石毛 もともと1人でやるものとして始めたプロジェクトだから自分のことしか歌ってないんですよね。俺自体がそういうことを歌いたい時期なんだと思うし。なんかヘンにオブラートに包んだ“世間用の自分”じゃなくて、悶々としながらもポジティブに音楽を鳴らしているっていうことが伝わればいいなと思っています。俺は音楽を鳴らしているときはもちろん楽しいけど、日常のすべてが楽しいわけじゃなくて、日々悩んでる。最近は社会問題にも目を向けるようになって憤りを感じて葛藤して。昔は歌詞にできなかったそういう気持ちを歌詞にできるようになったのは成長かなと自分で思いますね。
──なぜ昔はそういう感情を歌詞にはしなかったんですか?
石毛 なんか照れがあったし、心のどこかで俺が言うべきじゃないと思ってたのかもしれない。まあthe telephonesの俺はみんなを楽しませなきゃいけないという強迫観念があったから「DISCO!!!」って言い続けていたし。楽しいだけじゃないからこそあの「DISCO!!!」はたくさんの人に影響を与えたと思っています。歌詞に深みが増したと思うけど、深いからいいのかって言ったらまたそれも違う話。これを多くの人に届けて「やっぱりYap!!!はYap!!!だよね」って思ってもらうのが当面の目標ですね。
──「I Wanna Be Your Hero」は電子音よりバンド感がフィーチャーされた1枚になりましたよね。
石毛 バンド感を出したかったんですよ。2人に出会えたことがうれしかったから、彼らを大々的にフィーチャーしたかった。「バンドって楽しい!」っていう感じが詰まっていて、1stらしい1stになったなと思います。この1枚を作ってわかったこともたくさんあったから、次作に生かしていきたいですね。
──曲のテイストが統一されているなとも思いました。
石毛 もう曲はけっこういっぱいあるから、今のYap!!!が伝わりそうな曲を選びました。今後はもっとわかりやすい曲も逆にわかりにくい曲も出していくと思います。バンドにとって必要な曲と、俺らがやりたいと思う曲のバランスを面白く混ぜていこうかなと。でも今ストックしている曲は全部やりたい曲ではあるので、少しずついろんな側面を見せていけたらと思っています。それを考えるのもバンドの楽しいところだから。
──the telephonesの話ばかりしてしまって申し訳ないんですが、the telephonesが活動休止前最後にリリースしたアルバム「Bye Bye Hello」と「I Wanna Be Your Hero」は地続きな感じが少ししたんですよね。
石毛 俺はそういう意識はなかったけど、the telephonesの楽曲も俺が全部作ってたし、「Bye Bye Hello」を出してから2年しか経ってないからそう思われて当然っちゃ当然で。リスナーはバンドに対して特別な思い入れがあると思うから、例えば「この曲はthe telephonesでやってほしかった」とかあるかもしれない。あとあのアルバムは活動休止前最後だし、ツアーがあるわけじゃないから自由に作ろうと思って制約を設けず作ったんですよ。そういう意味では近いところがあるのかもしれないですね。でも俺は絶対的に違うものを作っていると思っています。
──どうやって曲を書き分けてるんですか?
石毛 書き始める時点で思い浮かべているメンバーの顔かな。最初からYap!!!の曲はYap!!!の曲として書きます。俺はイメージ先行型で、まとまるまでは楽器に触らないから、頭の中でサウンドの感じまで考えて、楽器を弾いて実際に曲にしていくんです。だからすぐに曲がどんどんできるんだと思う。
俺の長所で勝負したほうが絶対いい
──the telephonesは好きな洋楽を自分なりに解釈してアウトプットしていたかと思うんですが、最近はどんな曲を聴いていますか?
石毛 世界で流行っているもの。いわゆるR&Bやヒップホップ、ジャズ。あとは相変わらずエクスペリメンタルな電子音楽を聴いてるんですけど、いざそれを自分で作るかって言ったらまた違うんですよね。最初からそういう音楽をピュアにやっている人にはかなわないから、俺は俺の長所で勝負したほうが絶対いいはずなんです。ほかの2人がものすごくブラックミュージックに精通しているのであればそっちの道も考えたけどそういうわけではないから、それはYap!!!のアウトプットとしては違うなと思っていますね。
──最近はどういう音楽が好きなんですか?
