唯一無二なポップの祭典「YANO MUSIC FESTIVAL」|矢野博康、堀込泰行、小松シゲル(NONA REEVES)、南波志帆が振り返る「矢野フェス」の歴史

坂本真綾、Negicco……矢野フェス拡張期へ

YANO MUSIC FESTIVAL 2014
2014年9月13日(土)恵比寿ザ・ガーデンホール
<出演者> 南波志帆(オープニングアクト)/ 堀込泰行 / tofubeats(ゲスト:lyrical school) / 土岐麻子 / 秦基博 / バカリズム

オープニングメドレー

  1. キミ、メグル、ボク / 矢野博康
  2. 髪を切る8の理由。 / 秦基博
  3. Don't Stop The Music / 南波志帆×バカリズム
  4. Gift ~あなたはマドンナ~ / tofubeats+Negicco+lyrical school
  5. 風を撃て / 土岐麻子
  6. 風を撃て / 堀込泰行

レポート

2014年9月14日(日)恵比寿ザ・ガーデンホール
<出演者> Negicco(オープニングアクト)/ 堀込泰行 / 坂本真綾 / 秦基博 / 堂島孝平

オープニングメドレー

  1. 葛飾ラプソディー / 矢野博康
  2. グッバイ・アイザック / 堂島孝平
  3. 恋するねぎっ娘 / 秦基博
  4. プラチナ / Negicco
  5. 双子座グラフィティ / 坂本真綾
  6. 双子座グラフィティ / 堀込泰行

レポート

──2014年の「矢野フェス」は2日間で、初参加メンバーもtofubeats、Negicco、lyrical school、坂本真綾と、ラインナップの幅が一気に広がりました。これだけ幅が広がると、ハコバンは大変ですよね。

小松シゲル(NONA REEVES)

小松 この年は特に大変だったかもしれないですね。2日間で曲数はいつもの倍だし、難しい曲も多かった。

矢野 「矢野フェス」の拡張期ですね。常に拡張期なんだけど(笑)。

──坂本真綾さんがアニメ関連以外のイベントに出ること自体このときは新鮮でしたが、その後ロックフェスにもよく出るようになりました。

矢野 真綾さんはノーナの奥田(健介 / G)がずっと一緒にやってるし、ほかにも共通の知り合いはもともと多かったんですよ。このあと土岐や泰行、堂島くんと一緒に曲を作ったり、僕もアレンジをさせてもらったりして。真綾さんも「矢野フェス」がきっかけで交流が広がったってよく言ってくれますね。

南波 矢野フェスの後、真綾さんはプライベートでもごはんに連れて行ってくださったのですが、本当に気さくで素敵な方なんですよ。(レポートの写真を見て)後ろの肖像画ヤバいですよね……。

──ヤバいといえば、忘れていましたが前年に初めて公式ドリンクの「矢野水」が販売されていて、この年は200円プライスダウンしています(笑)。

南波 前回500円で販売してけっこう売れ残ったと聞いたので、「飲むと肌がきれいになる」とか「目が大きくなる」とかいろんなことを言ってセールストークしました。

小松 「飲んだら宝くじが当たった」とかね(笑)。これ(オープニングの写真を見て)……どうかしてますよね。肖像画があって、矢野さんのハンドベル演奏があって、チアが出てきて。

矢野 楽しいんだけど、トップバッターの人には申し訳ないよね。いつもどういう気持ちなの?

堀込泰行

堀込 いや、もう慣れちゃったよね。

一同 あはははは!!

