家主の3rdアルバム「石のような自由」が12月20日に配信リリースされた。
シンガーソングライターとしても活動する田中ヤコブ(Vo, G)を中心に2013年に結成された4人組ロックバンド・家主。3人のソングライターが織りなす美しいメロディと、新旧のロックやポップスの旨味を凝集したような滋味豊かなサウンドは、aikoや岸田繁(くるり)、草野マサムネ(スピッツ)など多くのアーティストからも称賛を集めている。噂が噂を呼ぶ家主とはいったい何者なのか? メンバー4人に話を聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 沼田学
家主 ARE…
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田中ヤコブ(Vo, G)
1991年、沖縄県生まれ神奈川県育ち。インドア志向アウトドア派。趣味はバイク、散歩、バッティングセンター。ときどき草野球にも行きます。こないだ初めて勝ててうれしかったです。2023年夏から平泳ぎもできるようになりました。
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谷江俊岳(Vo, G)
1984年、千葉県生まれ。上野でよく吞んでいる中間管理職。最近休みの日にやっていることは引っ越しサイトを見ていずれ越すであろう住居に思いを巡らすことです。もう少しだけでも広い家に住みたい。人間万事塞翁が馬。
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田中悠平(Vo, B)
1989年、埼玉県生まれ。趣味は漫画、ゲーム、料理。鶏胸肉をいかにして旨く食べるかを常に考えている。低温調理器を買って人生が豊かになりました。何も予定がなければ何日でも家に引きこもることが可能です。引きこもりたい。
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岡本成央(Dr, Cho)
1991年、神奈川県出身。魚座。未年。家主というバンドではドラムを担当しています。最近、人生の後半に差し掛かったことを実感し始めています。養生しましょう。よろしくお願いいたします。
ロックをできていたらいいなと思う
──家主は、どうしてこんなにいいバンドなんですか?
田中ヤコブ(Vo, G) ……どうなんでしょう(笑)。正直、いいバンドかどうかも自分たちでは判断しかねるところはあるんですけど……。
田中悠平(Vo, B) 確かに。
ヤコブ ほかの人たちと比べて自分たちがいいか悪いかって、あんまりわからないんですよね。1つ言えることがあるとすれば、あるとき“いい曲を作れる人たち”を示す円の中になんとなく入ることができた感覚があって……。
──円?
ヤコブ 曲を作り始めたばかりの頃は、例えばスピッツの曲を聴くと、陶酔できる美しいメロディがあって音楽としてのカッコよさもあって、「あそこまでの高みに行けるのかなあ?」と自分の作る曲との間に越えられない壁のようなものを感じていたんです。それが大学時代、曲を作りまくっていた中で……スピッツの域にまでは届かないとしても、少なくとも同じ土俵には上がれたような感覚をなんとなく覚える瞬間があったんですよ。それがずっと続いている感じですね。
悠平 この人はいい曲を書くだけじゃなくて、人の曲をよくする能力もすごいんですよ。曲を書いた僕らのやりたいことを汲んで「こういうのがええんやろ?」みたいにアレンジする能力が。
谷江俊岳(Vo, G) ヤコブの手が入るだけで曲が2段階くらいよくなるんです。その感覚を味わえるのがバンドをやっていて楽しいポイントではありますね。
──ソングライターが3人もいながらバンドの音楽性に明確な一貫性を感じるのは、おそらくそのおかげなんでしょうね。ヤコブさんのまとめる力というか。
谷江 それはもう絶対にそうです。
──ちなみにバンドの音楽性については、どんなふうに自覚していますか? 例えば、お昼のラジオ番組とかに呼ばれてパーソナリティの方から「家主さんはどんな音楽をやっているバンドなんですか?」と直球で聞かれた場合、どう答えます?
ヤコブ ……(しばし考え込んで)オルタナ?
一同 わはははは。
ヤコブ 一般の人にギリ伝わるワードで言うとオルタナ……いや、どうなんでしょう。ロックと言われることにもすごく違和感があって。ロックも時流でいろいろ変化する音楽だと思うので、そういう意味で家主の音楽はジャンルが特定できるようでできないのかな、とは思いますね。だからオルタナ……もっと違う適切な言葉がありそうな気もするんですけど(笑)、まだ自分でも見つけ切れていない感じです。
──なるほど。ちなみにこれは僕の個人的な感じ方にすぎないんですけど、むしろロックとしか言いようのない音楽だなと思っていて。
ヤコブ ああ、そうですか。
──今のロックは細分化されすぎていて、どこにも“本流”がなくなっているような状態なんですよね。でも家主の音を聴いた瞬間に「これは本流だ」と素直に思えた。支流ではないロック音楽というものをひさびさに聴いた感覚と言いますか。
ヤコブ それで言うと、私はさっき「ロックと言われることに違和感がある」と言いましたけど、自分の中では今回のアルバムの4曲目に入れた「歩き方から」という曲を作ったときに「ロックができた」みたいな感触が実はあって。世間の人に対して「これがロックです」とは言えないけど、個人的には今回一番やりたいことができた手応えのある1曲でして……。
──“世間が思うロック”ではなく、“自分が思うロック”をしっかり作れたということですよね。
ヤコブ そうですね。自分の中の“ロック”の定義には、意外とアコースティックの要素があるんですよ。その感じがこの4曲目では表現できたかなと。
──実際、ロックというワードを使うときはすごく気を使いますよね。なんせ絶対に誤解される言葉なので。
ヤコブ お茶の間の認識としては、今はいわゆるアニソンロックみたいな感じを連想するのが一般的かもしれませんね。ドラムがドコドコいっててギターがギュンギュン鳴ってて、ボーカルがエモい感じで歌っている的な。別にそれが間違いだと言うつもりもないし、私自身そういう音楽も好きなので全然いいんですけど、自分の中での“ロック”はもうちょっとワビサビのあるものを指すイメージなんです。だからその意味でロックだと受け取ってもらえるのであれば、それはうれしいですね。強要はしませんが(笑)。
──家主の場合、“一般的にロック的だと考えられている要素”を借りてきて表面的に取り入れるのではなく、偉大な先人たちがしてきたように「自分たちのやるべきバンド音楽とはどういうものだろう?」ということを根本からちゃんと考えて楽曲やサウンドの骨格を作り上げていますよね。その姿勢が極めて真っ当だから、“本流”だと感じられるんだろうなと思います。
ヤコブ ありがとうございます。わりとそこは自分でも気を付けているというか、コスプレっぽくなるのは嫌だなと思っていて。素直に自分のやりたいことやイメージしているものをそのままアウトプットする、というのは意識していることかもしれないです。だから、バンドの音楽性を説明する言い方としては「ロックをできていたらいいなと思う」って感じが思っていることに一番近いですね。
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イリエくんに借りたCDが礎になっている