そこに存在するだけでも幸せ
──続く11曲目「目覚めの岸辺」はrionosさん作編曲による、生音主体の心温まるミディアムバラードです。rionosさんが作編曲でやなぎさんの作品に参加されるのは初めてですよね?
はい。先ほど話に出た北川さんの「ターミナル」でストリングスアレンジをお願いしたことはあるんですけど、作編曲までお願いするのは初めてですね。rionosちゃんとは、前々から私の音楽の仲間内でつながってはいて、オファーする機会をずっとうかがってたんです。最近彼女もメジャーデビューをして、だいぶ忙しくしているんですけど「今ちょうど時間があります」とのことだったので、「ぜひお願いします」と。
──やなぎさんから何かしら具体的なオーダーを出されたんですか?
「歌詞が先にあるとやりやすいです」と言っていたので、少し前に書いてストックしていた歌詞をちょっとだけ書き直したもの渡しつつ、ざっくり曲の雰囲気を伝えた程度ですね。アレンジは温かい空気にしたくて、2人で相談した結果、ベースやドラムは生音で録りました。
──「目覚めの岸辺」の歌詞って、どこか達観していません?
そうですか?
──詞の内容としては、星の砂をガラスの小瓶に入れて海へ流すというものですが、同じく海が舞台である「海を込めて」の貝殻が「拾ったあなたに届けたいの」と願っていたのに対し、「目覚めの岸辺」の小瓶は、その受け手が想定されていない。あるいは「誰にも届かなくてもいいか」くらいのテンションですよね。
そうですね。届かなくても、この星の一部になって何百年も漂っていられたらいいやっていう。
──それなのに「また明日も星の砂集めて ガラスの小瓶で空の海に送り出そう」と歌っています。この星の砂がやなぎさんの音楽の比喩だとしたら……。
ふふふ(笑)。その気持ちはありますよね。結局、私の曲ってうまく言葉にできないこととか「わかってもらえなくてもまあいいかな」って思っているようなことが音楽という形をとって出てきているようなものなので。曲として生まれたのであれば、そこに存在するだけでも幸せなんじゃないかって。
あるとうれしい、ないとちょっと寂しい
──12曲目「夜明けの光をあつめながら」は再び北川勝利さん作編曲の新曲ですが、こちらは王道的なポップスです。アレンジも北川さんらしいバンドサウンドですね。
わりと直球な、どメジャーな感じの。この曲は、7曲目の「海を込めて」の作曲をお願いしたとき、「よしわかった。それも作るけど、まずはこれを聴いてくれるかい」と、北川さんがいくつか持ってきてくださったデモのうちの1つなんです。そのとき私は「この曲もめちゃくちゃいいですね。ぜひ歌いたいんですけど、バラードのほうもお願いしますね」って(笑)。
──ははは(笑)。
一応、念押しして。そしたら快く「もちろん」って言ってくださって。
──「夜明けの光をあつめながら」は、明日が来るのをなかなか受け入れらない人の気持ちを歌っています。やなぎさんもそういうふうに考えるタイプですか?
そうですね。すごく楽しいことがあった日は、「このまま今日が続いてほしいな」と思うときがありますし。でも結局、また新しい日が来ないとまた別の楽しいことも起きないなっていう気持ちにもなったりして。そういう葛藤は自分の中にもありますね。
──この曲の「僕」も、今日に後ろ髪を引かれつつ最終的には明日へ向かおうとする。前向きな歌詞ですよね。
うーん……私は、油断するとつい後ろ向きな歌詞を書いてしまいがちなんですけど(笑)、この曲の歌詞に関しては、前向きと言うよりは、「あんまり天邪鬼にならないようにしよう」くらいの気持ちと言うか。せっかく、今回は宝物をみんなに見てもらうようにしているんだから、できるだけ素直な気持ちで書きました。
──そして、冒頭でも触れた最終曲の「natte」へ。ピアノ伴奏のみのシンプルな演奏ですが、ボーカルを幾重にも重ねて、声で“綯う”ような緻密な曲ですね。
声をいっぱい集めて、より集めるように声を重ねたり、あえてバラバラの声を聴かせたり、“声を綯う”ことを意識して音作りをしました。「snowglobe」がアルバムのイントロダクションなら、「natte」は完全にアウトロですね。直前の曲「夜明けの光をあつめながら」で、「いい話だったね」みたいなエンディングを迎えて、この「natte」でその余韻に浸ってもらうようなイメージで作りました。
──先ほどのコース料理の例えで言うと、デザート?
