矢野顕子|ふたりの“今”を融合させたコラボアルバム

矢野顕子が11月28日にコラボアルバム「ふたりぼっちで行こう」をリリースした。

矢野がコラボアルバムを発表するのは、2006年リリースの「はじめてのやのあきこ」以来実に12年ぶり。アルバムにはReed and Caroline、吉井和哉、YUKI、奥田民生、松崎ナオ(鹿の一族)、大貫妙子、上妻宏光、U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS、平井堅、前川清、細美武士というそうそうたるアーティストが参加し、矢野と共に個性あふれる音世界を描いている。音楽ナタリーでは矢野本人にインタビューを行い、「ふたりぼっちで行こう」の制作エピソードを語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 斎藤大嗣

コラボはその人の“今”と私の“今”を融合させるもの

──コラボアルバムは、2006年リリースの「はじめてのやのあきこ」以来12年ぶりですね。

はい。今回はスタッフから「ひさしぶりに、どうですか?」と提案され、「ええ、いいですよ」という流れで。私自身のアイデアではなかったんですけれど、作業そのものは楽しかったですね。

──アレンジ、ピアノのタッチ、ボーカルとどれをとっても「これぞ矢野顕子!」という仕上がりで。それでいて、共演した方々の持ち味がとても際立っていると感じました。全11曲、それぞれ異なるおいしさがあると言いますか。

こういうコラボ企画は、やっぱりお相手の方がいて。その人の“今”と私の“今”を融合させて作るものですからね。同じ曲でも、別の機会に試せばまた違ったものになるでしょうし。それで言うと今回は、まさにそのときどきにお互いが感じた「こうしたい」っていう思いが、全部出せたアルバムじゃないかと思います。全曲、それぞれに。

──共演アーティストはどのように選ばれたのですか?

これはわりあいすんなり決まったかな。私は普段から、いい音楽を耳にしたり「この人、才能あるなあ」と思ったりすると、ごく自然に一緒に演奏してみたくなるんですね。もちろんCDも買って、「ほかにはどんな音楽を作ってるのかな」と、私なりのリサーチも必ずしますし(笑)。今回もそういう、自分が大好きな方々にお願いしました。

──すでにライブでは共演されていて、言わば気心の知れた相手の方も多いですよね。アルバムのティザー映像を見ると、どの曲も文字通り、スタジオで顔を付き合わせつつレコーディングされている印象でした。実際の作業はどんなプロセスで?

取り上げる曲はもう決まってますからね。スタジオに入ったら、お互いもうやってみるしかない。大変なのはむしろ、その前の段階です。私がアレンジメントを担当する場合は、それが自分の中でしっかり固まるまでがんばらなきゃいけない。オリジナルを何度も聴いて、ピアノの前で演奏を繰り返して……納得がゆくものができた時点で、お相手の方に「これで歌っていただけますか?」と提示します。そのうえで、「もし気に入らなかったら遠慮なくおっしゃってください。別のアレンジを考えますので」とお伝えするという。基本そうやって進めていますね。

矢野顕子

「SUPER FOLK SONG」に映っていた行程を変わらず1人でやってる

──アレンジを模索する際、矢野さんの中にまず「この曲はこういうふうに演奏したい」という直感なりビジョンがあって、そこに向かって構築していく感覚なんでしょうか?

それはもう、さまざまですよ。曲によってはすんなり「あ、これでいいかな」という方向性が見つかることもあれば、何回もトライ&エラーを繰り返してようやく、というケースもある。うまくいかないことも当然ありますしね。例えばテンポ設定1つ取っても、リズムというのは結局、編曲が連れてきてくれるものなので。全体をどうアレンジするかというイメージなしに、そこだけ決めるわけにもいかない。

──そう言えば昨年、24年ぶりに劇場公開されたドキュメンタリー映画「SUPER FOLK SONG~ピアノが愛した女。~」の2017年デジタルリマスター版を観たんです。

あら。そうなの?

──そこでもピアノの前に1人で座って、微妙にスピードを変えながら何度もイントロを弾き続ける矢野さんの姿が、強く印象に残りました。コラボの楽曲でも、そういう孤独な部分は変わらないと?

もちろんです。それこそ「SUPER FOLK SONG」に映っていたあれと同じ行程を、相変わらず1人でずっとやっています(笑)。

──ちなみに本作、当初のタイトル候補は「ふたりぼっち」だったそうですね。そこに矢野さんが「で行こう」と加えられたと。末尾にこの言葉がついて、印象がずいぶん変わりますね。

そうね。「ふたりぼっち」だと、なんか足りない、ちょっと寂しいなと思って。いつものちょっとした思い付きなんだけれど。

──矢野さん自身も書かれていたように「ひとりもいいけど、ふたりはもっといい」。まさにそういう空気が、アルバム全体から伝わってきた気がしました。

うん。なんとなく、明るい感じがするでしょ(笑)。