堀込 居心地はいいよね。ほら、盛り上げる必要がないじゃん。いつもトリの堂島くんみたいに大団円を任せられるような重圧もないから。オープニングですでにあったまってるお客さんの前に出ていって、普通にやればいい。自分の曲を歌う分にはね。逆にほかの人と絡む時間のほうが気を遣うし、プレッシャーがありますよ。

テレビ的要素をさらに強めた「YAONのYANO Fes」

YANO MUSIC FESTIVAL 2018 ~YAONのYANO Fes~
2018年6月16日(土)日比谷野外大音楽堂
<出演者> 堀込泰行 / 坂本真綾 / 寺嶋由芙 / 南波志帆 / Negicco / 土岐麻子 / さかいゆう / EPO / NONA REEVES / 堂島孝平

オープニングメドレー

  1. 圧倒的なスタイル / 矢野博康
  2. マジックナンバー / Negicco
  3. う、ふ、ふ、ふ、 / 坂本真綾 with 南波志帆&寺嶋由芙
  4. Gift ~あなたはマドンナ~ / EPO
  5. き、ぜ、つ、し、ちゃ、う / 土岐麻子
  6. 透明ガール / 堂島孝平
  7. 銀砂子のピンボール / NONA REEVES
  8. 銀砂子のピンボール / 堀込泰行

レポート

──2018年は初の野外フェスとなりました。坂本真綾さんとNegiccoは前回の初登場から連続出演ですが、前回から4年近くブランクが空いてるんですよね。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2018 ~YAONのYANO Fes~」の様子。(撮影:音楽ナタリー編集部)

矢野 なんとなく矢野フェスの流れというものができてはいますけど、本来は単発のイベントで、いつも最終回のつもりでやってるんですよ。

南波 カッコいいですね。

矢野 なんていうの? 何かを我慢してやるようなイベントじゃないというかね。まず、儲かるイベントではないんですよ(笑)。

堀込 あれだけ毎回豪華にやってたらね。あんな大きな壁画とか作ってたら(笑)。

──だからと言って壁画を置かないとか、チアを入れないとか、かける予算を絞ったライトなイベントにして回数を増やすのは違うと。

小松 ただのポップスイベントになっちゃいますもんね。

矢野 それはほかの誰かがやるだろうし、予算配分の歪さが特徴になってるところもあるので(笑)。幸い、そんな「矢野フェス」を面白いと思ってくれる人も多くて、本当に毎回いろんな縁によって支えられていることを実感します。

──単発イベントのはずなのに、いろんなところから「『矢野フェス』をやりませんか」と声をかけられるという。

矢野 そうなんです。本当にありがたい話ですよね。それで「野音でやりませんか」と声をかけられたとき、あの規模なら出演組数も増やしてやったほうがいいだろうということで、また少しフォーマットを変えて。もともと音楽番組のオマージュの要素はあったけど、組数を増やして、1組あたりの曲数を減らしたら、よりテレビ番組に近い形になった。ただ単に出演者を増やすととっ散らかっちゃうから、真ん中あたりに誰かをフィーチャーするようなコーナーが欲しいと思って、レジェンド枠としてEPOさんに入ってもらったんです。そういうテレビ的な要素は今年のオンラインにつながっていきますね。

小松 いいですよね。アイドルの人たちとレジェンドの共演なんて、テレビではよくあるかもしれないけど、こういうポップスがぎゅっと集まった場でそれが実現するというのは、なかなかないと思う。

矢野 イベントを1つの塊として見せたいというのはあるんですよね。イベントが終わって、出演者がそれぞれ「おつかれさまー」と帰っていくような感じじゃなく、出演した全員に何かの関係性がちゃんと生まれるような。

トークを回す堀込泰行(中央)。(撮影:音楽ナタリー編集部)

──野音の回で話題になった新しい試みとしては、泰行さんがアイドルたちのトークを回す「お嬢さんいらっしゃい」もありますね。若い女子に囲まれて、オロオロしているような、堂々としているような。あれ、なんで引き受けたんですか?