ですかね。あるとうれしい。あるいは、ないとちょっと寂しい。
──レコーディングについて、DJみそしるとMCごはんさんとの「relaxin'soup」については少し触れてくださいましたが、ほかの曲は順調でした?
そうですね。ただ自作の新曲、つまり「snowglobe」と「スーパーヒーロー」と「natte」は難航しました。と言うのもこの3曲はエンジニアさん抜きで、自分1人でレコーディングをしているんです。エンジニアさんと1対1で録るのも別に嫌いじゃないんですけど、やっぱり1人でも自分以外の人が加わることによって、歌もちょっと違うものになると思っていて。なので今回は、完全に自分自身と向き合おうと、1人でスタジオにこもって納得いくまで何度も録りました。
──「歌もちょっと違うものになる」というのは、歌い方が他者のディレクションに左右されるという意味ですか?
それもありますし、むしろ「こっちのほうがいいんじゃない?」って正解へ導いてくれるというメリットもあるんですよね。やっぱり自分だけだと何を正解にしていいかわからなかったり、結局最初に録ったテイクが一番よかったり、もしくは「いや、こっちのほうがいいかな?」とか、道を見失ったりする瞬間がたくさんあって。例えば「snowglobe」では歌ってからトラックを部分的にいじったりもしてるんですよ。そういう苦労もあったんですけど、結果、1人でやってみてよかったと思っていて。いつもと違うことにチャレンジすることで、自分自身の成長を感じることができたのはよかったです。
- やなぎなぎ「ナッテ」
- 2018年1月17日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
4536円 / GNCA-1521 -
初回限定盤 [CD+DVD]
4320円 / GNCA-1522 -
通常盤 [CD]
3240円 / GNCA-1523
- CD収録曲
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- snowglobe[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 時間は窓の向こう側[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:bermei.inazawa]
- over and over[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:北川勝利(ROUND TABLE)]
- here and there[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:中沢伴行]
- スーパーヒーロー[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- あなたはサキュレント[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也]
- 海を込めて[作詞:やなぎなぎ / 作曲:北川勝利(ROUND TABLE) / 編曲:acane_mudder、北川勝利]
- 瞑目の彼方[作詞:やなぎなぎ / 作曲:鷺巣詩郎 / 編曲:CHOKKAKU、鷺巣詩郎]
- 砂糖玉の月[作詞・作曲:やなぎなぎ / 編曲:出羽良彰]
- relaxin'soup feat. DJみそしるとMCごはん[作詞・ラップ:やなぎなぎ、DJみそしるとMCごはん / 作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 目覚めの岸辺[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:rionos]
- 夜明けの光をあつめながら[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:北川勝利(ROUND TABLE)]
- natte[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
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- やなぎなぎ 5周年記念ライブ「Cassiopeia Limited Express」ライブ映像
- やなぎなぎ 2018年ワンマンツアー
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- 2018年3月4日(日)宮城県 Rensa
- 2018年3月18日(日)大阪府 umeda TRAD
- 2018年3月21日(水・祝)愛知県 ElectricLadyLand
- 2018年3月24日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年3月25日(日)福岡県 イムズホール
- 2018年3月31日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2018年4月8日(日)北海道 cube garden
- 2018年4月15日(日)香川県 DIME
- 2018年4月21日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- やなぎなぎ
- 関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するやいなや注目を集め、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューした。その後も2013年7月に1stアルバム「エウアル」、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」、2016年4月に3rdアルバム「Follow My Tracks」とコンスタントに作品を発表。2018年1月には4thアルバム「ナッテ」を、2月にはアニメ「覇穹 封神演義」のエンディングテーマである「間遠い未来」をシングルリリースする。