やなぎなぎが4thアルバム「ナッテ」を1月17日にリリースする。
この作品は、より合わせて1つのものを作るという意味の“綯う”から名付けられたフルアルバム。「瞑目の彼方」「時間は窓の向こう側」「over and over」といったアニメタイアップ曲のほか、齋藤真也、北川勝利(ROUND TABLE)ら、やなぎと縁のあるクリエイターからの提供曲、やなぎ自身が書き下ろした新曲を含む計13曲が収められる。音楽ナタリーではアニメタイアップ曲を多数収録しながらも「宝物」をテーマにコンセプチュアルな作品を作り上げた彼女に、アルバムに込めた思いや制作の裏側を聞いた。
取材・文 / 須藤輝
1つにまとめるという意味の「ナッテ」
──やなぎさんは「春擬き」リリース時のインタビュー(参照:やなぎなぎ「春擬き」インタビュー)で、字面のインパクトについて言及していました。今回のアルバムタイトルである「ナッテ」も、なんらかの意図があってのカタカナ表記ですよね?
はい。「ナッテ」は漢字で書くと「綯って」。この「綯う」という言葉には、例えば「縄を綯う」という使い方のように複数の糸だったり紐だったりをより合わせて1つにしていくという意味があるんです。今回のアルバムの大きなテーマが「宝物」なんですけど、私には好きなものがたくさんあって、それを1つにまとめるという意味を「ナッテ」に込めました。カタカナにしたのは最後の曲、13曲目の「natte」の歌詞にもあるんですけど、同じ音でも「鳴って」「綯って」「成って」と、いろんな「ナッテ」があるのを感じ取っていただけたらいいなって。
──今「宝物」とおっしゃった通り、今作は「宝物をスノードームに閉じ込めたら、誰にも触れないけど誰にでも透けて見える宝箱になるんじゃないかな、という思いから作りはじめた」とのことですが( 参照:やなぎなぎ新アルバムは「ナッテ」初回盤には5周年ワンマン映像)、やなぎさん作詞作曲、編曲の「snowglobe」の歌詞は、宝物をただ眺めるという曲ではないですよね。
はい。どっちかと言うと、宝物たちがスノードームの内側でどういう気持ちでいるかを描いた、アルバム全体のイントロダクションのような曲になっています。
──ただ、その宝物たちは「見られてしまう すべて」「逆さにまわして見透かされる」と感じているようで、あまり居心地がよさそうではない。
確かに(笑)。私自身が、自分が好きなものを人に知られることをちょっと恐れていると言うか。逆に自分が誰かの趣味嗜好を知るときも、ドキドキしちゃうんですよね。やっぱり人って、私もそうなんですけど、他者に対して自分に都合のよいイメージを作っちゃうところがあると思っていて。皆さんがイメージするやなぎなぎと、実際のやなぎなぎとの間にはギャップがあるはずなんです。例えば私が「○○を好きです」と言ったとき「え、そんなものが好きなの?」って意外に思われる方もきっといる。だからドームの中の宝物たちも、宝物として扱われることはうれしく思いつつも、見られていることに対しては若干の恐怖心があるんじゃないかなって。
構想自体は1年くらい前から
──「snowglobe」は、曲調としてはやなぎさんの音楽的ルーツの1つでもあるフォークトロニカの要素が入った楽曲ですよね。サウンド面でも、例えばミニマルなピアノのフレーズが、ひっくり返せば何度でも繰り返し雪を降らせるスノードームを想起させます。
ありがとうございます。スノードームをくるくる回すような感じを表現したくて、おっしゃる通りそこは意識して作っていますね。実は、宝物をテーマにしてスノードームをメインビジュアルに据えてアルバムを作ろうという構想自体は1年くらい前からあって。実際に「snowglobe」の作曲に着手したのはもっとあとなんですけど、わりと時間をかけて、作っては寝かし、また作っては寝かして、ちょっとずつ詰めていきました。
──前作「Follow My Tracks」は生音主体でバンドサウンドを強く打ち出したアルバムでした。一方「ナッテ」は、この「snowglobe」に象徴されるように、全体として打ち込み主体のサウンドになっている印象を受けました。これは意図的なものですか?