堀込 引き受けたというより、やれと言われたからやっただけで。困ったら南波さんがなんとかしてくれるだろうと(笑)。

南波 もう伝説のコーナーですよ。どっかんどっかん沸いてましたもん。すごいアドリブ力ですよね。学ぶことも多かったです。

矢野 あのコーナーの詳細は当日決まったんだけど、「矢野フェス」が新たな武器を手に入れた感じ。泰行は無口な人だと思われがちだけど、実はトーク力が高いんですよ。まあ、今回もやってもらいますけど(笑)。

テレビの手法に挑戦した初のオンライン開催「歌うスタジオ」

YANO MUSIC FESTIVAL 2021 ~ヤノフェス 歌うスタジオ~
2021年1月30日(土)オンライン
<出演者> 土岐麻子 / スカート / Negicco / BEYOOOOONDS / 南波志帆 / 町あかり / 鈴木茂 / 堀込泰行 / 堂島孝平

オープニングメドレー

  1. 眼鏡の男の子 / 矢野博康、南波志帆
  2. 葛飾ラプソディー / BEYOOOOONDS
  3. 愛、かましたいの / 堂島孝平
  4. 君がいるなら / Negicco
  5. コテンパン / スカート
  6. エイリアンズ / 町あかり
  7. 美しい顔 / 堀込泰行
  8. 美しい顔 / 土岐麻子

レポート

──今年1月の「矢野フェス」は、ナタリーのオンライン企画「マツリー」の一環として、初の収録映像配信という形で実施されました。もともとテレビ番組のオマージュ要素があった「矢野フェス」をテレビ的手法でパッケージするとどうなるかという。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2021 ~ヤノフェス 歌うスタジオ~」の様子。(撮影:曽我美芽)

矢野 人によっては「どうかしてる」と思われがちな「矢野フェス」の演出は、自分の中ではいにしえのテレビショーの再現なんですよ。再現は再現なんだけど……例えばジョン・レノンはチャック・ベリーに憧れてギターをジャーン!と鳴らしたけど、実際のところチャック・ベリーはそんなにギターを歪ませてなかったみたいな。

堀込 なるほど。憧れが頭の中で過剰になっちゃう。80'sの音もキラキラしたイメージがあるけど、実際はけっこう地味だったりするもんね。

新潟から出演したNegicco。

矢野 そうそう。頭の中にあるテレビショーのイメージがブーストされて歪んだものを、オンステージでやってたわけです。それをメタ的にテレビショーの枠にはめてみたのが「歌うスタジオ」で。収録だと、それこそテレビ的に「中継先の◯◯さん」もやれるなという発想から、東京に出て来られないNegiccoにも新潟から参加してもらえた。それは収録のメリットですね。

小松 あのバーチャルな感じが逆に面白かったよね。ライブではできないことだから。

──泰行さんは収録日がNGだったにもかかわらず、編集によってメドレーにも参加できたり。

堀込 いやいや、ホントすみませんでした。本当は僕も中継で参加したかったんだけど、どうしてもレコーディングと重なっちゃって本編には出られなかった。

左から堀込泰行、矢野博康、南波志帆、小松シゲル(NONA REEVES)。

──初参加はスカート、町あかりさん、BEYOOOOONDS、そしてレジェンド枠の鈴木茂さんという顔ぶれでした。BEYOOOOONDSと元はっぴいえんどが一緒の空間にいるという、すごく不思議な光景で。

小松 鈴木茂さんはすごかったなあ。圧倒されましたね。

「矢野フェス」初出場のスカート。(撮影:曽我美芽)

矢野 町あかりさんは単純に僕が大ファンなのでうれしかったな。スカートの澤部(渡)くんは「矢野フェス」にすごく合うと思うので、ぜひまた出てほしいですね。スカートと泰行がそろえばコラボ曲が一緒にやれたのにね(参照:堀込泰行が気鋭アーティストとコラボする新作にスカート、明日ラジオで音源OA)。今後のお楽しみということですね。

南波 実は澤部さんは私の曲にも参加してくださってるんですよ。しかもまさかのラップで(参照:南波志帆のヘッドフォン付きシングルにNegicco Nao☆、さよポニ、スカート澤部)。まだライブで一緒にやったことがないので、いつか「矢野フェス」で披露できたらうれしいです。

──ご時世と企画がうまくハマった形で実現した「歌うスタジオ」でしたけど、これはこれで「矢野フェス」の正しい形というか、オンステージも継続しつつ、オンラインの可能性もさらに探ってほしいなと思いました。

矢野 そうですね。両方によさがあるので、オンラインでもまだまだやれることはあるし、またやってみたいですね。