石毛 バンドだったらSheer Magとかをよく聴いてますね。最近の好みの傾向としては、CDはサンプルと生音を混ぜて作っていて、それをライブでやるときには生演奏の比重が大きくなってドッカンドッカン盛り上がるようなバンドが好きですね。!!!、Bonobo、Caribou、The Fieldとかがそういう感じかなと思います。今回のミニアルバムに関しては生音がメインになっているからちょっと違うんだけど、今後はそういうバンドを目指していきたいなと思っていますね。
新たなシーンを作って盛り上げていきたい
──石毛さんは新レーベルRomantic 1984をUK.PROJECT内に立ち上げましたが、レーベルではどういう動きをしていこうと思っているんですか?
石毛 とりあえず自分の作品を出していきたいですね。今一番やりたいのはコラボです。ネタはもういっぱい考えていて、アンビエントなトラックにラップを乗せて、歌をきれいな声の人に歌ってもらうのなんかいいなと思ってますし、実際声がけもしていて。それが叶うかどうかはさておき、当人たち同士はもうかなり面白がっています。そういう話がいくつかあるので、それをまとめたコラボ盤みたいなものはいつかリリースしたいと企んでいるところです。
──そこにYap!!!も絡んでいく形なのでしょうか?
石毛 そうですね。クラブカルチャーが好きだから、余裕ができたら新しい深夜イベントを立ち上げたいなと思っていて、そこにYap!!!として出演したいですね。面白いアーティストをたくさん集めて、そこで新しい出会いが生まれたらいいなと思っています。最近Have a Nice Day!と仲良くなって、一緒に何かできないかなって話をしています。ボーカルの浅見(北斗)くんが同い年なんですよ。ハバナイとか、ああいうバンドと一緒に新しいシーンを作っていけたら面白いことが起きるんじゃないかなとワクワクしています。オルタナティブなロックの界隈が昔より元気がないなと思うから、もっとこのシーンを盛り上げていきたいですね。すごく音楽的じゃなくて乱暴な言い方だから好きじゃないんだけど、いわゆる“シティポップ勢”がちゃんと盛り上がっているので、そのカウンターとして我々みたいなオルタナティブなロックが頭角を表せたらと思っています。昔THE BAWDIESたちと「KINGS」というイベントを立ち上げてシーンを盛り上げたように、また今の時代にあった形で新しいシーンを作っていきたい。それを待ってる人も絶対いると思ってるし。
──今のライブシーンには“とにかく騒ぎたい人”“心地よいビートに揺れたい人”が多くて、オルタナティブなロックをストイックに楽しみたい人が昔より減ってしまったような気がしています。
石毛 そういう人、どこに行ったんでしょうね。歳を取って家庭を持つと来られなくなったりもするからなあ。若い層でもオルタナティブロックが好きな人たちは絶対いるはずなんだけど、そういう人たちが聴きたい音楽をやっているバンドがあんまりいないんでしょうね。だから俺たちがそういう存在になってシーンを盛り上げていけたらと思ってるんです。
──最後に伺いたいのですが、汐碇さんと柿内さんはYap!!!にとってどういう存在になっていきたいですか?
汐碇 僕はYap!!!にとってと言うか、1人のベーシストとして、プレイを極めて僕を見てベースを始める人が出てきたらいいなと思っています。せっかくまたステージに立たせてもらえているわけですから。
石毛 カッキーは?
柿内 盛り上げ……隊長?
石毛 えー! 何それ(笑)。
- Yap!!!「I Wanna Be Your Hero」
- 2017年10月25日発売 / Romantic 1984 / UK.PROJECT inc.
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[CD]
1944円 / R1984-002
- 収録曲
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- Dancing in Midnight
- Too Young for Love
- If I'm a Hero
- Street
- Before You Leave
- Kick the Door
ライブ情報
- Yap!!!「!!! We Dance, We Rock !!!」
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- 2017年11月4日(土)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
出演者Yap!!! / ART-SCHOOL - 2017年11月14日(火)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
出演者Yap!!! / フレンズ - 2017年11月28日(火)東京都 新代田FEVER
出演者Yap!!! / avengers in sci-fi
- 2017年11月4日(土)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
- Yap!!!(ヤップ)
- the telephonesやlovefilmのメンバーとして知られる石毛輝が2017年に始動させた新プロジェクト。初期のライブは石毛が機材を駆使し、1人でステージに立っていたが、同年8月に汐碇真也(B)と柿内宏介(Dr)をサポートメンバーに迎え3人編成のバンドとして始動した。バンド結成を発表すると同時に配信シングル「Dancing in Midnight / Street」を、新たに立ち上げた自主レーベルRomantic 1984よりリリース。10月に同レーベルより1stミニアルバム「I Wanna Be Your Hero」を発表し、11月から対バンツアー「!!! We Dance, We Rock !!!」を行う。