そうですね。音楽性としては、1stアルバムの「エウアル」にすごく近くて。つまりデビューしたての頃に手探りで行っていた表現に近いんですけど、その当時は自分の内面をどんどん内側に閉じ込めていくような方向性だったんです。それがだんだん外側に向いてきて、特に「Follow My Tracks」は自分で引っ張っていくタイプの作品でした。
──「旅」という、まさに外向きのコンセプトでしたもんね。
はい。それを経て、「ナッテ」でやっていることは「エウアル」とあんまり変わっていないんですけど、気持ちが外側に向かうという変化は確実に生まれていて。スノードームのビジュアルを選んだのも、内面を隠すんじゃなくて、みんなに見てもらおう、共有してもらおうという気持ちからなんです。
ラスボス前で待機してる勇者たち
──このアルバムは、どの曲にも「宝物」に相当するアイテムが散りばめられていて、非常にコンセプチュアルですよね。既発のシングル曲を3曲挟んで5曲目、同じくやなぎさん作詞作曲、編曲の「スーパーヒーロー」も……。
これも、私の好きなものをモチーフにしていて。まあ歌詞を見ていただければ察しがつくと思うんですけど、ゲームですね。小さい頃から大好きでしたし、大人になってもやってるんですけど、最近ミニスーパーファミコンが発売されたりして、昔のゲームを思い出す機会が多くて。私の実家にホコリを被ったままのゲーム機やカセットが眠っているんですけど、例えばRPGだったら、ラスボスと戦う前に必ずセーブをすると思うんです。それを思い出して、実家に置き去りにしてきたゲームの勇者たちは、まだラスボスの前で待機してるんだなって思うとかわいそうになっちゃって(笑)。そんなことを考えながら作りました。
──お優しい(笑)。「スーパーヒーロー」はテクノポップふうのかわいらしい曲ですが、言われてみればゲーム音楽っぽくも聞こえますね。
うんうん。チップチューンと言うか、8bitふうの音も入れましたし、自分のコーラスもそれに合わせて機械っぽく加工しています。
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アー写の石は私物の宝物
- やなぎなぎ「ナッテ」
- 2018年1月17日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
4536円 / GNCA-1521 -
初回限定盤 [CD+DVD]
4320円 / GNCA-1522 -
通常盤 [CD]
3240円 / GNCA-1523
- CD収録曲
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- snowglobe[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 時間は窓の向こう側[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:bermei.inazawa]
- over and over[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:北川勝利(ROUND TABLE)]
- here and there[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:中沢伴行]
- スーパーヒーロー[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- あなたはサキュレント[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也]
- 海を込めて[作詞:やなぎなぎ / 作曲:北川勝利(ROUND TABLE) / 編曲:acane_mudder、北川勝利]
- 瞑目の彼方[作詞:やなぎなぎ / 作曲:鷺巣詩郎 / 編曲:CHOKKAKU、鷺巣詩郎]
- 砂糖玉の月[作詞・作曲:やなぎなぎ / 編曲:出羽良彰]
- relaxin'soup feat. DJみそしるとMCごはん[作詞・ラップ:やなぎなぎ、DJみそしるとMCごはん / 作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 目覚めの岸辺[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:rionos]
- 夜明けの光をあつめながら[作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:北川勝利(ROUND TABLE)]
- natte[作詞・作曲・編曲:やなぎなぎ]
- 初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
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- やなぎなぎ 5周年記念ライブ「Cassiopeia Limited Express」ライブ映像
- やなぎなぎ 2018年ワンマンツアー
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- 2018年3月4日(日)宮城県 Rensa
- 2018年3月18日(日)大阪府 umeda TRAD
- 2018年3月21日(水・祝)愛知県 ElectricLadyLand
- 2018年3月24日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2018年3月25日(日)福岡県 イムズホール
- 2018年3月31日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2018年4月8日(日)北海道 cube garden
- 2018年4月15日(日)香川県 DIME
- 2018年4月21日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- やなぎなぎ
- 関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するやいなや注目を集め、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューした。その後も2013年7月に1stアルバム「エウアル」、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」、2016年4月に3rdアルバム「Follow My Tracks」とコンスタントに作品を発表。2018年1月には4thアルバム「ナッテ」を、2月にはアニメ「覇穹 封神演義」のエンディングテーマである「間遠い未来」をシングルリリースする。