音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ
エレクトロへ原点回帰 巨匠・鷺巣詩郎と示す鎮魂とダークネス
やなぎなぎが13枚目のシングル「瞑目の彼方」を8月31日にリリースする。
表題曲は現在放送中のアニメ「ベルセルク」のエンディングテーマ。作編曲は同アニメの劇判も手がけている巨匠・鷺巣詩郎で、やなぎ自身の音楽的ルーツに接近した、叙情的かつスケールの大きなエレクトロニカサウンドに仕上げられている。
2012年のメジャーデビュー以降、中沢伴行(I've)や北川勝利(ROUND TABLE)らさまざまなクリエイターとタッグを組み、ロックもポップスも自在に横断してきた彼女が、初期のエレクトロな曲調に原点回帰したとも言えるこの鷺巣楽曲をどう捉えたのか。また、「ベルセルク」の原作ファンでもあるやなぎ自身が作詞した歌詞にはどんな思いが込められているのか、本人に話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝
まさか私が鷺巣さんとご一緒できるとは
──ニューシングルの表題曲「瞑目の彼方」はアニメ「ベルセルク」のエンディングテーマで、作曲はアニメ本編の劇伴も担当されている鷺巣詩郎さんという、豪華な楽曲になりました。
はい、ありがたいことに。鷺巣さんは「笑っていいとも!」から「エヴァンゲリオン」シリーズまで手がけられた、言ってみれば雲の上の存在というか、まさか自分がご一緒できるような方だと思っていなくて。なのでお話をいただいたときは「ぜひ!」という感じでした。
──やなぎさんは今まで齋藤真也さんやI'veの中沢伴行さん、ROUND TABLEの北川勝利さん、石川智晶さん、冨田恵一さんなどなど、さまざまな方とタッグを組まれていますが、鷺巣さんはどんな方でした?
誰もが認める巨匠なんですけれど、実際にお会いするとすごく優しくて、ユーモアがあって。やっぱり経験豊富な方なので、何気ないお話の1つひとつがいちいち面白いんですよね。例えばレコーディングのとき、何かのきっかけでチョコレートの話題になったんですけど、鷺巣さんは一時期ヨーロッパに住んでいたり、チョコレートが身近にある文化圏にいらしたという経験を起点に、チョコレートの歴史まで語ってしまうんですよ。今までチョコレートを歴史的な目線で見ながら食べたことなんてなかったですし、そうやってお話しするたびに自分の知識も増えていくというか。
──いろんな引き出しを持ってらっしゃる。
なおかつ、いろんな物事を深いところから捉えてらっしゃる方なんだなと。そういう姿勢が鷺巣さんの音楽を形作っているんだということが、すごく納得できましたね。
デビュー5年目の原点回帰
──そんな鷺巣さんが作曲された「瞑目の彼方」は、叙情的なエレクトロニカサウンドに仕上がっています。これはもともと、やなぎさんが志向されていた音楽性にかなり近いですよね?
そうですね。私はメジャーデビューしてから、いろんな作家さんとご一緒するようになって、ロックやポップスもたくさん歌ってきましたけど、それ以前は主にエレクトロニカや音響系の曲を自作していましたから。で、今年はデビュー5年目なんですが、そういう節目の年に、ある意味で原点回帰的な、自分になじみのある曲調の作品を鷺巣さんに書いていただいて、それを歌うことができるのはすごくうれしいですね。
──ここまでアブストラクトなサウンドに振り切ったのは、2012年に発売された2ndシングル「Ambivalentidea」以来ではないかと思われますが、やなぎさんから鷺巣さんにオーダーを出されたりは?
ほぼないですね。楽曲に関しては鷺巣さんから段階的に「こういう感じになってます」っていうデモをいただいていたんですけど、それを聴いて、鷺巣さんがやりたいことが明確にわかったので、もうそのまま進めていただいて。
鷺巣楽曲に「チャレンジする」楽しさ
──この曲は一聴するとダークな印象を受けるというか、特にBメロは深く沈み込むダウナーな展開を見せますが、サビでそれが反転して視界が開けていくような快感があります。そこにはやなぎさんの歌声が大きく寄与していると思われますが、鷺巣さんもそれを見越して作曲されたと思いますか?
きっと意図して作ってくださったと思います。サビに入る直前ピアノの下降フレーズが入って、サビで一気に高音で伸びていく部分も、デモの段階から明暗の対比をかなりはっきり付けてらっしゃったんですよね。そこに私の声を乗せてどういう方向に持って行きたいのか、鷺巣さんの狙いみたいなものも感じられました。
──実際に歌ってみた感想は?
曲としてはシンプルというか、音数が非常に少ないので、歌の力でカバーする部分が大きいという点では大変でしたね。特にサビは輪唱になっていて、私にとっては衝撃的すぎて(笑)。その追いかけていくメロディをどういうテンションで歌えばいいのかなっていうのも、すごく悩みました。
──確かにサビの輪唱は面白いアイデアですね。
やっぱりこの曲は鷺巣さんじゃないと作れないような構成になっていますし、自分からは決して出てこないアイデアが散りばめられているので、こういう曲を歌わせていただけるのは本当に貴重な経験ですよね。だから、今言ったように苦労した部分もあるんですけど、それ以上に「チャレンジさせてもらってるんだ」っていう楽しさがありましたね。
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- ニューシングル「瞑目の彼方」2016年8月31日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0440
- 通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0441
CD収録曲
- 瞑目の彼方
- 瞑目の彼方(English ver.)
- キミミクリ
- 瞑目の彼方(Instrumental)
- キミミクリ(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- 瞑目の彼方(ミュージッククリップ)
ライブ情報
やなぎなぎコンセプチュアルライブ
「color palette ~2016 Green~」
2016年9月25日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューした。その後も2013年7月に1stアルバム「エウアル」、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」、2016年4月に3rdアルバム「Follow My Tracks」をリリース。8月31日には自身13枚目となるシングル「瞑目の彼方」を発表し、表題曲はテレビアニメ「ベルセルク」のエンディングテーマに使用されている。