自分自身がここにいること

──「ターミナル」ではある「旅」を通じて得た答えまでを歌っていますよね。ラストのフレーズにある「唯一持ってた宝物とは…」の「宝物」とは、やなぎさんの中ではどんなものなのでしょう？

あえて「…」を入れたので聴いてくださる皆さんそれぞれに何かを思い浮かべていただければと思いますが、私自身の答えを言うと、「体」ですね。

──「体」が唯一の宝物？

「旅」に出るためにはいろんな持ち物や気持ちが必要ですけど、結局は自分自身が存在しないと何も起こらないという結論です。アルバムの締めくくりに「どこにも行かない」という曲を持ってきたのも、この答えが理由でした。どこかに行かなくても自分というものは成り立っているし、自分は今ここに立っている。どこかに行くということが重要なのではなくて、自分自身がここにいることを知ることが重要だというメッセージにしたくて。

「どこにも行かない」という結末の理由

──アルバム全体を通じて、今作のやなぎさんはとても人間味のある人の心を歌っているんだなという印象を受けました。これまでの抽象的な世界を歌う神秘的なイメージから、より解放的になったといいますか。

アルバムも3枚目になって、ライブもたくさんするようになって人とお会いする機会も増えて、パソコンの前で音楽を作ってインターネット上に公開していた頃とはまったく環境が変わってきたという自覚はありますね。昔はもっと人に興味がなかったというか、相手の人がどういう思考をしているのかあまり考えることがなかったんです。でも今は人それぞれにいろんな考えがあることを知るのが楽しくて。1stアルバム「エウアル」と2ndアルバム「ポリオミノ」は内向的な自分の世界が強く出ていましたけど、今作はそこから抜け出している気はします。「rooter's song」とか、以前の自分だったら絶対に書かない曲ですね。クラップを入れたり、ホイッスルでチアっぽい雰囲気を出したりとか。こういう曲を作れたのは、人と触れ合うことでオープンになってきた自分自身の側面が出ているんだと思います。

──とはいえ「どこかに行きたいな」と歌っていたはずのアルバムを「どこにも行かない」で締めくくるあたりは、以前からあるやなぎさんらしさですよね？

毒っ気はまだ抜けないです（笑）。でも、今回のアルバムは最終的には「小さいところから幸せを見つけていこうよ」という前向きなメッセージになっているはずです。以前だったらもっと皮肉っぽくなったと思うんですけど、今ならこういうこともストレートに届けられるのかなと。

心のドアが開いている

──すぐにツアーも始まりますね。

今回は広島と新潟がはじめましてですよね。ライブって皆さんの反応によってさまざまな表情になっていくので、ツアーをすることで楽曲がどう変わっていくのかが楽しみです。今は演出や曲のアレンジを一生懸命話し合っている段階ですね。

──今回のツアーではどんなプランを考えているのですか？

もちろん前回に通じるような映像や照明での演出も工夫していきたいんですが、今回はもっと私自身が動き回るというか、ショー的な要素を盛り込んでいきたいなと思っていますね。今作はそもそもライブも強く意識したサウンドになっていて、盛り上がれる曲と、昔からやってきたような静かに聴ける曲とを今の私なりのバランスで両立させています。ライブの雰囲気は、来てくださるお客さんと一緒に作り上げていきたいですね。

──そういえば「ターミナル」のミュージックビデオも、めずらしくやなぎさんの表情が見えるような映像になっていましたね。

そうでした。やっぱりより解放的に、心のドアが開いている感じがします（笑）。